日本財政学会

10月20、21日と、香川大学で開かれた日本財政学会に呼ばれて、行ってきました。私の出番は、「C-6 災害復興財政を考える」の討論者としてです。各先生の発表に質問をするというより、これまで地方財政や大震災復興に携わった経験者として、気づいた点を申し上げてきました。先生方の今後の研究に活かしてもらうためです。

平成の30年間は、大規模災害が頻発した時期でもありました。雲仙普賢岳の噴火が平成3年、阪神・淡路大震災が平成7年、東日本大震災が平成23年。それ以外にも、地震、台風、豪雨など。これらに合わせて、復興財政も充実してきました。財政・地方財政で、この30年間に大きく変わった分野の一つでしょう。
終戦直後に大きな台風災害が続き、一連の財政支援制度ができました。災害救助法、公共施設復旧費補助、激甚災害指定、特別交付税措置などです。その後、平成に入るまで、大きな枠組みの変化はなかったようです。

ところが、これらは公共施設や農地の復旧に公費を入れるにとどまり、被災者支援は避難所と仮設住宅提供まででした。
雲仙普賢岳の噴火の際に、従来の支援だけでは自治体現場の要求に応えられないことから、(地方債を使い)交付税を財源に自治体に基金をつくりました。私は自治省交付税課の課長補佐で、その設計をしました。この仕組みは、その後も使われています。ただし、金利が低くなって基金の果実では事業ができなくなり、取り崩し型の基金になっています。
もう一つが、公共施設に限らず、被災者の生活を支援することに踏み切りました。住宅再建の際の、被災者生活支援金です。さらに、中小企業の再建支援、孤立防止などコミュニティ支援もです。すると、どこまで私有財産に公費で支援するのかが、課題となります。

また、被災者支援は公費だけでなく、様々なものがあります。各自が契約している損害保険、義援金、(原発事故のように)賠償金。
中小企業再建の場合はお金の支援だけではダメで、技術支援をしています。孤立防止は、見回りや傾聴が重要です。市町村支援も、財政支援だけでなく、職員応援が必要でした。そして、ボランティア活動です。これらは、財政措置を見ている限りでは、視野に入ってきません。
すると、自治体への財政支援だけでなく、被災者への支援。お金の支援と、人や情報の支援まで広げて見る必要があります。
激甚災害指定が、しばしばニュースになります。しかし、この指標は、公共施設の被害額が主です。役場庁舎や学校、道路は被害が少なく、他方で個人の住宅がたくさん被害を受けても、大災害にならないことも想定されます。
被災者の支援まで、視野を広げると、このような問題も見えてきます。そのような話をしてきました。

旧知の先生方とも、お会いすることができました。久しぶりの高松市なので、高松城や栗林公園も見てきました。讃岐うどんも味わってきました。

会社を退職しにくい日本の風土

NHKインターネットニュースのウエッブ特集「会社からの非常口用意します」(9月26日配信)が、考えさせられます。 私は、最初に表題を見た際に、意味がわかりませんでした。

・・・退職の意向を本人に代わって会社に伝える「退職代行サービス」が少し前からネット上で話題になっています。「気持ちはわかるけど、そこまで必要?」と思いながら取材をすると、会社を辞めるに辞められず、心身ともにすり減らす人たちがいました。会社からの「非常口」を用意する、時代が生んだビジネスです・・・
・・・そもそも、退職に会社側の承認は不要です。民法では、期間の定めのない雇用契約については、解約の申し入れ後、2週間で終了することとなっています。辞めるのは働く者にある権利なのです。それでもなぜ退職代行サービスの需要があるのか、まず利用者に話を聞きました・・・

詳しくは、原文を読んでいただくとして。次のような指摘も書かれています。
・・・「日本で会社を辞めることは、『周囲に迷惑をかける自分勝手なこと』『仕事を続けることができないことは恥である』という考えがまだまだ根強い。コミュニケーションがとれない上司の下や、いわゆるブラック企業で働いていた場合、辞めたいと思い悩んでも相談する相手すらいないんです」・・・
・・・取材したアメリカ人のアレックス・マーティン記者は、次のように分析しています。
「転職によるスキルアップが定着している欧米人から見ると会社を辞めたくても辞められない日本の労働環境は奇異に映る。退職代行サービスが生まれた背景には、『karōshi』という言葉を生み出した国ならではの行き過ぎた仕事文化があるように感じます」・・・

先日「契約社会と帰属社会2」を書きました。会社との関係を契約と考える欧米社会に対し、会社への帰属と考える日本社会。その社会風土が、背景にあります。

被災地支援の副作用

10月19日の朝日新聞「てんでんこ」は、「商店街、支援物資」でした。
・・・東日本大震災から数日で営業を再開した岩手県宮古市の末広町商店街。だが、すぐに予期せぬ事態に直面した。
大量の支援物資が届き、モノが売れなくなったのだ。避難所では、食料ばかりか、衣服、靴、時計まで配られる光景に、商店主はがくぜんとした。
最大時1万2千人の避難者のため、当時、同市が県に求めた「救援物資の要望状況」リストが残っている。毛布、ろうそく、ストーブから、大人用おむつ、車いす、杖、耳栓、カレンダー、仮設トイレ、蚊取り線香まで約150品目にのぼる。
日本赤十字社は仮設住宅に、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジ、電気ポット、炊飯器の家電6点セットを配った。
一般市民からの物資も届いた。その多くは市外で購入され、直送されたものだった・・・
・・・それは被災者を助け、励ました。でも被災者でもある末広町商店街はその分、販売機会を失った・・・

そうなのです。現地からの要望に応えて、政府も企業も国民も、被災地に物資を送りました。それが一部では、再開した地元商店の商機を奪っていたのです。子供たちに送られた鉛筆やノートは、ある地域では3年分にも上り、文房具店の商売が成り立ちませんでした。記念の日に届くたくさんの花で、花屋さんの商売があがったりになりました。善意が、商店の再開の足を引っ張ったのです。
すべてを失った被災者に、早く日用品を送らなければなりません。しかし、商店が再開され始めると、それは逆効果になるのです。難しいところです。

慶應大学、地方自治論Ⅱ第3回目

今日は、慶應大学で地方自治論Ⅱの第3回目の授業でした。
予算と決算について説明しました。自治体の予算案がつくられ、議会の審査を得て成立し、実行されること。そして、結果としての決算も審査されること。一般会計、特別会計、公営企業会計の区分。一般会計の収入と支出の内訳など。
相模原市役所に提供してもらった小冊子「予算事始」を使いました。これは、なかなかの優れものです。抽象論をしても、学生はわかりませんからね。相模原市さん、ありがとうございます。

あわせて、予算で見えることと、見えないことを説明しました。一般的には予算額が増えることは良いことと思われますが、公害対策費などはない方が良いこと。インプット、アウトプット、アウトカムの違い。フローとストックの違いなど。

普通の教科書には、載っていない事柄です。教科書に載っていることなら、学生たちは読めばすみます。私の講義は、教科書に載っていることのうち重要な点、そして教科書に載っていないことです。それは主に、実務の現場の話や、様々な見方です。
講義は、調子が出て来ました。学生の顔を見ていると、理解している、食いついてきていることがわかります。すると、こちらもやりがいがあります。そして、90分の講義が終わると、心地よい疲れが出ます。

時間を使うか、時間に使われるか

自分に与えられた時間をどのように使うか。人生で難しいことの一つです。
学校では時間割が決まっていて、それに従っておれば良かったです。もちろん、放課後や休日をどのように使うか。ここで、差が出てきます。夏休みの過ごし方も、そうですよね。どうすれば、悔いの残らない時間を過ごすことができるか。

『明るい公務員講座』では、能率よく仕事を仕上げるために、時間の管理と、仕事の管理をお教えしました。時間の管理は、金曜日に来週の予定(時間割)を書き上げること。仕事の管理は、工程表で行うことでした。
来週の時間割を書くことや、工程表を作ることは、「自由な時間」を「強制される時間」に転換することです。見える化によって、自分を追い込む術です。

時間を使いこなすことと、時間に追われることでは、大きな違いがあります。同じ24時間、7日間を使うにしても、その成果において大きな違いがでます。
そして、同じ結果であっても、満足感に違いがあります。時間を使う方は、満足します。時間に使われる方は、楽しくありません。これは、労働・趣味、勉強でも同じです。他人に言われてする作業は、しばしば楽しくありません。

自分で時間割を作り、自分で工程表を作ると、上司から言われた時間割通りに仕事をするより、満足感は上がります。
もちろん、それは自己責任と抱き合わせです。他人に作ってもらた時間割だと、不満を言っておればすみます。自分で作った時間割は、文句を言うなら自分にしかありません。