16日の読売新聞には、山出保全国市長会長の「分権推進は歴史の流れ」が載っていました。「いま、国と地方が一緒にシステムをを変えるという意識に転じるようになってほしい」「義務教育は国の仕事ではないのかという疑問の声も聞く。何でも地方に任せろといっているのではない。むしろ国は、学力の到達目標が達成されたかどうかの評価・検証に責任を負うべきだ。これに対して、カリキュラムや授業時数の編成など、目標を達成するための方法は、地域や子供の実態に応じて、市町村や学校現場に任せてほしい。」「・・市町村には、学校を建設する権限だけで、任命権もない・・。教職員システムには一貫性がない」「もちろん、我々の改革案は地方にとって甘いものではない。市長会でも補助金がなくなる不安が少なくなかった。だが、『志を高く持とう』としてまとまったものだ」
【視座の違い】
三位一体改革の動きは、新聞各紙が大きく伝えているところです。が、会社によって「報道ぶり」が違いますね。今回の場合は、事実はほとんど公開されているので、「藪の中」といったものではありません。それでも、差がでるのはどうしてでしょうか。
もちろん、新聞記者の力量と趣味によるものもあります。同じひまわりの絵を描いても、画家によって違うように。また、記者が書いた記事にデスクが手を入れ、編集されます。そこで、上司の関心と趣味の差がでます。
しかし、新聞記者たちと議論すると、今回の場合はもっと深い背景があるとのことです。それは、三位一体改革を政治部が扱っているか、経済部が扱っているかの違いが出ているのだそうです。
ある記者曰く「政治部記者は全体の政治・政策形成過程の中で何が起きているか、何が変わっているか、その潮目はどこか、だれが何を言ったか、だれが変化したのか、といった「流れ」「全体図」を見る傾向にあります。というか、そう見るよう要求されます。一方の経済部記者は、過程よりも、政策の形、特に数字という「事実」へのこだわり、正確さが要求されているようです。」
政治部は、この問題を中央集権から地方分権への大きな一歩と見ます。さらに、地方が案を作って中央政府に異議申し立てすることを、国の政治過程の構造的変革と位置付けます。また、小泉改革の一環として、〈族議員+各省〉対〈小泉+麻生〉と見て、〈自民党主導:旧来の政治過程〉対〈内閣主導:新しい政治過程〉とも位置付けます。
一方、経済部は、この問題をお金の取り合いと位置付けます。そして、大蔵省支配に対する異議申し立て見ます。政治部が「構造的変革」「新しい時代への幕開け」と見るのに対し、経済部は「いつもあるようなお金の取り合い」その一形態の「地方の反乱」としか見ないのです。
構造的分析に位置付けるか、事件の羅列としか見ないかの違いです。岡義達先生は、前者を「構成的視座」と、後者を「羅列的視座」と分類されました(岩波新書「政治」1971年。残念ながら絶版です。先生の名前は18日の日経「私の履歴書」(金森久雄さん)に出ていました)。すると、記事や解説に差がでます。当然、前者の方が深みがあって、かつ読者にはわかりやすいです。
もう一つ、経済部だと違いが出るという説もあります。それは、いくつかの社では、経済部の記事は多くの場合、財務省記者クラブ(「財研」と呼ばれます)の記者のチェックを受けるのだそうです。ある人曰く、「財研は、財務省より財務省らしい」。
そこで、記事は「財務省寄り」に手が入り、削除されるのだそうです。そのうえ、本社の経済部の上司は財研経験者がほとんどなので、さらに手が入り、場合によっては記事そのものが載らないのだそうです。
なるほど。それぞれの記者は中立であり、記事も中立的です。が、結果として、政治部が扱うと改革の構図を読者に見せてくれるので、改革派に近くなります。経済部が扱うと、読者にはいつものこととして読まれ、現状維持、守旧派に近くなります。
どの社が政治部で扱っていて、どの社が経済部で扱っているのか。当ててみてください。(9月17日)
21日の日本経済新聞は、「三位一体改革、予断許さず」を解説していました。
「政府は地方団体がまとめた補助金削減案を軸に11月半ばまでに改革の全体像をまとめる予定だ。省庁や族議員の抵抗は強いだけに先行きは予断を許さない」「地方団体に残り2年分の補助金削減案を作成するように要請した。補助金をもらう側である地方が『もう要らない』と言えば、抵抗勢力を押し切れるという読みがある」
「小泉首相が最終的にどう決断するかに改革の行方はかかっている」(9月21日)
新聞記者さんが何人か訪ねてきて、「静かですねえ、三位一体も動きはありませんか」と尋ねられます。
全「各省はどうしてますか」
記「補助金は必要と、頑張っていますよ。補助率を下げるとか、代案を検討しているようですが・・」
全「それは、去年12月に総理がダメと言ったし、地方団体が絶対飲みませんよ」
記「そうなんですがね」「内閣改造がすむまで、しばらく動きはないですね」(9月24日)