「行政」カテゴリーアーカイブ

行政

アンケートの成果

内閣支持率や政党支持率の世論調査から始まって、行政機関の施策やサービスに関するアンケート、さらには商品の評価まで、アンケートや世論調査は大はやりです。関係者はその結果に一喜一憂し、さらに評論家はその結果にいろいろな理由と予測を述べます。もちろん、国民や市民また顧客の評価を調べることは、重要なことです。ところが、時々「???」と思うこともあります。
一つは、ある施策やサービスについて問う場合に、その調査結果をどのように使うかです。調査結果が次の改善に結びつかないと、調査のしっぱなしでは意味がありません。100%良い評価がでているのなら、改善しなくて良いのでしょうが、そのような結果が出るのは珍しいでしょう。
より良いサービスを目指して利用者や顧客の意見を聞くのなら、どの点がどのように悪いかを聞かなければなりません。また、次の改善につながるような質問と回答にしておかないと、単に「ダメ」といった回答では、次の改善に反映できません。
「利用料はもっと安い方が良いですか」と聞き、別に「サービスはもっとたくさんして欲しいですか」と聞いていては、利用者は両方に「ハイ」と答えるでしょう。でも、予算が限られている時に、それでは次にどうしたらよいかわかりません。
もう一つは、政党支持率などの世論調査結果の意味づけです。仮にA党の支持率も大きく過半数を下回り、B党の支持率も同程度、そのほかの党はもっと低いというような結果が出たとします。最近のマスメディアの調査結果は、このようなものが多いですが。
ある人が、これについて、次のように指摘していました。「それは調査結果として事実だけど、じゃあどうするの?」「このような調査は好き嫌いを聞いているのと同じであって、日本の政治をどうしようという、建設的な問ではないね」「これもダメ、あれもダメと言っていては、前に進まない。代案のあるような調査にしないと、批判だけだと進歩はないよ」と。

生涯を通じた切れ目のない安心保障

連載『社会のリスクの変化と行政の役割』では、災害や事故だけでなく、暮らしのリスクや社会とのつながりのリスクも取り上げています。24日の菅総理大臣の施政方針演説で、1年半前の「安心社会実現会議」に言及されていました。安心社会実現会議は、麻生政権の時に作られた会議で、「安心と活力の日本へ」という報告書をまとめました。委員には、宮本太郎北大教授らが入っておられました。
報告のポイントは、安心の中心には雇用があり、その回りに、子育て、教育、健康、老後があるというものです。そして、安心社会の実現のためには、高齢者支援を引き続き重視しつつも、若者・現役世代支援も併せて強化しながら、全生涯、全世代を通じての「切れ目のない安心保障」を構築することが求められる、と提言しています。

市民の協力によるコスト削減

大学院の公共経営論で、「大きな政府・小さな政府」を話しました。論点はいくつもあるのですが、今日紹介するのは、市役所の窓口サービスについてです。これまで私たちは、より手厚いサービスを、そして最近ではより安いコストで提供することを目指してきました。
数年前、ある議員にお叱りを受けました。次のような話しです。
議員:岡本さん、市役所に行ったら、朝の忙しい時間だったけど、待たずに窓口で対応してもらったよ。
全:それは、サービスが良かったですね。褒めてやってください。
議員:違う。あれではダメだよ。
全:???
議員:今どき、銀行でも番号札を取って待つ。待たなくても良い窓口は、職員が多すぎるということだ。少しくらい待ってもらって、良いじゃないか。
全:おっしゃる通りです。

このような意識が広がってくれると、行政もやり易く、コスト削減もできます。市民が行政コストを意識し、それは自分の税金で行われているのだと考えてくれれば。
市民による行政への協力の例に、ごみ出しがあります。毎日、分別せずにごみを出すと、便利でしょう。しかし、毎日集めるコストや、集めてから分別するコストを考えると、市民の協力は大きな費用削減になっています。一方で、急ぎでないのに、救急車を呼ぶ人がいます。それは、市民の負担になっています。余計な負担をさせられる人からは、批判が出るでしょう。
道路を清掃したり、花壇を手入れする例を取り上げましょう。市役所が直営する場合、民間委託をして経費削減する場合。さらに、町内会にお願いする場合、住民がそれぞれ家の前をきれいにする場合があります。不満を言っておればよい立場から、自ら汗を流す立場へです。

省庁再編10年

2001年1月6日に新府省が発足して、10年になりました。早いものですね。私は当時、省庁改革本部でこの仕事に携わっていて、5年か10年のうちには、もう一度省庁再編(大規模なものでなく、見直し)が行われるだろうと、予測していました。

国家行政機能をどう大括りにするかは、「家の間取り」の問題であり、時代の変化に応じて、また運用してみて都合が悪ければ変えるだけのことです(拙著「省庁改革の現場から」p192)。民間企業でも、地方自治体でも、しょっちゅう改変を行っています。国にあっては、この10年間を振り返ると、大きな再編は行われませんでした。主な変更は、次の通りです。
防衛庁が、防衛省になりました。公正取引委員会が、総務省から内閣府に移りました。内閣府に、食品安全委員会と、消費者庁ができました。総務省の郵政事業庁が、郵政公社を経て、民営化されました。厚生労働省の社会保険庁が、解体されました。農林水産省の食糧庁が、廃止されました。国土交通省に、観光庁と運輸安全委員会が設置されました。
これだけ見ても、社会の変化がわかりますね。このほか内閣府にいくつかの委員会が作られ、各省での局や部の改変もあります(一覧表があればよいのですが、見つけることができませんでした。現在の組織図)。
省庁改革の内容は、省庁再編だけでなく、内閣官房や内閣府の強化(政治主導の強化)、行政機能と組織の減量、独立行政法人制度の創設、政策評価と情報公開でした。いずれも、かたちとしては達成しました。しかし、省庁改革が目指したものは、「この国のかたち」の再構築でした。省庁改革を設計した行政改革会議の「最終報告」(1997年12月)は、次のようなことを掲げています。
日本国民のエネルギーが白熱し、眩いばかりの光彩を放った半世紀が過ぎ、それに適合的であった戦後型行政システムを改める必要がある。それは、行政の改革であると同時に、国民が統治の客体という立場に慣れ、行政に依存しがちであった「この国の在り方」の改革である。
このような目標は、省庁再編だけでは達成できません。最終報告が述べているように、「この国のかたち」の再構築は、行政改革のみによって成し遂げられるものではなく、経済構造改革、財政・社会保障改革、教育改革など、社会・経済システムの全面的転換が必要なのです。
その後、地方分権改革、規制改革、司法改革などいくつかの改革が進み、進みつつありますが、なお道半ばです。この文章の最初で、省庁組織が部分的に改変されていることも紹介しました(私が考える日本の構造改革の体系図は「行政改革の分類」のページの「構造改革体系図」を、近年の行政改革の鳥瞰図は、同じページの「行政改革の分類」をご覧下さい)。
このような、部分的改革を積み重ねることも必要ですが、あらためて、次なる改革の全体像を示す必要があるでしょう。それは、統一された哲学と、いくつかの改革の優先順位と工程表です。もちろん、これには大きなエネルギーが必要です。

若手研究者の活躍

若手政治学者が、次々と論文を出版しています。砂原庸介大阪市立大学准教授に、教えてもらいました。砂原先生のブログ(2010年12月19日の記述)をお読み下さい。私も、本屋の棚でいくつか出版されていることには気がついていたのですが、このように並べられると、なるほどと思います。
先日、ある人と、出版業界の不況、特に学者の本は売れないので出版されない、という話をしていたばかりです。そのような中での出版ですから、うれしいですね。また、その内容についても、皆さん、大変なエネルギーを費やしておられることに、感心します。
私の書いている原稿と比べ、恥ずかしい限りです。やはり、研究には、集中する時間とエネルギーが必要です。今の私には、それは無理なので、私がこれまで経験したこと、それもほかの人が経験していないことを元に、少しでも世間の役に立つことを、書いて残しましょう。