カテゴリー別アーカイブ: 行政

行政

「この国のかたち」を創る

昨年まで私は、自治財政局交付税課長をしていました。今話題の「三位一体改革」「地方交付税改革」の担当です。これまで50年間、地方交付税制度はよく機能し、日本の地域社会の発展に貢献してきました。北海道から沖縄まで、大都会から山村離島まで、教育・福祉・衛生といった行政サービスや、道路・上下水道といった社会資本を整備できたのは、地方交付税があったからです。しかし、成功し定着したが故に、交付税制度を改革することは大変です。
関係者に説明するだけでなく、活字として私見を世に問い、マスコミの取材に応え…と。理解を得る努力をしました。講演会は年間40回。平成14年からは、東京大学大学院の客員教授も務めています。日本地方財政学会総会で、神野直彦東大教授、齊藤愼阪大教授、金子勝慶大教授といった学者の前で基調報告もしました。全国紙の1面に実名が載るという「おまけ」もありました。

官僚の仕事の変化

日本は、明治維新以来、近代国家をめざして、いろんな制度や社会資本を整備してきました。また、第2次大戦後は、経済発展をナショナルゴールとしてがんばってきました。その際に官僚に求められたことは、欧米先進諸国から制度を輸入し、日本中に行き渡らせることでした。そして、日本の官僚はそれに成功し、日本社会も豊かになりました。
すると、官僚の仕事も変わったのです。これまでの仕事のやり方は、簡単に言うと、外国から「輸入」すること、先輩が作ってくれた制度を「拡張」することでした。しかし、それらを達成しあるいはメドをつけると、官僚に期待されることは、社会に生まれてくる新しい問題を拾い上げること、また社会を変えていくために制度を創造することに変わったのです。
先に述べた総務省の法案は、いずれも先進諸国から「輸入」できるものではありません。また、これまでのようなハードウエアでなく、新しいソフトウエアです。21世紀の日本の官僚には、20世紀の官僚とは違ったことが求められるのです。詳しくは、拙著「新地方自治入門―行政の現在と未来」(時事通信社)をご覧ください。

総務省の仕事と私の仕事

政府は、法律によって仕事をします。大臣官房総務課長は、その法律案を取りまとめ、国会に提出するのが仕事です。第159回国会に総務省が提出する予定の法案は、14本もあります。その中には、三位一体改革の実施(地方交付税法などの改正)、市町村合併の促進(地方自治法などの改正)、国家公務員定数の削減(総定員法の改正)、サイバー犯罪対策(電波法などの改正)などが含まれています。
ここには、中央と地方の政府間関係の変更から、国民生活にかかわる犯罪の防止まで、いろいろなものがあります。そしてそれらは、サイバー犯罪といった、これまで考えられなかった新しい事態への対応であり、国と地方政府のあり方の変更といった、50年ぶりの国家構造改革です。
今、挙げた事例は、みなさんにはわかりにくいかもしれません。道路や建物と違って、目に見えないからです。これらは、「社会のソフトウエア」であり、総務省の仕事は、「見えない社会インフラ」の整備、国家と行政の制度設計なのです。

国際貢献:政治のあり方

平成15年12月9日に、小泉総理が、イラク復興人道支援活動のため、自衛隊と文民を派遣することを決断されました。私は、歴史に残る政治決断だと思います。
第10章で、政治のあり方を議論しました。そして、日本は、この50年間「政治をしなくても済んだ」(p307)と述べました。その際に代表例として出したのが、国際社会での貢献と、国内では税負担の増です(p299)。
そのうち、国際社会でのありようについては、憲法の『われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ』『われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって・・』を引用して、それについて具体的な努力をしてこなかったのではないかと述べました(p306)。
今回の決断は、具体的な(お金だけでない)国際貢献だと考えます。すると、今回の決断は、日本のあり方としては、日米安保条約・日中国交回復・PKO参加などに続く、あるいはそれを超える大きな決断でしょう。
これらを政治決断・リーダーシップと評価する(そのほかの多くの選択を決断と評価しない)のは、次のような理由です。それは、
①国民の意見が分かれている事項を決めることであるかどうか、
②その選択には合わせて「負担」を伴うことであるかどうか
ということです。
ここで私は、国民に異論がないことを決めることは、政治決断・リーダーシップとは呼んでいません。また、誰もが「痛まない」選択は、決断とは呼んでいません。
総理は記者会見で「私はイラク復興人道支援に対して多くの国民からも不安なり、あるいは自衛隊を派遣することに対して反対の意見があることは承知している」「現在、イラクの情勢が厳しい、必ずしも安全といえない状況だということは十分認識している」と述べておられます。今回の決断は、まさに私の二つの基準に当たります(総理発言は、日本経済新聞によります)。
ただし、今回の判断が「正しかったか、そうでなかったか」という評価は、別の基準で考えなければならないでしょう。また、政治的には、タイミングや発表の仕方も、評価の対象となります。

政治の役割と評価、特に争点の設定とその評価

(「新地方自治入門」p297)について、
2003年11月9日に投票が行われた衆議院選挙では、「マニフェスト」が大きく取り上げられました。私は、今回の選挙は、後世「マニフェスト選挙」と呼ばれるものになると考えています。
「今回、有権者がマニフェストによって投票したか」「マニフェスト選挙は2大政党制を進めたか」については、今後明らかにされるでしょう。私が言う「マニフェスト選挙」は、このような「その時点もの」を指してはいません。
私が今回の選挙を「マニフェスト選挙」というのは、今回のマニフェスト、特に与党のものが今後の政治を「縛り」、そしてそのことが日本の政治を変えると考えているからです。
躍進はしましたが負けた民主党は、マニフェストを実行する必要はありません(できません)。しかし、勝った与党は、約束を実行しなければなりません。そして、野党は、与党の実績を追求します。
その中でも注目されるのは、「三位一体」です。これは、時期と量が明示されています。しかも、「3年間で4兆円」というと、多くの人は初年度にある程度の成果を期待するでしょう。そして、このマニフェストは次回の総選挙はもちろん、来年7月に行われる参議院選挙が「中間試験」になると考えられます。
私が著書で述べた「争点の設定と評価」に、新しい時代が来ると期待しています。