青春期の仕事と、老年期の仕事

三谷太一郎著『日本の近代とは何であったか』(2017年、岩波新書)のあとがきに、次のような文章が書かれています。
・・・私はこれまで、いつのころから、学問人生の中の「青春期の学問」に対する「老年期の学問」の意味を考えてきました。多くの場合、学問の成果(特に目立つ学問の成果)は、「青春期の学問」の成果であり、「老年期の学問」の成果と目すべき実例は、ほとんど念頭に浮かんできませんでした・・・
・・・「老年期の学問」は、所詮「青春期の学問」の可能性の範囲を超えるものではない。それぞれの「青春期の学問」が持っていた可能性を限界にまで追求することによってしか、「老年期の学問」は成り立たない。結局「青春期の学問」のあり方が「老年期の学問」のあり方を決定する。それが私の結論です。・・・
・・・ただ「老年期の学問」は、どちらかといえば、特殊なテーマに焦点を絞る各論的なレベルの発展よりも、より一般的なテーマに傾斜した総論的なレベルの発展に力点を置くべきではないかと考えます・・・

詳しくは、本を読んでいただくとして。納得します。
春から慶應大学に教えに行きますが、行くことが決まってから、どのように授業を構成するかを考えてきました。かつて東大の大学院や慶應大学で教えていたときは、当時の私の問題意識と周りにある実務の実例やデータを教えることに重点を置きました。しかし、この歳になって、またいろいろなことを経験して、それとは違うことを教えるべきだと思うようになりました。
もちろん大学の授業ですから、知っておかなければならない事項を、教えなければなりません。でも、それは、市販されている教科書に書かれています。私が「付加価値」をつけるとするなら、これまでの経験を生かして、現場の実態を教えるとともに、地方自治を通じて「社会の見方」をお教えすることでしょう。
いま、そのような観点から、講義ノートを作成中です。

中間管理職の重要性

日経新聞「やさしい経済学」、守島基博・一橋大学教授の「毀損した日本企業の組織力」(3月22日の記事)の続きです。3月24日の「要の中間管理職に余裕なし」から。
・・・例えば、日本能率協会が2012年に行った調査によると、対象となった323社のうち89%の企業が組織力向上対策に取り組んでいると答えています。具体的な対策としては、従業員満足度調査、理念・経営ビジョン・経営方針の浸透、部門間・部門内の関係性向上、リーダーシップの強化などとなっています。
ただ、同時に明らかになったのは、組織力強化に取り組んだ企業の多くが、その効果を実感できていないということです。上記の調査でも、対策に取り組んだ企業のうち実に82%が、具体的な成果が出ていないと答えています。全体では約73%を占めています・・・

・・・多くの企業の話を聞いていると、もう一つの要因が働いているように思われます。それは中間管理職(ミドルマネジャー)の役割の変化です。組織力は基本的に職場のあり方に依存します。そのため、こうした組織力を維持または向上していくためには、現場リーダーである中間管理職の役割が大きくなります。
ところが肝心のミドルマネジャーは、組織力の維持・向上に取り組む余裕がない状況に置かれているのです。多くの中間管理職がプレーイングマネジャーの役割を与えられ、産業能率大学の11年の調査では、プレーヤーとしての仕事の割合が業務の半分を超えている人の割合は約40%となっています。これでは組織力の維持・向上に割く余裕はあまりないでしょう。
要となるべき職場リーダー(中間管理職)が、組織力の維持・強化に注力できる環境の整備が必要です・・・

なるほど。原文をお読みください。

外国人の目で見る日本

3月20日の読売新聞文化欄「外国人の目で見る日本」から。
・・・外国人観光客をガイドする通訳案内士は、彼らが見せる意外な疑問や驚きに日常的に接している。業界団体の一つ、日本観光通訳協会の萩村昌代会長が明かしてくれた・・・
・・・修学旅行で行儀良く行動する中高生や、観光バスの運転手が乗客を駐車場で待つ間にタイヤのホイールを拭く姿などにも感銘を受ける外国人観光客がいた。「彼らは『日本人は客が見ていないところでも働くのか』と感激し、写真を撮っていた。私たちは、どこで見られているか分からないし、意外なものが観光資源になり得る証だ」・・・

このほかに、訪日外国人が驚き、感動する例として、次のようなものが挙げられています。
・小学生が1人で登下校している(危険ではないのか?)
・ハイテクなトイレ(買って帰りたい!)
・音をたてて麺を食べる(不快に感じる)
・富士山頂に雪がない(一年中白いはずでは?)
・アイスコーヒー(コーヒーは温かいものでは?)
・ごはん(白飯)に味がない(どうして食べられるの?)

街角の自動販売機が壊されないことも、びっくりだそうです。「お金が入っているのに、なぜ壊されないのか」と。東日本大震災の際も、「こんな時に、暴動と略奪が起きないのは、日本だけだ」とあきれられ、笑われました。日本は、それくらい成熟した社会です。

除染、ひとまず完了

3月26日の朝日新聞1面トップは、「避難指示区域、除染完了へ、今月末、帰還困難区域に重心」でした。
・・・東京電力福島第一原発の事故で放出された放射性物質を取り除くため、環境省が福島県内11市町村の避難指示区域内で進めてきた除染作業が、目標の3月末で完了する見通しになった。政府は今後、残る帰還困難区域の除染とインフラ整備に福島復興の重心を移す・・・
前例のない作業です。どのような方法が合理的か、はぎ取った土や草木はどこにどのように保管するのか。それを試行しながら、進めました。関係者の努力と、作業員のおかげで、ここまで来ることができました。6年間に2.6兆円の費用が投じられました。環境省の「除染情報サイト」。

事故直後は、いつになったら放射線量が低下し、人が戻ることができるのだろうかと思い、今日の日を想像できませんでした。なにより、膨大な数の避難者の生活をどうするかの方が、重要課題でしたから。
なお、記事では、東電社員の支援活動も取り上げられています。住民の留守宅の後片付けや草刈りなどです。これまでに延べ30万人が参加しています。案外知られていない活動です。東電のサイト

また、社会面では、「除染後も消えぬ不安 避難8万人、帰還戸惑う住民も」を載せていました。
・・・原発事故から6年。飛散した放射性物質を除去するという前例のない除染事業が3月末でほぼ完了する。約2・6兆円を投じた一大事業となったが、放射線への住民の不安は残ったままだ。いまなお避難する約8万人の住民の帰還を促すテコにはなっていない・・・

政府としては、住民が帰還できるように、地域のにぎわいを取り戻せるように、除染、インフラ復旧、生活環境整備を進めています。
避難した住民の意向は、早く戻りたい、しばらく待つ、戻らない、分からない、と分かれています。それぞれにご事情があり、また考えがあります。それを尊重すべきです。
特に、帰還困難区域については、戻れないことを前提に、東京電力が、財物について全額を損害賠償し、故郷を失うことについての精神的賠償もしました。
住民のそれぞれの意向に沿った、条件整備をすることが、政府の責任です。

新著の反応6

新著の反応の続きです。いただいたお便りを、少し改変してあります。

まずは、民間の方から。
・我が家の息子が買ってきて、「こんな面白い本があるよ」と差し出してくれました。あっという間に、読みました。
スピード感豊かに、明るく、楽しく仕事に取り組むためのイロハが見事に書かれてあり、目から鱗の仕事入門書です。日本の多くの若者たちが手に取って、読んでもらいたいです。

次は、ある市長さんからです。
・通読しました。納得納得、合点承知。
我が市役所では、ISO9001を取得・展開していますが、ISOには接遇とか礼儀がありません。日常の市民・同僚への挨拶などは、比較的出来てる方だとは思いますが、もっと徹底させようと思います。挨拶・礼儀・笑顔は、コスト無しで行政レベルを向上させますので。

次は、ある役所の管理職の方から。
・最近の管理職には、部下の力不足や基本ができていないことを嘆く人もいます。この本を読ませることにします。

何人かの方から
・「100点を目指さなくても良い」が、びっくりでした。常に完璧を目指さなければならない、と思っていましたから。
→この反応が、結構多いですね。本にも書きましたが、まずは80点を目指してください。残り20点を補おうとすると、それまでに費やしたもの以上の労力が必要です。そしてしばしば、あなたの考えている100点満点と、上司が求めている100点とはズレています。それを防ぐためにも、35点くらいできたら、上司に「この方向で良いですよね」と相談しましょう。

ある熟年の方から
・活字が大きくて、文章が読みやすかったです。

出版社には、数十冊まとめての注文があるようです。推測するに、役場でまとめて買ってくださっているのでしょうね。ありがとうございます。