カテゴリーアーカイブ:行政

グローバル化が行政に与えるインパクト

2013年5月4日   岡本全勝

大橋洋一執筆「グローバル化と行政法」(『行政法研究第1号』(2012年9月、信山社)所収)が、勉強になりました。この雑誌は、宇賀克也東大教授が創られた、行政法学のアカデミックな研究論文を掲載する雑誌です。また、大橋先生の論文は、2012年6月にソウルで開催された「東アジア行政法学会第10回大会」の報告の一部です。
詳しくは、論文を読んでいただくとして、私が参考にしたのは、次のような指摘です。
国家を中核的単位として発展してきた行政法学にとって、国家の境界を越えたグローバル化は、大きな変革要因になっている。
グローバル化には、次の3つが含まれている。
1 経済取引が地球規模にまで拡大したことに伴い発生する問題群、「市場のグローバル化問題」。
2 地球規模で人や物、資本ないしサービスが自由に行き来することに伴う問題群、「移動・移転に伴うグローバル化問題」。
3 国家の枠組みを超えて地球規模での対応を必要とする新規政策課題、「地球規模の政策課題としてのグローバル化」。

そして、グローバル化が地球規模の移動を持つ動態的概念であることから、国境という境界線を設定し、その内部での統治、支配、管理、規制といった要素に起源を持つ伝統的国家像に対して修正を迫る傾向を持つ。また、安定的秩序形成を基本的任務としてきた法律制度と法律学に対しても、緊張関係に立つことがある。
国際行政法では、国家の上位に超国家機関を設立して、そこに各国の行政権が持っていた権限を移譲するのではない。従前のように、各国が議会を持ち、行政機関を配置して、国内行政事務に加えて国際行政事項の執行も担わせるという基本形態を維持した上で、国際機関なり国家相互の協議で取り決めた基準や目標を国内において円滑に実現していく。つまり、国家相互間の制度調整問題が、中心的検討事項とされている。
すると、グローバル化は、行政のスタイルの変化も要請する。
例えば、従来の公法学では、行政主体間の調整原理として、官僚組織を念頭に置いた、垂直関係における階層性の調整が重視されてきた。これは指揮監督権に基づく調整ルールである。これに対し、国家相互間の調整や、国内にあっても地方分権や市民に近い行政過程が重視されるようになると、対等主体間の協議ルールや補完性の原則などが重要性を獲得する。従前のように、広域の主体が優位性を誇るといった調整原理ではなく、それぞれの主体が自己の利害や構想を主張する一方で、相手方の利害や立場に対しても敬意を払う相互配慮が調整原理として注目されることになる。

私たち官僚は、行政実務の先端で働いていて、自分が担当している事案や分野では、第一人者になろうと努力しています。しかし、私たちがおかれている環境や課題の変化とそれに対する理論について、全体像を見ることは困難です。マスコミや学者による、鳥瞰図や理論化は、役に立ちます。

サッチャー首相の評価、敵は身内に

2013年5月3日   岡本全勝

イギリスのサッチャー元首相が、4月8日に亡くなりました。衰退したイギリスを立て直したことについての評価は高く、他方、反対者も多いことが取り上げられています。しかし、多くのそして強い反対を押し切って改革を行ったことは、皆が認めるところです。
4月17日の日経新聞経済教室、中西輝政京都大学名誉教授の「サッチャリズムの歴史的評価、党派超え改革路線ひく」から。
・・サッチャー改革の敵は、たしかに野党や労働組合あるいは低所得層の庶民であったかもしれない。しかしその最大の敵は終始、与党・保守党、それも内閣の中にいた「保守穏健派(ウエット)」と称される有力政治家たちであった。市場メカニズムに依拠した経済改革の先陣を切る役割は保守政党によってしか果たし得ないが、その成否は常にこの党内の「ウエット」の抵抗をどう乗り越えるか、という一点にかかっている。
2005年の10月、サッチャーの80歳の誕生パーティーにはエリザベス女王夫妻やトニー・ブレア首相も列席したが、その席上、サッチャー内閣で代表的な「ウエット」の1人でありながら蔵相としてサッチャー改革を支え続けたジェフリー・ハウは、次のように語っている。「サッチャー改革の真の勝利は、(保守党内の抵抗を排して)1つの政党だけでなく2つの政党を変革したことだ。その結果今日、労働党が政権の座に復帰しても、サッチャリズムの大半はもやは不動の政策として受け入れられている」・・

企業の社会的責任

2013年4月22日   岡本全勝

東京財団の亀井善太郎研究員が、「CSR再論―いま、改めてCSRを問い直す」を書いておられます。なかなか興味深いです。
公共空間が、行政だけでなく、企業(市場経済)やボランティア(非営利活動)によって成り立っていることは、このホームページでも、何度も主張しています。また、復興の過程においても、それらが必要であることも取り上げています。例えば、「被災地で考える「町とは何か」~NPOなどと連携した地域経営へ~」(共同通信社のサイト「47ニュース」2012年8月31日)。
企業の社会への貢献は、大きく分けると「善意による支援」と「本業を通じた貢献」の2つになるのでしょう。しかし、多くの人には、前者の義援金、物資の提供、社員のボランティア派遣が、想起されるようです。後者の本業による貢献も、大きいのですが。そこで、復興庁で整理した「民間企業の支援活動の分類」では、最初に事業活動=本業による貢献を書いてあります。
少し範囲が広がりますが、アメリカの大学の教科書に『企業と社会』(邦訳、2012年、ミネルヴァ書房)があります。企業の社会的責任を、広い観点から整理してあります。私は、読みかけて途中で放棄してありますが(反省)。

行政の失敗と改善

2013年4月16日   岡本全勝

消費者安全の確保に関する基本的な方針」(平成22年3月決定、25年4月改訂)の冒頭に、「消費者安全の確保の意義に関する事項」が書かれています。なぜ、消費者安全政策が必要になったか、その要因です。
そこには、
「食品表示偽装など食に対する消費者の信頼を揺るがす事件や、高齢者を狙う悪徳商法事案など暮らしの土台そのものを揺るがす問題」が起きていることのほかに、
「ガス湯沸器による一酸化炭素中毒事故にみられるように、消費者の権利を損なうおそれのある情報の収集やその情報の共有が不十分であったため、迅速に行政から消費者にこれらの情報が伝わらなかった結果、被害の拡大を防止できなかったという問題」
「エレベーター事故にみられるように、事故情報の収集について関係省庁間での緊密な連携協力及び情報の共有が不十分であり、また、事故当時、エレベーターについての事故原因を究明する常設の機関がなかったという問題」
「こんにゃく入りゼリーによる窒息事故のように各行政機関の所管する既存の法律にはその防止措置がない、いわゆる「すき間事案」に対する行政の対応の遅れ」
が指摘され、最後に「これらによって、消費者の間に行政への不信感が生じた」と反省が書かれています。
その結果、平成21年9月、消費者行政を一元的に推進するため消費者庁が設置され、消費者安全法が制定されました。消費者政策が一元化されました。

生活を向上させるが格差をも生む資本主義を、どう補うか

2013年4月14日   岡本全勝

フォーリン・アフェアーズ・リポート』(2013年4月号)ジェリー・ミューラー教授の「資本主義の危機と社会保障―どこに均衡を見いだすか」から。
・・アメリカを含む先進資本主義国家における最近の政治論争は、経済格差の拡大、そして格差是正のために政府はどの程度経済に介入すべきなのかという、2つのテーマを軸に展開している・・
この数世紀にわたる資本主義の拡散は、人類社会に大きな進展をもたらし、かつては考えられなかったレベルへと人々の生活を引き上げ、人類のポテンシャルを非常に高いレベルで開花させてきた。だが、資本主義の本質的なダイナミズムは、恩恵をもたらすだけでなく、不安も生み出す。このため、資本主義の進展は常に人々の抵抗を伴ってきた。資本主義社会の政治と制度の歴史は、この不安を和らげるクッションを作り出す歴史だったと言ってもよい・・
資本主義は人的なポテンシャルを開花させる機会を大きく広げた。が誰もが、こうした機会や進歩を十分に生かせたわけではない。歴史的にみても、女性、マイノリティ、貧困層にとって、資本主義が提供する機会の平等から恩恵を引き出すのを阻むフォーマル、インフォーマルな障害が存在した。
だが、時とともに、先進資本主義社会では、こうした障害が次第に少なくなるか、取り除かれ、現状における格差は、機会の不平等よりも、むしろ、機会を生かす能力、人的資本の違いに派生していると考えるべきだ。そして、この能力の格差は、生まれもつ人的ポテンシャルの違い、そして人的ポテンシャルを開花させるのを育む家族やコミュニティの違いに根ざしている・・
資本主義が今後も多くの人々に支持され、好ましいと見なされるには、例えば、次のことが必要になる。社会・経済的なはしごのトップ近いにいる人だけでなく、下や中間あたりにいる人々、そして勝者だけでなく敗者を含めて不安を和らげ、市場の失敗の衝撃を弱め、機会の平等を維持できるよなセーフティーネットを維持し、再活性化する必要がある・・
本文は、次のような内容からなっています。詳しくは、原文をお読みください。英語の原文は、こちら
格差と不安、市場の誕生と欲望の拡大、家庭と資本主義の相互作用、創造的破壊と福祉国家の誕生、脱工業化社会の衝撃、格差を助長する社会変化、近代金融のインパクト、家庭と人的資本と機会の平等、民族・宗教・人種によるパフォーマンスの違い、なぜ教育が万能薬にはなり得ないか、解決策はあるのか。