カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

内閣官房が持つ法律

私が省庁改革本部に勤務した時(1998年~2001年)、国家行政組織を勉強しました。内閣の事務は各省庁が分担すること(分担管理原則)といった原則や、各省庁の内部組織や職員といった実情です。知らないことが多かったですが、知られていないことも多かったです。
その一つが、内閣官房でした。各省庁についてはそれなりに書かれたものがあり、仕事も見えましたが、内閣官房がどのようなものか、また首相官邸がどうなっているのかは、書かれたものはなかったです。

その時知ったことの一つに、原則として内閣官房は実施事務を持たず、各府省に担わせることでした。私が内閣府官房審議官の時に内閣官房審議官の併任を受け、再チャレンジ政策を担当しました。その際も、よく似た名前の辞令を内閣官房と内閣府からもらいました。首相の指示を受け、内閣官房で再チャレンジ政策を考えるのですが、実施事務は内閣府が行いました。なので、内閣官房は作用法を持っていなかったのです。

省庁改革で、総理の法案提出権を明確にしたこともあり、内閣官房が法律を持つケースは増えてきました。内閣官房のホームページを見ると、所管法律が載っていますが、結構な数になっています。
問題は、他の府省と異なり、さまざまな分野の政策を抱えているので、政策体系を作ることができません。この全体像をわかる人はいないでしょう。何らかの対策を打たないと、さらに膨張して、わかりにくくなると思います。

記録、復興庁設置の経過

先日、防災庁構想について話しました。記録のために、復興庁設置の経過を書いておきます。

当時(2011年夏)は、復興本部で被災者の支援と被災地の復興に向けた政策の立案と実行に追われていました。仮設住宅建設が完了したのが秋でした。続いて、流された町の復興計画を作っていました。
それと並行して、復興庁設置の作業をしていました。このような新しい役所をつくることは、近年では前例のないことです。
組織の内容は、復興本部を基礎として、発展させることとしました。法案は、法制班を作って作業をしてもらいました。担当の阪本克彦参事官(総務省行政管理局、現・内閣人事局人事政策統括官)が、職員たちと長時間労働をして、短期間でやり遂げてくれました。法制班は、このころ同時に3本の新法を作ったのです。驚異的でした。緊急を要する事情で、平時では想像しにくい「突貫工事」ができたのだと思います。

私は、法案決定過程で、当時野党の自民党幹部の了解取り付けに苦労しました。何人かの方が、復興庁が直接、復興事業を担うべきこと、そのための組織を抱えることを主張されたのです。何度も通って、そのような職員を集めることが困難なこと(国土交通省などから移籍してもらう必要があるが、国土交通省も人が余っているわけではないこと)、現地の事業を復興庁と国土交通省などとで切り分けることが複雑なことを理解してもらいました。
それらを含めて、4か月で法案を閣議決定しました。

2011年6月24日 東日本大震災復興基本法公布。復興庁の設置を決定
11月1日 復興庁設置法案閣議決定
12月9日 復興庁設置法成立
2011年12月16日 復興庁設置法公布
2012年2月10日 復興庁開庁

中央省庁の定員管理

季刊『行政管理研究』2024年9月号に、長屋聡・元総務審議官が「中央省庁改革以降の行政改革施策について(その2)」を書いています。紹介が遅くなってすみません。

その「はじめに」にも書かれているように、政府の機構や定員の膨張抑制は、長年、継続的に取り組まれてきたのですが、近年その解説がなかったのです。この論考は、その点で価値の高いものです。
定員合理化計画は、1968年以降、2025年度から始まる第15次計画まで続けられています。合理化計画で政府全体で定員を削減して、それを財源として必要な部署に割り当ててきました。よって、合理化計画の削減目標(多くは5年で5%~10%削減)が実行されても、他方で増員が認められるので、純減数にはならず、増える場合もあります。

このような努力によって、食糧事務所、林野、運転手などの分野で大きく削減し、それを財源として新しい分野に振り返ることができました。しかし、私も何度か書いているように、日本の公務員数は世界各国の中でも、極めて少ないのです。そして長期にわたり定員削減を続けてきたので、もはや限界に来ています。いえ、削減しすぎたと言えるでしょう。
他方で、東日本大震災対応、こども家庭庁、デジタル庁、新型コロナ対策など新しい行政分野での増員が必要なっています。ワークライフバランスを進めると、実労働時間が減り、その隙間を埋める必要も出てきます。それで、2019年度以降、政府全体では純増になっています。

組織管理の経過と考え方も書かれていて、有用です。
また同号には、植竹史雄・内閣人事局主査に「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針の一部変更について」も載っています。

「その1」(2024年3月号)は、小泉内閣から岸田内閣を対象として、その間の行政改革の取り組みを整理しています。「第二次臨調以降の行政改革施策」(1、2)に続く、行政改革・行政管理の記録です。

モノから関係へ、行政の役割変化

拙著『新地方自治入門』(2003年、時事通信社)で、行政のこれまでとこれからを論じました。そのあとがきに、「モノとサービスの20世紀から、関係と参加の21世紀へ変わることが必要」と書きました。
発展期の行政は、モノとサービスの提供を増やすことが役割でしたが、豊かな社会を達成すると、課題は人と人との関係や役所からの提供ではなく、住民が参加することが重要になるという主張です。この時点では、孤独と孤立問題の重要性に気がついていませんでした。

その後、孤独と孤立が問題になりました。阪神・淡路大震災、東日本大震災でも、孤独と孤立は問題になり、対策を打ちました。しかし、この問題は被災地だけでなく、日常生活に広がっています。
連載「公共を創る」で説明しているように、自由な社会は、どこで暮らすか、どのような職業を選ぶか、結婚するかどうかといった自由を実現しましたが、他方で孤独も連れてきたのです。他者とのつながりは、行政や企業が一方的に提供できるものではなく、本人の参加が必要となります。

この変化の一つの例が、住宅政策です。当初の住宅政策は、不足する住宅の提供、安価で質のよい住宅の提供でした。しかし、住宅は余り、空き家が増えています。他方で、孤立や孤独死が問題になっています。モノとサービスの提供から、関係と参加の確保が課題なのです。土木部ではなく福祉部・住民部の仕事に移っています。

『フランスという国家』行政の再評価と再設計2

『フランスという国家』行政の再評価と再設計」の続きです。

このページでも時々紹介している「自治体のツボ」に、『フランスという国家―繰り返される脱構築と再創造—』の書評(読書感想文)が載りました。
丁寧に読んで、詳しく紹介しています。お読みください。

・・・はっきり言って、欧州の行政はわからない。欧州統合下の各国のあり方は複雑怪奇。それでもフランスが置かれている状況と日本が置かれている状況が変わらないことがよくわかる。つまり日本の国家のあり方を考えるよすがになる本だ。
▼コロナが復権させた国家
あまりにざっくり言うと、国家はコロナの蔓延防止のために権力を振りかざし、国民に服従を強いたことで息を吹き返した。グローバリゼーションと新自由主義で役割を失いつつあったが、国民の健康を守る福祉国家として再生した。
▼要塞国家の流れは不可逆
国民の安全を守る役割に目覚めた国家は、逆ネジが働く脱グローバリゼーションと戦争の危機の中で、引き続き経済の安定に介入するよう促されている。大衆監視の危機も孕みつつ、安全が至上命令となった政府の重要性は増した。
▼経済的愛国主義の興隆へ
グローバルな経済競争の中で国益を守るにはどうするか。保護主義的な守りの戦略とイノベーション促進などの攻めの戦略の巧拙が問われる。国際的な相互依存は変わらないとしつつも、コロナで台頭した経済介入主義は戻り得ないと説く。

シュヴァリエ氏は、コロナが国家の権力を増大させ、コロナが落ち着いたあともその流れは不可逆と見る。その時々に直面する状況で国家の役割は変わるものであり、今の世界は市民が国家の力に安全と安心を託す局面なのだ、ということだろう・・・