南相馬市との打ち合わせ

今日は、南相馬市に行ってきました。南相馬市は、南部の小高区が避難解除準備区域になっていて、立ち入りが自由になりました。しかし、1年あまりの間、立ち入り制限があったので、津波が来た昨年3月11日の状態にあります。変わった点は、セイタカアワダチソウなどがはびこっていることです。
帰還に向けて、除染やがれき片付け、インフラ復旧を進めます。課題は、いっぱいです。4月にお邪魔したときより、壊れた家の解体撤去が進んでいました。
立ち入りが自由と言っても、上下水道が復旧していないので、片付けが進みません。また、家を片付けた際に出る大量のゴミを処理することも、課題です。市役所では、上下水道を復旧させる工程表を作っておられます。順次進んでいます。
現場に行くと、東京で聞いているのと違う現実に、気づきます。個別事項についての認識の違いもありますが、それ以上のものがあります。
すなわち、各省は課題について、自治体から指摘や要望を受けた際に、制度を作ったりや予算をつけたことをもって、「解決した」と書きます。しかし、現場に行くと、制度を作っても予算が付いても、実際にそれが実行されないと、解決したことにならないのです。
また、自治体が要望したのに、「返事がまだ」という事項もあります。耳の痛いことも多いですが、このようなすれ違いを拾い上げ各省を動かすことも、復興庁の仕事です。
市の中心の原町区は、平常の生活に戻りつつあるのですが、子どもたちの帰還が遅れています。放射能への不安からでしょう。すると、ほとんどの店が再開しているのに、子どもに人気のマクドナルドとかっぱ寿司が再開していないのだそうです。若者たちが、再開を心待ちしているとのことです。
市役所の各部との検討会を終え、役場を出たのが、18時前。すみません、金曜日に残業をしてもらって。マイクロバスで、阿武隈山地を越えて、山道を郡山駅まで1時間半。途中、全村が避難している飯舘村を通りましたが、街灯はあるものの夜道は真っ暗でした。
福島駅の弁当屋さんは、いつもはたくさんあるのに、この時間では売れ残りが少しだけ。定価500円が半額になっていますが、選択の余地はなし。家にたどり着くと、22時でした。

アジアの知的貢献

9月24日の朝日新聞オピニオン欄「私の視点」、羽場久美子・青山学院大学教授の「アジアの連携、国家超え『知』結集の場を」から。
・・世界の課題はいまや、20世紀には考えられないほどの広がりと緊急性を持っている。テロ、防災、温暖化、原発事故、国境管理、金融の変動、移民、エイズなど、20世紀の国民国家の枠組みでは対応しきれないものばかりだ。
私はこの10年間、国家を超えたアジア地域統合の問題を、欧州の地域統合と比較しながら研究してきた。痛感するのは、アジア地域の「知の結集度」の低さだ。
近代の技術・情報・知の発展は、圧倒的に欧米の成果に依拠する。それを支えてきたのが欧米の強大なシンクタンクやトップクラスの大学・大学院であった。ハーバード大、欧州政策研究所、欧州大学院研究所などの研究機関は知的成果を上げるだけでなく、世界の政治や経済・科学技術の若手リーダーを養成する場としても機能している。
これに対し、アジアは教育水準が高いにもかかわらず、国家を超えた世界レベルの問題を共同で検討するシンクタンクや知的作業の場を欠いている。欧米と連携を保つ各国共同の研究・教育機関・ネットワークをアジアに設立することは、この地域の将来にとって緊急の課題である・・
アジアの人口、経済規模、経済発展を考えたら、至極もっともな発想です。いつまでも、欧米に留学し先端知識を持ち帰るだけでは、発展はないのでしょう。羽場先生は、緊張が続くアジア各国間の協力も、述べておられます。原文をお読みください。

避難市町村

今日は、福島県葛尾村に行ってきました。といっても、村役場が疎開している福島県三春町にです。現在、原発事故で住民が避難をさせられた12市町村ごとに、復興庁でチームを作り、各自治体の課題の解決と復興計画づくりを進めています。チームの責任者は参事官を当てているのですが、私もできる限り現地に行って、話を聞くようにしています。先週20日が川内村、今日が葛尾村でした。
葛尾村も、阿武隈山地の東麓にある山中の村です。人口1,500人、これといった産業がありません。商業や医療などのサービスも、かなりの部分を、他の町に依存していました。原発事故を受けて、全村が避難しました。
村のかなりの地区は、年間20mSV以下です。インフラや住宅は、地震の被害をそれほど受けていないので、損傷は少ないです。しかし、特に警戒区域内の家屋は、1年半以上人が住んでいないので、傷んできています。
インフラ復旧に大きな作業は不要なのですが、住民が戻るかどうか、予測がつきません。商業などのサービスの再開と働く場の確保が、難しいからです。そして、住民が戻らないと、商店も工場も再開しません。他の町に避難した人たちは、町の生活の便利さや、子どもたちが転校先で友達を作っていることから、早期の帰還に二の足を踏みます。
これまで多少の不便があっても、ふるさとでの暮らしを守ってきた人たち。その人たちが、いったんふるさとを追われ、新しい土地になじんできています。今後の暮らしをどう立てるか。皆さん、難しい判断を迫られています。
かくいう私も、村(明日香村)では食べていけないので、東京に出てきた一人です。都会の狭い住宅、満員電車、土の見えない街で、ふるさとの野山を懐かしむしかありません。もっとも、私の場合は、職業を選ぶ際に自ら東京を選び、家庭を持ちました。それに対し、葛尾村の住民は、村で家族と暮らし、生業に就いているのに、突然追い出されたのです。

危機で試される制度と組織

サミュエル・ハンチントン著『軍人と国家』(邦訳1979年、2008年新装版、原書房)の訳者まえがきで、市川良一氏が、つぎのようなJ・F・ケネディの言葉を紹介しています。
「平和な時代には、どんな制度でも間に合うであろう。しかし、危機に機能しうる制度のみが生き残る」。
ケネディ大統領がどの場所でこの発言をしたか、まだ調べていません。孫引きで、申し訳ありません。
この本は、政治と軍事(軍隊)との関係(政軍関係、シビル・ミリタリー・リレーションズ)について書かれたものです。戦前の日本政府と陸海軍が第二次世界大戦で、このテストに失敗しました(制度というより、組織ですが)。
しかし、私には、今回の原発事故での政府の原子力規制関係組織が、真っ先に浮かびました。事故を防ぐことができなかったということとともに、事故が起きた後の対応についてもです。もっとも、旧軍にあっては、廃止されるだけでなく憲法で禁止されました。原子力保安院については、機能を廃止できないので、原子力規制委員会とその下の規制庁になりました。

官僚の一人として、今回の失敗の原因を考えるとともに、ほかの組織(制度)で同様の失敗を起こさないようにしなければなりません。
そのものの例とは言えませんが、近いところでは、薬害エイズの防止に失敗したことで、厚生省薬務局が解体され、金融危機にうまく対処できなかったことで、大蔵省銀行局と証券局が金融庁に分離されました。BSE牛問題で、農林水産省の機構改革が行われ、内閣府に食品安全委員会ができました。

社会保障を含めた生活保障を進めるために、宮本太郎教授、その3

「具体案はありますか」という問に対しては。
・・私自身は、社会保障を強めて雇用と連携させるアクティベーション(活性化)と呼ばれる方向をめざすべきだと考えています。非正規の若者が技能や知識を伸ばす多様な機会をつくる。女性の就労につながる保育・修学前教育を手厚くする。NPOや社会的起業で高齢者の仕事をつくることも活性化の手法です。
他方、ある程度の支援はするが、個人と家族の自己責任を重視し、伝統的な家族の価値を打ち出すワークフェア(就労義務重視)の主張もある。給付付き税額控除のような方法で現金を渡し、社会参加の条件を整えようというベーシックインカムの提起もある。
民主党でアクティベーションの流れが強まると、自民党はワークフェアにシフトしたようですが、3つの立場は具体的な政策としては重なるところがある。空中戦はやめ、どうすればより多くの人が仕事に就けるか、エビデンス(経験的証拠)に基づいて議論するべきです・・

「方向は見えている。しかし、政治が動かない。なぜでしょうか」
・・子育てと仕事の両立に悩む母親、低学歴と技能不足で正社員になれない若者など、従来の生活保障が対応できていない「新しい社会的リスク」に直面する人たちが増えています。この人たちを元気にすることは、経済成長のために決定的に重要です。
しかし、彼ら彼女らは組織化されておらず、投票率も低いため、政治家にとって「良い顧客」ではない。一方、これまで政治家を支えてきた業界団体や労働組合の声は政治家に届きやすいものの、こちらも組織率を低下させ、利益を集約できない。要するに、政治が現実社会から離反し浮遊しつつあるのです・・

宮本太郎先生の「生活保障」や「アクティベーション」については、『生活保障―排除しない社会へ』(2009年、岩波新書)があります。
社会の変化が、「社会保障」として求められる範囲を変えているのです。安心な生活は、政府の社会保障制度だけで成り立っていたのではなく、家族と企業の「保障」と一緒になって、成り立っていました。後者が弱くなること、また成熟社会になることで孤独や引きこもりなどの新しい社会的リスクが生まれ、従来の社会保障では漏れ落ちる人が出てきたのです。
私は、「新しい社会的リスク」を、リスクの一つに位置づけています。拙稿「社会のリスクの変化と行政の役割」。また社会関係リスクについては、再チャレンジ政策を担当して以来、関心を持ち続けています。「国民生活省構想」は、この問題への取り組みの一つです。