「行政機構」カテゴリーアーカイブ

行政-行政機構

各省の業務量と職員数比較

自民党行革本部が、6月27日に「霞が関の政策立案部署等の業務量調査結果と今後の対応」をまとめました。知人に教えてもらいました。内容は原文を読んでいただくとして、興味深い資料が付いています。

まずは、いくつかの指標による、各省の業務量比較です。
「主な省庁の内部部局定員(1,000人)当たり業務量比較1/2」国会答弁回数など(p5)
「主な省庁の内部部局定員(1,000人)当たり業務量比較2/2」政省令の量(p7)

次に、各省の定員です。「各行政機関の定員」(p10)
本省の定員が興味深いです。
内閣府1,487人、警察庁2,472人、金融庁1,123人、総務省2,514人、法務省896人、外務省2,682人、財務省1,788人、文科省1,549人、厚労省3,664人、農水省3,776人、経産省2,451人、国交省4,686人、環境省898人、防衛省1,389人。

各省、各局、各課の職員数を客観的に決める、数式や指標はありません。
それなりの理由と経緯があって、このような数字になったのでしょうが。やや意外な数字があります。

『文部科学省の解剖』

青木栄一編著『文部科学省の解剖』(2019年、東信堂)を紹介します。
現在日本の代表的行政学者たちによる、文科省の組織を取り上げた論文集です。

宣伝には、
「文部科学省の組織構造の全貌を捉えた官僚制研究
幹部職員に対する初となるサーベイ、文科省と官邸・他省庁・地方自治体関係、庁舎内の部署配置・執務室内の座席配置分析といった行政学的分析を通じて、文部省/科技庁の統合後の変容も含めた、中央省庁の一翼としての文科省の組織構造を明らかにする」と書かれています。
教育行政研究では、これまで、文科省が取り上げられてこなかったようです。

日本の教育行政を分析するには、このような組織の分析のほかに、機能の分析も欲しいですね。
・文科省が教育現場にどの程度影響を与えているか
・特に教育現場を「支配」している、現場が文科省に「依存」していると呼ばれる関係の実態
・文科省が教育現場の課題をどれだけ吸い上げているか
・文科省の役割の諸外国との比較
・なぜ、学校教育だけでは不十分で、多くの生徒が学習塾に通うのか
なども次の研究に期待しましょう。

苅谷剛彦先生「演繹型の政策思考」

4月1日の日経新聞教育欄、苅谷剛彦・オックスフォード大学教授の「根深い演繹型思考が背景 迷走する政府主導の大学改革」から。

・・・英国から帰国の度に日本の大学人から、改革疲れ、改革への徒労感といった話を聞く。大学改革を進める側の理念と教育現場とのギャップを示す現象である。大学改革が迷走しているといってもよい。

なぜ、迷走は続くのか。佐藤郁哉編著『50年目の「大学解体」20年後の大学再生』への寄稿で展開した私の答えは、「演繹型の政策思考」と呼んだ思考様式にある。
しかも、その根は明治以来の日本近代化の出発点に遡る。日本の現実を丹念に観察し、そこから得た事実から帰納的に思考し、制度を設計してきたのではない。先進する外来の制度と理念を抽象的に理解し、その翻訳と解釈を通じて日本に適用してきた。演繹と帰納の両方を不可欠とする社会科学的思考とは異なる、法学的思考を基礎とした日本型官僚制に根ざした思考様式である。権力の上下関係だけでなく、思考スタイルの点でも、「上からの改革」を進めるざるを得ない習性が現代に引き継がれたのだ・・・

私が指摘している、「明治以来の追いつき型行政」の限界の例です。
教育行政も、欧米をお手本としていました。追いついたときに、「自分で考える」に転換する必要があるのです。それに遅れています。
「欧米に留学する」ことが「定番」で、「教育現場で課題を拾って解決する」ことになっていません。文科省には、学校現場で教えた、そして苦労した経験がある職員は、どの程度いるのでしょうか。

もう一つ、追いつき型行政の欠点があります。日本を発展させる過程で、学校教育は「優秀な国民をつくる」「よい子を育てる」が目標になりました。生徒を難関校に入れる、スポーツで良い成績を上げる・・・です。
落ちこぼれが出ることを、想定していないのです。しかし、みんながみんな、「よい子」にはなりません。彼らへの対応も、遅れています。

文科省から、教育委員会、教師まで、この思考の枠組みにとらわれています。国からの指示を待って実行するのです。「教育現場で課題解決する」という思考になっていません。
昨年、ランドセルが重いという問題が、指摘されました。文科省が「必要に応じ適切な配慮を求める通知」を出したようです。しかし、これなども、文科省が指導するような話ではないでしょう。

厚労省再編案

日経新聞1面連載「崩壊 厚労省」、3月29日は「不祥事が阻む真の改革」でした。

・・・「単に厚生労働省を2つに分割するのではなく、国民の安心を所管する省を強化するという発想で考えてみたらどうか」。いまから約10年前の2009年5月、政府の安心社会実現会議で当時の麻生太郎首相が厚労省分割を提案していた。
麻生氏の腹案は「社会保障省」「国民生活省」に分け、内閣府や文部科学省と業務を整理するものだった。07年に年金記録問題、08年に後期高齢者医療制度導入の混乱、と不祥事が続き「厚労省は大きすぎて統治が働かない」との批判があったためだ。だが発言の4か月後、政権が交代して立ち消えになった・・・

私の主張は、厚労省を分割することが主ではなく、内閣府の消費者庁、共生社会統括官、男女共同参画局を核として、国民生活を守る部局を統合することです。結果として、厚労省の、働き方部門(労働)や家庭や子育て部門は、こちらに統合されます。「国民生活省構想」「国民生活白書」をご覧ください。

河合晃一著『政治権力と行政組織 中央省庁の日本型制度設計』

河合晃一著『政治権力と行政組織: 中央省庁の日本型制度設計』(2019年、勁草書房)を紹介します。
金融庁、消費者庁、復興庁が、どのような経過でつくられたかを分析した本です。2001年の中央省庁再編は、私も記録しました。『省庁改革の現場から』。本書は、その後につくられた組織を対象としています。
中央省庁再編は、全体を見通した哲学と制度設計の下に行われました。それに対し、本書の対象となった組織は、それぞれの時代の課題を解決するためにつくられたもの、特に復興庁は急ごしらえでつくられたものです。

このほかに省庁の組織改編としては、次のようなものが思い浮かびます。
・スポーツ庁、観光庁の設置(組織の格上げ)
・出入国在留管理庁の設置(新しい課題に対応)
・社会保険庁、原子力安全・保安院の廃止(行政の失敗による)
・少し古いですが、厚生省薬務局、農水省畜産局の廃止

私も、著者からインタビューを受けて、復興庁の設置についてお話ししました。それも反映されているとのことで、名前を挙げてもらいました(P126)。お役に立てたら、うれしいです。