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行政

小さく産んで大きく育てる?

15日の朝日新聞に、国土交通省の公共事業(2002年度までの10年間に完了した416事業)のうち25%の事業が、事業費が当初計画の1.5倍以上に膨らんでいたことが取り上げられていました。5倍や6倍にもなった事業もあります。
私が県で予算を担当していたときも、ダム事業の計画変更には疑問を持っていました。地方団体は、大きな契約は一件ごとに議会の承認が要ります。変更する時もです。ダム事業は、何度も増額の変更契約を議会にかけることがあるのです。
理由を聞くと、「思っていたより地盤が悪かった」とか、それなりの理屈はあります。ダムは山の中に造られるので、用地費の値上がりは大きな要素ではありません。記憶が正確ではありませんが、国庫補助の県事業ではどれも概ね3倍、国直轄事業(県が負担金を払う)は4倍になるのが通常でした。
で、私の担当者に対する意見は、「あんた、自分の家を建てるときに、途中で大工さんから『工事費が倍になりました』と言われて、黙って払うか」です。「そんなの払いませんわ」が、返事でした。
記者さんの解説によると、「最初は安く見積もるんですよ。予算が付きやすいように。水の需要予測だって、水増ししてるんではないですか」
「いったん工事を始めたら、中止するわけにはいきませんものね。それに、工事会社もうれしいんです。会社が交代させられることもないですから」
「こういうのを、小さく産んで大きく育てると言うんですかね(笑い)。そして、ツケは国民に回るんです(怒り)」
「また、一カ所を早く仕上げて、次の事業に取りかかることもしません。なるべく多くの箇所で工事をして、それぞれは細く長く続けるのです。これはダムだけじゃありませんよ。まあ、全国的失業対策事業ですわ」とも。
17日の日経新聞「まなび再考」では、耳塚寛明お茶の水女子大教授が「負担増えても私立、薄れる公立学校の意義」を書いておられました。「文部科学省の調査によれば、私立中学に進んだ場合の学習費総額は、3年間で約370万円。公立だと塾に通う費用を含め3分の1ですむ」「それにしても、税を公平に負担した上で、これだけの教育費投資を決断させる公立学校教育とは何なのだろう」
ご指摘のとおりです。前にも書きましたが、東京では、ちょっとした親なら、子供を公立中学や高校に行かせないとのことです。この金額って、サラリーマンには重い金額ですよね。でも、文科省の一番のテーマは、その公立小中学校の教員給与を、国が半分持つかどうかのようです。何かまちがっていると思いませんか。(10月17日)
補助金廃止について、各省からの回答が0だったことに関して。
今日、国会内での、官僚の抵抗を嘆くある国会議員さんとの会話
議員:岡本さん、官僚ってなんだい?
全:はあ・・?
議:官僚の雇い主は大臣、大臣の雇い主は総理だろ。総理が補助金廃止について、地方の意見を聞くようにと指示しているのにかかわらず、どうして、職員が雇い主に反抗するんだ。
全:はあ。総理を上司と思っていないんじゃないですか。
議:あんたたちは、明治憲法を習ってきたのか。あの時代は、官僚は陛下の部下で、議会からは超越していたけどね。昭和憲法では主権は国民。その国民が選んだ代表が国会議員。その国会議員が選んだのが総理大臣。官僚って、その使用人じゃないか。
全:おっしゃるとおり。議員よりも、いいえ総理より、自分の方がえらいと思っている官僚も多いんじゃないですか。仕事熱心なことは良いんですが。決定権は、総理がお持ちです。
議:今まで、政治家が責任を持たずに、官僚に任せてきたのが悪かったんだけどね。
昨日の経済財政諮問会議など、公務員改革の議論が盛んです。論点がいっぱいあって混乱しているので、「公務員改革論議」を整理しました。

改革の敵は官僚?

郵政民営化法が成立し、各紙は次の政治課題を並べています。ポスト小泉競争と関連させてです。例えば15日の朝日新聞は、森川愛彦記者が「郵政民営化法成立後の小泉構造改革マップ」という図表付きで解説していました。そこではテーマと担当政治家と予定が一覧表になっていて、わかりやすいです。
そこに書かれているテーマは、政府系金融機関改革、公務員削減、三位一体、医療費、外交、憲法です。この内、前3者が官僚との戦いになる、そして政治家の力量が問われるという見方です。
なぜ官僚が日本政治の「敵」になるか。それは次のような理由です。
簡単に言えば、日本社会と経済が右肩上がりの時代を終え、右肩下がりの時代に入ったからです。官僚は各省ごとに、それぞれの行政分野について充実拡大することを仕事にしてきました。「大蔵省主計局の担当主計官-各省(各局)-族議員-業界」という系列になります。それぞれが予算額の増額(どれだけ大蔵省からお金を取ってくるか)を競い、それを増える税収のなかで調整すればよかったのです。それは業界が喜ぶだけでなく、官僚にとっても予算の増額、公務員数の増員、天下りポストの確保だったのです。この構図は、この10年税収が増えなくなっても続き、足らない分は国債にツケを回しています。
右肩下がりの時代になって、この構図は成り立たなくなります。予算や人員を削減する時代になると、先ほどの系列は不要どころか、抵抗勢力になるのです。担当ごとの主計官制度では大幅な削減はできません、一律シーリング方式では分野別大幅削減はできません。
官僚制について言えば、国家官僚がいなくて、各省官僚しかいないことに問題の原因があります。内閣の方針を企画し実行する事務方である国家官僚がいない、日本全体を考える国家官僚がいなくて、各省の利益を考える各省官僚しかいない現在の官僚制(行政の構造的課題)です。
政治の世界に目を広げると、郵政民営化がシンボルでした。「改革派-小泉内閣」vs「族議員-業界」の戦いであって、与党vs野党の戦いではありませんでした。新聞でも野党の存在はほとんどありません。先の総選挙では逆に、野党の方が労働団体という業界の利益代表であるという解説もされました。
これからの構造改革は、既得権-業界-族議員-各省官僚との戦いになるのでしょう。政治の世界では首相のリーダーシップが確立されつつあり、与党では全員一致でなく多数決で決めて、党議拘束をかける、反対派は除名するといった改革が進みつつあります。すると、次は内閣と官僚の関係、すなわち国家官僚をどう作るかが課題になるでしょう。これを改革しないと、内閣の行う改革は進みにくいでしょう。

首相対各省審議会

10日の日経新聞が「義務教育費国庫負担金、地方に移管せず。中教審答申へ、首相の意向拒否」を報道するとともに、詳しく解説していました。12日の特別部会に示す予定の答申案を、事前に報じる形です。記事は次のように書いています。
「小泉純一郎首相は文部科学省に同負担金の削減を指示したばかりで、中教審は官邸の意向を事実上、拒否する格好だ」
「衆院選での圧勝を受けた9月下旬、小泉純一郎首相が文科事務次官らを官邸に呼び、地方案実現を直接指示した。関係者によると、それ以外にも水面下で官邸の強い働きかけが連日のように続いたという」
「中教審答申が負担金維持でまとまっても、政治決着で否定される可能性は高く、その場合、中教審の権威低下は避けられない」
「学識経験者を中心にした審議会を数多く活用する”審議会行政”の典型だった文部科学行政にとって、綱引きの行方は大きな意味を持つ」
何度か解説したように、三位一体改革は日本の政治の進め方(官僚主導)を変えようとするものであり、政治主導でないと進みません。審議会は「官僚の隠れ蓑」といわれるように、官僚の意向によって委員か選ばれ、また官僚が答申案を書きます。そもそも、審議会は各省の機関であり、大臣の部下です。各省の「既得権」の代表です。
首相が改革を進めようとすると、「抵抗勢力」になります。今回の騒ぎで、審議会政治が何であるかが国民によく見えたと思います。この結果、今後、審議会が縮小されると、政治改革につながりますね。

自己改革できない官僚組織、改革は政治の仕事

経済財政諮問会議で、9月27日から今後の課題として「構造改革の加速に向けて-既得権益を打破し、小さな政府の実現を-」が始まっています。ここで議論されているテーマは重要で、すでに新聞報道されています。私が興味を持ったのは、政と官のあり方についての、次のようなやりとりです。
(小泉議長) 政府の規模については、はっきり定義をしないと戸惑う。「10年以内に半減を目指す」というが、何を半分にするのか、人を半分にするのか、額を半分にするのかわからない。全部半分にできるわけないのだから。これで言えば、仕事を減らしていく。各役所もしなくてもいいことはそれぞれ知っているだろうから、その点は役所ごとに見直す必要があると思う・・・。
(麻生議員)総理、三位一体の補助金削減というのは(各省に指示したが各省から削減案は)結果的に出てこなかった。各役所に頼んでも一切出なかったわけだから、この仕事はいらぬという役人は、自分の役所に関しては絶対にいないと思う。
だから、公務員制度改革諮問会議とか別のものを作り上げないといけない。この改革は、正直申し上げてものすごく大きな改革である。総理を先頭にしてきちんとやることをやらないと、各役所に出せと幾ら大臣が言ったって、役所はいかにできないかという理由を延々と言うだけである・・・。
悲しいですが、その通りですね。

政と官

大臣や副大臣・大臣政務官が任命されると、官房長官から「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」(平成13年1月6日、閣議決定)「政・官の在り方」(平成14年7月16日、閣僚懇談会申合せ)などが渡されます。もっとも、「政・官の在り方」の方は、次のようなことが書かれていて、公務員の規範でもあります。
「「政」は、行政が公正かつ中立的に行われるよう国民を代表する立法権者として監視責任を果たし、また、国務大臣、副大臣、大臣政務官として行政を担う。「官」は、国民全体の奉仕者として中立性、専門性を踏まえて法令に基づき、主に政策の実施、個別の行政執行にあたる。
政策の決定は、「政」が責任をもって行い、「官」は、職務遂行上把握した国民のニーズを踏まえ、「政」に対し、政策の基礎データや情報の提供、複数の選択肢の提示等、政策の立案・決定を補佐する。」
政と官のあり方を定めた法令はないと思いますし、教科書にも載っていないので、たぶんこれが唯一の指針なのでしょう。その割には、存在自体があまり知られていません。ほとんどの公務員や新聞記者も、知らないのではないでしょうか。「大臣等規範」については、「省庁改革の現場から」に書いておきました。「政・官の在り方」は、その執筆後に出たものなので書いてません。