「行政」カテゴリーアーカイブ

行政

政治と市場

24日の読売新聞「地球を読む」は、佐々木毅先生の「政治と市場」でした。
・・市場と政治の関係が、再び大きな関心を集めている。われわれの脳裏には、10年前のアジア・ロシアの金融危機と日本の金融機関の相次ぐ破綻の記憶が鮮明に残っている。
・・市場メカニズムが穏やかな下では、政治はグローバル化の旗振り役をしていればすむが、荒々しい調整が始まると、その力量と限界がとことん試されることになる。今、われわれは明らかに、この厳しい試練の時期にある。
・・政治の議論としては、二つの問題を区別する必要がある。第一は、荒れるグローバル市場を沈静化させ、安定的な経済成長の環境を回復するための、国際的な協調の仕組みを作れるかという問題である・・
第二は、こうした国際環境の整備がどうなるにしろ、日本政府が何をすべきなのかという問題である。この数年、政府は物価の安定と好調な国際経済に専ら寄りかかってきたが、今やこの条件はすっかり消失してしまった。
・・政府に危機感があるかといえば、国民に伝わってくるのは、政府の無力感ではなかろうか。この国では、「官から民へ」というのは、官民相互の無関心を助長する傾向があったが、物価の上昇が顕著になり始めたにもかかわらず、唯一最大の政治課題は相も変わらず消費税問題という発想は、この病理現象の現れではないか・・

アメリカ、公共施設の民営化と売却

25日の読売新聞が、提携しているアメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事(8月23日付け)を紹介していました。「公共施設 For Sale 」です。アメリカの州や地方自治体が、空港から動物園まで、あらゆる公共資産の売却を進めている、という内容です。庁舎、水道事業、公営駐車場などです。原文はこちら
このホームページでも書きましたが(「国家観の違い」2010年6月29日)、ここには、アメリカ流の社会観が背景にあります。すなわち、社会のあらゆる組織機構と同じく、国家機構もまた、社会(一般国民)が自らの必要のためにつくったものです。官と民の間に、垣根がありません。これに対し、近代ドイツ国家学では、社会は弱肉強食、カオスの世界であり、中立公正な国家が弱者を救済し、秩序を保たなければならないと考えます。官(国家)と民(社会)が峻別されます。日本もこれまで、このような考え方でした。
しかし、日本が後進国から成熟国家になることによって、官が民間を主導して先進国に追いつくという構図は終わりました。また、公共施設や公共サービスは、それ自体は、公平かつ滞りなく供給されるように、官が監視する必要がありますが、供給行為自体は官がする必要はありません。象徴的な例が、国鉄の民営化であり、介護保険サービスの民間事業者との契約制です。

首脳のブレーン

古くなりましたが、16日の日本経済新聞が国際面で、各国首脳の経済ブレーンを取り上げていました。
・・世界経済に不透明感が強まるなか、各国首脳の知恵袋となる経済ブレーンの存在感が高まっている。自らは経済通とはいえない首脳が、政権の安定維持を狙い、経済政策の微妙なかじ取りを一段と重要視してきたためだ・・
記事では、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、韓国の例が載っています。学者、議員、民間エコノミストなど、経歴はさまざまです。
経済分野に限らず、総理や大統領もスーパーマンではありませんから、すべての分野に通暁することは不可能です。そして、とてつもなく忙しいのです。どれだけ補佐官や官僚を使いこなせるか、それがリーダーには求められます。もちろん、彼らの意見を鵜呑みにするのではなく、是非を判断し、優先順位をつけるという仕事は、リーダーに残されています。

国家政策の転換、理念と手順

細谷雄一著『倫理的な戦争――トニー・ブレアの栄光と挫折』(2009年、慶應義塾大学出版会) を読み終えました。この本は、読売・吉野作造賞を受けたので、覚えておられる方も多いでしょう。
先生の趣旨は、次のようなものです。これまでの戦争は国が国家の安全と利益のために闘うものでしたが、コソボやルワンダ内戦で人道に基づく介入「倫理的戦争」が新たに出てきました。1997年にイギリスの首相になったトニー・ブレアが、その考えに基づき、イギリスの外交政策を転換します。そして、アフガニスタンやイラクで、アメリカと共に闘ったことを取り上げています。しかし、人道的介入の立場に立つブレア・イギリスと、国益から闘うブッシュ・アメリカとの軋轢は、最後に破綻します。これ自体が、大変大きなテーマなのですが、それとともに私が関心を持ったのは、次のようなことです。
ブレア労働党党首が保守党から政権を奪取した時に、従来のイギリス政府の外交安全保障政策を転換します。その際には、自らの労働党の政策をも、大胆に変えるのです。そこには、ブレア首相個人の哲学が大きな要素になりますが、彼はアドバイザーの意見を聞き、外務省や国防省の考えを転換させ、議会で自らの考えを述べて賛同を得ます。さらに、欧州やアメリカでその考えを主張し、国際的な賛同も得るのです。
すなわち、歴史的背景と現実の国際状況を踏まえ、自らの政策を作ります。そしてそれを実現するために、政策コミュニティでの議論、各省での説得と転換を行い、さらに外交安全政策ですから、ヨーロッパ各国やアメリカなどの説得も必要です。それを彼は、信念と情熱と手順を使って実現していくのです。政策の実現、政策の変更とはこういうものかと、改めて考えさせられます。

中国人の日本認識の改善

8月3日の朝日新聞オピニオン欄で、小島寛之国際交流基金北京日本文化センター副所長によると、中国での日本旅行熱が高まり、また、青年知識層を中心に都市住民の日本への関心が、幅と厚みを増しているそうです。
新聞の世論調査では、15~20歳の若年層が、最も好きな国として日本を第1位に挙げたそうです。国民全体でも、最も好きな国で5位、最も行きたい国で3位です。中国大手旅行社の調査では、海外の人気旅行先で、日本は台湾と並んで3位です。しかも、1位の香港と2位のマカオは中国領ですから、日本が第1位ということです。
北京では、高級寿司店や日本料理屋、日本のファッションブランド店、日本人経営の美容院などが、中国人客でにぎわっています。今回のサッカーワールドカップ決勝トーナメント、日本対パラグアイ戦で、巨大スクリーンの前で、中国の人たちが日本を応援してくれたとのことです。急速に、対日感情が変化しています。
韓流ドラマが、日韓関係改善に果たした役割もありました。政府による努力も重要ですが、市民の間での相手国認識の好転の効果は大きいです。それには、人の行き来が増えることや、モノやサービスが売れることが重要です。