商工組合中央金庫での不正融資が、大きな問題になっています。4月25日に、第三者委員会が調査結果を公表しています。興味深いことが載っているので、紹介します。引用には「要約版」を使います。
今回問題になっている不正融資は、リーマン・ショックや大震災の際に、一時的に経営危機に陥った中小企業に、特別な融資をするものです。国費による利子補給があり、倒産した場合も国費で補償(穴埋め)します。ところが、要件に該当しない事業者にも貸し出したことが問題になっています。その際に、担当者が貸出先の試算表を自作し、数字を改ざんしたのです。
その背景として、「過大なノルマ」が指摘されています(p30)。そして、声を上げない現場という企業風土が指摘されています(p32)。改ざん行為に手を染めなかった担当者について、次のように記述されています。
「○○さんは、“自分はそういうのは嫌いだから”といって改ざんをしなかった。でも割当がこなせずに上長から“話が違うだろ”“ふざけんな”と怒鳴られ、干されていた。
自分たちは“改ざんすれば怒られなくて済むのに”“正直者がバカを見る”“要領が悪い”という見方をしていた」
そして、不正を疑った社長が、特別調査を命じます。ところが、奇妙な論理と職場ぐるみで、隠蔽してしまいます。これについては、別に書きましょう。
職場ぐるみでの隠蔽にあたっては、「空気の支配」「決断なき実行」も指摘されています(p38)。
「上から、“不祥事にするな”とは言われていない。ただ“不祥事にしたくないよね”という雰囲気は組織全体にあった。“不祥事にならないといいよね”“できればしたくないよね”“そのためには努力もする(試算表を客先から新たにもらう)”という空気感はあった」
「はっきり誰かと話したのではないが、資料のやり取りも、要件確認にあたるのも同じ空気。上から(もみ消せと)言われて、もみ消さねば、となったのではなく、空気で“これはまずいよね”とみんなが感じた。なんとなくそうなっていた」
「空気の支配」「決断なき実行」は、旧日本軍の太平洋戦争開戦を思い出させる言葉です。
報告書は、また、「性弱説」という言葉を作っています(p46)。
・・・商工中金の内部統制は、不正リスクの存在を前提とせず、「性善説」に立った内部統制であったということができる。その背景には、やはり過度の「同質性」があり、同じ組織の中で生きていく身内に疑いを抱くようなことはできないというメンタリティが垣間見える。
しかし、「性善説」に立った内部統制の失敗が今回の事態を招いたことは明らかである。とはいえ、「性悪説」に立つことが商工中金に相応しいとも思えない。
そこで、「性弱説」、つまり職員は元来弱い存在であり、不正のトライアングル(①動機ないしプレッシャー、②機会、③正当化理由)が揃うと弱い社員は不正に走ってしまうので、不正のトライアングルが揃うのを阻止し、弱い社員を不正に走らせない施策を講じることが必要である、という考えに立脚した内部統制を確立すべきである。
これなら、商工中金の役職員のメンタリティにもマッチし、身内から不幸な職員を出さないための施策として納得しながら進められることが期待される・・・
「性弱説」という言葉とこの指摘は、多くの職場で活用できるでしょう。