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行政-行政機構

経企庁報告書に大蔵省からの抗議

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月5日の記事から。

「年間回顧の報告書をまとめた時は、不良債権問題を巡り大蔵省から激しい抗議を受ける。」
白書とは別に、企画庁は年間回顧という報告書を作っていました。93年は不良債権問題を取り上げようとしたところ、大蔵省が猛烈な勢いで公表を取りやめるよう抗議をしてくる。「企画庁が金融業を分析する法的根拠はない」「市場に影響が出た場合、どう責任を取るか」など、ものすごいけんまくでした。
彼らも銀行の経営の深刻さは知っており、神経質になっていたのです。調整と修正を経て分析は公表できました。一連の調整は役人人生で最も不愉快な経験でした。

この分析も、いま振り返れば警鐘としては不十分でした。不良債権問題は後に金融危機をもたらし、2000年代前半まで解決しませんでした。このときにやり合った相手とは最近、オンライン会議の勉強会で顔を合わせ、向こうから「あのときは迷惑をかけました」と言われました。

増える役所の仕事

忙しい職場の生産性低下」の続きにもなります。
「この30年間の行政改革で、職員数は減らしたのに、業務は増えている」と、主張しています。その際に、職員数は数字で見えるのですが、業務量は簡単には計れないのです。予算額が一つの指標ですが、例えば総額が同じでも、既存事業の予算を減らして、新しい事業が増えると、職員の事務量は増えます。

原田久・立教大学教授が「行政国家論再論」(季刊『行政管理研究』第183号、2023年9月)に、次のような数値を載せておられました。
「2001年の省庁再編時に各府省設置法に列挙されていた858の所掌事務は、2021年度には935事務にまで増加している」

20年で、1割増えたのですね。もちろん、掲げられた一つ一つの事務の事務量には大きなものから小さなものがあり、その量はこれでは分かりませんが。
そして、どのような分野でどのような政策が増えているかを、検証しなければなりません。どなたか、やってもらえませんかね。連載「公共を創る」での、重要な論点なのです。

厳しい予算要求基準が生んだ弊害

忙しい職場の生産性低下」の続きにもなります。「小さな政府」を目指す方向を続けていると、役所の機能が低下するということです。

税収が伸びず、毎年の予算要求には厳しい制限がかけられています。ゼロ・シーリングやマイナス・シーリングと呼ばれます。各府省は一部例外の項目を除いて、前年度の予算額を基礎として、同額かあるいは一定率の削減を求められます。
新しい事業を考えても、スクラップ・アンド・ビルドの方針の下、既存予算を削減し、財源を捻出しなければなりません。しかし各予算項目は、それなりに理由があって行っているものであり、そう簡単に削減したり廃止したりすることができません。
税収が増えない以上、厳しい予算要求基準はやむを得ない手法ですが、これが続くと、新しい政策を考えることに消極的になります。

私が恐れるのは、このような状況が長年続き、若い官僚たちには、新しい政策を考え実現するという経験がなくなり、その状況が普通だと思ってしまわないかということです。

事業者なら、売り上げを上げて、人を増やし組織を拡大することを目指します。ところが、この30年間の日本は、行政にあっては行政改革という旗印で、企業にあってはリストラという名の下で、縮小することが善とされました。一時的に縮小すること、選択して撤退することはあるでしょうが、縮小を続けていく先にあるのは衰退です。
長期間にわたって売上高と従業員数を削減したことを誇る経営者は、失格でしょう。
同様に、予算と公務員を増やさないことを誇る政府は、国民に向かって「サービスを増やしません」と宣言しているようなものです。

角野然生著『経営の力と伴走支援』

角野然生著『経営の力と伴走支援 「対話と傾聴」が組織を変える』(2024年、光文社新書)を紹介します。
東日本大震災の原発事故対応で、経済産業省は、被災した約8000の事業者の事業再開に向けて個別支援を行いました。そのための組織として、福島相双復興官民合同チーム(後に福島相双復興推進機構)がつくられました。事務局長として組織を立ち上げ、仕事の進め方を編み出したのが、角野君です。

公務員と会社員で組織したので、官民合同チームと呼ばれました。この組織の職員が、避難先の各事業者のもとに出かけていって、事情を聞き、相談に乗って、事業の再開に向けて支援するのです。経産省は原発事故の責任者であり、当初は被災事業者に会ってももらえない、話を聞いてもらえない状態でした。通い続けることで、少しずつ意思疎通ができるようになりました。
従来の行政の手法は、補助金など支援の手法をつくり事業者から申請してくるのを待つものでしたが、この伴走支援では役所側が支援対象に出かけていき、話を聞き、問題点を一緒に考え、解決に向かって継続的に支援するのです。これが、「伴走支援」です。

補助金を交付するのは作業としては簡単です。それに対しこの伴走支援は、役所側から問題点を指摘して解決策を提示するのではなく、支援先が自分でも問題点を考え、解決方法を一緒に考えます。自分で気づき、考える。自立への支援をするのです。行政としては、手間暇がかかります。
復興庁では、被災地の小規模事業者の事業再開支援として、地域復興マッチング「結の場」をつくりました。これは、悩んでいる被災事業者と、相談に乗って対策を考える支援をしてくれる企業とをつなげる企画です。これも、補助金を交付するだけでは補助金が終わると事業が継続しないので、自立への支援を行うものです。

連載「公共を創る」の第76回「再チャレンジ政策で考える行政のあり方」で、行政の手法がこれまでは窓口で待つことでよかったのが、これからは出かけていく必要があるこへとの変化を指摘しました。その一つの事例と見ることもできます。
角野君はその後、関東経産局長、経済産業省中小企業庁長官を務め、この手法を被災地以外にも広めます。
現場の実情から編み出された行政手法で、従来の哲学を変えました。そして成功したのです。役所から出かけていって、相手の相談に乗り、自立への支援をする。この行政手法は、他の分野でも拡大できるしょう。

公務員では雇えないので別法人にする

5月11日の日経新聞東京版に「東京都の財団、行政DXけん引 企業OB「官民の壁」崩す」が載っていました。

・・・東京都が民間から人材を集め、都内自治体のデジタル化を加速している。全額出資の財団法人を設立し、日本マイクロソフトや富士通の出身者らを採用した。優秀な人材には都庁幹部を上回る給料を支払う。業務開始から8カ月が過ぎ、民間出身者が行政の現場で成果を出し始めている・・・

一般財団法人「ガブテック」です。職員14人のうち3割が民間経験者です。都庁でなく別法人にしたのは、公務員の枠組みでは優秀な人材を採用できないからです。給料が公務員水準では低くて、「よほどの物好きでなければ来てくれない」のです。この法人では、職員の年収が最高で1500万円に設定しています。都庁では部長(50歳)が1300万円、課長(45歳)で1000万円程度です。

経験年数と職位で給料が決まる、警察や消防、保育などの一部職種を除き給料表が同じという仕組みは、無理になってきています。民間企業と競合する技術職にも、別の給料表が必要になるのでしょう。これも、メンバーシップ型からジョブ型への移行の一つとも考えられます。