「行政機構」カテゴリーアーカイブ

行政-行政機構

内閣官房の肥大化

9月29日の朝日新聞に、「内閣官房「分室」、安倍政権で40に膨張」が載っていました。
・・・安倍政権で目玉政策が打ち出されるたびに、省庁横断的に対応するため内閣官房に設けられてきた「分室」が過去最多の40にまで膨れあがっている
・・・分室は、法律や閣議決定などに伴い、特別職の官房副長官補がトップを務める内閣官房副長官補室(通称・補室〈ホシツ〉)の下に置かれる。内閣官房に与えられている総合調整の機能を使い、複数の省庁にまたがる重要政策に対応しやすくするのが役割だ。
内閣官房によると、分室は、中央省庁再編時の2001年には5室あった。その後、増えたり減ったりした。7年8カ月余り続いた安倍政権では、31室が役割を終えて廃止されたが、それを大きく上回る48室が新たに作られ、今では40室までに膨らんだ。各省庁から1~2年程度出向している職員を中心に、官房に約800人が常駐しているという・・・

・・・新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、対策強化のために3月下旬にできた「推進室」は多忙を極める。その一方で、安倍政権が選挙などのたびに打ち出したスローガン、「働き方改革」「1億総活躍」「人生100年時代」などを冠した分室は、4月1日時点で常駐の職員がいない。複数の分室の役職を兼務する職員も少なくない。ある官邸幹部は「中には何を今しているのか分からないものもある」と認める。
ただ、議員が主導した法律に伴い設置された分室もあり、「廃止や移管すると、『政府の意識が低い』と映ってしまう恐れがあり、なかなか簡単に減らせない」(官邸幹部)といった事情も、分室が減らないことの背景にある・・・

どのような室があるか、記事を見てください。
このような内閣官房をはじめ総理官邸を支える仕組み、そして各省など国家行政機構についての解説書って、ないのですよね。地方行政・地方自治は、大学に講座があり、研究者がいて、マスコミにも専門家がいて、学会もあります。本屋に行くとたくさん関係書が並んでいます。ところが、国家行政・中央政府の研究って、組織だって行われていないのです。「市場」が成り立たないからでしょうが。

幸い、私は総理官邸や内閣府などに勤め、霞が関全体を見るという経験をしました。もちろん、各省の細部までは知りませんが。時間ができたら(現在の連載が終わったら)、次の取り組みとして、国家行政を分析したいと考えています。いつのことやら・・・。

償いの主体

「原子力災害伝承館が伝えることと残っていること」その2「失敗した際の償い」の続き3です。
9月30日に、原発事故を巡り、福島県内の避難者らが国と東電に損害賠償などを求めた訴訟の判決が仙台高裁で出ました。判決では、国と東電の責任を認め賠償を命じました。この判決の当否については、ここでは触れません。

ここで取り上げるのは、その判決への政府の対応です。報道によると、官房長官が記者会見で答え、原子力規制委員会委員長も答えています。もっとも、原子力規制委員会は、委員長が答えているように、この事故を受けてつくられた組織で、将来の事故を防ぐための組織です。東電福島第一原発事故について、責任を問われる組織ではありません。
「受け止めですけれども、改めて、原子力規制委員会というのは、東京電力、福島第一原子力発電所の事故に対する反省やほとんど怒りと言っていいようなものに基づいて、設置された組織ですので、今回も、今日も改めて引き締めていきたいというのは、今後とも我々というのは、原子力発電所をはじめとする原子力施設の規制を、厳正な規制を進めていくというのは、第一の所感につきます。」

日本の国家行政組織は、分担管理という原則があります。ある案件はどこかの府省に割り当てられます。どこの府省にも割り当てられず、内閣・内閣官房が所管する事務もありますが。
経済産業省原子力安全・保安院が担っていた事務で、他省に引き継がれなかった事務は、経産省に残っていると考えられます。ここで取り上げている「償い」は、まさにそれです。国が被告の裁判の判決が出た際に、国としての考えを述べるのは、経産省でしょう。
しかし、経産省は何も表明していないようです。このあと、国会で質問が出たら、答えるのは経産大臣だと思うのですが。

起業を妨げた認可行政

日経新聞私の履歴書、9月は、寺田千代乃・アートコーポレーション名誉会長です。女性経営者の草分けです。苦労の数々が書かれています。9月10日の「事業免許」から。

・・・もっとも、引っ越し専業という業態が成り立つと考えていた人はほとんどいなかったと思う。1年間で見れば3月末、さらに月末、週末に依頼が集中し、繁閑の差が激しい、などの理由からだ。寺田運輸とは別の会社で運送免許を取る相談を陸運局に持ちかけた時のこと。「お宅は寺田運輸で引っ越しをやってはるんだから、それでいいじゃないですか」と言われた。

当時私は29歳。小柄で童顔なので経営者の娘が思いつきで考えた事業と思われたのだろうか。丁寧な口調で諭すように経営の難しさを指摘され、軽くあしらわれた。その後も「十分に成り立つ裏付け、一定の顧客が引っ越しを依頼することを証明する書類を出して下さい」と求められた。

事業を始める前に実績提示が必要とするような指導には疑問を感じた。どこにいるのか分からない顧客の依頼の確約証明など示せるはずがない。仕方がないので寺田運輸の仕事で取引のあった企業3社にお願いして、社員が引っ越す場合は運送を依頼するという契約書を作って提出した。地場企業で社員の地域間移動、つまり引っ越しがほぼない会社ばかりだったが、ほどなく申請が受理された・・・

北村 亘教授、日本の行政はスリムすぎる

中央公論』10月号は、特集「コロナで見えた公務員「少国」ニッポン」です。よい視点ですね。
そこに、北村 亘・大阪大学教授「日本の行政はスリムすぎる コロナ禍が炙り出す宿痾、意識調査に見る府省間格差」が載っています。10ページの小論ですが、重要な視点からの、深い内容が書かれています。お勧めです。多くの公務員が、納得すると思います。

取り上げられている論点を、いくつか紹介します。
・先進各国に比べ日本は公務員数が少ないことは、既に指摘されていますが。これが災害対応やパンデミック、さらには官邸から指示される新規施策の設計実施に職員が足らなくなっていること。危機時だけでなく、平時においても、職員数不足が露呈しました。
私も、常々問題に思っています。職員数不足は、民間委託で切り抜けています。しかし、新しいことを考える時間がないのです。例えば、公共事業などを民間委託するのは納得できますが、近年では企画立案や国民からの申請交付といった業務まで、設計と実施が企業に委託されています。官庁と自治体に人的余力がなく、他方でノウハウもなくなっています。
・省庁別に予算と定員、幹部職員比率が、二次元のグラフで図示されています。これは面白いです。
・予算額と職員数を比較して、官庁を3つに分類しています。
これまで私たちは、制度官庁・実施官庁と区別していましたが、ここでは、政策助言官庁・移転官庁・政策実施官庁の3区分です。これは納得です。制度官庁・実施官庁の区分は、発展途上社会・昭和までの官僚主導国家での区分でしょう。
官庁がこれからどのように生き延びていくか。この「性格区分」が使えそうです。
・2019年に先生たちが実施した「官僚意識調査」の結果が利用されています。この分析も興味深く、納得します。官僚の皆さんには、ぜひ読んでもらいたいです。

官庁や自治体の構造的問題を、コロナ危機対応という事案から指摘する。久しぶりに、実のある官僚論を読みました。
先生が、この論点をさらに掘り下げられて、論文や書物にされることを期待しています。
ところで、私の連載「公共を創る」も紹介されています。ありがとうございます。