カテゴリーアーカイブ:行政

日本の移民政策

2020年2月26日   岡本全勝

2月18日の日経新聞経済教室、田所昌幸・慶応義塾大学教授の「移民問題を考える(下) 存在公認し支援体制 早期に」から。

・・・実は日本には国際的には移民と呼んでもおかしくない人々が既に相当数居住している。例えば国連の統計は、原則として外国生まれの居住者を移民と定義しており、日本の移民のストックは19年時点で約250万人とされる。人口の2%程度で、ほぼ京都府の人口に匹敵する規模だ・・・

・・・日本だけが世界の例外であることはできるはずもない。移動手段が発達する一方で世界に巨大な貧富の格差がある限り、日本でも移民が増加する趨勢に変化が生じるとは考えにくい。
こうした人々は一定期間後には皆帰国するだろうとの期待は、欧米諸国の経験から判断すると実現しそうもない。ひとたび生活の拠点を家族や同郷の人々と築けば、移民の一定数は確実に居住を続けようとする。
そして平穏に居住している何十万人もの人々を強制的に排除することは、人道や人権の観点から望ましくない。加えて現実には行政的にも政治的にも非常にコストの高い政策であり、よほど日本が抑圧的な政治体制にでもならない限り、まず実行不可能だ。移民を限界的な労働力として使い捨てにしようとすれば、多数派社会に不満を持つ閉鎖的集団が形成され、痛いしっぺ返しにあうだろう。

従って問われるべきは、極端な出入国管理体制により労働鎖国政策をとるか、はたまた国境を開放して日本を事実上解体するかではない。どれだけの移民をどんな条件で受け入れ、いかなる受け入れ体制を整備するのかということだろう。移民は抽象的な労働力ではなく生身の人間だ。賃金さえ払えば済むというわけではなく、これらの人々の生活者としてのニーズにホスト国としてどのように応えるかが重要な課題となる・・・

・・・公式には移民がいないことになっているため、国レベルでの総合的な移民政策が存在しない。そのため、いや応なく対応を迫られる外国人が集住する一部地域の自治体などに、負担が集中している状況を早急に改めるべきだ。受け入れたからには合法的に入国し就業している移民を支援する医療、教育、言語などの基本的なサービスを国レベルできちんと制度化すると同時に、公的サービスへのただ乗りを効果的に防止しないと、制度は持続できない。

とりわけ早期に取り組まねばならないのは、移民2世に対する初等中等教育への就学義務を確実なものとすることだ。言語や社会慣習などの日本社会で暮らすための最低限のスキルを習得することは、社会メンバーとしての基本的権利であると同時に義務でもある。次の世代が出自に関係なく希望を持って日本社会で活躍できる機会を提供することは、高等教育の無償化よりも優先的に公費が投入されるべき課題ではないか。
この面では民間でもできることは多い。欧米社会の教会、ボランティア団体、地域コミュニティーなどを参考に、社会のそれぞれの持ち場で新たなメンバーの支援に取り組むべきだ。

排外的とされることが多い日本社会だが、人種や宗教が移民の社会統合上の障害になる可能性は欧米諸国よりも低いかもしれない。しかし日本には欧米諸国にはない難しい条件もある。それは、移民の最大グループが中国、韓国といった日本との関係が良くない国の出身者であることだ・・・

対立する立場の調整、トリチウム水の処理

2020年2月25日   岡本全勝

先日紹介した、朝日新聞社の月刊誌『ジャーナリズム』2月号に、安東量子・NPO法人福島ダイアログ理事長の「「結果オーライ」への道筋を探る トリチウム水の海洋放出問題」が載っています。
表題だけでは何のことか分かりませんが、政治学として勉強になることが書かれています。詳しくは原文を読んでいただくとして、少しだけ紹介します。

タンクにたまり続けているトリチウム水の扱いについてです。
原子力規制委員会の委員長(現任者と前任者)は、ほかの原発でも規制の範囲内で海洋放出しているので、福島第一原発でも規制の範囲内で海洋放出することが、現実的で唯一の選択肢だと発言しておられます。このままタンクに貯め続けることは、敷地の関係で不可能ですし、タンクに貯めておくことの方が危険でもあります。

他方で、漁業関係者からは、海洋放出によって風評被害が出るので、反対であるとの主張がされています。その際に、「風評被害が出る覚悟はしている。被害を最小限にする方法を考える必要がある」や「科学的な見解は理解できるが、了解はできない」という発言もあります。

安東さんは、概略次のように指摘します。
「希釈して海洋放出するのが現実的で唯一の選択肢だ」という原理原則にとってつけたように、「丁寧な説明を行って正しい情報と知識を理解してもらう」という文言が付け加えられることもあるが、具体的になにをどうするつもりなのか語られることはない。
だが、これはそれほど有効な解決策なのだろうか。政府による丁寧な説明の結果、全員が政府の見解は問題ないと同意してくれるなどということがあり得るのだろうか。あり得そうな話には思えない。なぜならば、それぞれの置かれた状況によって利害が決定的に異なってくるからだ。
この項続く

岡田元也・イオン社長。非正規が生んだ消費の抑制

2020年2月17日   岡本全勝

2月13日の朝日新聞オピニオン欄、岡田元也・イオン社長のインタビュー「売り場は消えるのか」に、次のような発言があります。

「所得環境は改善せず、企業も賃金への配分を高めていません。これらは消費を抑制している大きな要因では?」という問に。

「もちろん影響はあります。企業にも責任がある。正規、非正規という区分が生んだ格差は大きいです。正社員、終身雇用という仕組みが柔軟性に欠けるからと非正規雇用が導入されましたが、雇用自体が不安定、かつ賃金も抑えられました。将来を担う若い人たちが安定した生活を送る、という根本的な問題が未解決なままです。

また、消費者の生活スタイルが変わっているのに、社会保障など社会のしくみが変わっていません。1人で子育てをする女性への支援は十分でしょうか。離婚しても養育費を受け取っていない女性も少なくない。欧米に比べても恵まれた社会ではないでしょう。そうなると自分で守るしかない。消費より貯蓄、となるのも当然です。」

経産省、伴走型支援

2020年2月12日   岡本全勝

2月11日の日経新聞東京経済欄に、「関東経済産業局、伴走型で中核企業育成」が載っていました。
・・・関東経済産業局が地域の中核企業の育成で新たな手法を試行している。企業の悩みに応じて解決策を提案する「ご用聞き」型の支援を脱し、経営者が気づかない課題を発掘して自発的な変革を促す伴走型のコンサルティングを導入した。各地で本格展開を目指すが、成果を生むには経営者と誠実に向き合う根気が不可欠で、現場の職員らの本気度が問われる・・・

2019年6月から、経産局職員と公募で選んだ民間コンサルタントによる官民合同のチームが、企業を訪問し、支援を続けています。
この手法は、福島の原発被災地で、経産省が取り組んだ「福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)」で開発されたものです。記事にもあるように、角野然生・関東経産局長が、福島で作った手法を持ち込みました。

拙稿連載「公共を創る」第19回で、この手法を取り上げました。被災地の事業者には中小や零細な人も多く、産業振興制度を作っても活用できないことも多いのです。
ひるがえってみると、これまでの産業政策は、振興計画や補助金などが主な手法でした。国が制度を作り、希望する企業が応募します。大企業相手ならこれでよかったのですが、小さな事業者では、応募するだけの能力を持っていません。今回始めた、個別支援・伴走型支援は、画期的だと思います。

もちろん、成果を出すためには、記事でも指摘されているように、継続が必要です。しばしば指摘されるように、「法律や補助制度を作ったら終わり」というこれまでの行政では、成果は出ません。その点でも、新しい行政の手法が試されています。

ドイツの財政規律、政治的合意と憲法に規定

2020年2月12日   岡本全勝

2月7日の日経新聞経済教室「ドイツは財政出動すべきか(下) 」、森井裕一・東京大学教授の「規律維持への政治合意 堅固」から。

・・・好況が長く続いたドイツ経済にも懸念要素がみられるようになり、国内でも財政出動を求める声が大きくなっている。だが容易には財政規律を巡る考え方は変わりそうにない。ドイツの財政規律問題は単なる経済政策の議論ではなく、背後に堅い政治的コンセンサス(合意)が存在し、制度的にも確立しているためだ。
第2次世界大戦後のドイツは過ちを繰り返さないために、政治の安定とそれを支える経済・通貨の安定を極めて重視してきた。安定した通貨マルクを基盤として経済復興を遂げ、経済大国になった成功体験から、経済運営ではインフレ抑制が最優先課題とされた・・・

・・・だがドイツ統一後の旧東ドイツ地域復興の重い負担で構造改革に後れを取り、フランスとともに自らが求めたSGPの財政規律基準をシュレーダー政権期には順守できなかった。ドイツはこの時期に厳しい労働市場・社会保障改革を断行したが、社会民主党(SPD)は改革の成果を上げられないまま政権を失った。
2005年にキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とSPDの大連立によりメルケル政権が成立した。前政権の構造改革の果実に加えて、大連立という安定した政権運営基盤を得た。07年には付加価値税率を19%へ3%引き上げ、財政安定に貢献した。08年のリーマン・ショックによる一時的な落ち込みはあったが、メルケル政権期には好況が維持された。

大連立政権初期には、課題だった連邦と州の立法権限関係の整理を中心とした連邦制度改革が実現した。国家財政を中心に第2期連邦制度改革が進められ、09年には関連する基本法(憲法)が改正された。
この改憲で起債の制限が規定された。移行期間を経た後には自然災害や特殊要因を除き、連邦政府には名目国内総生産(GDP)の0.35%までしか「構造的新規起債」が認められないこととなった(図参照)。
重要なのは当時のドイツでは、財政規律を巡る議論が検討委員会内の合意形成から国会両院の3分の2以上の賛成を必要とする改憲まで幅広い政治的コンセンサスに基づき短期間でなされ、世論もさほど注目しなかったという政治状況だ・・・

・・・貿易依存度の高いドイツでは、将来にわたり産業の国際的競争力を維持することが極めて重要との認識がある。そのための投資は必要だが、短期的な雇用政策のための財政拡大には理解が得られにくい。戦後の成功体験やユーロ導入後の経験が制度に埋め込まれ、言説を支配している状況は容易には変わらないだろう・・・