カテゴリーアーカイブ:行政機構

自治体情報システム標準化の遅れ

2026年4月10日   岡本全勝

時事通信社の地方団体向け専門情報サイト「iJAMP」4月1日に、庄司昌彦・武蔵大学教授「システム標準化「多くの犠牲の上でたどり着いた60点」」が載っていました。
この問題(期限に間に合わないこと)は、当初から指摘されていました。現場での移行が遅れたのではなく、そもそも期日の設定に無理があるというのです。突然、現場の意見も聞かずに、移行期限を決められたとも言われています。記事でも、意思決定過程の不透明さが指摘されています。

・・・地方自治体の情報システム標準化は2025年度末に移行期限を迎えた。「半数超の自治体で遅れ」と報じられているが、1システムでも遅れる自治体がいくつあるかというより、約3万4000のシステムのうち、どれだけ遅れているかという視点の方が重要だ。大いに心配していたので、期限までに移行完了したシステムが半分を超える見込みという現状は「なんとか大失敗にはならなかった」と捉えたい。多くの障害を乗り越え、いわば文字通りの不眠不休の努力の上に何とかたどり着いた「60点」と評価できる。ぎりぎり合格点といったところだが、途中でもっと判断を誤れば、50点、40点、もしくは30点となったリスクもあっただろう・・・
・・・スケジュールを巡って、自治体関係者の反応が厳しいことは承知している。ここまできたら遅れの有無そのものを問題にすべきではない。遅れを問題視すれば、「危険でも早く終わらせろ」という動機が働きかねない・・・

・・・心身を病んで離職した職員や「もう行政のシステム市場には関わりたくない」と言っている業者も存在する。意思決定をする立場の人は、こうした事実を認識すべきだ。特定の悪者がいて、どこかと癒着していたというような単純な構図ではなく、情報共有や意思決定に関する構造的な課題が主な原因であると考えられる。今後もシステム改修は続くので、今回の反省を次に生かしていかなければならない。
標準化20業務のうち9業務について座長として仕様書策定に関わった立場でも見えない部分が多いくらい、標準化やガバメントクラウドに関する全体像や意思決定過程は不透明だった。会議としてはデジタル庁に「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」が存在するが、3年ほど開催されていない。司令塔的な会議体がない上、公開の場で外部の視点による検証の仕組みもなく、方針が突然示されるような状況が続き、適切な意思決定プロセスとは言いがたかった・・・

『証言とデータでみる総務省』

2026年3月30日   岡本全勝

縣公一郎・原田久編『証言とデータでみる総務省 支援型行政への変ぼう』(2026年、勁草書房)を紹介します。
宣伝文には次のように書かれています。
「総務省(旧総務庁系部局)は行政の基本的な制度の管理・運営を任務とする制度官庁だ。しかし近年、各省の政策立案や業務改革等の支援等を強化している。本書では、元総務次官や元総務審議官の証言や、研究者によるデータの分析、さらにはアメリカとの比較によって、その成果と課題を明らかにする」

第1章は山下哲夫・元総務事務次官へのインタビュー、第2章は堀江宏之・元総務審議官へのインタビューです。これまでの行政改革の歴史と、行政管理の役割の変化がよくわかります。一言で言うと、査定官庁から、各省の業務改革支援への転換です。行政評価も、評価自体に力を入れるのではなく(よく言われる評価表を埋めることに力を入れるのではなく)、どうすればよりよい業務になるかを考えるのです。これらの機能は「平時」のものであり、別に改革時(例えば省庁改革、規制改革など)に企画をすることも、行政管理の役割です。

人を減らし、組織を増やさないことが、かつての行政管理であり、行政改革でした。予算削減もこれに含まれます。しかし、人員削減も行き着くところまで行き、職員を募集しても定数が埋まらない状況になりました。
本来、行政管理とは行政組織がよりよい成果を出すためのものです。新自由主義的改革は、削減にばかり目を向けすぎました。
二人のインタビューを読むと、行政管理局の政策の転換が見て取れます。

p81に、行政事業レビューデーターベースで事業数が10年間で、4000あまりから5000まで増えているという指摘があります。
これとは別に、原田久・立教大教授が「行政国家論再論」(季刊「行政管理研究」2023年9月号、行政管理研究センター)で、2001 年の省庁再編時に各府省設置法に列記されていた858の所掌事務は、2021年度には935事務に増えていることを指摘しています。
「人口が減るのだから公務員数を減らすべき」との意見もありますが、すでに先進各国の中では日本の公務員数は少なく、さらに仕事を増やしていながら職員を減らせとは、無理な話です。

行政の中を考える、社会の中の行政を考える

2026年3月23日   岡本全勝

会社の中の私、私の中の会社」の続きになります。行政、そして各省や自治体の中だけを見ていては、役割や課題が見えてきません。社会の中での行政を見ると違った景色が見えてきます。連載「公共を創る」では、「内包と外延」という言葉を使いました。

「会社の中の私、私の中の会社」の考え方と図は、行政の役割を考える際にも応用できます。これまでは、行政の中の各省や自治体を深掘りしていました。しかし、私たちの暮らしを支えてくれる公共空間という観点から見ると、行政・役所はその一部でしかありません。

情報が多すぎると伝わらない

2026年3月16日   岡本全勝

時事通信社の地方自治体向け情報サービス「iJAMP」2025年3月7日号に、岡本正弁護士の「自治体職員のための災害復興法学(5)=情報はあっても伝わらない ラストワンマイルをつなぐ災害ケースマネジメント」が載っていました(今ごろ紹介してすみません)。

・・・自治体側が情報を精力的に発信しても、被災者には伝わらず、その結果生活再建に役立つ支援制度の申請に至らず再建できない―――。その理由は、情報が多すぎること、情報が難解であること、そもそも情報が公表されていないこと、などが挙げられます。

災害復興支援の各種制度の根拠は法律です。所管する省庁の担当部局が、災害時に利用できる支援制度を情報発信します。それ自体はとても大切ですが、その量があまりに多いのです。私が内閣府出向中におきた東日本大震災では、半年間で約2000通の災害に関する「通知」「事務連絡」「お知らせ」が、各省庁から都道府県等へ発出されました。とても被災地でさばききれる情報量ではありません。

内容も特殊です。日常業務では聞いたこともない単語が次々出てきます。「災害に対する金融上の措置」(財務省等)、「被災者に係る被保険者証等の提示等について」(厚生労働省)、「被災中小企業・小規模事業者対策について」(中小企業庁)などの通知類は平時に目にすることはまずありません。市民に周知すべきものなのか、誰がどう説明するのか、判断がつかないまま、大量の情報が掲示板等にあふれて埋もれていきます。

国が自治体に通知等を発出しながら、それを公表しない場合もあります。災害救助法が適用された災害で必ず発信される通知「避難所の確保及び生活環境の整備について」(内閣府)は、国が自発的に公表しません(なお、現在公表中のものはすべて私や支援専門家らが内閣府へ働きかけて公表に至ったものです)。応援職員や被災した市町村も目にすることなく、支援の遅れ、法解釈の誤りを生んでしまったこともあります・・・

政府に「公文書等」はあるが「公文書」はない

2026年2月25日   岡本全勝

変な表題ですね。でも、次のようなことなのです。役所が扱う文書について定めた法律に、「行政文書」「公文書等」は出てくるのですが、「公文書」という言葉は出てこないのです。もし間違っていたら、すみません。

コメントライナー2023年5月11日号に「「行政文書」は正確か」を書きました。昔は、現在の「行政文書」という言葉はありませんでした。職員が作った文書は、「公文書」といわれる保存を前提とした重要な文書(決裁を受けた文書)と、それ以外の執務の過程で作ったメモなどに区分されていました。「行政文書」という言葉は、1999年に制定された「情報公開法」で作られました。同法では、行政文書には公文書とそのほかの文書の両方が含まれることになりました。ここで、法律上は「公文書」という言葉がなくなり、役所で作る文書と扱う文書は「行政文書」という言葉に変わりました。

ところが、「公文書等」という言葉は残ったのです。「公文書等の管理に関する法律」は、「行政文書管理法」という名称ではありません。
第1条 この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り・・・
第2条第4項 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
第8項 この法律において「公文書等」とは、次に掲げるものをいう。
一 行政文書
二 法人文書
三 特定歴史公文書等

行政機関の保有する情報の公開に関する法律
第1条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により・・・
第2条第2項 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

正確には、「公文書館法」は公文書を題名に使っていて、と第2条に「公文書」という言葉も出てきます。ただし定義はありません。
第1条 この法律は、公文書等を歴史資料として保存し、利用に供することの重要性にかんがみ、公文書館に関し必要な事項を定めることを目的とする。
第2条 この法律において「公文書等」とは、国又は地方公共団体が保管する公文書その他の記録(現用のものを除く。)をいう。

国立公文書館法」も、公文書という名称を使っています。

なお、刑法には「公文書偽造等」という言葉があります。第155条の見出しです。ただし、法文には出てこず、定義もされていません。
(公文書偽造等)
第155条 行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 公務所若しくは公務員の印章若しくは署名(以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において「印章等」という。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画(以下この章において「文書等」という。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造する行為・・・