カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

かつての業界行政

10月10日の朝日新聞「証言そのとき」斉藤惇さん(元野村證券)の「市場の時代道半ば11 金融制度論深まらず」から。
・・・87年、金融制度調査会(金制調)の制度問題研究会が報告書をまとめ、業態別規制の問題を提起した。銀証制度改革の論争が始まる。
当時、野村証券の債券や株式の担当役員だった。新商品の認可を得るため大蔵省によく出入りしていた。銀行、証券両局で金制調と証券取引審議会が毎週のように開かれていた。銀行側が証券を兼営するユニバーサルバンクを志向、証券側が反発する構図だった。証券局で用事を終え廊下を歩いていると、旧知の銀行局課長から「また何か入れ知恵にきたでしょう」と声をかけられる。証券局の担当者には「向こうは何を話していた?」と聞かれた。
なんだこれはと。同じ階なのに、縦割りで所管の業界や局の権限を守るのにきゅうきゅうとしていた。
制度改革の一番の狙いは、長期信用銀行の行き場所を作ることだと証券業界の人間には見えた。
産業資金を供給してきた長信銀だが、都市銀行が企業向けの中長期融資に進出し居場所がなくなっていた。金融債で資金を集め長期で融資するやり方も金利変動リスクをもろに受けるようになった。国債の発行量で金融債の金利が左右され、調達コストが安定しない。以前は考えられなかった先に貸したり金融債を買ってもらったりしていた。
銀行局は追い込まれた長信銀の生き残る道を証券業務にと考えたと思う。なかでも日本興業銀行は、業界をまとめ役所と一体で動く銀行行政のパートナーだった。だからとにかく守りたかったのだろう。だが証券業界は危機感が強かった・・・(2016年10月13日)

復興がつくった新しい行政

東日本大震災の被災者支援や復興に際して、これまでにない政策をつくり、またこれまでにない手法を生みました。
一言でいうと、「国土の復旧から暮らしの再建へ」です。そして、政策が広がったことで、それを実現する主体も、手法も広がりました。公共を支える3つの主体の協働です。
拙著『復興が日本を変える』に詳しく書きました。わかりやすく図表にしたので、ここに載せておきます。(2016年7月31日)

図1 町のにぎわいの復興に必要な3つの要素
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図2 何を変え、変えたかったか
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図3 新しい政策と新しい手法の発展
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復興庁は何を変えたか

季刊『行政管理研究』2016年6月号(行政管理研究センター)に、寺迫剛さんが、「東日本大震災から熊本地震へー復興・創生期間1年目の復興庁」を書いてくださいました。
復興庁が大震災からの復興に際し、新たに取り組んだことを、適確に整理してあります。「セクター間協働の拡大」を横軸とし、「政策範囲の拡大」を縦軸とする図を示し、次のように書かれています。
「・・・復興庁の新たな取り組みは、行政単独ではなく他セクターのアクターと協働し(横軸方向)、インフラ復旧だけではなくコミュニティ再建等の人々の暮らしの再生(縦軸方向)にも拡大している。ここで指摘しておくべきこととして、図の縦軸方向と横軸方向それぞれへ拡大は不可分の関係にあったということである。なぜなら、図の横軸で示したとおり、官共私三元論を標榜してNGO 等の非営利セクターや私企業との協働関係を構築・拡大したからこそ、コミュニティに暮らす人々との信頼関係を築き、事業者の視点に立った産業再生支援の枠組みを構築できたからである・・・」
また、別図では、この新型行政が被災地に限らず、地域振興策として全国へと拡大展開することが、示されています。
行政研究者が見た、復興庁の新たな取り組みの分析と評価です。ご関心ある方は、お読みください。

地域福祉の現場は行政のフロンティア

今日は、日本介護経営学会に呼ばれて、シンポジウムに登壇してきました。私は知りませんでしたが、介護の実務家や研究者の学会です。会場は満員でした。
被災地では、高齢者などのケアのため、さまざまな試みが取り組まれました。阪神淡路大震災を教訓に、介護ステーションをつくり、相談員が巡回してと。それ以外にも、地域包括ケアの試行なども。地域福祉の「実験場」だったのです。これまでの経験は、この学会が協力した、小笠原浩一・栃本一三郎編著「災害復興からの介護システム・イノベーション」(2016年、ミネルヴァ書房)にまとめられています。関係者の方には、お薦めです。
私の役割は基調講演でしたが、その後のシンポジウムが勉強になりました。旧知の長純一先生、池田昌弘さんたちから、包括ケアや現在の福祉サービスから漏れ落ちている人たちへの支援現場での課題が、報告されました。現場で活動している人たちの発言は重いですね。実践家の苦悩、といったら良いのでしょうか。「無認可」「認可外」に、次なる課題が存在しています。これまでの医療福祉サービスが、医療、介護、児童、障害者というように対象者別にサービスを拡充してきました。それでも、隙間が残されています。生々しい事例を聞かせてもらいました。
また、個別サービスが、地域での助け合いを壊しているという逆効果も。農業や漁業が忙しい時期に、デイケアに来ている高齢者が、そちらの作業のアルバイトに行くという話がありました。高齢者は行くところを求めているのです。
行政によるサービスの限界が見えてきました。地域で、ともに支え合う場や方法を、生かさなければなりません。しかし、自治体にも国にも、そのような専門家はおらず、部署もありません。新しい行政手法、公共政策が必要です。
「日本の行政課題は、外国から輸入するのではなく、国内の現場で生まれている」という私の主張が、まさに実証されている分野です。さてこれらの課題を、研究者、自治体、国が、どのように吸い上げて解決するか。異業種の方との意見交換は、勉強になります。