カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

行政の手法、切り出しから連携へ

1980年代からの行政改革の哲学の一つは、小さな政府(スリム化)でした。そのために、役所の業務を民営化したり、独立行政法人化したり、外部委託に切り出したりしました。
近年、官民協働という概念で、役所が民間団体と一緒になって仕事をすることが増えました。東日本大震災でも、企業や非営利団体、ボランティアに助けてもらいました。そこには、役所の業務を民間に委託したものもありますが、そもそも民間がやっていることと役所が連携を取ったもの、民間の活動を役所が支援したものがあります。

地方自治法の改正(令和6年)で、「指定地域共同活動団体制度」が創設されました。地域社会を支えている地域の共同活動(町内会やさまざまな地域活動団体)と市町村が連携して、必要なら随意契約で仕事をしてもらうことができます。

連載「公共を創る」では、行政と市場が区別される「公私二元論」から、行政・非営利活動・営利活動の3つがそれぞれの役割を果たす「官共業三元論」への意識の転換を主張しています。さらに、サービスの提供という見方でなく「社会課題の認知と取り組み」という見方も提唱しています。
このような考え方からは、従来の行政の手法は「切り出し」であったものから「連携へ」と転換しつつあると見ることができます。

岸田首相と経済財政諮問会議民間議員の座談会

9月20日に、日経新聞主催で、岸田首相と経済財政諮問会議民間議員との座談会が開かれました。23日付けの日経新聞に、要旨が載っています。マクロ経済、財政、成長力強化と人口、金融政策、エネルギー、労働市場改革にわけて、議論が交わされています。なかなか、内容のある座談会です。菅野・論説委員の司会で、突っ込みも鋭いです。例えば、ガソリンや電気などへの補助金が続くこと、消費税増税についてです。

この記事を読んだときに、良い企画だと思いつつ、次のようなことを考えました。経済財政諮問会議の議員との意見交換なのですが、経済財政諮問会議では、このような議論がなされていないのです。
まず、所要時間です。首相動静を見ると、8時34分に会場のホテルに到着し、9時48分にホテルを出発しておられます。1時間強です。他方で、最近の経済財政諮問会議は、30分から1時間未満です。6月21日の経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議の合同会議は、首相を合わせて出席者は21人、所要時間は37分でした。

そして、諮問会議ではこのような「自由な」議論、突っ込んだ意見交換がされていません。内閣府は、省庁改革の際に首相を支える「知恵の場」としてつくられ、諮問会議はその最たるものです。
役所の会議の傾向として、次第に儀式になってしまいます。決められた時間の中で、あらかじめ予定された結論を出す(その総理発言を報道機関に公開する)ために、事務局の官僚は全精力を注ぎます。さらに、権限が強い会議では、自由な議論をすると市場や行政に思わぬ影響を与えてしまう可能性があります。

このような場をどのように活用するか、議長である首相の考え方によります。首相にとって、民間議員との自由な意見交換は意義あるものだと思います。諮問会議ではふさわしくないとすると、首相と民間議員との意見交換を「懇談会」として設営することも可能でしょう。

西川貴清著『現場から社会を動かす政策入門』

西川貴清著『現場から社会を動かす政策入門――どのように政策はつくられるのか、どうすれば変わるのか』(2024年、英治出版)を紹介します。
「おわりに」に、本書の意図が書かれているので、引用します。確かに、政策立案について書かれた概説書は見当たりません。その作業と知識が、公務員に独占されてきたからでしょうか。公務員としての経験があり、現在も政策提言に携わっている筆者ならではの著作です。お勧めです。

・・・この本は現場の実感を政策に反映させて、より良い社会をつくろうとしている様々な民間団体の人たちや、政策をより良い方向に導こうとしているメディア関係者、普段の仕事からは見えない政策の動きを知りたいと考える新人公務員たちをメインの読者として書きました。

官僚として働いていた私は、政策立案の知見があまりにも政府外の人に知られていないことに課題意識を感じていました。役所側は政策づくりのプロセスを隠してもいないのですが、政策とは縁の遠い仕事をしている人たちが理解するにはあまりにも専門的過ぎるのです。政策の仕事への理解が乏しいことが、官僚や政治家へのネガティブな理解にもつながっているようにも感じました。
政策に関わりの薄い人でも政策づくりを理解できる本がないかと探してみましたが、学術的に分析されたものが多く「じゃあ実際にどうすればいいのか」という問いに答えるものはありませんでした・・・

・・・政策に関わり始めた人、政策に関心のある人向けに、たとえ話や架空の例も含めて、できるだけ分かりやすく書きました。「厳密には違う、不正確な内容がある」という専門家の方のご指摘は甘んじてお受けしますが、対象読者やこの本の目的も踏まえて、ご容赦いただけると幸いです。
民間団体も、メディアも、官僚も、政治家も、それぞれが勝手に動くのでは、力を発揮できません。お互いを理解しあい、力を合わせることでより良い未来をより早く手繰り寄せることができる、と信じています・・・

高齢者支援事業者

8月20日の朝日新聞1面に「終身サポート、相談急増 身元保証や死後事務行う事業者」が載っていました。

・・・頼れる身寄りのいない高齢者らを対象に、身元保証や死後事務などを担う「高齢者等終身サポート事業」をめぐり、全国の消費生活センターなどに寄せられる相談件数が増加している。国民生活センターによると、2023年度の相談件数は354件で、この10年で4倍になった。
高齢者等終身サポート事業では、病院への入院や介護施設への入所時の「身元保証」をはじめ、通院の送迎や買い物への同行などの「日常生活支援」、葬儀や家財・遺品の整理などの「死後事務」といった、これまで家族や親族が担うことが多かった役割を、民間の事業者が有償で担う・・・

・・・相談内容は、サービス内容や料金などを理解できていないまま高額の契約をしてしまったなどの「契約時のトラブル」、病院への送迎を「忙しい」などの理由で断られるなど、契約に含まれているはずのサービスの提供がなかった「サービス利用時のトラブル」、解約時に預託金などが返金されないなどの「解約時のトラブル」に大別される。
そのほか、近年大きく増えているのが、新聞やラジオの広告や電話勧誘を受け、「信用できる事業者か確認したい」「信用できる事業者を紹介してほしい」という相談だ・・・

こどもの事故予防

日経新聞夕刊「人間発見」8月13日の週は、Safe Kids Japan理事長、山中龍宏さんの「親らが「目を離せる」社会に」でした。
・・・小児科医で「NPO法人 Safe Kids Japan」の理事長、山中龍宏さん(76)は「子どもの事故予防」に40年近く取り組む。科学的な検証で原因を究明。改善策の実行により事故を減らすことで、保護者らの責任や努力だけを追及する社会の風潮に立ち向かってきた・・・

・・・中学2年生の女子が学校のプールの排水口に吸い込まれ、当時の勤務先の病院に搬送されてきました。引き上げられるまで30分も水中にいれば命は病院では救えません。排水口の蓋さえきちんと固定してあれば良かったはずです。文部省(現文部科学省)に電話をすると「私の担当ではない」との答え。「何をバカなことを言っている」と憤りました・・
・・・1985年に起きた静岡県の中学校プールの排水口の死亡事故で、被害生徒の保護者は教育委員会宛に謝罪文を書かされていました。聞き間違いかと思いましたが、静岡の別のプール死亡事故でも、保護者が「我が子が不祥事を起こして申し訳ない」と教委に謝罪文を提出したという。そういう対応が疑問視されない時代でした・・・

明治以来、日本の役所はサービスを提供する側として仕事をしてきました。産業振興や公共インフラ充実だけでなく、教育も医療もそうです。生徒や患者ではなく、学校や病院を相手にしてきました。国民ではなく、提供者側でした。それが、公共サービスを拡充する際には効率的でした。しかし例えば、問題を起こす高校生に学校は困りますが、退学してくれると「縁が切れて」「ほっと」します。国民の側に立った役所は、消費者庁とこども家庭庁くらいです。
この問題を是正するために、提供者側でなく、国民の側に立った役所が必要なのです。私は「生活者省」の設置を主唱しています。

「公共を創る」第155回「「生活者省」設置の提言─「安全網」への転換を明確化」。「国民生活省構想」なお、国民でない人も暮らしているので「生活者省構想」に名前を変えました。