身につけた経済力を生かす2

先日、「身につけた経済力を生かす」を書いたら、次のような指摘がありました。
・・・中国に抜かれたとはいえ、まだまだ日本の経済力は強いです。この国力を、どのように後世に残すか、世界に貢献するかを考えるべきです・・・

ご指摘の通りですね。私の発言は、過去のことや、過ぎたことへの反省が多いです。歳をとりましたね(反省)。

豊かになった現在、個人がその豊かさを楽しむこと、企業が消費者の要望に応えること、行政が公共サービスを充実すること。これらも大切ですが、日本社会として、日本国として、後世と世界にどのように、何を遺すか、残すことができるか。

フランス旅行の際に見物するのは、古代ローマ・中世の遺跡、18世紀から19世紀のフランスの建造物や富、文化です。フランスが強かった時の富や国力が、建造物、街並み、美術、小説、料理を含めた文化に残っています。
観光客が多いことは、それだけ世界の人を引きつける魅力があるということです。日本も、海外からの観光客が急増しています。アジアの国々が豊かになったという条件もありますが、日本の魅力が認識されたということです。自然(そのものとともに残す努力も必要です)、街並み、建造物、歴史文化、食事・・。買い物やお土産。
では、さらに何を日本の魅力として売り出すか。

モノとともにコトにも、注目したいです。安全、清潔、誠実・・。和食・日本酒の他に、お風呂なども広がって欲しいです。
脱線しますが。その点で、日本企業に相次ぐ性能偽装は、心配です。

忌まわしい過去を忘却する戦後ヨーロッパ

敗戦の認識」で紹介した、橋本明子著『日本の長い戦後』に触発されて、飯田 芳弘 著『忘却する戦後ヨーロッパ  内戦と独裁の過去を前に 』( 2018年、東京大学出版会)を読みました。私が知らなかったこと、考えていなかったことが多く、勉強になりました。

ナチズム、戦後南欧諸国の独裁、共産党支配。これらは、20世紀にヨーロッパで続いた、暴力的独裁です。ナチスや共産党支配については、そのとんでもないひどさが、よく伝えられています。
では、それらの支配が倒されたあと、国民と新政府は、それら過去をどのように扱ったか。すべてを否定することができれば、簡単です。しかし、支配者側にあった人やそれに加担した人たちが、たくさんいます。どこまで、彼らを裁くのか。また、その時代にされた行政や判断を、どこまで否定し、どれを引き継ぐのか。そう簡単ではありません。公務員を全員入れ替えることは、不可能でしょう。

過去を否定し、断絶することを進めると、社会の混乱は大きく、国民の間に亀裂が入ります。行政も産業も、ゼロからのスタートは非現実的です。
また、ヒットラーやスターリンに押しつけられたとはいえ、祖国と祖先たちが行ったことをすべて否定することは、ナショナリズムにとっては屈辱です。
そこで取られたのが、ある程度で妥協し、それ以上は過去にこだわらないことです。裁判の打ち切りであったり、恩赦です。著者は、過去の忌まわしい記憶を忘れるための「忘却の政治」と表現します。

各国によって、事情は異なります。ドイツと日本では、連合国による軍事裁判が行われましたが、イタリアでは行われていません。そして、自国が過去の自国民を裁いた国と、しなかった国があります。
この本は、ヨーロッパを対象としていますが、日本の戦後政治を考えざるを得ません。ぜひ、日本やアジアの国を対象とした本が、書かれることを望みます。

買ってあったのですが、積ん読でした。フランスに行く飛行機(片道10時間以上)で、集中して読めると思い、持ち込みました。読みやすくて、読み終えました。『日本の長い戦後』とあわせてこの2冊は、この夏、もっとも収穫があった読書でした。
エリック・ホブズボーム著『20世紀の歴史』(2018年、ちくま学芸文庫)は下巻の途中まで読んで、道草中。トニー・ジャット著『ヨーロッパ戦後史 1945-1971 』も、買ってはあるのですが。

身につけた経済力を生かす

日経新聞夕刊「人間発見」、先週は大和証券グループ本社会長 日比野隆司さんでした。「危機は乗り越えられる」第3回、8月29日から。入社3年目に、ロンドンに赴任されます。

・・・ロンドンに到着したのが早朝5時。迎えにきてくれた先輩と朝食をとると8時にはオフィスへ。着くやいなや仕事でした。
顧客からの電話ががんがん鳴ります。国債や円建て外債(サムライ債)の注文に、こちらから価格を提示しなければなりません。かたことの英語しか話せませんから脂汗でした。昼休みに英語で市場コメントをテレックスで送り、午後また電話対応。夜はニューヨークへファクス。へとへとの初日でした。
そのくらい業務が急拡大していました。円の国際化が進み、ユーロ円債市場も発展する時期です。「ザ・セイホ」と呼ばれ、日本の機関投資家の動きを世界が注目していました。ロンドンの金融街シティで、日本人が肩で風きって歩いた唯一の時代といっていいでしょう・・・
・・・日本は80年代の圧倒的な存在感を持続できず、実力も上げられなかった。正気を失い、バブルに踊った結果、大変な不良資産を抱えてしまった。日本にとって痛恨だったと思います・・・

日本経済が世界第2位の地位にあり、さらに円が圧倒的に強かった時代。それを生かすことはできませんでした。世界の有名ビルや会社などを買収しましたが、成功した例はほとんど無いようです。
経済学では、バブルの分析がたくさんなされています。また、当事者たちの証言も出ています。
私が知りたいのは、そのような経済分析や当事者の行動でなく、日本社会がなぜその実力を生かせなかったか、そしてそこから得た教訓はなにかです。

将来、日本が第2位の経済大国になることはないでしょうし、バブル経済はあっては困ります。しかし、身につけた(経済的)実力を、どのように活かすか。「あの頃は良かった」という懐古趣味ではなく、また「金融政策が間違っていた」という原因論や責任論でもなく。日本社会として、教訓を共有しておくべきです。

日本は、貧乏な国から出発して、戦前は一等国に、戦後は経済大国になりました。しかし、そこで浮かれて、それぞれ「敗戦」してしまいました。貧乏から努力することは得意なのですが、金を持ってからの生き方に慣れていないようです。
これに対し、ヨーロッパやアメリカの富裕層や金融機関、会社なら、どのように対処したか。彼らには、浮き沈みを含めて、長年の経験があります。その経験を踏まえて、「金持ちとしての振るまい」を身につけましょう。
司馬遼太郎さんなら「この国のかたち」として、鋭く分析してくださったでしょう。

なお、文中に次のような文章も出てきます。ここは、私と同じですね(日経夕刊コラム「仕事人間の反省」)。
・・・いつも会社にいるので、「会社の備品だな」と先輩に呼ばれましたね・・・

2018年秋学期・地方自治論Ⅱ

2018年秋学期・地方自治論Ⅱ―自治体財政と地域の経営(金曜日1限)
9月28日開講。講義の記録

春学期の地方自治論Ⅰでは、地方自治の意義と地方行政の仕組みを学びました。秋学期は、役所の経営(特に地方財政)と地域経営をお話しします。
地方自治体には、大きく分けて2つの仕事があります。
1つは、役所を運営し、行政サービスを提供することです。もう1つは、地域の課題を解決することです。社会で生じているさまざまな課題、例えば子ども子育て支援、高齢者対策、産業振興などについて、住みよい地域をつくることです。
前者は役所という組織の経営であり、後者は地域の経営です。その仕組み特に地方財政と、地域の課題と取り組みを学びます。

1 授業計画の説明、地方財政の概要
2 自治体のサービスと財政
3 収入と支出
4 地方税
5 国家財政と地方財政
6 財政調整制度
7 地方債
8 地方公営企業
9 地方財政の役割と成果
10 日本の財政
11 地方財政の課題
12 地域経営1―地域の課題
13 地域経営2―地域振興
14 これからの地方行政

春学期の地方自治論Ⅰの成績評価について。
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