本を書くのは自分のため

本棚を眺めていて、水谷三公『王室・貴族・大衆』(1991年、中公新書)が気になって、取り出しました。あとがきに、次のような記述がありました。
・・なにかわからないことがあったら、それについて本を1冊書いてみるのがよい。ヨーロッパにはこんな格言があると、『ヨウロッパの世紀末』(新潮社)のあとがきで、文芸評論家の吉田健一氏が紹介されている。してみると、ヨーロッパでは、本はまず読者のために書かれるというより、著者自身のために書かれる場合が多いと推測して、大過ないのかもしれない・・
「そうだったけ」と、今度は吉田健一『ヨオロッパの世紀末』(1994年、岩波文庫)を引っ張り出すと、確かに「・・そのヨオロッパに、何か解らないことがあったらそれについて1冊の本を書くといいという格言がある。これは本当であるようであってヨオロッパについて今度これを書いているうちに始めて色々なことを知った気がする・・」とあります。
うーん、読んだときには頭に残らず、問題関心を持って読むと、なるほどと思うことが多いですね。また、本の方から呼んでくれるというのも、本当ですね。本棚には前から積んであったのに、なぜ今の時期に取り出そうと思ったのか。自分でも不思議です。実は、この本に限らず、大論文執筆中に、いろんな本が連鎖的に出てきます。「そういえば、あの本にもこんなことが書いてあったな」と。
さて、私の原稿書きは、まさにこの格言に相当します。書いて行くうちに、自分の考えが整理されるだけでなく、いろんなことを調べるので、ようやくすこし解ってきます。

東京は、昨夜も雪が降り、今朝は少し積もっていました。しかし、朝から気温が上がり、早々に溶けました。家の隅に植えた水仙の花が、茎の途中で折れてしまいました。落ちてきた雪の重みででしょうか。

道路財源と分権

9日の朝日新聞社説は、「道路と自治体―分権の視点はどこに」でした。
・・・歴代の首相は口をそろえて「分権推進」を強調してきた。小泉元首相の「三位一体」改革の掛け声はその代表例だ。なのに、中央官庁は権限をなかなか手放そうとしない。財源移譲となればなおさらだ。地方の財政は細るばかりというのが首長らの実感だろう。 その結果、知事や地方議員らはことあるごとに上京し、中央官庁や与党を陳情に歩かねばならない構図が続いてきた。 そんな状況を変えたい。権限と財源を自治体に移し、限られた予算をどう使うか、もっと住民に近いところで決めるべきだ。それが分権の考え方である。 道路整備についても同じはずだ。地域が真に必要とする道路はどれなのか。福祉や教育、医療などの行政需要と比べ、どの程度の予算を道路に振り向けるのが適当なのか。自治体の長や議会の判断で決められるようにしてこそ、効率的で無駄のない使い方ができるようになる。 そう考えれば、自治体側が訴えるべきことは明らかだろう。中央が握っているいまの道路財源を大胆に地方へ移す。そして、道路にしか使えないという特定財源の仕組みを廃止し、何にでも使える一般財源にすることだ。・・・

NPO法成立過程

9日の朝日新聞変転経済は、NPO法案でした。民間非営利組織NPOに法人格を与える法律が、1998年に成立しました。その政治過程です。この法案は当初「市民活動促進法案」という名前でした。最終的に「特定非営利活動促進法」として成立し、しゃべりにくい名前になりました。私は、なかなかこの正式名称が覚えられず、「NPO法」と呼んでいます。
ただし、この記事は、行政と国会での法案成立過程についてです。社会において、この法律が持つ意味や背景の解説も欲しいですね。期待しています、辻記者。

2月8日 第46回関西財界セミナー

今日は、第46回関西財界セミナー(京都国際会館)に行ってきました。第3分科会「日本復活の条件を探る」第3セッション「道州制で日本各地を元気にする」で、発表しました。議長は松下正幸松下電器副会長、関西財界のお歴々の前での発表で、いささか緊張しました。もっとも、しゃべり出すと、いつもの調子になりました。すると、違った意味で、血圧が上がるのです(笑い)。
私の主張は、次の通りです。
日本は中央集権モデルで大成功し、それが現在の失敗を生んでいる。
道州制によって変えるものの一つは政治であり、地方分権である。一言で言えば、内政面での「霞ヶ関の分割」である。国鉄の分割をイメージしてもらえばいい。これによって、国会議員と官僚は、国としてすべき仕事に専念し、地方のことは道州に委ねることができる。
変えるべきもう一つは、経済である。地域は、地域経営という思考に立ち、自立すべきである。東京を向かずに、アジアを向いてほしい。第一の政治改革は、分権でも達成できる。しかし、地域経済の自立は、都道府県を前提にしていては、できないだろう。
道州制実現に向けて、抵抗勢力は官僚と知事・県会議員であろう。推進勢力は、国会議員と経済界である。霞ヶ関を分割できるのは、総理のリーダーシップしかない。これは、省庁改革の時の橋本総理を思い浮かべてもらいたい。
さほど変なことは言っていないつもりなのですが、「霞ヶ関にもこんな官僚がいるのか」と、お褒めの?言葉をいただきました。会議終了後も、たくさんの出席者から、声をかけてもらいました。
この分科会のテーマが日本復活についてで、昨日はシュンペーターの創造的破壊が議論になったようです。そこで、官僚制は成功したが、日本復活のために、いまや破壊しなければならない、との発言もありました。松下副会長はとりまとめの際に、「トップダウンで改革ができるのは、創業者か、業績が悪くなったときだ」と喝破されました。
分権と道州制について、非常に深い理解と強い意欲を感じました。経済界の方がこれだけ熱心になっていただくのは、ありがたいことです。この熱意と力で、政治家を動かしてもらいたいです。
それにしても、全体で500人もの財界人が参加して、2日間議論をされるのは、すごいですね。「京都ダボス会議」といったところでしょうか。マスコミも政治家も、もっと関心を持つべきだと思います。海外ばかり向かずに、日本も向いてください。でも、事務局も大変でしょう。
お呼びいただき、ありがとうございました。少しはお役に立てたでしょうか。私としては、効果的な伝道師活動ができて、うれしかったです。