カテゴリー別アーカイブ: 地方財政改革

地方行財政-地方財政改革

『地方財政改革の現代史』

小西砂千夫著『地方財政改革の現代史 改革は何をもたらしたのか』(2020年、有斐閣)を紹介します。平成時代の地方財政制度改革の総括です。戦後の地方財政制度形成期と比較して、平成に相次いで行われた改革を評価しています。

1990年代と2000年代半ばまでは、行政改革の時代でした。いくつも改革が試みられ、その中に、分権や地方行財政も入っていました。しかし、当時その渦中にいた人の多くは、その全体像、進む方向を的確に把握していなかったようです。小西先生は、「その総括は、統治の知恵の継承が十分ではなかったことで改革論が迷走した」と主張しています。

当時の行政改革は、新自由主義的改革であり、戦後半世紀経って制度疲労を起こした「この国のかたち」の改革とも位置づけられました。もっとも、それぞれの改革についての議論や研究書はあるのですが、全体像についての研究は見当たりません。
私はかつて「行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)で、それを試みたことがあります。そこでは、大きく「小さな政府・財政再建」「官の役割変更・経済活性化」「ガバナンス改革」の 3 つに分類しました。参考「行政改革の分類
最近、待鳥聡史先生が、『政治改革再考―変貌を遂げた国家の軌跡―』(2020年、新潮選書)をまとめられました。この私の論考も、紹介してくださっています。この点については、別途書きます。

小西先生は近年、地方財政制度を、この国の統治の仕組みとして分析しておられます。「地方財政制度を統治の観点から考える」「小西砂千夫著『日本地方財政史』」。1990年代と2000年代半ばの改革を「この国のかたちの改革」とすれば、小西先生のおっしゃるように分権改革だけでなく、そのほかの地方行財政改革は日本の統治の仕組みの改革です。
しかし、改革は進んだものの、そのような視点からの位置づけ、改革は十分ではなかったようです。もちろん、実際の改革は関係者の政治ゲームの中で進むものなので、研究者や官僚の理想のようには進みません。三位一体の改革が、その象徴かもしれません。
地方分権改革だけでなく、その他の政治行政改革も、あの頃に比べ熱意は冷めたようです。再度燃焼させるには、目指す方向と、各改革の全体像、進める戦略をとが必要なのでしょう。

赤井先生と佐藤先生の地方税改革案

今日12月20日の日経新聞経済教室は、赤井伸郎阪大准教授と佐藤主光一橋大教授の「地方税制の抜本改革。財源確保に説明責任を」でした。お二人の主張のポイントは、次の通りです。
1 現在、国の消費税に連動している地方消費税を分離独立させ、地方消費税は国税とは別に税率を決めること。
これによって、地方消費税について、地方税としての負担感を認知され、地方が増税の説明責任を負うのです。
2 現在、地方税である法人事業税を国税とし、代わりに国税である消費税と入れ替えること。これで、地方税収の不安定性と、地域偏在が大きく解消されます。
3 現在、地方交付税財源である国税の一定割合を、地方交付目的税として、国税から分離し地方の固有財源にすることです。
これによって、これらの財源が地方の固有財源であることがはっきりします。
この案は、国民の税負担は変えずに、地方の財源を増やし、経済変動による税収の不安定や地域間偏在を解消しようとする、現実的な案です。詳しくは、原文をお読み下さい。

2009年度の地方財政の見込み

28日に、総務省が「平成21年度の地方財政の課題」と「平成21年度地方財政収支の8月仮試算」を公表しました。
これは、現時点での見通しを、機械的に計算したものです。それによると、地方財政計画総額は微減、税収は微増、交付税は減少です。見ていただくとわかるように、歳出では、「骨太の方針」で削減や据え置きが決まっている経費がほとんどで、増えているのは社会保障関係の国庫補助事業だけです。税収が横ばいなので、交付税総額は減少しています。
交付税の実力(法定率分)は微減、前年度からの繰り越しがなくなり、交付税財源は減っています。それでは地方財政計画に穴が空き、財源不足額が生じています。
仮試算」の注2に書いてあるように、財源不足額は5.5兆円ですが、地方団体の努力で埋めることができない額が、0.7兆円生じます。これは、2006年度以来です。これが、国と地方の折半対象になります。このうち0.2兆円は特別交付金をあて(そのように決まっています)、残る0.5兆円が折半対象になります。よって、国からの臨時財政対策加算が、2338億円となります。
景気が良くないので、国の税収が伸びないこと=交付税総額が伸びないことと、地方税が伸びないことが、この姿をつくっています。

自治体向け金融の分権

地方公営企業等金融機構」が、1日に発足しました。これまで「公営企業金融公庫」が、地方自治体(上下水道、病院などの事業)に融資をしていました。これは、政府が出資して作った銀行です。普通の銀行では貸してくれないような、長期の貸し付けをしていました。自治体はこのほか、政府資金や民間から借り入れをしています。「地方債」です。
政府の政策金融改革によって、公庫が廃止され、新しく地方団体が出資した機構が作られました。国の子会社から、地方団体立の会社になるのです。国が面倒を見ることをやめ、地方に任せるのです。国の行政改革であるとともに、分権です。
新機構は、10月1日から業務を開始します。公庫は10月1日に廃止され、それまでの貸付金は、機構の中の区分された勘定に引き継がれます。この勘定は、過去に貸し付けたものの返済を待つものです。

全国知事会、地方消費税増税提言

17日から、全国知事会議が始まりました。18日の日経新聞が、「河川・国道移譲に不安続出。財源なければ・・苦しい本音」として、伝えています。
この会議で、全国知事会は、消費税の引き上げを求める提言を発表しました。18日の朝日新聞夕刊は、「知事会、消費税増税を。社会保障費増大に対応」として、次のように伝えています。
・・政府の地方交付税の削減と社会保障費の増大から、2011年度には地方公共団体の財政が破綻状態に陥るとして、現在5%の消費税の1%に相当する地方消費税の充実が避けられないと主張している。
総選挙を前にした政府、与党が消費税論議にふたをする中、地方から本音で国民に訴え、負担増への理解を求める狙い。消費税を引き上げる時期と幅については、景気の状況や国・地方を通じた消費税を含む抜本的な税制改革の中で決めるべきだとしている。
特別委員会の試算では、都道府県と市町村を合わせた地方公共団体の財源不足は、11年度には7兆8千億円から8兆3千億円に達する。提言は、住民サービスの水準維持のためには歳入増が必要とし、国民全体で負担して税源の偏りが小さく、税収が安定的な地方消費税を引き上げるべきだとしている。不足分を現行の地方消費税に換算すると3%程度になる。 会議の中で古川康佐賀県知事は「消費税引き上げがやむを得ないということを、われわれが国民に訴えていかなければならない」と主張した・・。
一方、19日の日経新聞では、中西晴史編集委員が、「破綻の影、問われる役割」を書いておられました。
・・全国知事会議は遅くとも2011年度に財政が破綻する可能性を提言文書に盛り込んだ。地域経営者とも言える知事が「破綻」の二文字を平気で口にし、回避策として消費税率の引き上げに動くことに住民は納得するだろうか・・