「危機で試される制度と組織」、サミュエル・ハンチントン著『軍人と国家』(9月26日の記事)の続きです。
実は、北岡伸一先生の『官僚制としての日本陸軍』(2012年、筑摩書房)のあとがきに、『軍人と国家』が紹介されていたので、読み始めました。あとがきには、次のように紹介されています。
「かつてサミュエル・ハンティントンは、しばしば類似した性格を持つとされる日本の軍隊とドイツの軍隊を比較して、実は両者の差はきわめて大きいと指摘したことがある。ドイツはプロフェッショナリズムによって特徴づけられるのに対し、日本の陸軍はその欠如によって際立っているというところが、そのポイントだった・・」
『軍人と国家』では、「第5章 ドイツと日本におけるシビル・ミリタリー・リレーションズの実際」で分析されています。北岡先生の本を読んでいる途中なのに、ハンティントンの本に手を出すという、私のいつもの悪い癖です。もっとも、北岡先生の本に手を出したのは、先生のファンであることととともに、日本の軍隊がなぜ国を滅ぼしそして自らの軍隊を滅ぼしたか、広い意味での官僚機構の一つとして軍隊組織がなぜ失敗したのかに関心があるからです。
国を守るべき軍隊が、戦争を引き起こし、さらに拡大し、結果として国を滅ぼした上に、自らの組織(軍隊)を消滅させたのです。
私のライフワークの一つは、官僚制です。官僚制を内側からどう改革するか、そして、日本の政治行政や社会の中でどのように位置づけ機能させるかを、考え続けています。
官僚制の欠点を改革するには、官僚機構の改革(内なる改革)とともに、政治との関係や社会の中での位置づけ(外との関係見直し)という視点が、必要です。その点で、『軍人国家』は、きわめて有用です。
「機能的に見て、いかに合理的なシビル・ミリタリー・リレーションズも、その国の大多数の国民の作り出すイデオロギー的環境と無関係には存在し得ないことを、ハンチントンの分析は明確に示している」(訳者まえがき)のです。
すなわち、シビル・ミリタリー・リレーションズを体系的に分析する際の基本的構成要素として、「政府における軍事組織のフォーマルで構造的な地位」「全体としての政治および社会に対する軍人グループのインフォーマルな役割と影響力」「軍人グループと非軍人グループのイデオロギーの性格」を挙げ、「これらの要素のうちどれか一つが変化すれば、かならず他の要素にも変化を引き起こす・・」(著者まえがき)のです。
著者は、この文章に引き続いて、次のようにも書いています。「たとえば、日本やドイツの将校団にみられるイデオロギーの差違は、それぞれの社会で彼らが行使した権威と影響力の差違、並びにそれぞれの社会のイデオロギー的局面の差違に直接関連していた・・」。
いつも繰り返しているように、「日本の官僚制が優秀と評価された後、この20年で評判を落としたこと。これは、日本の官僚が変わったというより、社会が変わっているのに官僚が変わっていないことに原因がある」というのが、私の主張です。