【新聞の論調】
政府・与党案に対する各紙の論調は、厳しいものが多いようです。整理してみると、次のようなものでしょうか
①「3億円に達せず」=補助金削減も、税源移譲も3兆円に達していない。
②「あいまい、先送り」=義務教育費の扱いなど、未確定の部分が多い。
③「地方は不満」「族議員と省庁の抵抗」=政府の依頼により地方が提出した案が、かなり骨抜きにされたこと。それは、族議員と官僚の抵抗による。
④「数字あわせ、分権効果が見えない」=今回の決定が制度や理念を議論せず、目標数字達成を急いだ。
⑤「総理の姿見えず、三方一両損」=各省・与党との妥協を優先し、地方や国民の期待した改革になっていない。その際、総理のリーダーシップが見えなかった。
このうち①②③は、ご指摘の通り。④は昨日書いたとおり、当たっていません。理念や効果は、はっきりしています。効果はすぐにはでてきませんが。今回は、そのような戦略を取ったのです。そうでないと進まないでしょう。⑤についても、昨日解説しました。
①~③については、ごもっとも。地方案から見ると後退が目立ち、批判されることは多いでしょう。そして、今回達成しなかった部分を批判し、さらに進めることは必要です。なれど、今回の決定を価値が無いかのように書くのは、いかがなものでしょうか。昨日書いたように、中期的に見ると良く進んでいるのです。
27日の記事の中でも、読売新聞青山彰久記者による解説は、その点を良くとらえています。「10年を振り返れば、『よくここまで来た』という声があるかもしれない」と。
さて問題は、総務省の主張と地方団体の案と新聞の論説だけでは、分権改革は進まないということです。分権は、日本の統治構造・政治システムを変えることです。そして、その決定権は、現在の政治システムが握っているのです。それは政治家であり官僚です。
既存の統治構造・政治システムを変えるには、革命か政権交代が必要でしょう。自民党と官僚が、それをできるか。そこに「自民党をブッ壊す」という、小泉改革の持つ意味があります。
その点については、各紙の批判は「ないものねだり」でした。今回の三位一体改革は、日本の政治システムの改革過程でもあるのです。独裁者のいない民主主義で、既得権益グループが政治システム改革を達成できるか。その壮大な実験をしているのです。
この点についても、青山解説は正確に指摘しています。「補助金を要求するだけだった地方6団体側は改革に向けて政治的に結束する変化はあったが、各省・与党側に集権型から分権型に転じるという合意は十分にはなかった」。
もっとも、新聞が果たした効果も、正当に評価する必要があるでしょう。振り返ってみると、三位一体改革がここまで進んだのには、マスコミの後押しが、大きな役割を果たしたと思います。この秋には、連日この問題を大きく取り上げ、また日本の構造改革のためには、分権・三位一体改革が必要であることを、書いていただきました。これは、感謝しなければなりません。
いくつか「各省の御用記事」もありましたが、大きな論調の流れの中では、取るに足らないものでした。それは、「各省の操作によるもの」が見え見えで、「笑われるだけ」。取り上げたデスクが評判を落とすだけ、の結果になりました。
三位一体改革は、この秋ほぼ唯一の政治争点となり、政界と論壇を独占しました。私は、そのことの逆効果=あまりに大きな問題となって、もみくちゃにされ良い結果がでないことを恐れていました。一部は当たりましたが、杞憂でした。政治家、識者、国民が、分権を勉強する、また日本の政治過程を勉強する、絶好の機会になりました。
省庁と族議員の抵抗が大きいこと、しかし理屈はないこと、分権を進めることは重労働であること、裏返って日本はいかに中央集権であるかということ、地方団体の気概と改革を進める際の大きな主役になることなどなど。続きはまた今度。(11月28日)