カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

懐かしの執務室取り壊し、内閣を補助する事務の統合と管理

内閣府庁舎の別館(B棟)の、取り壊し工事が始まりました。総理官邸の向かいに、いわゆる本府ビルがあります。その南側に、講堂や会議室がある別館があります。3月20日以降約3か月間、そこの講堂と会議室に、被災者支援本部(チーム)が入っていました。講堂とその上にあるプレハブなので、執務室としてはあまり環境は良くありません。
さらに、当初は机も椅子もなく、大変な状況でした。当時の状況は、写真で残してあります。この写真の内、下段左2つが講堂、下段右がプレハブ執務室です。なつかしいですねえ(4月21日の記事でも、紹介しました)。仕事が大変だっただけに、思い入れもひとしおです。新しいビルを建てるので、取り壊されます。

内閣府と内閣官房は、省庁再編の際に、いろんな部局と機能が集まったので、本府庁舎のほかに、いろんなところに分散しています。さらにその後、新しい課題に対応するため、新組織や臨時組織がつくられています。内閣官房にどのような組織があるか、組織図をご覧ください。
私どものように、民間ビルに入っている組織も多いです。やはり不便ですね。課題は、庁舎を建てて近くに寄せることと、これら機能の管理と統合をどうするかです。
後者は、行政組織論、統治機能論として、大きな課題です。世間では、国家行政機構を「霞ヶ関」「1府12省」「各省庁」と呼び、そのようにイメージすることが多いです。しかし、官邸行政機構(総務官室や秘書官室など)の機能と役割、内閣官房の機能と役割、内閣府の機能と役割は、大きくなっています。各省より一段上に、これらの組織があります。各省に属さない新しい仕事、各省にまたがる仕事、総理からの特命の仕事、さらに各省間を調整する仕事が主です。課題が次々と変わっていくことも、特徴です。また、仕事柄、各省との連携も重要です。職員は、寄せ集めにならざるをえません。
これらの制度設計、職員の配置と養成をどうするか。これまでの教科書や論壇で取り上げられていませんが、大きな課題です。いつか時間ができたら、事実と議論を整理しようと思っているのですが。いつものように決意表明(苦笑)。

臨時的組織の難しさ

私たちの復興本部は、臨時的組織です。大臣、副大臣、政務官を持ち、職員は現時点で約60人。すると、政策を企画する部隊のほかに、様々な機能が必要になります。すなわち、大臣などの秘書室、国会担当、広報担当、人事や庶務担当です。前線で戦う部隊のほかに、後方で支援する部隊です。
これがなかなか難しいのです。各省にある大臣秘書室、国会担当課、庶務課では、過去からの蓄積があり、経験豊かな職員とノウハウを持っています。しかし、臨時的組織で寄せ集めの組織では、いかに優秀な職員を集めても、経験やノウハウの伝授がありません。 また、多くの職員は、法律を作るのは上手でも、旅費の支出手続は詳しくないとか。
例えば、私はかつて総務省総務課長で、国会担当を勤めました。新人課長を、経験豊かな職員たちが、過去からの引継ぎを基に支えてくれました。(2004年2月26日の記事)。紙には書かれていない「しきたり」があって、それを知らないと仕事がうまく回らないのです。
今日、久しぶりに国会の準備に回りましたが、かつての経験はすっかり忘れてしまいました。2年半にわたり、年間の半分を国会で過ごしていたのに・・。仕方ないので、当時のお師匠さんである福本さんに、電話をかけて教えてもらいました。
復興担当大臣は防災担当大臣と兼務なので、内閣府防災部局に助けてもらっています。もっとも、そこも一つの省ではなく、局に相当する「政策統括官」組織です。秘書課や総務課を持っていません。
日頃の業務が、いかにたくさんの人たちに支えられているのかが、良くわかります。感謝。

政府の組織設計

職場の管理職として、どうしたら楽しく仕事ができて良い成果を出すことができるか、長年考えてきました。『明るい係長講座』を書いたりもしました。自治大学校長として、あるいは講演に呼んでいただいて、しゃべったりもしました。早く、一冊の本にまとめなければと、思っているのですが。
職場管理や職員養成とともに、職場の組織をどう設計するかも、私の関心の一つです。霞ヶ関では、各省の内部組織をどう設計するか、各省をどう編成するか、そして内閣官房や内閣府をどう設計するか。これは大きな課題です。2001年に省庁改革を行い、現在の形になっています。その時もいろいろ勉強しました(『省庁改革の現場から』)。
今回の被災者生活支援本部事務局を立ち上げ、運用する際にも、考えることが多かったです。
民間企業と比べて、あるいは地方自治体と比べても、国家行政機構の組織設計、特に内閣の周りは、改善の余地があると考えています。まず、経営企画室(部)に当たる組織がありません。民間企業では、考えられないでしょう。次に何を売るかを考えることが、最も重要なのですから。地方自治体なら、企画部か首長直轄の政策立案機関があります。
また、人事と組織の戦略を考える人事部や組織設計部がありません。各省にはあるのですが。そしてそのような組織設計を考えている人や組織がいないのです。これらについては、別途、書きましょう。

本屋には経営学や、組織論の本がたくさん並んでいます。それらは民間企業向けで、行政機構の設計について書いた本は、見あたりません。それは仕方ないとしても、なかなか参考になる本が見つかりませんね。

(職位から見た組織論・出世とともに何が必要となるか)
その論点とは外れますが、稲葉祐之ほか『キャリアで語る経営組織―個人の論理と組織の論理』(2010年、有斐閣)は、管理職論としてわかりやすく、有用でした。目次を見てもらうとわかるように、職員が入社して、異動し出世し、社長になる過程ごとに、組織論のテーマを解説してあります。中堅の公務員が読んでも、役に立つと思います。平職員と管理職、さらにはトップでは、見方が変わり、必要な知識も違うのです。平職員の時には上司を批判していたのに、いざ自分が課長になったら、「そうだったのか」と納得することがあります。
ある程度の歳になり、ポストに就くと、リーダーシップ論や管理者論を、本を読んだり経験で知っておられるでしょう。この本を読むと、それらが体系的に整理できます。

司法制度改革10年

7日の朝日新聞が、司法制度改革10年を特集していました。司法制度改革審議会が意見書を出して、10年になります。実際の改革は、その後、25本もの法律改正によって実施されました。
裁判員制度、法テラス、ADR、知財高裁、法科大学院、司法試験改革などです。司法を身近にすること、法曹の量を増やすこと、国民の司法参加が、目的でした。司法制度改革は戦後改革以来初のことで、これらは日本社会の大きな改革でした。
私は、行政改革の分類の中で、これらを、「事前調整から事後監視へ」や「公開と参加」などに位置づけました。このような改革は、ある日突然変わる、あるいは写真になるような改革ではないので、なかなか国民の実感には現れません。裁判員に選ばれると、実感するのでしょうが。

ところで先日、北村亘大阪大学教授から、この表について、地方分権改革は、「官の役割変更・経済活性化」に位置づけるより、「ガバナンス改革」に位置づける方がよいのではないか、との指摘を頂きました。
確かにそうですね。実はこの大分類は、後から考えたものです。何度も試行錯誤しました。その際に、国から地方への地方分権改革は、中央政府のスリム化であるとの位置づけからスタートしたので、それに引きずられた結果になっています。北村先生、御指摘ありがとうございました。

強い現場と弱い本部

5月16日の朝日新聞「大震災と経済」に、藤本隆宏東大教授のインタビューが載っていました。藤本先生は、日本のモノづくり現場の研究で有名です。先生は、日本の特徴を「強い現場、弱い本部(本社)」と表現しておられます。すなわち、品質が良いものを安く効率よく作るというように、目標がはっきりしている場合は、本社が目標を定め現場は目標に向かって頑張ります。しかし、目標が不明確になると、目標を定められず、弱い本部になってしまいました。
これは、行政機構にも当てはまります。欧米に追いつくという目標がはっきりしていた時は、官僚機構は効率的でした。その目標を達成し、次の目標がはっきりしなくなった時に、官僚制が効率的でなくなりました。決められたことをする職員と、次に何をするのかを考える立場の人との役割分担です。後者が、本部機能です。

記事では、「復興対策をどう評価しますか」との問いに、次のように答えておられます。
・・出張で海外に行ったが、識者の間でも、被災現場、原発事故現場に踏みとどまる人々の粘りと沈着さは高く評価される一方、官民とも対策本部の判断や発表の混乱は低い評価だった。日本の現場の強さと本部の弱さを、全世界が認識してしまったようだ・・
「復旧、復興に向けてどう改善すべきですか」という問いには、
・・高い組織力を維持している日本中の現場の力を一層活用することと、心もとなかった本部の失地回復が必要だ・・
「本部はどうすれば」という問いには、
・・本部は部門の壁の撤去が急務だ。具体的には、重要な復興テーマごとに、関連省庁・自治体から実務担当者を集めたプロジェクトチームを編成し、政府中枢に省庁横断のマトリックス組織を早急に作るべきだ。トヨタ自動車の製品開発組織、日産が復興期に使った部門横断チーム、英国内閣府のプロジェクト制など、成功例は多い・・省庁幹部間の連絡会だけではだめ・・
詳しくは、原文をお読みください。