カテゴリーアーカイブ:行政機構

北村 亘教授、日本の行政はスリムすぎる

2020年9月13日   岡本全勝

中央公論』10月号は、特集「コロナで見えた公務員「少国」ニッポン」です。よい視点ですね。
そこに、北村 亘・大阪大学教授「日本の行政はスリムすぎる コロナ禍が炙り出す宿痾、意識調査に見る府省間格差」が載っています。10ページの小論ですが、重要な視点からの、深い内容が書かれています。お勧めです。多くの公務員が、納得すると思います。

取り上げられている論点を、いくつか紹介します。
・先進各国に比べ日本は公務員数が少ないことは、既に指摘されていますが。これが災害対応やパンデミック、さらには官邸から指示される新規施策の設計実施に職員が足らなくなっていること。危機時だけでなく、平時においても、職員数不足が露呈しました。
私も、常々問題に思っています。職員数不足は、民間委託で切り抜けています。しかし、新しいことを考える時間がないのです。例えば、公共事業などを民間委託するのは納得できますが、近年では企画立案や国民からの申請交付といった業務まで、設計と実施が企業に委託されています。官庁と自治体に人的余力がなく、他方でノウハウもなくなっています。
・省庁別に予算と定員、幹部職員比率が、二次元のグラフで図示されています。これは面白いです。
・予算額と職員数を比較して、官庁を3つに分類しています。
これまで私たちは、制度官庁・実施官庁と区別していましたが、ここでは、政策助言官庁・移転官庁・政策実施官庁の3区分です。これは納得です。制度官庁・実施官庁の区分は、発展途上社会・昭和までの官僚主導国家での区分でしょう。
官庁がこれからどのように生き延びていくか。この「性格区分」が使えそうです。
・2019年に先生たちが実施した「官僚意識調査」の結果が利用されています。この分析も興味深く、納得します。官僚の皆さんには、ぜひ読んでもらいたいです。

官庁や自治体の構造的問題を、コロナ危機対応という事案から指摘する。久しぶりに、実のある官僚論を読みました。
先生が、この論点をさらに掘り下げられて、論文や書物にされることを期待しています。
ところで、私の連載「公共を創る」も紹介されています。ありがとうございます。

国からの多数の通知

2020年8月3日   岡本全勝

読売新聞連載「検証コロナ 次への備え」7月29日の「PCR 乱れた厚労省方針」に、次のような文章があります。
・・・厚労省は、検査を巡って新たな仕組みを作ったり、要件を緩和したりと次々にルールを変更し、自治体に通知した。今月21日までに発出した新型コロナ関係の通知は、参考資料の別添も含めて659件に上る。文書は膨大な量になり、過重な業務に追われる自治体からは「目を通す暇もない」との悲鳴が上がった・・・

これまでにない事態、専門家の知見が必要、そして対策に当たるのは自治体です。どうしても、国からの通知が多くなることは避けられません。
しかし、受け取る自治体にとっては、職員が少ない上に、住民対応をしながら、これらの通知を理解しなければなりません。読まれずに、放置される恐れもあります。

もっとも今回は、主に厚労省や内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室が担っているので、発信元は限られているでしょう。これが災害などだと、多くの府省からさまざまな通知が来て、受け取る部局もさまざまなので、さらに混乱します。
送る側は、それぞれに担当分野について重要な通知を送っているのですが、受け取る側がどうなっているかは想像していないでしょうね。

マイナンバーを利用した住民サービス拡大

2020年5月14日   岡本全勝

5月11日の日経新聞オピニオン欄、大林 尚・上級論説委員の「個人データ把握は怖くない マイナンバー、安心の利器」から。

・・・公権力による個人データの把握をどこまで認めるかという、日本人が議論を先送りしてきた問題をコロナ禍が浮かび上がらせた。二つ挙げる。
まず、一部でようやく始まった10万円の給付。年金生活者や休業補償がある会社員など、収入の途絶と無縁な人にも配るのは、本当に困っている人の特定に多大な労力と時間を要するからだ。各人の雇用形態や所得を公権力がマイナンバーで把握し、番号からそれぞれの預金口座情報をたぐり寄せられれば、真に助けが必要な人はとっくの昔に現金を手にしていた。

次に、マスクの配布を台湾と比べる。日本は厚生労働省が巨額の公費を使って郵送するアナログ方式。台湾はスマホのアプリで在庫データをネット上の地図に公開し、事実上の配給制によって混乱を鎮めるデジタル方式だ。アナログ方式が膨大な無駄を生んだのは、言わずもがなだ。

公権力による個人データの把握をどう考えるかは、人権のとらえ方にあらわれる。人権を自由権、社会権、参政権に分けると、自由権は「公権力からの自由」、社会権は「公権力による自由」に換言できる。カメラの例にあてはめれば、日々の行動を監視されるのはご免だというのが自由権、犯罪やテロを抑止するためにくまなく見張ってほしいというのが社会権である・・・

砂原教授、政策会議の分析

2020年4月17日   岡本全勝

季刊『行政管理研究』2020年3月号に、砂原庸介・神戸大学教授他による「政策会議は統合をもたらすか―事務局編制に注目した分析」が載りました。ここで取り上げられる政策会議は、首相を長として閣僚や有識者が参加して議論する会議です。

これまでも、中曽根政権での第二次臨時行政調査会、橋本政権での行政改革会議といった審議会や私的懇談会がありました。小泉政権では、経済財政諮問会議が有名です。
安倍政権になってから、首相を長とする、特定課題の会議が、たくさん作られています。「内閣に置かれた会議一覧」。その事務局が内閣官房に置かれます。「内閣官房組織図

2001年省庁改革以降の政策会議の増加や内閣官房・内閣府との関係、政策の統合からの観点などが、よく整理されています。
小泉政権での経済財政諮問会議と、安倍政権での各種政策会議とは、全く機能が異なっています。
小泉首相は、この会議を使って、与党や各省の既得権に切り込もうとしました。反対者を押さえ込む手段として使いました。安倍首相の場合は、そのような与党や各省との対立は見られません。
また、経済財政諮問会議は、それまでの審議会が個別分野ごとに議論していたものを、一つのテーブルに載せることで、総合調整をしようとしました。社会保障と税財源との議論が一緒に行われたのです。一緒に行えたのです。それに対し安倍内閣の政策会議は、個別課題ごとに設置され、政策の統合機能はありません。

かつて、審議会は「官僚の隠れ蓑」と批判され、省庁改革の際に大幅に整理統合するとともに、役割を制限しました。私が担当参事官でした。拙稿「中央省庁改革における審議会の整理」月刊『自治研究』(良書普及会)2001年2月号、7月号。
審議会は、「官僚に決定権はない、しかし政治家が決めてくれない。そこで審議会という形を取って議論を整理し、その結果を政策とする」という、官僚主導の時代の手法でした。政治主導になると、首相や大臣の下で、官僚機構を使うのか、有識者も入れて議論するのか、どちらかによって意見の集約をするのでしょう。このほかに、与党で議論を集約する方法もあります。

次々と起こる新しい事態

2020年4月4日   岡本全勝

公務員の仕事は「前例通り」と言われることがあります。しかし、次々と、これまでにないことが起きています。9年前の東日本大震災、そして今回のコロナウィルス流行です。ここに、日本の政治と官僚機構の力量が問われます。参考「3月19日に思う、災害対策の要点

もっとも、このような災害だけでなく、技術と社会の変化によって、対処すべき新しい事態も起きています。例えば、ガーファ(GAFA)など巨大IT企業による情報産業の支配、それらに対する個人情報の保護、他方でスマホやゲーム機による中毒もあります。
ゆっくりと進む社会の課題には、引きこもり、虐待、子どもの貧困、孤立などがあります。災害や事件事故は、ニュースとして大きく取り上げられますが、このような緩慢な変化は、見落とされがちです。

明治以来発展してきた日本の行政機構と行政手法は、昭和後期にすばらしい成果を発揮しました。しかし、その後に起きている新しい課題に、まだ十分対応できていません。それを、連載「公共を創る」で論じています。

経済発展、モノとサービスの充実に適した行政機構は、提供者側、事業者側に沿った組織と仕組みになっています。ところが、大震災でもコロナウィルスでも、被災者や困った人たちに応える必要があります。しかし、行政機構と発想はそうなっていないのです。
マスクの増産は、これまでの行政機構でできます。課題は、誰がそれを求めているか、その人にどのようにして届けるか。生活資金に困っている人は誰か、どのようにその人たちを把握し、救うかです。そのような案件を所管する省庁がない、そのような思考をする省庁がないのです。