三位一体改革35

「政治過程・政局論」
(政局論)
今回の決定過程には、「小泉総理裁断」がありませんでした。総理は「地方案を真摯に受け止めるように」と指示を出しつつも、「私の出番がないように」ともおっしゃったようです。「与党と政府との調整がつかず、総理の裁断がある」というのが、私の予想だったのですが。外れました。
その分、汗をかかれたのが政調会長と4大臣、特に麻生大臣でしょう。「麻生大臣が孤軍奮闘」と、いった方が正確でしょうか。それでもここまで進んだのは、6月に「3兆円を税源移譲。秋までに全体像を決定」を閣議決定していたからです。これを、反故にはできません。
さて、これまでの小泉改革のうち、「総理裁断(独断)」だといわれているのが、9月10日の郵政民営化基本方針決定です。一方、「党に委ねた」のが、道路4公団民営化でしょう。前者は、思いきった改革を決定できますが、その後の具体化過程で不安があります。後者は、「改革は骨抜きされた」との批判があります。さらに、総理の指導力が疑問視されました。
今回は、その中間にあると思います。党の手続を尊重し、また政府内でも協議を連日、しかも深夜まで続けました(それぞれ1か月にわたる協議)。官房長官と麻生大臣が、森前総理を訪ねるということまで。そして、政府・与党の決定にこぎ着けたのです。
「五分五分」という形を取っていますが、内容は基本的には地方案を採用しています。党との間で難しい項目は、方向を示し先送りにしてあります。顔を立てつつも、来年に実行すれば実現します。
今回のような手続が良いのか、それともある段階で総理裁断を示し、総理の存在感を見せた方がよかったのか。特に、党内の「抵抗勢力」との関係では。難しいところでしょう。
(政治過程論)
そのような政治勢力のせめぎ合い、総理の指導力論を含みつつも、改革は進みました。
総務省による争点(補助金廃止・税源移譲)の提案、総理による争点(三位一体改革)の採用、経済財政諮問会議の場、目標数値と期限の設定、地方への原案作成依頼、政府内と党内の調整、といった「過程」と「面白い政治学の対象」を見せてくれました。この部分は「進む三位一体改革ーその評価と課題」に詳しく書きましたので省略します。その続きは、続編で書きます。
「理念無き数字合わせ」といった批判を書いている紙もありましたが、それは全体像、大きな流れを見ていません。「補助金廃止・税源移譲で分権を」という理念は、はっきりしています。それを実現するのに、これだけの手順がかかっているということです。数字と期限を決めて、少しずつ進めるしかないのです。それは、日本の政治過程・政治主導の改革でもあるのです。
嫌になりますね、お定まりの批判をして。こんな批判をしていても、何も進みません。こんなことを書く記者さんには、もう少し今回の過程を勉強してほしいです。今回の三位一体改革が、日本の政治過程の改革であることを。前掲の拙稿を読んで下さい。
この3か月で、誰が抵抗勢力であるかが、よく見えました。ある記者さんに言わせると、抵抗勢力の第一は財務省、第二は厚生労働省だったそうです。総理の指示に抵抗し、地方への権限移譲に最後まで抵抗し続けているからだそうです。文部科学省は「教育を考えていない」というのが、彼の評価です。
環境省は「補助金廃止が少なくなって、省の解体が避けられた」とのこと。補助金がなくなると、省庁はなくなるのでしょうかねえ。官僚がどちらを向いているかが、よくわかりました。悲しいことですが。
「総括」
さて、まだまだ書くことはあるのですが、それは別途書くこととして。
私としては、「よくここまで来たな」というのが実感です。数年前では、考えられなかったことです。しかし、まだ予算査定過程に残されたこと、来年の決定に残されたことがあります。そして、その次の「三位一体その2」と「財政再建」も。
また、日本政治論としても面白い現場に立ち会えたな、と喜んでいます。今日の新聞各紙の1面を見て、感慨無量のものがあります。「地方財政」とか「地方交付税」という文字が、これだけ大きく取り上げられています。
国民の多くは三位一体改革を正確には理解していない、という世論調査もあります。しかし、中央集権が地方分権に変わりつつあること、また改革しなければならないということは、多くの方に理解していただけたと思います。次なる改革にも、着手しなければなりません。
(続きは、月刊『地方財務』に「続・進む三位一体改革」として載せる予定です。)(11月27日)