カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

「政治家よ、言葉で人動かせ」

3月1日の朝日新聞オピニオン欄、増田達夫・開志専門職大学教授の「若者と国の未来のために 政治家よ、言葉で人動かせ」から。詳しくは原文をお読みください。

・・・歴史をたどっても世界を見渡してみても、国の力の源泉は人にあり、天然資源の乏しい国はなおさらである。若者は良くも悪くも、上の世代を見て育つ。人の力は、おのずと世代から世代へと引き継がれていく。
日本の国力は落ち続けており、国の指導者たちには、このような事態の悪化を何としてでも食い止めようとする覚悟が求められる。そして、民主主義の原点に立ち、言葉の力で人を動かすことに徹しなければならない。しかし今、日本の政治家を見ると、「言葉で人を動かす」どころか、間違いを恐れるあまり原稿にしがみつく始末である。生きた言葉の魅力の前には、言い間違いなどささいなことなのに。国会の白眉といえる党首討論でさえ実に退屈な上、岸田政権では実施すらしていない。

私は、外務省と経済産業省の官僚だった時期、政治家との接点を数多く持つことができた。1970~80年代ごろまでは、自ら地位を勝ち取った一世議員も多く、大義に殉じる気概と迫力にあふれていた。パリの国際エネルギー機関に勤めていた時代や世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)参加の折にも、外国の有力政治家の立ち振る舞いを間近に見た。原稿なしで臨機応変に議論を繰り広げ、言葉の力で人を動かす姿に魅了されたものだった・・・

・・・言葉で人を動かす政治家が出てこないのは、育てるプロセスにも問題があるのだろう。この点、私が英ケンブリッジ大学在学中に経験したことは参考になるかもしれない。主要政党がわざわざキャンパスに来て、将来の候補となるべき人材を発掘する努力を粘り強く進めていた。私も保守党を支持するグループに入り、党が派遣する討論のプロの指導を受けた。仲間のうち何人かはその後、政治家の道を歩むこととなった・・・

内閣支持の理由

報道機関が、毎月、内閣支持率などの世論調査をします。例えばNHK。その際に継続的に調べられるのが、内閣支持率と各党の支持率です。

支持率の上下は気になるのですが、それとともに気になるのが、支持する理由と支持しない理由です。
NHKの3月の調査結果では、岸田内閣を「支持する」と答えた人は25%、「支持しない」と答えた人は57%です。そして支持する理由は、「他の内閣より良さそうだから」が47%、「支持する政党の内閣だから」が25%、「人柄が信頼できるから」が13%です。「実行力があるから」は6%、「政策に期待が持てるから」は5%しかありません。

政党や内閣は、政策を競い国民の支持を獲得するものと、政治学では習いましたが。この数字は、政策が置き去りになっているようです。

政党内の集権と分権

2月28日の日経新聞に、斉藤徹弥・上級論説委員の「自民党改革に権力抑制論を 集権化にポピュリズムの芽」が載っていました。自民党における、県連と派閥の機能として「分権」を指摘しておられます。その上で、

・・・政党として権力集中と権力分立をどう考えるべきか。これは時代背景やどんな政治観に立つかで異なるだろう。
迅速な合意形成を重視するなら強いリーダーシップが必要で集権が適している。冷戦終結で激動する国際情勢を受けた平成の政治改革では、政治に決定力をもたせるため、党本部の力を強める制度が相次いで誕生した。
多様な価値観を反映すべきだという政治観からは分権が望ましい。極端な政策には異なる立場から抑止が働き、ポピュリズムにも耐性がある。いわゆる振り子の論理で、地方組織や派閥はバランサーになってきた。

この30年、決められる政治への改革が進んできた。調整コストが少なく決定が迅速な権威主義国との体制間競争を考えれば、決定力のある集権化は必要かもしれない。
ただ良いことを決めやすい制度は、悪いことも決めやすい。最近、岸田首相が打ち出す政策は一時的な減税、被災地以外に不満の種をまく住宅再建支援など、ポピュリズム的な狙いが見透かされる例が散見される。

現代はポピュリズムや極右政党のような極端に走りやすい。日本は比較的それらに陥りにくいとされてきたが、決定力重視の傾向が強まればリスクは増す。
権力分立は人類が培ってきた統治の知恵である。派閥を解消し、地方組織への統制を強めるなら、それに代わって権力を抑制する仕組みのあり方をしっかり考えたい・・・

国民から見ると、対外的には、代表による集権的な説明が欲しいです。党内事情を理由にした歯切れの悪い説明は、納得されないでしょう。他方で、党としての決定の際には、分権的な過程が必要でしょう。

能登半島地震のみ給付金倍増、公平さ欠く住宅再建支援

2月22日の日経新聞に、斉藤徹弥・編集委員の「能登半島地震のみ給付金倍増、公平さ欠く住宅再建支援」が載っていました。詳しくは原文をお読みください。

・・・能登半島地震で被害の大きい石川県の奥能登地域を対象に、住宅再建の支援金を実質的に上乗せする政府の方針が波紋を広げている。災害大国の日本は誰もが被災者になり得る。被災した地域や時期、居住形態で手厚さが異なる制度は、公平性などの観点から十分な検討が必要だ。
住宅再建への公的支援は被災者生活再建支援法に基づき、300万円まで支給される。これに加えて政府は奥能登6市町の高齢世帯などに、さらに最大300万円を給付する新制度を打ち出した。支給額は最大で2倍の600万円になる。

支援金は国と都道府県が折半で出資する基金から拠出している。総務省は全国知事会に引き上げを打診したが、知事会は「引き上げる根拠はない」と否定的だった。
引き上げは知事会でもかつて議論したことがある。ただ過大な公的支援は地震保険加入や耐震改修などの自助を損ないかねない。地域事情に応じて独自に上乗せする都道府県もあり、財政負担を考えれば全国一律の制度は最低限が望ましい。
議論の末、知事会は「自助、共助、公助のバランスが重要」「支援金は見舞金的なもの」として300万円の上限を維持する報告をまとめた。今回の対応もその方針に沿ったものだ。

「できる限り支援したい気持ちはみな持っている。その中でなぜ能登半島地震の被災者にだけ、これだけ多額の税金が投入されるのか。政府の説明は十分でない」。千葉県の熊谷俊人知事はこう注文をつけた。
熊谷氏が挙げる問題点は住宅支援を巡る課題の本質を突く。
まず過去の災害や今後の災害との整合性だ。昨今の物価高を反映するのはよいが、被災した時期で額が2倍も異なるのは公平性を損なう。
次に地震保険に加入したり自費で耐震改修したりした人との間にも不公平感が生じかねない。被災後、賃貸を選んだ人への支援は最大150万円で、持ち家世帯と数百万円の差がつくことをどう考えるか。

行政は本来、住宅などの私有財産の形成に公費を投じるのは避けるべきだという考え方がある。
被災者生活再建支援法は、住宅は復興に不可欠で公共性があるとして住宅再建への公的支援に踏み出した。だが、防災の基本は自助、共助、公助。それぞれが機能するよう常にバランスに気を配る必要がある。
政府は新給付金を奥能登に限った特例としている。だが災害時の特例は新たな前例として踏襲されやすい。南海トラフ地震や首都直下地震で上乗せするなら給付金は巨額になる。丁寧な議論が欠かせない。

鳥取県知事時代、国に先立って住宅支援制度を設けた片山善博氏は「軽はずみだ。公的支援には経緯もバランスもあり、個人財産に税金を使う根源的な問題もあるのに、そうした議論を素通りしている」と指摘する。
被災地に寄り添う姿勢を見せることで政権浮揚を狙ったと見透かされれば、多くの地域の反感を買い選挙にも逆効果だ。行政の公正さこそ、信頼回復の第一歩である・・・

私がコメントライナーに書いた「工程表のない政治」の問題とも共通します。

定額減税の事務負担

2月14日の日経新聞に「定額減税、事務負担に苦慮 企業・自治体1回限り」でも改修」が載っていました。

・・・岸田文雄首相の肝煎り政策である定額減税を盛り込んだ所得税法改正案が13日の衆院本会議で審議入りした。減税開始まで半年を切り、企業や自治体からは事務負担への懸念が強まってきた・・・
詳しくは本文をを読んでいただくとして。事務負担の課題は、大きく3つあるようです。
一つはこの記事にあるように、1回限りの減税でも、企業などは従業員への給与支払いの際に源泉徴収するので、そのシステム改修が必要です。
もう一つは、今回の減税は所得税3万円、住民税1万円で合計4万円。家族がいるとその人数分です。一月の源泉徴収額がこの数字を超えていれば、その金額を減額すればすみますが、引き切れない場合は、翌月以降から引き去ります。その計算が必要です。

さらに面倒なのが、次の問題です。
税金を納めていない低所得世帯は、この減税の恩恵を受けることができません。その世帯には10万円給付します。これで二本立てになります。さらにこの間に、税金は納めているけれども、減税額までは納めていない世帯があります。その世帯には、減税しきれない額を給付します。これはかなり複雑になります。

そもそも減税は、税金を納めていない、あるいは少ない納税額の低所得世帯には効果がない、効果が少ない政策です。その人たちを念頭に置くなら、減税より給付金の方がはるかに簡便です。マイナンバーカードに銀行口座を紐付けておけば、簡単に給付できます。