佐々木毅教授「政府の危機」『公研』2008年2月号から。
世界の金融市場がサブプライム問題で激しく動揺し、実体経済の行方についても一時の楽観論は少なくなってきた・・東京市場は万国に冠たるほど株価が急落したが、政府関係者は至って冷静というか、無関心で、国際的にも誠に際だっている・・この冷静さは自信の現れではなく、恐らくは無力感の現れである。しかし、このことと無関心とは異なるはずである。無関心とは初めから思考が停止している状態であり、考える気力もエネルギーもない状態を指している・・
・・かつては、政府と民間との関係は極めて密接であり、政府が業界に傾斜していたことは、首相が今度の所信表明演説で認めている通りである。しかしその後、「官から民へ」と構造を変えた結果、今や諸外国に類例を見ないような「官」「民」相互無関心体制になったのではないかというのが、私の疑念である。
・・経済政策とか内需とかいう言葉はほとんど聞かなくなり、無関心の中で国民負担増問題だけが脚光を浴びるという甚だ不正常な状態が続いている。よく日本の存在感が急落しているといわれるが、政府の存在感が国内でも急落しているのであるから、国際的に何が起こっても不思議ではない。
・・「官から民へ」ということには、例えば、政府が市場を上手に活用して国民生活を活性化することが当然含まれている。昔のような行政指導や補助金は使わないで何ができるかが問われている。また、グローバル化時代においては、安定化要因としての政府の機能は極めて重要であり、その役割を真摯に絞り込み、速やかに実行する機動性が求められている(年金問題などを見ていると、政府はそれとは逆に不安定要因として機能している)・・