カテゴリーアーカイブ:行政

支える側と支えられる側の二分法の終わり

2021年11月7日   岡本全勝

10月25日の読売新聞、社会保障欄、宮本太郎・中央大学教授の「変わる支え合い 社会参加を後押しする」から。

・・・社会保障を考える上で、現役世代を「支える側」、高齢者などを「支えられる側」と単純に分ける見方は改める必要がある。少子高齢化で「支えられる側」が膨らむ一方、「支える側」は先細りになるためだ。
「支えられる側」と決めつけられることを嫌い、地域で力を発揮したいと望む高齢者も多い。反対に、現役世代でも支える力を発揮できない「新しい生活困難層」が拡大している。
非正規雇用やフリーランスなどで就労が不安定な人や、心身の不調を抱える人、老親の介護で時間的な制約がある人などだ。正社員雇用の手厚い恩恵は受けられず、かといって、対象が絞られた福祉の制度の利用もままならない。このまま高齢期を迎えた時に、低年金などで「支えられる」ことも難しいかもしれない。いわば、雇用と福祉のはざまに落ち込んだ状態だ。

「支える側」「支えられる側」の二分法は、時代に合わなくなった。社会保障や福祉の目的を「社会参加のための後押し」に組み替えて、老若男女を問わず、「元気人口」を増やしていくことが求められる。
例えば、ひきこもりの人が自宅で仕事ができたり、高齢者が短時間出社したりと、それぞれの事情に応じた柔軟な働き方ができる環境づくりが大切だ・・・

・・・就労だけでなく、地域で育児や介護などのボランティアをしたり、子どもと高齢者が共生型のデイサービスで交流したりといった居場所づくりも大事だ。
「全世代型社会保障」を打ち出すなど、こうした改革に向けた政府の動きもあった。高齢世代のための社会保障の費用削減が先行してしまったが、現役世代への支援がより重要だろう。
地域の福祉では、多様な社会参加と就労機会を目的に「地域共生社会」という考え方も広がっている・・・

国政選挙で議論することと、個別政策の実行と

2021年11月5日   岡本全勝

10月27日の朝日新聞オピニオン欄「「選べ」といわれても」、成田悠輔・エール大学助教授の「「1票」、くめぬ複雑な民意」から。

・・・そして、国政選挙で議論すべきことと、個別政策に民意を反映していくことを区別すべきです。
例えば、党首討論で考えてみましょう。「コロナ禍で現金給付するなら、10万円なのか5万円なのか」などについて議論が白熱しました。あまりに細かい議論です。それは財源や手続き上の制約を踏まえて政治家と官僚が決めればいい。国政選挙では、各論の詳細な数字をめぐってやりとりする前に、日本社会の未来像を議論すべきでしょう。

日本は危機に直面しています。太平洋戦争中と同じくらいの速度で人口が減少し、無成長状態で海外との賃金・物価格差は広がるばかりで置いてけぼり。いわば「1億総貧困社会」に向かっている。
少子高齢化の解決は無理になったように見える今、ありえる方向性は限られます。機械化・自動化を通じて人間に頼らず生産性を高める、教育やデジタル化を通じて個人の生産性を高める、移民の受け入れを進めていく、あるいは貧しくても幸せでいられるよう人生観を変える。どの選択を重視するかで、リソースの配分は違うし、日本社会の雰囲気も異なります。

こうした議論は、今後50年くらいを見据えた大きな話で雲をつかむようだと思うかもしれません。しかし国政選挙は、そういう社会の全体像にこそ取り組んでほしい。
そして個別政策の設計や実行は、当事者性や専門性のある有志の個人を中心に、情報技術を活用したネットでの情報共有や議論で、素早くきめ細かに進めていく。台湾やフィンランドなどはそうした仕組みを取り入れています・・・

官民の共同規制

2021年11月2日   岡本全勝

10月25日の日経新聞経済教室「GAFAと競争政策」、大橋弘・東京大学教授の「日本、官民共同規制で独自性」から。

・・・一方、日本ではアプリストアやオンラインモールに財・サービスを提供する中小企業が多いといった独自の事情を踏まえて検討されてきた。遅くとも16年には、GAFAとの不公正・不透明な取引関係が競争政策上の大きな課題として認知されていた。18年末にプラットフォーム企業に対するルール整備の基本原則を世界に先駆けて定め、巨大IT企業に対応する競争政策のあり方を議論してきた。

厳しい事前規制はイノベーションを阻害するほか、規制の潜脱行為を助長しかねない。他方、現行の事後規制は法執行に時間がかかりすぎ、反競争行為を防げないと指摘された。この点を踏まえ20年5月、大手プラットフォーム企業と行政が共同で取引環境を整備するという、世界でも珍しい官民共同規制を旨とするデジタルプラットフォーム取引透明化法が制定された。
同法は大手プラットフォーム企業に対し、取引条件などの情報開示と変更の事前通知を義務づけるとともに、行政の求める指針に基づき自主的な手続き・体制の整備を求める。行政が大手プラットフォーム企業との対話を図ることで、取引企業の予見可能性を高め、良好な取引慣行による競争を促すことを目指す。

もっとも、官民共同規制は大手プラットフォーム企業に規制内容を誘導され、行政が「規制のとりこ」に陥る可能性がある。大手プラットフォーム企業を共同規制の枠組みに真剣に向き合わせるには、不誠実なら厳格な法執行が控えることを意識させる必要がある。
日本の課題は、デジタル分野での公取委の法執行の経験値が乏しい点にある。21年9月にはアップルの案件で、17年にはアマゾンの案件で、それぞれ自主的な措置を講じるとの申し出がなされたことを理由に審査を終了しており、法執行がなされることはなかった。
厳格な事後的制裁に加え事前規制の強化により巨大IT企業に対峙する「米欧モデル」か、威嚇ではなく対話を通じて良好な取引慣行による透明性・公正性を自主的ながらも実効性のある形で促す「日本型モデル」か。いずれのモデルがグローバル標準になるのか、引き続き注目される・・・

官民共同規制は、私が大学で習った行政法や行政学では、出てきませんでした。連載「公共を創る」で、官共業三元論、官の役割や手法の議論の際に、書き加えなければなりませんね。

民主化を成し遂げた経験がない日本

2021年11月1日   岡本全勝

10月22日の朝日新聞オピニオン欄「女性政治家への視線」、申琪榮(シンキヨン)・お茶の水女子大学教授の「韓・台は民主化が後押し」から。

・・・男性優位の儒教文化の影響が強いとされる日本、韓国、台湾を比べてみると、国政における女性議員の割合は台湾が約4割、韓国が約2割なのに対して、日本の衆議院(解散前)は10・1%。今回の衆院選の女性候補の割合も17・7%にとどまります。韓国で朴槿恵(パククネ)大統領、台湾でも蔡英文(ツァイインウェン)総統、という女性トップが誕生しています。なぜこうした違いが生じているのでしょうか。
韓国と台湾は、女性に候補者や議席の一定の割合を当てる「クオータ制」を導入しています。日本では「候補者男女均等法」が3年前に成立しましたが、候補者数の男女均等は「政党の努力義務」で、拘束力がありません。私は、こうした背景には民主化の歴史の違いがあると考えます。
韓国も台湾も、1980年代に独裁体制から民主化を成し遂げ、新しい政治勢力が登場し、旧勢力との対立の構図が生まれました。このため、選挙のたびに各党が女性候補を立てて、「清新さ」を競うことになっていきました・・・

・・・日本の場合、自らの手で民主化を成し遂げたわけではありません。デモで政治を変えたという成功体験がないからでしょうか、男性も女性も日常の場で政治を論じることがなさすぎます・・・

後段の指摘は、その通りだと思います。

長期政権、物言えぬ霞が関

2021年11月1日   岡本全勝

10月23日の朝日新聞「2021衆院選 長期政権振り返る 下」は「物言えぬ霞が関、疲弊」でした。

・・・菅義偉首相(当時)と野党4党の党首が党首討論で新型コロナウイルス対策を議論した6月9日。人事院が国会と内閣に2020年度の年次報告書を提出した。その中には公務員の異変を示すデータが盛り込まれている。
「精神及び行動の障害による長期病休者は4186人(全職員の1・51%)」
19年度にメンタルヘルスの不調で1カ月以上休んでいる国家公務員の状況だ。6年間で0・25ポイント上昇し、全産業平均(0・4%、厚生労働省の労働安全衛生調査)の約4倍だ。
内閣人事局などによると、19年度の20代の中央省庁総合職の自己都合退職者も6年前の4倍となっている。

元厚労官僚で、霞が関の官僚の働き方を描いた「ブラック霞が関」の著者・千正康裕氏は、これらの指標に着目する。
千正氏が最近の例として挙げたのが、「アベノマスク」と言われた布マスクの全戸配布だ。官邸から号令がかかったが、担当の厚労省に当初増員はなく、現場は混乱していたと指摘する。
「選挙がある政治家は短期的な支持率を上げる必要があって政策を打ち出し、実務は二の次になりがち。政治に対して弱くなった幹部官僚も指示を受け入れるしかなく、青天井の長時間労働で何とかするしかない。結果として現場がパンクしてしまう」・・・

・・・「政治に対して弱くなった幹部官僚」の要因の一つとして是非が議論されているのが、14年に設置された内閣人事局による幹部人事の一元管理だ。
安倍政権の官房長官としてその中心にいた菅氏は、意向に従わない官僚を「反対するのであれば異動してもらう」と公言。霞が関ににらみをきかせてきた。
安倍政権で進んだ「強い官邸」は、平成の政治改革の完成形だった。だが、人事権の強大化は、官僚たちの萎縮を生み、政策の目詰まりや、政権の不祥事が起きたときに事実をゆがめた国会答弁につながったと指摘された。

政治学が専門の牧原出東大教授は、安倍政権以降の政官関係について、「現場から『無理です』と言われても、官邸は『できるはずだ』と指示を出す。さらには不祥事を糊塗するために官邸の権力を使っていると疑念をもたれた。そうなると役所の方も物を言わなくなる。安倍政権の最後は、官邸が動かないと何も動かなくなってきた」と指摘する。
牧原氏は「官僚が持つ現場や専門の知識を生かしながら、政治がその責任を取るのが本来の姿。新型コロナ対策で見られたように、無理筋な指示を出して現場を混乱させ、その責任を官僚などに転嫁していたのは大きな問題だ」と語る・・・