東京新聞8月23日「あの人に迫る」は、環境リスク学者の中西準子先生でした。
「なぜ除染と帰還の目標に、国が長期に目指すとしている放射線追加被ばく線量の年1ミリシーベルトより高い、年5ミリシーベルトを提案したのですが」という問に。
・・・私は、原発事故の被災者一人ひとりが今後の人生を決めていくことを念頭に考えました。現状では判断材料が乏しい。簡単に除染できないことが既にわかっているので、1ミリシーベルトを帰還の目標にすると、ほとんどの人がいつ帰れるのか分からないのです。
だから、被災者の人生の大切な時間が奪われないよう、なるべく早く帰れるような条件と根拠を探りました。学業や就職など人生の一区切りを15年とし、期間後に1年間住んでも積算で100ミリシーベルトを超えず、その間に自然減で年1ミリシーベルトになるという条件を設定しました・・・
・・・一方、現実的な除染を考えると、年5ミリシーベルトなら数年内の目標として可能です。この値なら、自然減を加味すると15年間の積算線量は100ミリシーベルトを大きく下回ります。このリスクは、私たちが日常的にさらされている化学物質のリスクと比べても大きくありません・・・
・・・除染の目標を徹底的に下げれば、放射能のリスクが下がるから良いように思えますが、逆に、いつまで経っても帰れません。
その間に、被災者の生活や人生設計が破壊されるリスクを考えないと。一つのリスクを無理に減らすと、別のリスクが大きくなる。これをリスクトレードオフといいます。
水道水の塩素消毒では発がん性物質ができますが、感染症を防ぐために、そのリスクを私たちは受け入れています。大気中の発がん性物質も環境基準として一定程度認められているのは、自動車や産業活動を止めるわけにはいかないから。互いにバランスをとって生きましょうという考え方です・・・