雇用が個人や社会にとって重要なのは、それが安心の要にあるからです。雇用が安心の要にあるということを教えてもらったのは、宮本太郎北大教授(当時)です。
麻生政権の安心社会実現会議で、「安心と活力の日本へ」という報告書をまとめました。その報告のポイントは、安心の中心には雇用があり、その回りに、子育て、教育、健康、老後があるというものです。私は、安心と聞くと、健康保険や介護保険と年金、そして生活保護制度を思い浮かべていました。しかし、それらの中心に、雇用があるのです。日本社会が安定しているのも、安全安心な社会だといわれるのも、失業率が低いこととともに、労働者が安心して働けることと、そこそこ満足できているからです。それが、個人や家庭の安心にもなっています。
国家の視点からは、経済成長やGDPが重視されます。確かに、豊かさは重要な指標です。また経済成長によって、失業率は低下します。しかし、GDPが大きくても、貧富の差が大きくては、社会は安定しません(そのほかに、政治的・社会的自由と平等も、近代社会の安定には必要です)。生産や消費の数値より、個人にとっては雇用が重要なのです。欧米のように失業率が上がり、また近年の日本のように若者が非正規雇用に追いやられると、個人や家族そして社会の安心は保つことができません。社会の安定にとって、そして個人の安心にとって、雇用が大きな要素です。