カテゴリーアーカイブ:行政

岡本正著『災害復興法学Ⅲ』

2023年10月19日   岡本全勝

岡本正著『災害復興法学Ⅲ』(2023年、慶應義塾大学出版会)を紹介します。著者は、東日本大震災以来、被災者支援と被災地復興に携わった経験から、災害復興法学の分野を切り開いた第一人者です。その著作、第3弾です。
新著には、新型コロナウイルス感染症、異常気象という最新の大災害が取り上げられています。内容も分厚く、その執筆ぶりに脱帽します。

かつては災害に関する法律は、政府の側に立った災害対策基本法や災害救助法、国庫負担法などしかありませんでした。「天災だから、あきらめるしかない」という思想がありました。阪神淡路大震災や東日本大震災の経験から、被災者の生活を支援すべきだという考え方が広がりました。そして、被災者の生活を保障することが、当然のこととなったのです。
紹介文には、「災害復興法学は、医療、看護、福祉、公衆衛生、公共政策、事業継続、リスクマネジメント、メディア等の様々な分野と連携しながら、学校教育、社会教育、生涯学習、金融教育、主権者教育、消費者教育、防災教育として、あなたの傍にある」と書かれています。

被災者と向き合う市町村役場職員には、有用な本です。
著者は「法学法律学としては全く事前知識は無用であり、社会人の皆様なら全く難なく読めてしまうと思います」と言っておられます。

最低賃金と知事の関わり

2023年10月18日   岡本全勝

何度か取り上げている最低賃金の決定過程についてです。「最低賃金審議の一部公開が広がったが・・

10月4日の日経新聞が、「最賃1000円の宿題(上)」で「最低賃金、1円の上げ幅競う自治体」を伝えていました。そこに、次のような話が紹介されています。
・・・茨城県で審議会がまとめた答申額は国の目安より2円多い42円の引き上げだったが、大井川和彦知事は「最低賃金で働く人は、茨城という地で苦しんでいる」と訴えて公開質問状を突きつけた。それでも42円上げの決定は変わらず、「妥当な見解として受け入れることはできない」(大井川氏)と不満を募らせる。
福井県の杉本達治知事は8月上旬、自ら「議場」に乗り込んだ。最低賃金を決める審議会を開く福井労働局に出向き、審議会長らに「積極的な引き上げを」と申し入れた。審議は労使の代表者による直接交渉が原則で、知事が現れたのは異例だ・・・

私が何度か指摘しているように、地域ごとの最低賃金を、国の出先の審議会が決めて、県知事や県議会が関与できないのです。早くこの決定過程を変えて、知事や議会が決めるようにすべきです。

不登校の小中学生29万人、4割は専門相談せず

2023年10月17日   岡本全勝

文科省の昨年度調査で、不登校の小中学生は29万人に上ったことを、各紙が伝えていました。10月4日付け朝日新聞1面「不登校2割増、最多29万人 小中、4割専門相談せず

・・・学校現場の様々な課題を把握するため、文部科学省が実施する「児童生徒の問題行動・不登校調査」の2022年度の結果が判明した。不登校の小中学生は過去最多の約29万9千人。前年度比22・1%の大幅増となった。うち学校内外の専門機関に相談していない児童生徒も過去最多の約11万4千人。いじめは小中高などで約68万2千件が認知され、被害が深刻な「重大事態」は923件。いずれも過去最多だった・・・

この調査が出る前ですが、9月17日の読売新聞に、小林雄一・教育部主任の「不登校24万人 居場所作り急務」が載っていました。
・・・病気や経済的な理由以外で学校を長期間休むのが不登校だ。関心が寄せられるようになったのは、1960年代。登校できない、登校しない子どもの存在が顕在化し、文部省(当時)は66年度から、長期欠席者の統計を取り始めた。当時は、「学校ぎらい」「登校拒否」などと呼ばれ、特定の子が「怠けている」と見る向きが強かった。
80年代に入ると、校内暴力や体罰、いじめが社会問題化し、その主な現場の学校を忌避する児童生徒が増える。文部省の有識者会議は92年に「登校拒否はどの児童生徒にも起こりうる」と認識を転換。98年度からは、名称が「不登校」に統一され、年30日以上欠席している状態と定義された。
世間の意識を大きく変えたのが、2011年10月に大津市で起きた中2男子生徒(当時13歳)のいじめ自殺だ。「自殺するぐらいなら学校に行かなくてもいい」という考えが広がり始めた。16年度に成立した「教育機会確保法」は、学校以外での学習を広く認め、そこには休養の必要性も明記。文部科学省は、不登校の児童生徒を支援する際は「登校という結果のみを目標とするのではない」という基本指針を示し、登校を前提としないことを認めた。
不登校の小中学生は、最近10年間で2・1倍に増えた。中学校では、クラスに2人の不登校者がいる計算となる・・・

・・・だが、21年度の問題行動・不登校調査によると、不登校当事者の36%(約8万9000人)が学校や教育委員会、民間の支援団体の相談・指導を受けていなかった。年90日以上の長期欠席者がその半数強を占め、引きこもり状態の子も相当数いるとみられる。
相談先の一つとなるのが、教育委員会などが設置する教育支援センター(適応指導教室)だが、実際に開設しているのは約63%の自治体にすぎない(17年時点)。
その先にある「居場所」の拡充も急がなければならない。不登校の子の受け皿として誕生し、学びや体験の機会を提供するフリースクールは全国に500か所程度あるとされる。だが民間施設のため、月数万円の費用がかかる例が多く、負担を感じる家庭も多い。学校や教育委員会だけではなく、行政の福祉部門による家庭への目配りも欠かせない。支援の網の目を細かくし、一人ひとりに合わせた対応が求められている・・・

政治主導と官僚制のあり方

2023年10月17日   岡本全勝

10月2日と3日の日経新聞経済教室が「政治主導と官僚制の行方」を2回にわたって取り上げていました。

2日は嶋田博子・京都大学教授の「「誠実型」実現に国民関与を」です。政治家と官僚の関わり方を、「指示からの自律性」と「政策形成への関与度」の2軸で考察しています。
1960年代までの日本の官僚を高い自律と政策形成への高い関与であるとし、「国士型」と位置づけます。70年代からは、族議員の支援の下で活発な政策形成を行う、自律性はやや下がる「調整型」です。
2014年の幹部一元管理によって、政策関与度は高いままに自律性をなくす「家臣型」を目指したと評価します。一方で90年代以降、与えられた課業だけを行おうとする「吏員型」が出現しました。指示待ち官僚です。

3日は内山融・東京大学教授と藤田由紀子・学習院大学教授による「英、官僚の中立性を守る工夫」でした。
政治家が個別官僚の人事異動に関与すると、官僚の中立性が損なわれるとともに、官僚たちが萎縮する、あるいはごますりになる恐れがあります。それを防ぐために、イギリスがたどり着いた仕組みを紹介しています。

現在の官僚たちの不安と不満を踏まえると、この論点は重要なものです。詳しくは原文をお読みください。

政治主導の実相

2023年10月16日   岡本全勝

10月12日の朝日新聞に「基金乱立、だぶつく16兆円 5千億円計上→支出は5.6億円」が載っていました。
・・・国が根拠の乏しいなかで積み立てた基金がだぶつき、使い残しが16兆円にまで膨らんだ。年4兆円のペースで増え続けている。背景には、コロナ対応などを理由に、時の政権が、毎年「規模ありき」の経済対策を打ち、使い切れないほど規模が大きくなったことがある。似たような事業にあてる基金も乱立している・・・

これも困ったことですが、今回取り上げるのは、記事で紹介されている政治主導の実相です。
まずは、経済安全保障重要技術育成基金。
・・・この基金は2021年度と22年度の補正予算で計5千億円が計上された。ところが、22年度までに支出されたのはわずか5億6600万円・・・
・・・複数の関係者によると、21年度補正の協議では当初、基金は1千億円とする方向で調整が進んでいた。自民党の重鎮・甘利明前幹事長の右腕として経済安保を推進していた小林鷹之氏が初代の経済安保担当相に就くと状況は一変する。甘利氏らの意向を受けてまとまった党の提言通りの5千億円に、一気に跳ね上がったのだ。
21年度補正には、まず半分の2500億円が盛り込まれた。

補正予算は、想定外の緊急的な経費に限って認められているものだが、21年度どころか22年度になっても、研究の契約を1件も結べなかった。
それにもかかわらず、内閣府は22年度補正で2500億円の追加を求めた。「『総額を5千億円にする約束を早く果たせ』と、自民党から圧力があったため」(幹部)という。
予算を取り仕切る財務省が難色を示すなか、この時は、自民党政務調査会の幹部の一声で満額回答が固まった。「何を勝手に財務省が査定しているんだ。各省庁が要求した予算を全部元通りに戻せ」・・・

もう一つは、グリーンイノベーション基金。
・・・政府関係者によると、水面下の財務省と経産省の協議では、まずは1兆円を計上する。実績を踏まえてその後毎年予算を追加していき、最終的に総額2兆円に広げることで大筋合意していたという。
最初から「2兆円」を主張する菅氏の翻意を促そうと、財務省の矢野康治主計局長(当時)は1枚の説明資料を渡した。
趣旨はこうだった。要求している経産省ですら、2兆円はすぐに執行できないと言っている。そのまま補正計上すれば、無駄に基金をため込むことになる。
菅氏は手元の資料を放り投げ、声を荒らげてこう言ったという。「そんな話は聞かないぞ」・・・