「行政機構」カテゴリーアーカイブ

行政-行政機構

事故をきっかけに世界に追いつく

正月に起きた、羽田空港での飛行機衝突炎上事故。国土交通省が、再発防止策を決定しました。それに関する、6月23日の読売新聞「羽田事故 対策5分野 国交省 正式決定へ」から。

・・・ 国交省関係者によると、1月以降、検討委で議論してきた新たな対策案は、〈1〉管制交信でのヒューマンエラー防止〈2〉滑走路誤進入の注意喚起システムの強化〈3〉管制業務の実施体制の強化〈4〉滑走路の安全の推進体制の強化〈5〉技術革新の推進――で構成する。

事故からまもなく半年。国土交通省は再発防止策の取りまとめにあたり、滑走路の安全に関わるハードとソフト、すなわち「人、運用、技術」のバランスを念頭に、一体的なリスク低減を図った。新たな取り組みが、別のリスクを生まないことにも配慮したという。
対策の大半は、欧米やアジアの航空当局や国際機関の状況を丹念に調査し、日本の先を行く取り組みを導入した形だ。ただ、裏を返せば「悲惨な事故を機に、諸外国への遅れをやっと取り戻そうとしている」との厳しい見方と反省の声は、国交省内にもある・・・

いなくなった官庁のエコノミスト

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月7日の記事から。

「小峰さんの後を継ぐような官庁出身のエコノミストは多くない。」
大きな理由が省庁再編です。経済企画庁は内閣府の一部局になりました。男女共同参画や少子化など幅広い分野を担当する官庁になったため、経済を専門に仕事をしたいと思う人がなかなか来なくなりました。エコノミストとしての専門職採用や、外部人材の登用などを進めてほしいと感じます。

現役の官僚も、自分の考えを役所の外に発信するリスクを幾分、気にしているようです。原稿執筆や外部の講演、場合によっては兼業も自由に認める取り組みは大事です。
日本経済について何を書くべきなのか。次に自分は何を論じるか。役人だったときも民間に転じた後も、何十年にわたって毎日考えています。エコノミストは発信することで磨かれます。私は企画庁にいたときから、2年に1冊は本を出し、連載も続けてきました。

エコノミストは本を書くことで成長します。本を書くと必ず行き詰まる。これは苦しい。しかし、抜けると新しい世界が開ける。
当面は、私の代表作である「平成の経済」と「人口負荷社会」の続編を書けないか、構想を練っています。企画庁で働く中で、自分の〝比較優位〟は書くことにあると気付きました。日本経済について、書きたいことはたくさんあります。

高度成長と平成経済

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月6日の記事から

・・・官庁エコノミストの先輩である香西泰さんは「高度成長の時代」という本を書いています。敗戦から1970年代まで、日本経済がどのように歩んできたかを分析したものです。
香西さんは高度成長について官僚などの一部エリートが主導したわけでないと分析し、市場メカニズムをベースに発展したと説明します。世界平和や自由貿易、海外からの技術移転がその支えになったとも強調しました。

香西さんのエコノミストとしての歩みは高度成長と共にありました。私もそのような本を記したいと思い「平成の経済」をまとめました。
昭和の経済は驚くほどうまく諸問題を切り抜けました。他方、平成の経済は「予想外に厳しかった時代」と言えます。バブル崩壊と不良債権、アジア通貨危機と金融危機、デフレ、人口減少など、経験したことのない課題が次々現れた。その対応も決して満足すべきものでは無かった。
私は悲観派のエコノミストではないですが、高度成長を終えた後の日本経済は、これでもかというほどに解決困難な問題が次々と出てくる。それも、誰かの責任ではなく国全体の課題として生じてくる。先進国に追いつく過程であるキャッチアップを達成した後の経済における宿命なのかもしれません。

急成長を遂げた後の現在の中国経済をみても、日本に似た問題が今起きているように見えます。不動産部門は過剰債務を抱えて苦しんでいます。高齢化や少子化も中国社会に影を落としています・・・

経企庁報告書に大蔵省からの抗議

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月5日の記事から。

「年間回顧の報告書をまとめた時は、不良債権問題を巡り大蔵省から激しい抗議を受ける。」
白書とは別に、企画庁は年間回顧という報告書を作っていました。93年は不良債権問題を取り上げようとしたところ、大蔵省が猛烈な勢いで公表を取りやめるよう抗議をしてくる。「企画庁が金融業を分析する法的根拠はない」「市場に影響が出た場合、どう責任を取るか」など、ものすごいけんまくでした。
彼らも銀行の経営の深刻さは知っており、神経質になっていたのです。調整と修正を経て分析は公表できました。一連の調整は役人人生で最も不愉快な経験でした。

この分析も、いま振り返れば警鐘としては不十分でした。不良債権問題は後に金融危機をもたらし、2000年代前半まで解決しませんでした。このときにやり合った相手とは最近、オンライン会議の勉強会で顔を合わせ、向こうから「あのときは迷惑をかけました」と言われました。

増える役所の仕事

忙しい職場の生産性低下」の続きにもなります。
「この30年間の行政改革で、職員数は減らしたのに、業務は増えている」と、主張しています。その際に、職員数は数字で見えるのですが、業務量は簡単には計れないのです。予算額が一つの指標ですが、例えば総額が同じでも、既存事業の予算を減らして、新しい事業が増えると、職員の事務量は増えます。

原田久・立教大学教授が「行政国家論再論」(季刊『行政管理研究』第183号、2023年9月)に、次のような数値を載せておられました。
「2001年の省庁再編時に各府省設置法に列挙されていた858の所掌事務は、2021年度には935事務にまで増加している」

20年で、1割増えたのですね。もちろん、掲げられた一つ一つの事務の事務量には大きなものから小さなものがあり、その量はこれでは分かりませんが。
そして、どのような分野でどのような政策が増えているかを、検証しなければなりません。どなたか、やってもらえませんかね。連載「公共を創る」での、重要な論点なのです。