「行政機構」カテゴリーアーカイブ

行政-行政機構

新型コロナ対策、国と地方の連携経験の記録

大村慎一・前総務省新型コロナ対策等地方連携総括官兼地域力創造審議官の執筆による「新型コロナウイルス感染症対策に関する地方連携推進の取組」が、月刊『地方自治』10月号に載りました。
大村君は肩書きにあるように、新型コロナウイルス感染対策で、初期に国と地方の連携がうまくいかず混乱した際に、自治体との連携を強化して混乱を乗り切った責任者です。その功績は大きいです。私はコメントライナー8月10日号「マイナカード問題と組織管理」でそれを述べました。

当初、国からは次々と連絡が発せられたのですが、受ける側の自治体は混乱しました。他方で、現場での課題が政府本部に伝わらず、その面でも混乱しました。
患者の隔離と受け入れ、治療などは、厚生労働省と医師会の世界ですが、住民や患者との関係で第一線に立つのは自治体です。その点では、東日本大震災での被災者支援と同じ構図になります。
現場での課題を吸い上げ、整理し、政府本部・関係部局で対応策を検討し、自治体に打ち返します。また、政府が決めたこと、今後の見通しを、現場に伝える必要があります。通達や通知を送りつけるだけでは、仕事は進みません。現場の状況を想像しつつ、指示を出す必要があります。

新型コロナ対策での政府の危機管理については、本部とその事務局がどのように運用されたか、いくつも記録と検証をする視点があります「新型コロナ対策の検証、行政の課題」。携わった官僚が書いてくれることを期待しているのですが。まず、大きな問題だった自治体との連携を、大村君が書いてくれました。
47ページの力作です。参考になります。関心ある方は、ご一読ください。

新型コロナ対策の検証、行政の課題

新型コロナ対策の検証、市民の行動変容」の続きです。この記事は、日経新聞が行うコロナ対策の検証特集に載っています。新型コロナウイルス感染症拡大は、大きな事件・事態であり、検証は多角的に行う必要があるでしょう。各分野における精密な検証とともに、全体を見た簡潔な検証も有意義です。多くの人は、前者は読まず、後者なら読むでしょう。

私は行政に携わった者として、新型コロナ対策の一連の政府の対応のうち、まずは次の3つを総括すべきと思っていました。
1 政府本部の危機管理運用(被害者救済、被害拡大防止)
2 政府と自治体との共同・役割分担
3 政府から国民への働きかけ

もう一つ上げると、
4 治療に当たる医療機関との関係です

いろいろな検証が必要ですが、行政組織の運用を考える際には、まずはこの3つを検証する必要があります。
誰が、どのように行うかです。まずは、現実がどのようになっていたかの証言です。2と3は部外からも見えますが、1は関係者しか分かりません。全体を話すことができる人はいるのでしょうか。実は、ここに今回の行政の問題があると思います。

紙面の隣に載っている「体制不備」の中で、仕組みを作っても動かない恐れが指摘されていますが、これも大きな問題です。
自治体は、新型インフルエンザの行動計画を作っていたのです。しかし、あまり役に立たなかったようです。災害対策も、計画だけでは現実に起きたときには、なかなかうまく動かないのです。大部の計画書より、実働の訓練の方が効果があります。
しかも、実際の災害では、いろいろ条件を設定した訓練では見えなかった問題が出てきます。大きな災害は困りますが、小さな災害が起きると訓練になります。

新型コロナ対策の検証、市民の行動変容

9月14日の日経新聞「日経・FT感染症会議特集」が新型コロナウイルス感染症対策を検証しています。その一つに、砂原庸介・神戸大学教授の「正しい情報伝達へ専門家育成」が載っています。

・・・新型コロナウイルスの感染症法上の分類は5月に季節性インフルエンザと同じ5類に移行したが、人の移動が活発化する中で今後も流行を繰り返す可能性がある。今後、住民に正しい情報を伝え、行動変容を促すためには、国だけでなく地方自治体にも科学的知見を備えた人材を中核としたチームを作っていく必要がある・・・
その主張の通りです。詳しくは原文をお読みください。

そして、次のような指摘もあります。
・・・マスクの着脱や休業要請など、感染対策に関する行政と住民の意思疎通には信頼が前提になる。これまでのコロナ下の意思疎通のあり方にはさまざまな課題が見られた。これは「市民の行動変容のための平時のアクション」を考える上で重要だ・・・

「市民の行動変容のための平時のアクション」は、良い視点ですね。連載「公共を創る」での論点の一つです。
これまでの日本の行政は、産業振興と公共サービス拡大を任務として、業界を振興したり自らそれらを提供してきました。ところが、孤独・孤立問題、少子化、働き方改革などの新しい社会の課題は、これまでのような業界振興とサービス提供では解決できません。国民の意識と行動が変わらないと、実現しないのです。
しかし、国民の意識と行動を変えることは、行政は得意な分野ではありません。いじめやネット上の妄言はなくならず、エスカレーターに列を作りながら片側は相変わらず空いたままです。世間の同調圧力に従いすぎる欠点、それから逸脱すると批判をする欠点を、どのように変えていけば良いのか。

関東大震災時の内務省の記録

9月5日の朝日新聞に「関東大震災時の朝鮮人虐殺、神奈川での記録見つかる 被害者名も記載 知事から内務省局長あて報告書」が載っていました。

・・・1923年の関東大震災での朝鮮人虐殺について、神奈川県が事件をまとめたとみられる資料が見つかったと虐殺の歴史を調べる地元団体が4日、明らかにした。県内で起きた朝鮮人への殺傷事件59件の概要のほか、殺害された計145人のうち14人の名前も記載している。
資料は23年11月21日付で、当時の安河内麻吉・神奈川県知事から内務省警保局長にあてた報告書とみられる。「震災に伴う朝鮮人並びに支那人に関する犯罪及び保護状況その他調査の件」と題されている・・・

関東大震災時の虐殺事件自体が大きな問題ですが、ここで取り上げたいのは、そのような資料を当時の県庁が作り内務省に報告していたこと、そしてその記録は多分、内務省警保局を引き継いだ警察庁や公文書館に残っていないであろうことです。
敗戦後に、内務省がたくさんの資料を燃やしたことは報告されています。責任追及を恐れてのことですが、貴重な資料を失ってしまいました。

警察の縦割り弊害解消

8月5日の読売新聞解説欄に「警察の縦割り 弊害解消へ 運営新指針を公表」が載っていました。

・・・警察庁が7月、都道府県警に対し、組織運営の新たな指針を示した。SNSの「闇バイト」対策などを盛り込んだ。昨年7月の安倍晋三・元首相銃撃事件をきっかけに、問題となった要人警護だけでなく、全ての部門で社会情勢の変化に応じた見直しを進めていく方針だ。

警察庁が全部門にわたり具体的な業務内容を示して都道府県警に組織運営の指針を示すのは初めてだという。警察庁の露木康浩長官は7月6日の記者会見で「情勢の変化と組織の現状を分析し、警察力の最適化を図る」と説明した。
安倍元首相銃撃事件では、都道府県警が作成する警護計画を警察庁がチェックする仕組みになっていないなど、「安易な前例踏襲」が明らかになった。警察業務は元々、パトロールや交通取り締まりなど日々の繰り返しが多い。各部門で同様の前例踏襲による弊害が生じていないか――そうした問題意識で、指針が策定された。
新指針は、〈1〉部門を超えた人的資源の重点配置〈2〉能率的な組織運営〈3〉先端技術の活用〈4〉働きやすい職場環境――からなる。

このうち〈1〉では、組織内に残る「縦割り」による弊害の解消に重点を置いている。
都道府県警ではこれまで刑事、生活安全、警備、交通など部門ごとに課題に対処してきた。殺人が起きれば刑事部門が捜査を行い、防犯対策は生活安全部門が担う。テロであれば警備部門の担当だ。
だが近年、SNSの普及や暗号資産、ドローン、AI(人工知能)といった技術の発展によって社会が大きく変容し、縦割りでは対応しきれない事象が増えている。
例えば、SNSで強盗や特殊詐欺などの実行役を募る「闇バイト」では、互いに名前も知らない者同士がSNSでつながり、事件ごとにメンバーを替えながら犯罪を繰り返す。組織犯罪の側面を持ちつつも、暴力団など旧来の犯罪組織とは明らかに異なる。
各地の警察には犯罪集団の解明に当たる組織犯罪対策部門があるが、闇バイトについてはこれまで捜査は刑事部門、SNS対策はサイバーを担当する生活安全部門などとバラバラに対処してきた。
そこで、新指針ではSNSなど緩やかな結び付きで離合集散を繰り返す集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と定義し、組織の解明と捜査を担う専従班を都道府県警に設置する。部門をまたいで捜査に参加し、闇バイト犯罪の撲滅を目指す。

組織に属さずにテロをもくろむ「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」についても、部門間の連携を強化する。刑事部門の捜査や、地域部門の巡回などを通じて危険性のある人物の情報を入手した場合に、警備公安部門に集約する仕組みを取り入れる。
警察庁幹部は「闇バイトやローン・オフェンダーによる脅威は国民の『体感治安』の悪化に直結している。全部門の人員を活用して対策に取り組む」と話す・・・