国会というところ3

1 審議
(1)本会議と委員会
衆議院と参議院では、それぞれ本会議と委員会で審議が行われます。
法案などは、関係の委員会に付託されます。そして委員会で、提案理由説明をし、質疑、採決を経て、本会議で採決されます。
その際、重要な法案や予算などは、まず本会議で趣旨説明をし、質疑を行った後、関係する委員会にかけられます。そして、委員会で提案理由説明をし、質疑、討論、採決した後、再度本会議にかけられ、討論の後、採決が行われます。本会議での質疑は、法案担当大臣が法案の趣旨を説明し(内閣提出の場合)、それに対して質疑がなされます。地方交付税法・地方税法改正も例年、本会議から始まります。
(つるし)
どの法案を本会議で質疑するかは、与野党の協議(議院運営委員会)で決まります。通常、野党が本会議での趣旨説明を要求し、行うか、行わない(すぐに委員会にかける)かが決められます。これを「つるす」「つるしを下ろす」と呼びます。
(重要広範議案)
その中でも特に重要な法案や案件は、総理大臣が出席し、答弁します。これを「重要広範議案」と呼んでいます。通常国会では、概ね4件とのことです。このほか、予算案も総理の施政方針演説についても、総理が本会議で答弁します。
(2)衆議院と参議院
このような過程が、衆議院と参議院の双方で行われ、両院で可決したものが法案として成立します。
予算は、憲法第60条で、衆議院が先に審議し、参議院が後と決まっています。法律は、どちらの院を先にしてもかまいません。どの法律を参議院で先に審議するかは、衆参両院の与野党間の協議で決められます。一方の院で可決された内容を、他方の院で修正された場合、もう一度先の院に戻されます。意見が合わない場合の処理の仕方は、憲法で決めてあります。
(3)異常事態
予算の場合は、衆議院が可決すれば、参議院で可決されなくても成立する規定があります。しかし、地方交付税法は法律なので、その改正には両院の可決が必要です。
平成2年に、政府予算が衆議院を通過・参議院は否決、そして成立しました。一方、交付税法は参議院での可決が必要です。参議院で可決されないと、例えば国庫補助事業の金額内容については、国の予算では新年度の内容金額になり、交付税の方(地方負担額)は前年度のままになります。この時の事態については、拙著「地方交付税-仕組みと機能」p50をごらんください。
2 日程
(1)日程の重要さ
国会が開会されると、会期が決まります。平成16年1月19日から開かれた第159回通常国会では、150日間です。この間に、政府としては、提案した法案をすべて、そしてなるべく早く成立させたいわけです。それを与党に働きかけます。
一方、野党は十分に審議することを要求します。その過程で、政府案の不十分さや、政府の対応の問題を指摘し、野党の対案に近づけさせる努力をします。また、政府・与党の問題点を取り上げ、野党の政権担当能力を国民にPRします。
ここに、「日程」の重要性がでてきます。どの法案をどの順番で審議するか。また、どれを参議院から議論するかもあります。どの法案を本会議にかけるか、どの法案をかけないかも、重要です。
(2)国対
(国対とは)
「国会対策委員会」の略称です。法律にも書いていなければ、憲法の教科書や大概の政治・国会の解説書にはでてきません。しかし、日本の国会は、この国対が動かしています。国会の審議日程を実質的に決めるのは、国対なのです。国会対策委員会は、法令に定められた機関ではありません。各党が置いている、各党の機関です。各党がそれぞれの院に置いています。
(国対の仕事)
与党国対は、案件の優先順位を考え、どの順に案件を審議するかを決めます。どの組織やどの個人にとっても、限られた時間内に多くのことを処理しようとすると、優先順位や労力の投入順位を決めなければなりません。決められた時間内に、たくさんの問題を解かなければならない「試験」を考えてください。
野党に対しては、なるべく本会議での質疑を省略して委員会での審議に入ること、関連する法案を一括して審議すること、案件ごとの質疑時間を多くしないこと、など(こうすると早く進みます)を働きかけます。一方、野党国対は、慎重審議を考えます。
(国対の出番)
もっとも、定期的な「与野党が集まる国対委員会会議」はありません。本会議と委員会の日程は、次に述べるように、議院運営委員会と各委員会の理事会の場で、与野党の委員の協議で決まります。各党の国対は、その後ろにおられます。与野党の国対の委員長が会談するのは・・(次の項「もめる」を読んでください)。

 

国会というところ2

Ⅱソフトウエア
1 「国会」はない?
(国会の長)
私たちは「国会」と呼びますが、よく見ると「国会」という「一つの組織体」はありません。あるのは、「衆議院」と「参議院」です。
憲法第41条は、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と定めています。でもその他の規定の主語は、「衆議院」「参議院」であって、「国会」という言葉がでてくるのはほとんどが「会期」としてです。
「三権の長」という言葉があります。行政権の長の内閣総理大臣と司法権の長の最高裁判所長官と・・。しかし、国会の長はいません。いるのは、衆議院議長と参議院議長です。それで、三権の長は、合計で4人です。
両院の議決があって、法律が成立するのです。もちろん、両院の議決が異なった場合の処理の仕方を、憲法は定めています。
(領土)
国会の建物の中も、衆議院と参議院に分かれています。早い話が、議事堂の真ん中で、「国境線」が引かれています。その線を境に、守衛さんの「領土」が分かれるのです。もちろん、守衛も「国会の守衛」はいません。衆議院の守衛と参議院の守衛がいるのです。
議事堂の正面に、玄関が3つあります。衆議院議員は衆議院の玄関(向かって左)から入り、参議院議員は参議院の玄関(向かって右)から入ります。真ん中の玄関は、天皇陛下が使われます。外国からのお客さんや当選後の新人議員も。正面玄関は、その他の時は、国会開会中でも閉まっています。
電話も、国会の代表電話はありません。衆議院(3581-5111)と参議院(3581-3111)の代表電話があるのです。ホームページも別々ですよね。
中央玄関以外にも、「国会として一つ」のものもあります。国会図書館裁判官弾劾裁判所などです。これらは、それぞれの院には置かれていません。
2 会議
(1)国会は会議の集まり
国会は、議員が集まって議論をし、結論を出す、あるいは出さないところです。ソフトウエアに着目すると、国会は会議の集まりです。ハードウエアでは、会議室の集まりになります。
この場合も、「国会の本会議」はありません。衆議院・参議院それぞれの本会議や委員会があり、両院が集まって開かれる(特別な)会議があるのです。
(2)両院が集まる会議
①開会式
会議とは言えませんが、陛下をお迎えして開かれる「開会式」は、両院の議員が参議院の本会議場に集まって行われます。それで、参議院の本会議場は、参議院議員の定数以上の席があります。参議院本会議がテレビ中継されると、空席が目立ちますが、そもそも空席でなく余裕があるのです。
②両院協議会
両院の議決が異なった場合の協議機関(憲法第59条ほか)。
③国家基本政策委員会(合同審査会)
両院に置かれる委員会の一つで、いわゆる党首討論です。委員会としてはそれぞれの院に置かれていますが、総理を呼んで質疑をする際は、両院の合同で(合同審査会で)開かれます。場所と委員長は交代ばんこのようです。野党の党首は、衆議院議員か参議院議員のいずれかでしょうから、それぞれの院で開くと、「変になる」でしょうね。
3 国会を支える機能
国会は、衆議院と参議院において、議院が議論をするところです。Ⅰハードウエアの記述でも出てきましたが、それを支える組織として、「各院の事務局」と「各党の事務局」があります。そこに、内閣がかかわってきます。
4 政党
5 議会事務局
6 内閣
(内閣との関係)
国会での審議の多くは、内閣が提出する法案・予算・条約などです。この他にも、白書などの報告・国会の同意が必要な人事や案件・一般的な行政に関する質疑など、内閣を呼んで行う質疑がたくさんあります。今国会の例だと、鳥インフルエンザ対策の質疑・イラク支援のための自衛隊派遣の承認などです。
地方財政でいえば、地方交付税法改正は法案ですが、これとあわせて地方財政計画を国会に提出します。これは議決対象ではありませんが、翌年度の交付税総額や地方財政の見通しを議論するために提出します(地方交付税法に定められています)。
(内閣の出番)
そこで、どうしても内閣の「出番」(内閣が呼ばれること)が多くなります。国会議員と国会職員だけでは、国会は動かないのです。また、内閣の方も、提出した法案などがスムースに成立することが必要なので、内閣からの働きかけも重要になります。
内閣全体としては「内閣総務官室」が、各省では「官房総務課」と「政府控室」(これは総務課の中の組織です)がその担当になります。

国会というところ

国会がどういうところかは、社会の教科書や憲法の教科書で習われたでしょう。また、両院のHPにも、詳しく載っています。
ここでは、私の目で見た国会を紹介します。本に書いてある制度論でなく、全体像をつかむためのものです。例によって、大胆な割り切りで説明します。正確な「公式」の勉強は、それぞれのHPを見て下さい。衆議院のHP 参議院のHP
法律ができるまでの過程は、「法律ができるまで」に解説してあります。
Ⅰ建物(ハードウエア)関係
に分けてお話しします。この分け方って、なかなか工夫してあるでしょう。
Ⅰハードウエア
1 議事堂
国会というと、あの議事堂を思い浮かべます。でも、それだけではありません。あれは本館で、同じ敷地に「分館」「別館」が建っています。道路を隔てて、敷地外にも「第2別館」があります。
本館の中はどうなっているか。まず、向かって左側が衆議院、右側が参議院です。
(1)会議室のかたまり
で、何があるかというと、会議室があるだけ。議事堂は、会議室の集合体です。国会とは議論をする場所だからです。議員が「執務」をしているわけではありません。それぞれ、本会議場やいくつもの委員会室があります。委員会室はそれだけでは足らないので、衆参それぞれ分館にもいくつかあります。
国会開会中は、国会議員、官僚、報道記者の行き来が激しいですが、閉会中は静まり返っています。見学の生徒さん達を除いては。
(2)各党の控え室
本館の他の部屋は、各会派に割り当てられ、各党が使っています。部屋の入り口には「××党国会対策委員会」「××党政策審議会」などと看板が掛かっています。部屋は、各党の議席数に比例して配分されるとのことです。選挙で議席を減らすと、再配分されるそうです。
(3)国会事務局
その他、両院の議長の部屋や事務局が入っています。速記をする記録部や議事進行を支える委員部などです。これらは、本館だけでなく別館、分館などにも入っています。
(4)その他
報道(記者クラブ)も入っています。国会担当の記者のためには、敷地の南側に道路を隔てて「国会記者会館」があります。
議事堂内には、食堂もいくつかあります。国会図書館の分室もあります。なんと、内科・皮膚科・眼科・耳鼻咽喉科もあります。
2 国会の中の内閣
(1)閣議室
一般の方には意外でしょうが、国会議事堂の中に、内閣の部屋があります。本館中央奥に、閣議室・内閣総務官室・秘書官室があります。
これらは「本物」が総理官邸にありますが、国会開会中は、閣議が国会内の「閣議室」で開かれるのです。
(2)各省の連絡室
また、参議院の別館の中に、各省の「政府控室」があります。国会側から見ると「政府(総務省)の控室」、総務省の方から見ると「総務課国会連絡室」になります。
国会開会中に大臣が準備をするほか、職員がいて国会の事務局との連絡や議員との連絡に当たっています。総務省の場合は、約10人職員が常駐し、議員からの質問取りや各党・委員会の進行状況を取材し報告してくれます。
「連絡室」はまた、国会開会中の私の「執務室」になります。霞ヶ関の本省からその都度出かけていては大変なので、ここから院内や議員会館へ出かけます。
(3)三権分立
ちなみに、国会の敷地内は国会が管理しています。これは何を意味しているかというと、敷地の中は、内閣の管理にある警察ではなく、国会(両院)の守衛が警備をしています。法律としては、国会法第114条が「国会の会期中・・・内部警察の権は・・・議長が、これを行う」と定めています。三権分立の一つの表れです。
3 別館等
議事堂のところでも述べましたが、本館だけでは足らないので、別館や分館が敷地の内外に建てられています。国会事務局(と職員)の多くは、ここに入っています。
また、敷地の北側に道路を挟んで、国会図書館もあります。ここには、日本で出版されたすべての本が、納められることになっています。私の本も収納されています。雑誌の論文も検索できます。
4 議員会館
議事堂の裏手(西側)に道路を隔てて、3棟の議員会館(7階建)が建っています。南から、衆議院第1議員会館、衆議院第2議員会館、参議院議員会館です。
全議員は、ここにそれぞれ個室を与えられています。議員の国会での準備室・執務室です。議員のほか、秘書がいます。意外と狭いです。一部の議員は、この他に近くの民間ビルに個人の事務所を持っています。
各省の役人が、個別に議員に説明に行くのは、あるいは呼ばれるのは、たいていこの議員会館の部屋です。すなわち、私の「主たる職場」の一つです。私のような役人だけでなく、いろんな説明や陳情やら・・とおぼしき企業の人・地方議員・マスコミなどなどで、しょっちゅうごった返しています。外国の大使館員らしき人も見かけます。
建物には、議員の個室だけでなく、国会事務局の一部、政党の一部(政策審議室など)も入っています、食堂も充実し、売店もあります。
5 院内に入る
(見学)
議員会館は、誰でも受付で手続をすると、要件のある議員の部屋に入ることができます。逆に言うと、それ以外のところには行けないということです。本館は、衆参それぞれに「見学コース」があるので、それを利用すると入れます。
(国会通行証)
政府の役人は、各省に割り当てられた「国会通行証とバッジ」と「身分証明証」を見せることで、入ることができます。一定以上のポストですと、写真入りの通行証が交付されます。これで、議事堂や分館(国会敷地内)にも、入ることができます。
国会議員もあのバッジがないと、議事堂(敷地内)には入れないそうです。国会職員・議員秘書・政党職員・マスコミも、それぞれ形や色の違ったバッジを支給・貸与されます。
(秘密の地下道)
議事堂と分館・別館、さらには議員会館は、地下道でつながっています。議事堂裏の道路の地下に、トンネルがあるのです。雨の日は楽チンです。もちろんバッジがないと通ることはできません。
6議員宿舎
地方の議員のために、議員宿舎(議員のアパート)がいくつかあります。九段、赤坂、高輪などにです。

政治と行政、清水記者の新著

清水真人著『財務省と政治ー最強官庁の虚像と実像』(2015年9月、中公新書)が、出版されました。著者は日経新聞政治部記者で、これまでも政治と財政について、多くの著書を世に問うています。著者の、1990年代からこれまでの取材に基づいた記録と分析です。新書とはいえ、なかなかの力作です。
当事者や関係者からすると、意見や異論はあるでしょう。しかし、日本の政治と行政の分析については、日々流されるニュース記事、奇をてらったしかしステレオタイプの週刊誌記事、他方でしっかりした分析だが時間がかかる学者の本などが多いです。その間で、このような現場に密着した、かつ事実を丁寧に記述して、それを大きな視点から分析する本は、意義があります。

レインボーハウス、震災遺児孤児の心のケア

先日、岩手県に視察に行きました(9月29日の記事)。その際に、陸前高田市のレインボーハウスに、おじゃましました。
この施設は、昨年できました。レインボーハウスは、親を亡くした子どもたちのケアをしてくださる施設です。あしなが育英会が運営しています。あしなが育英会は交通事故遺児が有名ですが、震災遺児孤児のケアもしてくださっています(仙台、石巻、陸前高田)。財源は寄付金です。

1か月に3日程度、子どもたちが(親も)集まり、職員(お兄さんやお姉さん)が話を聞いたり遊んでくれます。このような施設は、建物を見ても機能はわからず、かといって活動中はおじゃまになります。当然、私の視察した日はお休みの日で、別の用途に活用されていました。

行政でも、遺児孤児には財政支援をし、学校でもカウンセリングをしています。親を亡くした心の傷は大きく、また子どもはそれをうまく伝えることができません。学校には行くが、保健室で過ごす子どももいます。
行政の手が回っていない分野を、NPOが支えてくれています。この子たちの相手をして話を聞くことは、難しいことです。スタッフは専門訓練を受けています。「当時まだ赤ちゃんで、親の死の意味がわからなかった子どもが、4年経ってだんだん意味がわかるようになってくる」という指摘は重かったです。
このような活動を、行政がどのように連携を取り支援協力するか。課題です。学校(教育委員会)は「学校の外のことだ」と言うでしょうし、市長部局には担当組織がないでしょう。