稲継先生の新著『シビックテック』

稲継裕昭・早稲田大学教授が『シビックテック』(2018年、勁草書房)を出版されました。
シビックテックとは聞き慣れない言葉ですが。副題に「ICTを使って地域課題を自分たちで解決する」とあります。

金沢市では、分別ゴミをいつ出せば良いかが、スマートフォンですぐにわかるアプリがあります。
奥能登地方には、「のとノットアローン」という子育て中の親を支援するアプリがあります。イベント、遊び場やお店の地図、信頼できる相談先などが載っています。
これらに共通するのは、ICT機能を使って、誰でも簡単に便利に使えること。市役所でなく、市民が主体になって作っていることです。

稲継先生は、これを「自動販売機モデル」(市民が税金を投入すると、サービスが出てくる。出てこない時は、自販機を叩く)から、市民が自分たちで地域の問題を解決する社会への転換だと主張されます。自販機モデルには、機械の中がブラックボックスで、市民からは見えにくいことも、含まれています。

ICTの発達によって、このような形での、市民による地域の問題解決ができるようになったのですね。
これまで市民参加というと、市役所への抗議行動、要請行動が主で、市役所と協働するとしても、審議会への参加、計画過程での参加でした。しかし、スマートフォンやパソコンを使って、「知りたい情報」を提供することが簡単にできるようになりました。
そして市民が知りたい情報は、市役所の仕事だけでなく、企業や地域が提供しているサービスなどもあります。これから、このような市民参加が広がることを期待しましょう。
もちろん、このような動きだけで、地域の課題がすべて解決するわけではありません。しかし、「地域の課題は市役所が解決してくれる」という通念を変えていくでしょう。

医師に必要な国語力

7月12日の読売新聞解説欄、山口俊晴・がん研有明病院名誉院長の「がん医療新時代へ」の続きです。先生は、次のようにもおっしゃいます。

・・・医師にとって国語力は必要なんですよ。患者さんの言葉から思いを理解し、治療法を易しく説明する。物理学や統計学より大事だと思うね。
説明と言えば、ぼくが医者になった1970年代前半、患者さんにはがんを告知しなかった。胃がんの人に抗がん剤を点滴し、「肝臓の調子を良くする薬です」とごまかす。告知する方向へと変わったのは、90年代半ばからかな。

今でも、「本人にはがんだと言わないで」と頼む家族はいる。僕はきっぱりと断り、こう説明します。
「がんはあなたの病気ではなく、本人の病気です。私の長年の経験上、告知すれば、たとえ数日間は落ち込んでも、最後には納得します」
告知していないと、ばれないように家族が患者に近寄らなくなるんですよ。こんな時こそ、家族がそばにいてあげないといけないのに。正直に告知して、残された時間を家族とともに大切に使った方が、患者・家族の双方にとって良い―。こう説明すると、今では例外なく家族も納得してくれるようになったね・・・

慶應大学、公共政策論第14回目

公共政策論も、第14回目。
政府の役割の議論で、政策実現の手法について、広い視野から説明しました。
また、全体のおさらいとして、公共政策論のあり方について説明しました。標準的な公共政策論に対して、私が考えている「もっと広い」「これからの」公共についてです。

これで講義は終了。14回は長いのですが、終わってみると早いです。試験はレポートを課してあります。

質問カードにあった「NPOと藤沢烈さんについて、もっと知りたい」については、次のページを見てください。「藤沢烈さんのページ

慶應大学、地方自治論Ⅰ第14回目

今日は、慶應大学で地方自治論Ⅰの第14回目の授業。
今日は、これまでの授業のおさらいをしました。 あわせて、来週の期末試験の「傾向と対策」についても。
何度も言ったように、指定した準教科書を読んで、私の授業に出ておれば、良い成績が取れるはずです。

214人の出席カード・感想を読みました。多くの学生が、私の授業の意図を理解してくれたようです。
私は、知識だけでなく、ものの見方を教えたかったのです。
知識だけなら、本を読めば良いことです。慶應大学法学部の学生なら、読むべき本を指定すれば読むでしょう。社会の変化が激しい時代に、大学で得た知識はすぐに古くなってしまいます。
では、どうすれば良いか。それは、どのようにして新しい知識を得るか、どのように問題を見るか、どのように解決するか。それを身につければ、どんなことにも応用できます。大学とは、そのような場所です。

これで講義は終了。来週は試験です。

がん治療の進歩

7月12日の読売新聞解説欄、山口俊晴・がん研有明病院名誉院長の「がん医療新時代へ」が、勉強になりました。先生は、胃がん手術の第一人者です。こんなに進んだのですね。

・・・僕の専門である胃がんに関して言うと、治療法や対策はほぼ確立したね。
日本胃癌学会が2001年、治療ガイドライン(指針)を公開した。これ以降、各大学や病院が独自に行っていた治療が「均てん化」された。治療の質にばらつきがなくなったわけです。
早期がんは内視鏡や腹腔鏡による切除で根治でき、進行がんも抗がん剤の進歩で生存率が高まった。
何よりも、胃がん患者が減ってきた。上下水道の整備などで衛生状態が改善され、ピロリ菌の感染が減ったことが主な原因です。あとは、早期発見のための検診率を高めればいい。15年後の日本では、胃がんはきわめてまれな病気になっているかもしれない。

治りにくいがんは、まだたくさんあるけど、がん治療は確実に進歩している。免疫治療薬の「オプジーボ」を使うと、従来の抗がん剤が効かなかった肺がん患者が劇的に良くなるケースも出てきた・・・

・・・どんな健康的な生活を送っても、がんになる人はなります。
その場合は、「がんは老化」と理解した方がいい。75歳を過ぎてがんになったら、老化だから仕方ないと割り切って、体力や価値観に応じた治療を受ければいい・・・
この項続く