「行政」カテゴリーアーカイブ

行政

公務員制度改革

23日の日経新聞経済教室は、稲継裕昭教授の「成績主義を徹底せよ」「運用の改革が先決、法改正では解決にならず」を載せていました。
「『能力・実績主義を重視した人事制度への改革』が制度改革の項目としてあげられていることは、考えてみれば奇妙である。なぜならば、現行の公務員制度の根幹は成績主義にあるからである。政治的情実を排し、能力・実績に基づいて公務員を任用し処遇することが近代公務員制度の大原則であり、現行公務員法もそれを採用している。問題なのは運用実態としてそうなっていないという点である。現在直面している問題の大部分は、現行の『法制度』でなく、法の趣旨と異なる『弛緩した運用』に基づく」
「法は、勤務成績不良者についての分限処分の規定をおいているが、実態としては分限処分がなされる例は希有である。勤務成績が不良で能力を欠いていることが明確であるにもかかわらず、法の規定を適用することができないのは、任命権者の怠慢と、勤務評定の未整備から来ている」
「法は、主要な職が廃止されたり、過員が生じたりした場合には分限免職できると規定している。しかし、運用実態として、国の場合ほとんど適用されていない」
ご指摘の通りです。現在は、法の趣旨を骨抜きにしています。法律より実態・慣習の方が強いのです。これまでは繰り返し指摘されつつも、右肩上がりの社会・行政のなかで、放置・先送りされてきました。
公務員問題には、制度によって解決すべきもの、運用によって解決すべきもの、モラルによるものなど、いくつもの次元の問題が含まれています。「官僚制が悪い」「公務員制度を改革すべき」といったお題目でなく、問題点を場合分けして、対応策を提示すべきでしょう。いまのところ、「日本の公務員制度の問題点と改革方策」の全体像を示した論文は見あたらないようです。また、そのような試みもされていません。それ自体が、問題なのです(官僚論6)。

公務員制度改革

20日の日経新聞経済教室は、西尾隆教授の「官民区別せず基本権付与」「特権意識を打破、行政システム変革の機に」でした。
「まず、労働基本権問題については、伝統的な官民の峻別を改め、公務員にも基本権を付与し、これを機に公務員の特権意識を打破することが急務である」
「今や公務が特殊であり、公務員のみが公益を担っていると考える者は少ない。民営化や民間委託などにより、多くの公共サービスを民間やNPOが担い始めた。民間でも、電力事業のストは従来から禁止されている」
「対人口比の職員数を見る限り、日本の公共セクターは先進諸国平均の半分以下のスリムさだ。『情』で定員削減路線を突き進む前に、『理』で公共サービスの総量と提供主体のあり方について、国民的な議論をすることが先決だと思う。しかし、政治的には『小さな政府』が単なるシンボルを超え、具体的な政権の方針として固まりつつある・・。だとすると、この事実を受け入れ、むしろ行政システム全体の変革のチャンスとして生かしたい」
「人も組織も、限界に達すれば何らかの工夫をする。政府の仕事を減らすしかなくなれば、地方分権、補助金の縮小、サービスの民間開放を進めざるを得ない。霞ヶ関の公務員も、国会対応や与党の根回しといった仕事は、政治家に返上してはどうか」
「労働基本権の回復が『公務員の市民化』を促すとすれば、政府規模縮小の効果は『公務の純化』だろう。『市民の公務員化』も課題となる」
私の主張と重なることが多く、わが意を得ました。これまでは公務員改革論議は発散するばかりでしたが、だんだんこのような議論に集約されることを望みます。

省庁再編

最近、省庁再編(再々編)の話題が出ています。何人かの記者さんから「省庁再編の専門家としてどう考えるか」との質問があったので、一言書きます(もっとも私は専門家ではなく、体験者ですがね)。
IT関係部門がいくつかの省庁に分かれているので、それを整理統合することは、一つの案だと思います。ただし、これを「省庁再編」というのかどうか。省庁再編と言うには、霞ヶ関全体を見渡してどうすればより合理的かを考え、もう少し多くの省を巻き込んだ組み替えをするべきではないでしょうか。
ある一つの事務をとらえて、その所掌を組み替えるのは「事務の再編」であって、省庁再編とは言わないと思います。例えば、かつて国土庁を作ったとき、あるいは先般、農水省の食糧庁を廃止して内閣府に食品安全委員会を作ったときも、省庁再編とは言わなかったですよね。
私は拙著「省庁改革の現場から」で、「省庁の機能をどのように大括りするかは、識者によってさまざまな説があろう。しかし、所詮は組織をどう括るかの話で、いわば『家の間取り』の問題である。運用してみて不都合であれば、時代の要請に応じて、また再編すればよいのである」と書いています(p192)。なお、2001年の再編でも、国土交通省が巨大官庁になること、総務省の統合理念が不明確であることなどの批判がありました。さらに、あの省庁再編は家の間取りの変更以上に、家の大きさ=国家や行政の果たすべき役割の見直しをしたのでした。
IT行政についても、いろんな考えがあるでしょう。規制と振興を分けるのかどうか。ハードウエア、ソフトウエア、コンテンツをどう分けるのか。例えば、自動車の場合は、道路整備は国土交通省道路局、自動車の型式は国土交通省自動車交通局、交通規制は国家公安委員会、自動車の製造は経済産業省が所管しています。排気ガス規制は環境省、税金は財務省(国税)と総務省(地方税)。それぞれの省に与えられた政策理念に従って、このように分担されています。これを縦割りと見るのか、理念による分担と見るかの違いです。

省庁改革5周年

8日の読売新聞も、省庁再編5年を解説していました。「政治主導、道半ば」「ポスト小泉で逆戻り、統合効果・融和に課題」という見出しです。
「しかし、首相主導のもろさを指摘する声もある。省庁再編に伴う改革では、内閣法を改正し、閣議における首相の発議権を明確化した。次官会議で事前に了承した案件のみ取り上げる閣議の形骸化を改める狙いがあったが、『発議権の定義は明確でないが、首相自ら、閣議で需要案件を発議したケースはほとんどない』(内閣官房幹部)のが実情だ」
「省庁間の調整が難しい場合に、内閣官房か内閣府が調整を果たす政策調整システムも機能していない」
ご指摘点は、その通りでしょう。でも、私に相談してくれれば、もっと幅広い整理をしたのに。先日の整理を見てください。

省庁改革5周年

今日6日で、省庁改革から5年がたちます。日経新聞は「行政効率化、道半ば」「政治主導進む」を書いていました。もう5年もたつのですね。拙著「省庁改革の現場から」では、第2章で「何が変わるか」を、第4章で「残されたこと」を整理しておきました。それに沿って、現段階での進捗状況・効果を簡単に評価しておきましょう。
(仕組みの改革について)
1 省庁再編は、円滑に進んだ(官僚は抵抗しなかった)。
2 内閣機能の強化は、特に、経済財政諮問会議が効果を発揮した。内閣官房・内閣府については、まだ評価は定まらない。
(運用の改革について)
1 政治主導については、小泉総理により、官僚主導から政治主導へ、政治家(のバラバラ)主導や党との二元主導から官邸主導へ、大きく進みつつある。
副大臣・政務官の機能については、まだ評価は定まらない。
2 縦割り行政の弊害除去については、官邸主導で改善されつつあるが、評価は定まらない。
(行政改革について)
1 スリム化については、課の数・定数削減など決められたことは進んだ。さらに、定数削減については、厳しい目標が立てられた。
2 独立行政法人化も決めた以上に進み、予想以上に非公務員化が進んだ。ただし、国費の削減効果、効率化についての評価は、まだである。
3 公務員制度改革については、いったん頓挫した。
4 省庁改革では国営とされた郵政事業が、民営化されることとなった。また、政府系金融機関の整理など、新たな大きな行政改革が進められようとしている。
5 政策評価は着実に運用されているが、これの効果はまだ定まっていない。
新たな行政改革を実行するため、再び各省から職員が、虎ノ門の第10森ビルに「招集」されています。このビルは、省庁改革の時に事務局を入れるために借り上げたのですが、その後の行革、郵政民営化、そして今回の行政改革と次々と事務局が入り、「内閣官房改革別館」になっています。