カテゴリーアーカイブ:行政機構

復興政策の検証

2022年1月25日   岡本全勝

読売新聞「記録誌作成へ」に載りました」の続きです。役所が自らの実績を評価することは良いことだと思います。

失敗をしでかしたときは、内部または外部の人を入れて、原因究明と再発防止のための検証委員会がつくられます。最近では国土交通省の統計書き換え事件です。
他方で、各省が出す白書には、政策とその成果が書かれます。これは、毎年という期間です。また、各省の局が持っている機関誌や関係業界の雑誌には、新年号に局長などが前年の振り返りと新年の取り組みを書くことが多いです。

ところが、5年や10年という期間で、その省や局の成果を振り返ることは、あまりされていないようです。多くの組織では「10年史」「20年史」が作られます。役所でもかつてはありました。しかし最近は見ません。5年とか10年は、適当な時間だと思います。それより長くなると、関係者もいなくなり、記憶も薄くなってしまいます。

評価をするためには、物差しが必要です。そして、成果を測る必要があります。白書に載っている数値は、多くの場合に成果ではありません。実は、役所のほとんどに、今年1年、これからの3年間に何をするかという「目標」がないのです。

実績を見る際に、3つのものがあります。
「投入量」(インプット)。予算額、つくった法律など
「産出量」(アウトプット)。復旧した道路、防潮堤の延長など
「成果」(アウトカム)。住民の暮らし、町のにぎわいがどの程度戻ったか
役所が行う評価は、しばしば投入量を測ります。「予算を確保した」「法律をつくった」は霞が関では成果ですが、被災地にとっては投入量でしかありません。
私が記事で「被災者の目線で検証をしてもらいたい」と言ったのは、被災地で見た、被災者から見た成果検証としてほしいのです。復興庁の使命は「被災地の要望に応えること」であって、それができたかどうかです。いくらたくさんの防潮堤と道路を造っても、町の暮らしが戻らないと意味がありません。

このような試みは、各省でも実施されませんかね。
まず東日本大震災では、原発事故復旧の検証をしてほしいです。今回の復興庁の検証では、その前身である緊急災害対策本部被災者生活支援本部(津波災害)は検証対象に含まれますが、原発事故の復旧は「原子力災害対策本部」の所管であり、復興庁の所管の外なのです。対策本部は会議体なので、資料の保存や検証はその事務局の仕事になります。
原発事故がなぜ防げなかったか、冷温停止になぜ失敗したかは、国会、政府、民間の事故調査委員会が検証しましたが、その後の復旧作業の検証がなされていません。

イノベーションに対応できない官僚機構

2021年12月11日   岡本全勝

12月3日の日経新聞連載「ニッポンの統治」、冨山和彦氏の発言「統治構造、変化に対応できず」から。

――なぜ日本の統治が機能不全を起こしているのでしょうか。
「2つの要因がある。一つは明治以来中央省庁の形が変わっていないことだ。縦割りの構造がデジタル化など現代直面する課題とかみ合っていない。規制改革会議でも単独の省庁で完結する規制緩和はほぼ終わったが、省庁をまたいだ改革になると調整に時間を要し、動きが途端に鈍くなる。例えばドローンの規制緩和では5~6の省庁が関わり、改正する関連法令は数十に上るため、決まる頃には時代遅れになる」
「もう一つは霞が関の終身、一括採用モデルへの魅力が薄れている点だ。自分より若い世代からロールモデルが変わり、外資系証券など就職する間口が広がった。崇高な志を持ち、国家の役に立つために、キャリア官僚として40年近く働く必要がないと思われてきている。戦略的に人事を担う内閣人事局の仕組みも悪くはないが、終身雇用とは相性が悪い」

――日本では米国のようなイノベーションが生まれにくくなっているように見えます。こうしたことも統治構造に理由があるのでしょうか。
「日本でイノベーションが生まれにくい理由は、英米との法体系の違いにもあると考える。柔らかく法律を作り、もめた場合は裁判で解決する英米の判例法主義に対し、日本の法文化は法の前提となる規範概念を決めていく実定法主義だ。イノベーションを促すようなこれまで見たこともないものに規範概念を当てはめていくのは難しく、実定法主義に慣れた官僚は対応できない」

デジタル庁の課題

2021年10月2日   岡本全勝

9月23日の読売新聞解説欄は、「デジタル庁 新司令塔の課題」でした。佐藤一郎・国立情報学研究所教授の発言が、要点をまとめていて、分かりやすいです。

・・・2001年の「e―Japan戦略」以降、日本はIT戦略を数年おきに発表してきたが、いつもかけ声倒れに終わってきた。戦略の全体目標があいまいだった上、各府省庁が個別に小粒の施策を打ち出し、相乗効果を発揮できなかったためだ。失敗した原因の総括もなかった。
今回は、デジタル行政の司令塔となるデジタル庁の組織づくりから着手した点がまず評価できる。省庁にまたがるシステム関連予算をデジタル庁が一括計上する仕組みも、リーダーシップの源泉となるだろう。
ただし、システムを熟知しているのは現場の府省庁や自治体だ。強権的にシステムの一元化や標準化を進め、業務に支障が出る事態は好ましくない・・・

・・・デジタル庁は内閣直轄で、民間人材も多い。これまでにはない特異な組織だ。民間人の登用自体は問題ないが、役所と民間を行き来する人がいる以上、調達の公平性を担保する仕組みが必要だろう。弊害が起きていないかをチェックする仕組みを整えてほしい。中立的な立場でデジタル庁の成果を評価する仕掛けも講じるべきだ・・・

・・・日本のデジタル化は先進国の中でも周回遅れだ。海外は電子申請手続きなどがすでに進んでおり、デジタル化を住民が行政活動を可視化する手段とするための模索が始まっている。
世界の先を目指すには、行政の業務や組織をデジタルでどう変え、どのような社会を目指すのかの全体構想を描く必要がある・・・

1「失敗した原因の総括もなかった」とは、耳の痛い指摘です。省庁には、失敗を検証する仕組みがありません。
2 省庁は所管業務は法律に明示されているのですが、いつまでに何を達成するかの目標が示されていないことが多いです。その点、デジタル庁は、目標がはっきりしています。「制度所管」」でなく「課題所管」で運営してほしいです。「制度を所管するのか、問題を所管するのか

行政の自縛

2021年8月1日   岡本全勝

「復興庁の二つの顔」で紹介した菅野拓先生の「災害対応ガバナンス 被災者支援の混乱を止める」(2021年、ナカニシヤ出版)を紹介します。この本にも、復興庁が出てくるのですが、今日紹介するのは行政のあり方についてです。

日本の被災者支援の水準が低いことは、よく指摘されます。例えばイタリアの避難所では、温かい食事やワイン、ベッドがすぐに提供されます。東日本大震災では、現場の声、避難所運営に当たってくれた非営利団体からの指摘を受けて、かなり改善しました。

菅野先生は、次のように指摘しています。
戦後日本の災害対応の基本は、行政、特に地方自治体が中心となって、ハード(施設復旧)中心に行う、民間組織は参画しないというものであった。災害救助法は有事の際の生活保護法であり、生存権を保障するという当時の社会保障の一端であった。他方で、災害対策基本法などで、インフラ復旧が行政による災害対応の中心となった。個人の生活復興は置き去りにされ、災害弔慰金法(1973年)や被災者生活再建支援法(1998年)は、議員立法により成立した。

そして、被災者の生活支援を向上させるために、次の2つを提唱しています。
・企業や非営利団体といった政府以外の担い手も、公的な根拠を持って自律的に災害対応に参画すること
・被災者支援を社会保障制度体系の中に位置づけて、平時の社会保障の担い手たちが被災者支援を行うこと
このことによって、さまざまな担い手がその得意技に応じて自発的に対応し、その活動を調整することで協働して対応することができます。不得意な仕事まで国や自治体に押しつけることをやめ、「餅は餅屋の災害対応」を生みだすことを目指します。

ここに見ることができるのは、戦後に作られた災害対応制度が、当時としては有効だったのですが、その後はそれらの制度に縛られて、新たな発展に遅れたことです。また、公私二元論に縛られ、企業や非営利団体の存在と役割を忘れていたことです。
災害時には、そのような行政の限界と欠点が露呈するのでしょう。日本の行政を考えるにすばらしい考察です。お勧めです。

国家警察

2021年7月12日   岡本全勝

6月25日の朝日新聞に「警察庁、対サイバー体制強化 局新設方針 自ら捜査へ直轄隊」が載っていました。
・・・警察庁は24日、サイバー攻撃やサイバー犯罪に対処する体制を強化するため、関係の部門を集約した「サイバー局」を新たに設ける組織改編の構想をまとめた。警察庁が直接捜査する「サイバー直轄隊」も設置する方針で、捜査権限は都道府県警が持つという従来の警察のあり方から踏みだすことになる・・・

日本の国家警察(国家公安員会、警察庁)は、実働(捜査や逮捕をする)部隊を持たない警察です。警察活動の権限は都道府県警が持ち、警察庁は都道府県警を指揮監督するとされています。皇宮警察は例外です。
戦前は、警察は内務省の組織で、国家警察でした。戦後の改革で、市町村警察になり、その後に都道府県警察になりました。国には国家公安員会とその特別の機関である警察庁がありますが、部隊を持っていません。

戦前の反省で、国家警察が実働部隊を持たないようにしたのでしょうが、欠点もあります。総理や大臣の警護を、東京都の公安委員会(警視庁)が行っています。東京都の外に出ても、警視庁の警護官が同行し、現地の警察と協働で警護するのです。国外に行くときも同行します。
各県警の幹部は国家公務員で、その多くは警察庁からの出向です。自治体の幹部が国家公務員というのは、現在の国と地方の役割分担(分権)の中で、たぶん唯一だと思います。

都道府県をまたがるような犯罪は、各県警が連携を取れば対応できます。しかし、サイバー犯罪のように、犯人の場所が特定しにくい犯罪、国外からの犯罪には、各県警では限界があります。あの連邦制のアメリカでも、連邦捜査局FBIがあります。イギリス警察も、近年改革があったようです。