かつて、このページに、中西輝政教授の次のような分析を紹介したことを思い出しました。
・・サッチャー改革の敵は、たしかに野党や労働組合あるいは低所得層の庶民であったかもしれない。しかしその最大の敵は終始、与党・保守党、それも内閣の中にいた「保守穏健派(ウエット)」と称される有力政治家たちであった・・「サッチャー首相の評価、敵は身内に」(2013年5月3日)
また、自由主義諸国が中国と「戦う」には、「自由主義諸国の魅力を高め、世界政治の中心にいることが重要である」という、アイケンベリー教授の主張を紹介しました(9月15日)。
このページでの連載「責任者は何と戦うか」では、事態、決める仕組み、身内、世論など、責任者が戦うのは「正面の敵」でないことを取り上げてきました。
責任者の仕事の第一は、「本当の敵」を見抜くことです。「正面の敵」と戦いながら、あるいは戦うために、後ろにいるあるいは見えていない「本当の敵」と戦うことです。
月別アーカイブ: 2013年9月
台頭する中国と自由主義世界
朝日新聞9月13日オピニオン欄、ジョン・アイケンベリー教授のインタビューから。
・・中国は経済、軍事両面で急速に力をつけ、アジアさらには全世界に影響を及ぼすようになっている。世界の主要国のなかで中国だけが、「対等の競争相手」として米国に挑戦する構えを見せている・・
中国はより大きな権力を追求するだろうが、既存のリベラルな国際秩序をひっくり返し、中国中心の世界を打ち立てようとはしない。中国の重商主義的な資本主義が成功するためには、グローバルな自由貿易を必要とするからだ。自由主義、民主主義を信奉する資本主義諸国は力を合わせ、経済成長や社会の進歩を図れるよう、国際的な諸組織を改善しなければならない。そうすれば中国が参加してくる動機も強くなる・・
「しかしリーマン・ショックなどを通じて自国の制度の方が優れているとの思いを深めているのでは」という問に対して。
・・だから私のこれまでの議論の多くは、自由民主主義諸国に向けられているのだ。各国は、格差の拡大、経済の停滞、財政危機、政治的な機能不全などの問題を解決しなければならない。今から20年後もまだ、自由民主主義諸国が世界政治の中心にいるか、あるいは西側諸国に対する中国の影響力が一層強くなっているかは、民主主義国、非民主主義国のどちらがより効率的に社会、経済問題を解決し、より魅力的なモデルを提示できるかにかかっている・・
アイケンベリー教授の主張は、何度か紹介しています。「アメリカが広めたもの・資本主義経済、自由主義、多国間統治」(2012年8月11日)、「勢力均衡や覇権主義でない国際秩序」(2012年10月2日)をご覧ください。
原発避難、次の段階への準備
原子力損害賠償紛争審査会で、新たな段階に向けての審議が始まっています(9月10日審査会)。
1つは、避難指示解除後の賠償です。
今後、避難区域が解除された場合、どの時点で賠償を終えるかについて、議論が始められました。避難指示が解除される地区が、これから出てくるからです。もちろん、避難指示が解除されるためには、線量が下がりインフラなどが復旧する必要があります。すでに、緊急時避難準備区域(広野町など)は、指示が解除され住民が戻りつつあります。この区域では、解除の11か月後に賠償が終わりました。
他方で、避難が長期化する地区もあります。また、戻らないという人も出ています。まず、新しい生活を選び、他の場所で住宅を建てる人に、どれだけの賠償をするかです。被災前に住んでいた住宅について、それぞれの固定資産税価格を基に、賠償の算定と支払いが進められています。そのお金を基に、新しい家を建てるか買えばよいのですが、その賠償金だけでは足らないことも多いです。参考になるのが、公共事業で移転してもらう際の補償です。
また、避難が長期化する地区では、新しい生活を始めるのか、どこかで待ち続けるか。その判断をするためにも、いつまで精神賠償が続くのか、新しい生活を選ぶ場合にどのような賠償をしてもらえるのかの情報が必要です。
9月10日の読売新聞夕刊は、「帰還困難区域について、戻れないとの前提で金額を算定し一括賠償を行う方向で一致した」と伝えています。
また、朝日新聞9月13日社説は、「除染・賠償、避難者に判断材料を」を書いています。
・・本当に自宅に戻れるのか。戻れるならいつごろか。戻れない場合や、新たな場所で再出発したい人は、どのような支援が得られるのか。
政府はこれらの点について全体像を示し、避難者が生活再建について判断できる環境を早く整えるべきだ・・
賠償の基準を決める政府の損害賠償紛争審査会は上積みする方針を打ち出したが、ほかにも課題は多い。
避難指示が解除された場合、いつごろまで賠償を受けられるのか。帰還困難区域など、なかなか戻れない場合の賠償をどう考えるのか。基準作りを急いでほしい・・
2020年のオリンピック、何を見てもらうか
2020年のオリンピックが東京に決まり、お祝いムードに包まれています。「経済効果がいくらになるか」といった報道もありますが、それ以上に社会に与える影響には、大きなものがあると思います。
子どもたちが、「僕もオリンピックに出るのだ」と言っているニュースを見ると、若者に与える希望とその後に続く努力は、金銭では評価できません。
世界中から、大勢の運動選手と観光客とメディアが日本に来ることの効果も、大きいです。その際に、何を見てもらうか。何を思い出に持ち帰ってもらうか。そのためには、どのような大会にして、どのような日本にするか。私たちの、構想力が問われます。
2020年まで後7年。7年は、社会の大きな課題を解決するには、適当な期間ですね。2~3年では短すぎます。10年を超えると、遠い将来のことで現実感がなくなります。
7年後はどうなっているか、7年後はどうするか。
私が携わっている復興は、ちょうど発災以来10年目になっています。区切りをつける年です。復興庁の設置期限でもあります。立派に復興を成し遂げた姿を、見てもらいたいです。
日本社会全体では、どうか。前回の東京オリンピックは1964年。敗戦(1945年)から19年。よく言われるように、日本が敗戦から立ち直り、高度経済成長の時代でした。1968年には、GDPで西ドイツを追い抜き、世界第2位になりました。
2020年は、バブル崩壊(1991年)から30年。安定した経済になっていたいです。高齢化はさらに進み、世界のトップを走っています。世界各国に、活力ある明るい高齢社会を、お見せしたいです。
他方、犯罪の少ない清潔な街、勤勉かつ誠実で助け合う日本人といった日本のよいところは、半世紀経っても変わっていないことを見せましょう。
そして、あなたは、どうなっているでしょうか。あるいは、どうしていたいですか。私は65歳になっていて、う~ん・・・。
読者の反応
この拙いホームページを見てくださっている読者の方から、時々反応があります。
アメリカにいる元部下から、「アメリカでも読んでいます。相変わらず忙しそうですね・・」。
便利なものですね。アメリカでも、読めるのですから。
久しぶりに会った新聞記者さんから、「最近、本の紹介が少ないですね。あれ、参考にしているのですよ。特に、政治の分析に関するもの。また、頼みますよ」。
すみません、読書量が減っているのと、読み終えずに途中になっているのも多くて。反省。
別の記者さん、「昔に比べ、内容が穏当になりましたね」。
そうですね。総理秘書官をしてから、いろいろとものを言いにくくなりました(苦笑)。書いた内容が、99人の人に賛成してもらっても、1人の人を怒らせると、なかなかやっかいです。もちろん、正しいと思って書いているのですが。気分を害した人にとっては、おもしろくないでしょう。気を遣いますわ。このページは、実名で書いていますから。