追い込まれた鬱々庵

追い込まれた鬱々庵
「うう・・・困った」
 先生が書斎から出てきて、おウチの庭で困っています。
「ナニ困っているの? おナカが空いたから?」
 地仙ちゃんが質問すると先生は答えました。
「この地域から引越しするために誰か引き取ってくれるひとがいないか知り合いに手紙を書いたのだが、みんなから「おコトワリだ」という返事が来たんだ。確かにみんな貧乏だから仕方ないけど・・・。あと返事が来ないのは兄弟子の肝冷斎先生だけになってしまった。あまりアテになるひとじゃないからあまりアテにできないんだ・・・うう、地域のひとたちからは早く引越ししろ、と言われているのだけどどうしたらいいのだろう・・・」
「あ、マズいの来まちた」
と地仙ちゃんが先生の後ろに隠れます。陳さんの奥さんがズカズカとやってきたのです。
「鬱々庵センセイ、お引越しの準備は進んでいますザマスこと?」
「げげ・・・い、いや、その、着々と・・・」
「早く出て行かないと法的手段に訴えるザマスよ。あのいまいましい地仙の顔を見なくていい日がくればウチのボクも明るくなるにちがいないザマス」
と言って奥さんは行ってしまいました。
「ち、地仙ちゃんを連れて行くのは不可能なんだけど・・・」
といなくなった後で先生が一人で言い訳をしていますと、
「チン、行っちゃいまちた?」
 地仙ちゃんが床下から出てきました。いつの間にか床下に隠れていたようです。
「とりあえず行っちゃったけど、これは困ったなあ」
「ねーねー」
 地仙ちゃんは何か興味のあることが出てきたみたいです。
「カンレイサイ、てナニ? それもセンセイなの? ヘンなモノ食べたりちゅる?」
「肝冷斎先生のこと? むかし同じ先生に教えを受けた兄弟弟子だ。ヘンなものとは思わないけど、肝冷斎先生も「ソ-スご飯」とか「チャ-ハン・ライス」とかは大好きだな。
 ①が「変」という字。もともとは二本の縒られた「糸」の間に「言」(ハリを刺したハコ)があり、それを下から手で持った棒で打つ、という文字なんだ。「ハリを刺したハコ」には誓いのコトバが入っている。
 「糸」はこれを霊的に守るための飾りらしいが、もしかしたら文字ができる前の記録方法の一つである『結縄』(縄の結び方で意味を伝える方法)の記憶も残っているのかも知れない。
 「変」はそういう「大事な誓い」を棒で打ってコワシてしまって、これまでの約束事を変えてしまう、という意味。フツウでない、という意味で使うけど、「ソ-スご飯」や「チャ-ハン・ライス」はフツウだよ。
 同じ二本の糸と「言」の下に「心」を付けると②「恋」になる。これを『大切な誓いを守るココロ』とかロマンチックに考えては行けないよ。「糸」を「一方に引っ張ること」を指す「攣」(レン)という字と同じで、「ココロが一方に引っ張られること」を意味しているだけだよ」
「やっぱりカンレイサイもヘンなもの食べるセンセイなのね。オモチロそう」
 地仙ちゃんの肝冷斎への興味はさらに強くなってきたようです。