カテゴリーアーカイブ:行政

圧倒的に少ない日本の公文書保存

2018年7月19日   岡本全勝

7月6日の日経新聞夕刊「公文書管理 遅れる日本」に、諸外国との比較が、わかりやすい表になって載っています。

・・・公文書の分野では、所蔵量を書架の長さで比較する。日本は62キロメートル。米国の1400キロメートル、韓国、フランス、ドイツの300キロメートル台、英国の200キロメートルより圧倒的に少ない。日本は保存の歴史が短く、対象の範囲も狭い。
公文書を管理する機関の職員数も圧倒的に少ない。欧州諸国は500~600人台、米国は3000人超に上るが、日本は188人だ・・・

職員の少なさにも気になりますが、保管量の桁外れの少なさに驚きます。もちろん、この背後には、公文書を大切にしない官僚をはじめとする「意識」があります。

イギリスの孤独担当大臣

2018年7月18日   岡本全勝

昨日、「社会的孤立が生む認知症」に、イギリスに「孤独担当相」ができたことを書きました。今日7月18日の朝日新聞に「英国人 実は孤独?」という記事が載っていました。

・・・英国政府が今年、「孤独担当大臣」を置いた。見知らぬ人ともパブに集いビールとサッカー観戦で盛り上がる英国人だが、成人の5人に1人が孤独を感じているという。孤独が長引けば健康を害しかねないとの認識も広がっている・・・

・・・ 英国では75歳以上の半数以上が独居だ。ジェンキンスさんは「以前は教会やパブで世代を超えた交流があったが、そんな近さは失われつつある」と心配する・・・英国赤十字と生協の調査では、900万人以上の成人が「いつも」または「しばしば」孤独を感じていると推計されている。成人の5人に1人だ。
別の調査では、障害者の半数が常に孤独を感じる、また65歳以上の5人に2人がテレビかペットが「一番の友人」と回答した。ロンドンの移民・難民の6割弱は孤独や孤立が最大の課題だという・・・

・・・対策を求める声が強まり、高齢者や障害者らを支援する官民5団体は11年、「孤独を終わらせるキャンペーン」を始め、行政への働きかけを強めた。
決定的だったのは労働党のジョー・コックス議員の存在だ。戸別訪問で孤独な人の多さを知り、15年の初当選後、対策を検討する超党派の委員会を設立。だが翌年、英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の直前、極右の男に殺害された。事件の衝撃とともに遺志を継ぐ機運が高まった。
委員会は昨年末、担当大臣の設置を政府に要望。メイ首相が今年1月、トレイシー・クラウチ議員(42)を孤独担当相に任命した。
英政府は今年中に「対孤独戦略」を立案する。クラウチ氏の下に各省庁から8人の政務次官らを集めて対策チームを設置。6月以降、実態調査に乗り出した。世代や地域によってどのような介入が効果的か、地域で活動している団体や専門家に問うものだ。
英政府は孤独を「人との交わりがない、あるいは足りないという、主観的で好ましくない感情」と改めて定義。「社会的関係の質や量についての現状と理想に不一致があるときに起きる」とした。国家統計局が主体となって「孤独の指標」の確立もめざす。
クラウチ氏は「ボランティアや活動家、企業、政治家が力を合わせれば、孤独に打ち勝つため前進できる」。これまで民間主導だった孤独対策を国が指揮することになり、個人の内面に公権力が踏み入る危うさをはらむが、社会の受け止めはおおむね肯定的だ・・・

詳しくは原文をお読みください。

社会的孤立が生む認知症

2018年7月17日   岡本全勝

7月4日の朝日新聞オピニオン欄「認知症の予防どうする」、西田淳志・東京都医学総合研究所心の健康プロジェクトリーダーの発言から。

・・・世界的な医学誌、英ランセットに昨夏、「認知症の3分の1は予防可能かもしれない」という趣旨の論文が載りました。
青年期の教育機会の不足や、中年期の聴力低下、高齢期の孤立など、九つの要因を取り除ければ、認知症の発症を35%減らせるかもしれないという内容です。期待される認知症根治薬開発が難航する中、英国でも大きく報じられました。
しかしこれらの要因を減らすことで認知症の発症が実際に予防できたという介入研究による報告は限られており、現状では因果関係についての慎重な解釈が必要だと思います・・・

・・・ただ、この論文が「社会的孤立」を認知症のリスク要因と位置づけた点は、興味深いです。
今年1月に英国で誕生した閣僚ポスト「孤独担当相」のきっかけとなった報告書には、「38%が認知症になったことで友人を失った」とあります。認知症の予防という観点からだけでなく、認知症になっても孤立を生まない社会的な仕組みを、作ることが大事なのだと思います。
孤立を「自己責任」の範疇としている限りは、多くの公衆衛生的課題、健康課題の解決には結びつきません。
その意味で、英国の取り組みは参考になる部分が多いと感じます。英国民保健サービス(NHS)は数年前から、「社会的処方」という取り組みを試行しています。
例えば「寂しく、生きがいがない」と孤独を訴える患者に、地域の絵画教室や運動教室に行く「処方箋」を出し、そうした機会への参加を具体的に手配するのです。
こうした取り組みによって、地域の保健医療費の支出が減るなどの報告も出てきています。
社会的に排除されやすい人々、孤立しやすい人々を地域社会に包摂する具体的な仕組みが認知症予防の観点からだけでなく、総合的な健康政策としても位置付けられるべきだと思います・・・

社会的孤立は、このようなリスクにもつながるのですね。イギリスに「孤独担当相」ができていたのは、知りませんでした。

引きこもり支援の実例

2018年7月7日   岡本全勝

NHKのウエッブニュースに、「不器用でもいいじゃない 元エリート会社員の“ひきこもり”支援」が載っています。引きこもりの人を支援する活動の実例です。
慶應大学の授業で、これからの行政の例として、再チャレンジ施策を講義したので、参考に紹介しておきます。

あわせて、「引きこもりクライシス 100万人のサバイバル」のサイトも紹介しておきます。

北岡伸一先生、明治維新と戦後の経験を世界に

2018年7月5日   岡本全勝

7月3日の日経新聞経済教室は、北岡伸一先生の「明治維新150年の日本 発展・民主化の経験 世界に」でした。

・・・今から50年前、明治維新100年が祝われたころ、学界では明治維新を高く評価する人は多くなかった。フランス革命やロシア革命に比べ、明治維新は不徹底な革命だという人が多数派だった。
だが今やロシア革命を賛美する人はほとんどいないし、フランス革命についても評価は高くない。徹底した破壊は反動を呼び起こし、また徹底した弾圧をもたらすことが多い。明治維新は比較的小さな犠牲で、死者数も3万人以下とフランス革命やロシア革命より2~3桁少ない。さらに伝統の本質的な部分を破壊することなく、大きな変化を次々と断行し、全体として巨大な変革を実現したのである。

その本質は何だったのか。
明治が終わったころ、多くの人が明治時代について論じた。当時28歳だった石橋湛山は次のように述べている。多くの人は、明治時代を軍国主義的発展の時代だったとみるだろう。しかし自分はそうは考えない。これらの戦争は、時勢上やむを得ず行ったものである。その成果は一時的なものであり、時勢が変わればその意義を失ってしまう。
そして石橋は、明治時代の最大の事業は戦争の勝利や植民地の発展ではなく、「政治、法律、社会の万般の制度および思想に、デモクラチックの改革を行ったことにある」(「東洋時論」)と言う。
私は石橋の議論に強く共感する・・・

・・・偉大なのは日清・日露の勝利でなく、勝利できるような国力を蓄えたことだ。維新から日清戦争までは26年、日露戦争までは36年にすぎない・・・
・・・明治維新と比べれば、冷戦終結以後の日本の停滞の根源も明らかだ。規制改革の声は高いが、多くの既得権益はそのままであり、海外の事物の導入にも消極的で、一時しのぎで取り繕ってきたのがこの二十数年の歴史だった。
さて石橋は先の論文の中で、明治の意義は未曽有の東西文明の接触の時期にあたって開国と民主化を進めたところにあるとして、その意義を世界に広めるために明治賞金をつくろうと提唱していた。
確かに明治維新は、世界史的な意義を持つものである。

私はかつて国連大使として世界の紛争に関する議論に参加し、現在は国際協力機構(JICA)理事長として、途上国の発展に関わっている。そのたびに痛感させられるのは途上国の発展の難しさだ。国民統合を維持し、経済的、社会的、政治的に発展することがいかに難しいか。経済発展まではできても、そこから民主主義へと発展していくことがいかに難しいか。
従って多くの途上国にとって、非西洋から先進国となり自由、民主主義、法の支配といった近代的諸価値と伝統を両立させている日本という国は、すごい国なのである。
日本は戦前とは違い、軍事大国ではないし、経済大国としても一時の勢いはない。しかし先進国への道を歩み、伝統と近代を両立させてきたことでは、世界に並ぶ国がない。
この経験を、道中での失敗の数々とともに、世界と共有することが、日本が世界に貢献する最大のものだと思う・・・