9月21日、日経新聞経済教室、加藤創太教授「公務員制度改革の論点」の発言から。
・・公務員制度改革の目的は、①国家と公務員の目指す方向性を一致させ、②政官の役割分担を定め、③目指すべき方向性に向け「個」の公務員の意欲・活力を最大化させることに尽きるはずである。これは企業など他の組織改革と変わらない・・
そして、先進各国の人口1,000人当たり公務員数と、GDP比の公務員人件費の図が掲げられています。日本は極端に少ないのです。
・・日本は先進民主主義国家の中で、人口当たりの国家公務員数が非常に少ない。その上さらに公務員人件費を縮減しつつ、望ましい公務員制度改革を達成するためには、よほど効率よく①②③を達成しなければならない・・
・・企業などの組織改革でトップが最も重視するのは、構成員へのインセンティブ(誘因)の付与であろう。適切なインセンティブを与えることで構成員を前向きに正しい方向へと誘導できれば、構成員の意欲の最大化だけでなく、組織と構成員の方向性の一致も実現できるからだ。これに対し、トップが構成員を強権的に抑えつければ、方向性は一致できるかもしれないが、意欲が損なわれる。
だが、同じ人間の組織を扱っているにもかかわらず、公務員制度改革では公務員にインセンティブを与えるという前向きの議論は少なかった・・
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行政
ペイオフ発動・金融行政の進化
9月10日に、日本振興銀行が経営破綻し、ペイオフ(上限つき預金保護による処理)が行われました。ペイオフが発動されたのは、わが国では初めてのことなので、大きく報道されています。日経新聞経済教室、15日の翁百合さん、16日の佐藤隆文教授(前金融庁長官)が、わかりやすいです。
私の関心は、市場(金融)に対して政府(行政)はどうかかわるかということと、金融危機という社会のリスクにどう備えるかということです。
普通の会社が倒産しても、それは関係者の負担で処理されます。手続や優先順位は、一般的な破産法制で決まっていて、それに沿って処理されます。しかし、銀行の場合は、これまで倒産させず、ほかの銀行に合併させて救済したり、国費を投入して保護したり、一時国有化して救うなどの処理をしました。預金も全額保護したのです。
これには、大きく二つの要因があったと思います。一つは、銀行の倒産が、次々とほかの金融機関に波及し、金融システムが機能不全になる恐れがあること。システミック・リスクです。金融はお金のネットワークなので、このようなことが起きます。もう一つは、国民の間に「銀行は倒産しない」という信仰があり、預金が戻ってこないとは考えていなかったこと、そして通常の会社と違い、取引先(預金者)が一般人で範囲が広いことです。社会不安を引き起こす可能性があるのです。
今回、初めてペイオフによる破綻ができたのは、それをするだけの条件が整った、整えたからです。この点は、佐藤論文に詳しく書かれています。
佐藤教授は、事前予防と事後処理の整合性を、指摘しておられます。金融行政は、かつてのきつい規制行政から、規制緩和が行われました。そして市場の競争に委ねるようにしたのですが、破綻した場合の処理が、一般企業と違って問題になるのです。
預金者保護・金融システム維持のために、セーフティネット(安全網)を強くすると、ずさんな経営者が出てくる可能性があります。高い利息で預金者を集め、うまくいかないと倒産させるのです。このような銀行や預金者が保護されるようでは、まっとうな競争は生まれません。そして、その費用負担は国民に押しつけられるのです。他方、安全網がないと、金融システムの危機が発生する可能性があります。
それをにらみながら、うまく制度を組み立て運用する。この20年間の銀行破綻と金融行政の経験から、日本が学んだことです。
児童虐待防止法10年
日経新聞が17日から社会面で、連載「震える小さな命。児童虐待防止法10年」を始めました。児童虐待は、新聞報道の中で、最も涙が出る話です。記事にも書いてありますが、各家庭の問題から、社会全体で取り組むべき課題へと変わりました。しかし、家庭の中で起きる、子供は外に訴える手段を持たないことが多いことなどから、なかなか有効な手は打てません。
介護保険制度もできて10年なのですが、こちらは「見えるサービス」なので、問題点の改善が容易です。行政は、人間関係、家庭の中の問題は、得意ではありません。
民主主義の進歩
朝日新聞9月17日1面「危機の政党」曽我豪編集委員の「選挙偏重から抜け出せ」に、次のような記述があります。今回の民主党代表選挙結果についてです。
・・国民が期待する答えは、そこではない。選挙制度改革、官邸機能強化、脱官僚。政治再生の方策は多々繰り出されたが、今や権力をつくり出す政党の仕組みと作法のチェンジが必要な時代に移った・・
そうですね。1990年代前半に日本の政治のエネルギーの多くをつぎ込んだ選挙制度改革は、16年前に実現しました。そしてその後、「2大政党+その他の党」体制を生み、ついに1年前に、実質的には半世紀ぶりの政権交代を生みました。
官邸機能強化は、橋本行革、省庁再編、小泉政権で、いくつかの制度化と運用の成果を生みました。もっとも、官邸機能強化は、その時々の総理大臣と官邸の運用によるところが大きいです。それはまた、各省や党がどのような抵抗をするかにもよります。そして、脱官僚・・。
この1年で、政権交代だけでは、国民の期待する政策が立案され実行されるわけではない、ということが見えました。次の課題として、政党内での政策の集約と、大臣及び総理候補者の育成が、課題として浮かび上がりました。
民主主義とは、このようにして、一歩一歩進んでいくものなのでしょう。
誰が、地域社会の問題を解決するか
昨日の続きです。小中学校での問題行動、例えば、いじめ、教師への暴力、学級崩壊、さらには不登校など。これらの問題に、誰が取り組み、だれが解決するかです。
かつては、このような問題は、本人が悪い子であり、親のしつけが悪い、と片付けられていたのでしょう。しかし、これだけ数が増えると、一個人、一家庭の問題とは、言っておられなくなります。学校での問題だから、教師が悪い、教師の責任だとも、言っておられないのです。
では、学校での問題行動は、どうしたら減らすことができるのでしょうか。それを、誰が取り組むのでしょうか。教育委員会と教師に任せていては、改善しないでしょう。原因は、学校現場だけにあるのではないのです。
そこには、原因として、社会の変化があると言わざるを得ません。そして、家庭や当事者だけでは解決できない問題であるということは、個人の問題・自己責任の問題から、社会の問題に変化したのです。
たとえば、交通事故死者は、政府や自治体、国民の長年の取り組みで、大幅に減らすことに成功しました。速度違反や飲酒運転の取り締まり、シートベルトなど事故を起こしても安全な車の開発、信号機・ガードレールなど施設の整備によってです(2010年1月3日の記事)。
私は、「新地方自治入門-行政の現在と未来」で、地域の財産を、自然環境、公共施設、制度資本、関係資本、文化資本に分けて説明しました(p190)。そして、公共施設や制度資本はお金と技術があればできるが、関係資本や文化資本は人間関係であり、それをつくるのは簡単ではないと述べました。児童生徒の問題行動の多発は、この分野に属します。
しかし、地方自治体が取り組まなければならない課題です。もちろん、市役所だけで解決できるものではありませんが、地域の人たちや組織を巻き込んで、対策を考えることができるのは、市町村です。
地方自治体の仕事は、このような地域住民の不安を解消することに、重点が移っています。「モノを増やすことから、関係の充実へ」。これが、私の主張です。