カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

マイナンバーを利用した住民サービス拡大

5月11日の日経新聞オピニオン欄、大林 尚・上級論説委員の「個人データ把握は怖くない マイナンバー、安心の利器」から。

・・・公権力による個人データの把握をどこまで認めるかという、日本人が議論を先送りしてきた問題をコロナ禍が浮かび上がらせた。二つ挙げる。
まず、一部でようやく始まった10万円の給付。年金生活者や休業補償がある会社員など、収入の途絶と無縁な人にも配るのは、本当に困っている人の特定に多大な労力と時間を要するからだ。各人の雇用形態や所得を公権力がマイナンバーで把握し、番号からそれぞれの預金口座情報をたぐり寄せられれば、真に助けが必要な人はとっくの昔に現金を手にしていた。

次に、マスクの配布を台湾と比べる。日本は厚生労働省が巨額の公費を使って郵送するアナログ方式。台湾はスマホのアプリで在庫データをネット上の地図に公開し、事実上の配給制によって混乱を鎮めるデジタル方式だ。アナログ方式が膨大な無駄を生んだのは、言わずもがなだ。

公権力による個人データの把握をどう考えるかは、人権のとらえ方にあらわれる。人権を自由権、社会権、参政権に分けると、自由権は「公権力からの自由」、社会権は「公権力による自由」に換言できる。カメラの例にあてはめれば、日々の行動を監視されるのはご免だというのが自由権、犯罪やテロを抑止するためにくまなく見張ってほしいというのが社会権である・・・

砂原教授、政策会議の分析

季刊『行政管理研究』2020年3月号に、砂原庸介・神戸大学教授他による「政策会議は統合をもたらすか―事務局編制に注目した分析」が載りました。ここで取り上げられる政策会議は、首相を長として閣僚や有識者が参加して議論する会議です。

これまでも、中曽根政権での第二次臨時行政調査会、橋本政権での行政改革会議といった審議会や私的懇談会がありました。小泉政権では、経済財政諮問会議が有名です。
安倍政権になってから、首相を長とする、特定課題の会議が、たくさん作られています。「内閣に置かれた会議一覧」。その事務局が内閣官房に置かれます。「内閣官房組織図

2001年省庁改革以降の政策会議の増加や内閣官房・内閣府との関係、政策の統合からの観点などが、よく整理されています。
小泉政権での経済財政諮問会議と、安倍政権での各種政策会議とは、全く機能が異なっています。
小泉首相は、この会議を使って、与党や各省の既得権に切り込もうとしました。反対者を押さえ込む手段として使いました。安倍首相の場合は、そのような与党や各省との対立は見られません。
また、経済財政諮問会議は、それまでの審議会が個別分野ごとに議論していたものを、一つのテーブルに載せることで、総合調整をしようとしました。社会保障と税財源との議論が一緒に行われたのです。一緒に行えたのです。それに対し安倍内閣の政策会議は、個別課題ごとに設置され、政策の統合機能はありません。

かつて、審議会は「官僚の隠れ蓑」と批判され、省庁改革の際に大幅に整理統合するとともに、役割を制限しました。私が担当参事官でした。拙稿「中央省庁改革における審議会の整理」月刊『自治研究』(良書普及会)2001年2月号、7月号。
審議会は、「官僚に決定権はない、しかし政治家が決めてくれない。そこで審議会という形を取って議論を整理し、その結果を政策とする」という、官僚主導の時代の手法でした。政治主導になると、首相や大臣の下で、官僚機構を使うのか、有識者も入れて議論するのか、どちらかによって意見の集約をするのでしょう。このほかに、与党で議論を集約する方法もあります。

次々と起こる新しい事態

公務員の仕事は「前例通り」と言われることがあります。しかし、次々と、これまでにないことが起きています。9年前の東日本大震災、そして今回のコロナウィルス流行です。ここに、日本の政治と官僚機構の力量が問われます。参考「3月19日に思う、災害対策の要点

もっとも、このような災害だけでなく、技術と社会の変化によって、対処すべき新しい事態も起きています。例えば、ガーファ(GAFA)など巨大IT企業による情報産業の支配、それらに対する個人情報の保護、他方でスマホやゲーム機による中毒もあります。
ゆっくりと進む社会の課題には、引きこもり、虐待、子どもの貧困、孤立などがあります。災害や事件事故は、ニュースとして大きく取り上げられますが、このような緩慢な変化は、見落とされがちです。

明治以来発展してきた日本の行政機構と行政手法は、昭和後期にすばらしい成果を発揮しました。しかし、その後に起きている新しい課題に、まだ十分対応できていません。それを、連載「公共を創る」で論じています。

経済発展、モノとサービスの充実に適した行政機構は、提供者側、事業者側に沿った組織と仕組みになっています。ところが、大震災でもコロナウィルスでも、被災者や困った人たちに応える必要があります。しかし、行政機構と発想はそうなっていないのです。
マスクの増産は、これまでの行政機構でできます。課題は、誰がそれを求めているか、その人にどのようにして届けるか。生活資金に困っている人は誰か、どのようにその人たちを把握し、救うかです。そのような案件を所管する省庁がない、そのような思考をする省庁がないのです。

経産省、伴走型支援

2月11日の日経新聞東京経済欄に、「関東経済産業局、伴走型で中核企業育成」が載っていました。
・・・関東経済産業局が地域の中核企業の育成で新たな手法を試行している。企業の悩みに応じて解決策を提案する「ご用聞き」型の支援を脱し、経営者が気づかない課題を発掘して自発的な変革を促す伴走型のコンサルティングを導入した。各地で本格展開を目指すが、成果を生むには経営者と誠実に向き合う根気が不可欠で、現場の職員らの本気度が問われる・・・

2019年6月から、経産局職員と公募で選んだ民間コンサルタントによる官民合同のチームが、企業を訪問し、支援を続けています。
この手法は、福島の原発被災地で、経産省が取り組んだ「福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)」で開発されたものです。記事にもあるように、角野然生・関東経産局長が、福島で作った手法を持ち込みました。

拙稿連載「公共を創る」第19回で、この手法を取り上げました。被災地の事業者には中小や零細な人も多く、産業振興制度を作っても活用できないことも多いのです。
ひるがえってみると、これまでの産業政策は、振興計画や補助金などが主な手法でした。国が制度を作り、希望する企業が応募します。大企業相手ならこれでよかったのですが、小さな事業者では、応募するだけの能力を持っていません。今回始めた、個別支援・伴走型支援は、画期的だと思います。

もちろん、成果を出すためには、記事でも指摘されているように、継続が必要です。しばしば指摘されるように、「法律や補助制度を作ったら終わり」というこれまでの行政では、成果は出ません。その点でも、新しい行政の手法が試されています。

各省の業務量と職員数比較

自民党行革本部が、6月27日に「霞が関の政策立案部署等の業務量調査結果と今後の対応」をまとめました。知人に教えてもらいました。内容は原文を読んでいただくとして、興味深い資料が付いています。

まずは、いくつかの指標による、各省の業務量比較です。
「主な省庁の内部部局定員(1,000人)当たり業務量比較1/2」国会答弁回数など(p5)
「主な省庁の内部部局定員(1,000人)当たり業務量比較2/2」政省令の量(p7)

次に、各省の定員です。「各行政機関の定員」(p10)
本省の定員が興味深いです。
内閣府1,487人、警察庁2,472人、金融庁1,123人、総務省2,514人、法務省896人、外務省2,682人、財務省1,788人、文科省1,549人、厚労省3,664人、農水省3,776人、経産省2,451人、国交省4,686人、環境省898人、防衛省1,389人。

各省、各局、各課の職員数を客観的に決める、数式や指標はありません。
それなりの理由と経緯があって、このような数字になったのでしょうが。やや意外な数字があります。