カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

業務の取り組み方針を公表する、金融庁

9月18日に、金融庁が「金融行政方針」を公表しました。これは、金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向け、いかなる方針で金融行政を行っていくかを、明らかにしたものです。「主なポイント」が、わかりやすいです。見ていただくと、金融庁の使命(p1、はやりの言葉で言うとミッション)、課題と目標(p2、3、4、5)のほか、金融庁自身のガバナンス改革(p6、7)も明らかにしています。
良い試みですね。国民や金融関係者に、金融庁の仕事の目標ややり方を明らかにすること、そして自らの組織と意識改革も明らかにする。行政機関に限らず、すべての組織に必要なことでしょう。
復興庁の場合は、使命と目標は比較的明確です。そして、達成度合も、かなりの項目で数値化でき、それをお見せしています。

国の財政の全体像・分析

6月22日読売新聞に、「特別会計見直し本格化」の記事が載っていました。一般会計予算82兆円の他に、特別会計予算が合計387兆円あるとのことです。母屋より離れの方が、はるかに大きいのです。重複があるので、純計額はもっと少ないとはいえ。
ことほど左様に、わが国の国家財政は、全体像も各論もよくわかりません。地方財政の場合は、特別会計がいくつあろうと、普通会計と企業会計に分別して、集計し公表しています。また、普通会計にあっても目的別だけでなく、人件費や投資的経費など性質別にも分類して公表しています。決算もです。一方、国家財政の場合、特別会計を含めた全体像は不明ですし、決算も予算も性質別にはでてきません。人件費がいくら使われ、いくら余ったかもわかりません。
記事では、これまでの特別会計を利用した「特会とばし」や「隠れ借金」という手法が、批判されていました。財務省が改革に乗り出し、「予算削減を求めるだけでなく、情報を透明化して、各省庁に自己改革を促す」と書かれています。ある記者曰く「でも、これまでそのような予算編成をしてきたのは、財務省(大蔵省)ですよね?」

行政の構造的課題2

(2)これまでの対応=行政改革
次に、このような問題に対し、どのように対応してきたか、しているかを述べましょう。
①行政改革の歴史
【別紙4】拙著「省庁改革の現場から」p161
これまでは、「総量規制:膨張抑制」「小さな政府:国営企業を民営化」でした。今取り組んでいる行政改革は、一歩踏み込んで「システム改革」です。すなわち、地方分権で地方を自立させる。規制改革で、民間への介入を小さくする。最後に、省庁改革で行政本体を変える。
②行政改革の分類と位置付け
小泉改革は多くの課題に取り組んでいます。覚えきれないくらい。私なりに「行政改革」「構造改革」を分類すると、こうなります。
【別紙5】「省庁改革の現場から」p218
③よりよいアウトプットを目指して
ア 組織改革
 器の改革=省庁改革
各省横断的会議【別紙6】
イ 政治主導(省庁改革)
 副大臣・大臣政務官
経済財政諮問会議
ウ 仕事の改革1=仕事の目標や仕方の改革
 情報公開、政策評価、行政手続法など
エ 仕事の改革2=分権改革・規制改革
【別紙7】「新地方自治入門」p244
オ 人の改革=公務員制度改革
これが、手つかずのままです。
4 もう一つ先の改革へ
(1)官僚(国家)に期待される役割の変化
①日本社会の成熟、国家(行政)目標の達成
20世紀型行政の終了、21世紀型行政への転換
【別紙8】「新地方自治入門」
②国家統治の「かたち」の変更
  国家の運用・行政の運用
ア 政治と行政の関係→「政と官」
イ 中央政府と地方政府の関係→「地方分権」
ウ 官と民間との関係→「規制改革」
「行政改革会議最終報告」平成9年12月(第1章 行政改革の理念と目標 )
(2)官僚はそれに答えているか
①官僚の問題
ア 「官僚批判」に答えているか
イ 発言や政策提言をしているか、議論する場はあるか
②仕組みの問題
ア 養成の問題(採用・昇進・退職後)
イ 大学教育(法学部教育の有効性)
ウ 研究(日本の行政の解説書、研究書は)
参考文献
この国のかたちと政治行政改革については、「行政改革会議 最終報告」(平成9年)
中央省庁改革については、拙著「省庁改革の現場から-なぜ再編は進んだか」(2001年、ぎょうせい)
戦後日本の政治と行政については例えば、山口二郎著「戦後政治の崩壊-デモクラシーはどこへゆくか」(2004年、岩波新書)
日本の行政の現状と課題については、拙著「新地方自治入門-行政の現在と未来」(2003年、時事通信社)
日本の官僚については、私のインタビュー「国家官僚養成に向けて」(月刊『時評』2004年10月号)
地方分権(三位一体改革と日本の政治行政改革)については、拙著「地方財政改革論議-地方交付税の将来像」(2002年、ぎょうせい)、拙稿「進む三位一体改革」(月刊『地方財務』2004年8、9月号)、
「続・進む三位一体改革」(月刊『地方財務』2005年6月号)

行政論

行政の構造的課題

2005年5月19日に、東京大学公共政策大学院講演したときのレジュメです。2004年5月13日のレジュメを差し替えました。官僚論の一環です。公務員改革議論の整理については、公務員改革論議をご覧下さい。
提言・国家官僚養成一橋大学での講義もあわせお読み下さい。

      日本行政の成功と機能不全
      -政策課題と構造的問題-
          
1 国家行政の課題-二つの視角
このリレー講義では、各講師はそれぞれ、省の政策課題をお話になるでしょう。私は、そのような個別課題でなく、日本の行政全体の課題をお話します。たとえて言うと「縦割り」でなく、「横断的視野」からです。

図1
うまく描けないので言葉で書きます:日本の行政には国家行政と地方行政があること。それぞれ、執政(政治・政治家)と執行(狭義の行政・公務員)がある。国にあっては、内閣と官僚。この行政が、日本社会という環境から課題を取り上げ、政策を出力する。

国家行政 地方行政
執政
(政治)
内閣
(政治家)
首長
執行
(行政)
各省
(官僚)
市役所

(1)各省が取り組んでいる個別テーマ
  政策課題、アウトプットとしての課題
(2)国家行政機構が抱えている仕組みの課題
  構造的課題、内在する課題
(私がこのような問題関心を持ったのは、これまでの経歴からです)

2 政策課題
構造的課題に入る前に、個別政策課題について簡単に触れておきましょう。
(1)小泉内閣が取り組んでいる課題
 →テーマから見た分類
「小泉構造改革内閣」【別紙1:官邸HP
図1で言うと、国家行政のうち執政(内閣)が取り組んでいる課題。政治主導といってよいでしょう。各省の政策を聞いているだけでは、日本の行政課題全体像を見ることはできないのです。

数多くの項目がありますがそれは、次のような理由からです。
理由の1:小泉首相の意向「構造改革」を掲げている
理由の2:社会が多くの改革を迫っている
理由の3:各省縦割りの官僚制で処理できない
別紙2:官邸HP

(2)各省が取り組んでいる課題
 →担当部局から見た分類
政治主導に対し、官僚制による対応といってよい。
例えば、この「リレー特別講演」、白書、HP、政策情報誌(「外交フォーラム」「ESP」「自治研究」「地方財政」等の月刊誌)

(3)総務省が取り組んでいる課題【別紙3、パンフレット】
①行政の基本構造 ②分権改革 ③IT 

3 構造的課題=国家行政機構そのものの課題
今日の話の中心。まず問題提起から始めましょう。
戦後日本、あるいは明治維新以来、日本社会は世界第一の水準まで発展しました。その際に、行政もまたそれに貢献し、世界一の水準を達成しました。安全、衛生、教育、福祉、社会資本などです。
しかも、貧富の差や地域間の格差を小さくして、日本社会全体で、高度な行政サービスを実現しました。社会は、平等・発展・安定を達成しました。拙著「新地方自治入門」を参照してください
世界一優秀と評価されていた日本の官僚。それが近年、大きな批判にさらされています。その批判を、分類してみてみましょう。

(1)官僚批判
①「官僚の失敗」に対する批判
ア 社会情勢の変化に対応できない:ムダを指摘されている公共事業の続行、需要予測を誤った公共事業
(例)交通量の少ない山の中の道路、米余りのなか続けられる農地造成・干拓、「巨大釣り堀」と揶揄される港湾、水余りの中作り続けられるダム、赤字の本四架橋・東京湾アクアラインなど
実は、これは「与えられた任務を遂行する」という、官僚制の特徴の裏返しです。

イ 業界と一体の行政
(例)BSE問題(外国では危険を指摘されていたのに、対応が遅れたこと。また、輸入牛肉を消却する際十分な確認をせず補償金を払ったこと。これは刑事事件になっています)、
薬害エイズ事件(非加熱製剤の使用禁止が遅れたこと。これも刑事事件になっています)、
金融危機対応(護送船団行政、破綻処理の先送り。公的資金投入が巨額になった)、
補助金行政の続行(地方団体が要らないと言っている補助金を押し付けようとしていること)、
規制改革への抵抗(自動車の車検緩和が進まず。幼保一元化も進みません)
これは官僚制の「部分に特化」によるものです。

ウ 政策の統合ができない:政策の優先順位がつけられない、変更できない
(例)社会福祉より公共事業を優先していること。
道路財源が余り、一方で赤字国債や年金が破綻すると言っているのに、道路財源を回せないこと。公共事業の事業別シェアが変わらないこと。 
これは、官僚制の「縦割り組織」によるものです。

エ 費用対効果の疑問:優秀な官僚が毎晩遅くまで残業しているが、それだけの結果がでているか
これは、「目標設定と効果測定は誰がするのか」という問題です。これは次の②につながります。

②「官僚主導」に対する批判
責任の所在はどこにあるか。行政に対する入力は政治の責任。
今日は省略。「新地方自治入門」第10章政治と行政の在り方p287~

行政の役割と手法の変化、企業の育成から企業統治へ

日経新聞経済教室8月8日、ニコラス・ベネシュ会社役員育成機構代表理事の「企業統治改革、独立役員3分の1以上に」から。氏の主張は原文を読んでいただくとして、私が官庁論から注目したのは、次のくだりです。
・・政府が日本再興戦略の改訂版を公表した2014年6月24日は、日本のコーポレートガバナンス(企業統治)の近代化が本格始動した日として、おそらく歴史に残るだろう。成長戦略の柱に「『稼ぐ力』を取り戻す」と掲げ、企業統治の強化と「コーポレートガバナンス・コード」策定を宣言したのである・・
・・筆者は長年、日本企業の役員を務め、現在は社内外役員の研修を提供する組織である公益社団法人、会社役員育成機構(BDTI)の代表理事に就いている。その経験から、今回は日本の企業統治に大きな変化をもたらすチャンスであると実感している。
特に注目すべき点は4つある・・
・・第4に、日本の企業統治の基盤整備に関する責任の所在が、産業界と結びつきの強い経済産業省から、投資家保護や金融市場の円滑化を法律上の義務として負う金融庁へと明確に移されたことである。
これらは政府が本格的な統治改革を志向していることを示す。例えば日本再興戦略の改訂版は「社外取締役の積極的な活用」に言及している。政府が内部出身の業務執行取締役について「彼らだけでは彼らを監視できないこともある」と公に認めたことは、よりよい統治を求めて他国で30年以上続く議論に日本が加わることを意味する。
世界で使われている企業統治の概念に長年眼をつぶってきた「不思議な国ニッポン」から、資本市場の効率と投資家保護を優先する統治の枠組みを持つ「普通の国」に変わる絶好のチャンス―。内外の投資家はこうみている・・
企業統治の観点からは、企業内特に内部出身役員と、株主や取引先などの関係者の利害を、どう解決するかが重要です。企業を育成し、欧米に追いつく時代が終わりました。すると、政府の仕事のやり方が、行政指導・事前調整による業界や企業の育成から、ルールを定めて企業には自由に競争させ問題があれば事後に規制する方式に変わりました。さらに、視野が広がって、企業だけでなく株主や取引先という利害関係者までを入れた「企業統治」をどう確保するかに行政の課題が広がっているということです。すると、経済産業省でなく、金融庁の出番になったということでしょうか。