著作の解説1 地方行財政

「歴史遺産」古いものばかりです。
1 地方財政

①地方交付税・地方財政の解説は、「地方交付税-仕組みと機能」をご覧下さい。実務関係者・研究者からは「わかりやすい」との評価をいただいています。経済白書の参考文献にも引用されました。

②地方財政改革論が盛んです。経済財政諮問会議の提言等を踏まえ、いくつかの「改革」に着手しました。その概要と交付税の課題について、私の考え方を地方財政改革論議」として出版しました。
「この本は、第2章の地方交付税に対する一般的な非難への反論のところが最もおもしろい・・」週刊ダイヤモンド2002年7月20日号木村陽子先生の書評

③「地方税財源充実強化の選択肢」月刊『地方財政』(地方財務協会)2001年4月号は、税源移譲や留保財源率の引き上げなどを論じた論文です。その後これらの改革が動き出したことについては、感慨無量のものがあります。その後の動きを取り入れて解説したのが、上記の「地方財政改革論議」です。

④「平成15年度地方交付税法の改正と最近の議論について」月刊『地方財政』2003年4月号は、15年度の地方交付税の改正(留保財源率の引き上げ・三位一体改革の芽だし、国会での議論)と、最近の交付税をめぐる議論を解説してあります。三位一体改革と財源保障の必要性、財源不足、市町村合併と交付税について述べてあります。「地方財政改革論議」の続きです。

「近年の地方交付税の変化」月刊『地方財政』2004年1月号。最近の変化をまとめ、交付税制度50年の中に位置付けました。

進む三位一体改革-評価と課題月刊『地方財務』2004年8月号、9月号は、ズバリ三位一体改革の進捗状況を評価し、またこれからの課題を整理したものです。地方財政改革論議」の増補です。「続・進む三位一体改革」(同2005年6月号、2006年7月号)はその続きです。

⑦小西砂千夫関西学院大学教授との対談「地方交付税制度50年:三位一体改革とその先の分権へ」月刊『地方財務』1月号は、交付税と地方財政計画のあり方を、過去と未来にわたって、制度設計にまで踏み込んで議論したものです。大きな視野で議論しました。小西先生の問題提起が厳しく、これまでにない議論になっています。ふだん、制度を所与のものとして考えがちですが、今回の対談は、あり方にまでさかのぼって、そして先を読んでという、制度設計の議論にまで入っています。

「地方財政の将来」神野直彦編『三位一体改革と地方税財政-到達点と今後の課題』(2006年11月、学陽書房)所収は、三位一体改革の到達点を踏まえ、今後の課題と進め方を解説しました。
構成と執筆者は、次の通りです。意義と課題(神野先生)、経緯(佐藤文俊総務省自治財政局財政課長)、到達点・国庫補助負担金の改革(務台俊介前調整課長)、同・地方税の改革(株丹達也前自治税務局企画課長)、同・地方交付税の改革(黒田武一郎交付税課長)、地方財政の将来(私)です。

「三位一体改革の意義」「今後の課題と展望」『三位一体の改革と将来像』(ぎょうせい、2007年5月)所収
第1章総説の第1節「三位一体改革の意義」と第4節「今後の課題と展望」を、私が執筆しました。一部、「地方財政の将来」(神野直彦編『三位一体改革と地方税財政』学陽書房所収)と、重複している部分があります。ただし、今度の論文には、年表(目標の設定と達成度)や税目別税源配分の表なども、つけることができました。早速訂正です。p6の11行目、「その要因の2つは」とあるのは、「その要因の1つは」の間違いです。

先日、行政学の泰斗(私の行政学のお師匠様)とお話ししていたら、「必要があって、岡本君が書いた「進む三位一体改革」(月刊『地方財務』連載)を読んだけど、やたらと長かったね」とのお言葉。
「先生、すみません。あれは、関係者向けの実況中継だったんです。一冊の本にまとめるときは、そぎ落とそうと考えていたんですが、時機を失してしまいました」とお詫びしました。その代わりと言ってはなんですが、今回の論文が、要約になっています。短くすると、本当に言いたいことだけになって、わかりやすくなっています、自画自賛です、はい。(6月1日、3日)

2 地方行政
①「制度と運営と-ヨーロッパで地方自治を考える-」月刊『地方財政』2002年12月号は、2002年秋にヨーロッパ4カ国を調査した報告書です。地方自治に関して、住民の意識の違いを指摘し、これからの分権には、制度の運用と自治の意識が重要であることを述べています。

②「失われた10年と改革の10年-最近の地方行財政の成果」月刊『地方自治』2001年5月号は、1990年代の10年間が、地方行政にとっては大きな改革の10年であったことを述べたものです。

③「市町村合併をめぐる財政問題」月刊『自治研究』2003年11月号は、現在進められている合併と財政との関係、さらにこれからの小規模町村の財政の見通しを述べてあります。


(拙著、古典に?)
月刊『地方財務』7月号が、財政担当課職員にアンケート調査した「実務に役立つ120冊」を特集しています。そのうち上位10冊は、ランキング形式で掲載しています。
なんと、拙著『地方交付税―仕組みと機能』が第7位に、『新地方自治入門』が第9位に入っています。2冊とも、出版して時間が経ち、内容も古くなっているし、版元切れで古書でしか手に入りません。なのに、投票してくださった方に、感謝します。どのような理由で、この2冊が推薦されたか、コメントも載っています。
先日も書きましたが、なかなか改訂できず、申し訳ありません。
なお、第8位に入った、『地方交付税のあらまし』(各年、地方交付税制度研究会編)も、私が交付税課課長補佐の時に作ったものです。後輩達が、毎年、内容を更新しています。うれしいですね。(2013年7月4日)

歴史学は面白い、2

川北稔著『私と西洋史研究』の続きです。
谷川稔著『十字架と三色旗―近代フランスにおける政教分離』(2015年、岩波現代文庫)が、宗教と社会との関係や社会と政治との関係について、勉強になります。
フランス革命以前のフランスでは、キリスト教(カトリック)が国教でした。生まれた際の登録、結婚の認定、死と葬儀も教会が担当していました。教育もです。宗教と言うより、習俗であり、行政機構であり、住民統合の機関です。それを、フランス革命が否定します。まずは聖職者を公務員とし、次に聖職を放棄させます。教会は閉鎖され、キリスト教に代わる新しい「理性の祭典」や学校教育・社会教育が作られます。壮大な文化革命です。その後、王政復古などを経て、キリスト教は復活しますが、もはや国教に戻ることはありませんでした。しかし、19世紀末から20世紀初めにかけて、教育現場を中心に、宗教色を排除するために、政府の介入とそれに対する抵抗など、大きなエネルギーが注がれます。このあたりの実情は、ぜひこの本をお読みください。各村々では、大変なできごとだったと思います。
それらを経て、現在の政教分離=ライシテが成立します。三色旗(フランス国家)と十字架(キリスト教)との共存に、折り合いを付けるのです。ところが現代では、マグレブや中東からの移民がイスラム教の習俗を持ち込むことについて、対立が生じています。女性がかぶるベール(ヘジャブ)を、学校に着用してよいかどうかです。今度は、三色旗と三日月(イスラム)との衝突です。
「政教分離」とは、近代民主主義憲法が保障する原理の一つですが、国と社会によって成り立ちが異なります。先進諸国では、フランスが最も厳格でしょう。イギリスでは女王が国教会の首長であり、アメリカでは大統領が聖書に手を置いて宣誓します。日本では、戦前の国教であった神道からの分離が問題でした。これまた、かつてはそして民衆の生活現場では、習俗でした。そして、靖国神社の問題があります。
宗教と政治、そのような習俗と政治をどのように折り合いを付けるか。教科書に、唯一の正しい回答は書いてありません。それぞれの国が、解決する=どのように折り合いを付けるかを決めていくしかないのです。この過程が、日本の民主主義に必要です。先進諸国を教科書にしても、書いていないこと。それを、日本国民がどのように解決していくかです。

コスト優先の管理技術の重要性

朝日新聞連載「あのときそれから」、7月11日夕刊「昭和31年 造船世界一 成長ニッポン支えた技と魂」、ノンフィクション作家・前間孝則さんの発言から。
・・・造船世界一は「戦艦大和や武蔵の技術があったから」と言われていました。大口径46センチ砲や410ミリ特殊鋼の甲板といった軍事技術を評価されていたのだと思います。
大和は呉海軍工廠で造られ、建造責任者は西島亮二・海軍技術大佐です・・・実は、造船世界一に導いたのは、金に糸目をつけない性能第一主義の軍事技術ではなく、コストを最優先して短い工期と少ない工数で造る管理技術でした。西島さんは排水量7万トンクラスの建造データがなく、大和の仕事量を把握することが「もっとも頭を悩ました」と記します・・・
・・・材料の規格の統一や、効率的な人員配置など西島式生産管理法が、戦後重視された「安く早く良い物をつくる」ことに生かされ、技術大国の日本の礎になりました。現場を熟知して、全体を見通す西島さんの姿勢は、現在の日本にも求められていると思います・・・

日本の政治:小泉改革

12日の朝日新聞は、「郵政改革、道路公団改革との差は」「二つの民営化、手法は対照的」を解説していました。記事の趣旨は、道路公団民営化改革法案が、国会では与党の賛成多数であっさり成立した。一方、郵政民営化法はそうでなかったことの要因が、改革の手法にあるということです。「族議員を排除、党と溝」「首相関与、骨組み堅持」「議論公開せず、冷めた世論に」というのが、見出しでした。
このような分析を否定しませんが、私は、もう少しいろんな角度から、分析すべきだと思います。この2つの改革の一番の違いは、総理のリーダーシップと、総理がどこまで成果を求めたか(ゴールの設定)だと思います。そして、責任者や審議会など手法の違いも、出てきます。
もう一つの小泉改革である三位一体改革は、もっと違った過程を取っています。そこでの政治主導、政治権力論、政治構造論については、「政治改革としての評価」として「続・進む三位一体改革」p142~に書いておきました。

歴史学は面白い

川北稔著『私と西洋史研究』の続きです(歴史は書き換えられるもの。2015年6月26日)。
私は、新しい遺物や古文書が発見されて、新しい学説がでて、歴史の見直しが行われるのだと、思っていました。そして、西欧史なら西欧で古文書が出てこない限り、日本で研究していても新説は出てきそうにもありません。ところが、古文書を新しく読み解くという行為は必要ですが、新しい文書が発見されなくても、歴史は書き換えられるのです。「学説は数十年で書き換えられるもの」という発言は、衝撃的でした。
他方で、極めて単純にすると、戦後日本での西洋史研究は、大塚史学を脱皮すること、そして西欧でも変化しつつあった「政治の歴史から社会の歴史への転換」であったのでしょう。
歴史学が変化していること、その意味については、このホームページでも、近藤和彦・東大名誉教授を紹介したことがあります。「歴史学って、こんなに変化しているのだ、面白いんだ」と、感激しました。そこで、川北先生の本や福井憲彦著『歴史学入門』(2006年、岩波テキストブック)を読み、E・H・カーの『歴史とは何か』(邦訳1962年、岩波新書)を再読しました。
『歴史学入門』には、次のような目次が並んでいます。もう、英雄と戦争の歴史ではないですね。
1 歴史への問い/歴史からの問い
6 グローバルな歴史の捉え方
7 身体と病と「生死観」
9 人と人とを結ぶもの
11 政治と文化の再考

もっと詳しく紹介すればよいのですが、ご関心ある方は、それぞれの本に当たってください。
ちなみに、近藤先生の本を読んだ感想を、私は「政治の役割」に分類しました。「覇権国家イギリスを作った仕組み」(2014年7月27日~)。私には、社会統合など社会の課題を、どのようにイギリスが解決していったか、それが勉強になったのです。
ところで、近藤先生のホームページ「オフィスにて」2014年8月29日は、「全勝さんのページ」です。次のように書いてくださっています。
・・・岡本全勝という方がホームページを持っていらして、じつに精力的に発言なさっています(ということに、ようやく最近に気付きました)。政治と行政のど真ん中で発言なさっているエリート官僚のお一人でしょうか。大学でも教えておられるようです。
その全勝さんが、なんと『イギリス史10講』について、全9回の連載でコメントをくださいました。こういう「公共精神の立場から国家百年の計を考え行動」なさっている「経国済民の士」(p.206)の目に止まったというのは嬉しいことです。その論評は、わが業界の若い院生や研究者とは異なるレヴェルで、実際的にしかも知的に行われていて、これも有り難いことです・・
私も、気づくのが遅くて、申し訳ありません。