カテゴリーアーカイブ:政治の役割

政治家が示す目指す社会像

2019年12月9日   岡本全勝

12月4日の朝日新聞オピニオン欄、国分高史・編集委員の「仏改憲が教えること めざす社会像、論じるのが先」から。
・・・ フランスは戦後、昨年まで27回の憲法改正を経験している。多くは議会の行政監視機能の明確化など統治機構に関するものだが、憲法院(憲法裁判所)による違憲判断を克服し、研究者に「特筆すべきだ」と評価されている例がある。
1999年と2008年に、男女の平等な社会参画を促す条項を加えた改正だ。前者は議会選挙の候補者を男女同数にすることを政党に義務づける「パリテ法」制定に道を開き、後者はそれを議会だけでなく、企業の取締役など広く社会一般に広げることを目的とした。
仏国民議会(下院)の女性議員比率は、改憲前の水準から4倍近い40%になった。ひとまずここまで来るには、女性たちの粘り強い運動や議会内外での論争など、国民合意に向けた長年の積み重ねがあった・・・

・・・フランスでは家父長制の伝統が根強く、1789年の人権宣言でも女性は対象外とされた。女性参政権が認められたのは、欧米ではかなり遅い1944年のことだ。
それでも70年代から女性の政界進出の機運が高まった。82年には社会党の女性議員が北欧発祥の「クオータ制」を地方議会選挙に導入する選挙法改正案を提出。候補者名簿に25%以上の女性を載せることを政党に義務づける内容で、議会を通過した。
だが、憲法院はこの改正案を違憲と判断した。全ての市民は法の前に平等であり、性で候補者を区別するのはフランス共和主義の理念に反するという理由だった。
この壁を乗り越えるには、どうしたらいいのか。そこで出てきたのがパリテの理念だ。一定割合を女性にあてるクオータ制には、男性への逆差別との批判がつきまとう。これに対し、パリテはざっくり言えば「世の中は男女半々なのだから、議会も男女半々に」というものだ・・・

・・・政治の動きを、最後に後押ししたのは世論だった。憲法のどの条項を改正するかをめぐり、政府・国民議会と保守的な元老院(上院)が対立すると、一般紙だけでなく大衆紙や女性ファッション誌も競うように賛否両論を特集。関心が薄かった市民を巻き込み、パリテに消極的と見られた上院に批判的な論調が強まっていった。
上下両院は妥協に向かい、政府案提出から1年後の99年6月、「選挙で選ばれる公職への男女の平等なアクセスを促す」など二つの条項を加える案が、両院合同会議で可決された。採決では、国民投票がなくても成立する「有効投票の5分の3」を超え、ほぼ満場の賛成票を集めた・・・
・・・この経験から日本が得られる教訓は何か。「多くの人が正義だと考える政治課題の実現を憲法が妨げている時、合意をつくって改正という最終手段をとる。これこそが憲法改正のあるべき姿だと思います」と糠塚さんは話す。
私は、日本でも女性議員を増やすためにすぐに改憲すべきだと主張したいわけではない。フランスでも改憲までの丁寧な合意形成やその後のフォローアップがなければ、前進はしなかっただろう・・・

ポピュリズム権威主義

2019年11月26日   岡本全勝

11月25日の読売新聞文化欄、神保謙・慶應大学教授の「論壇キーワード」は、「ポピュリズム権威主義」でした。

・・・グローバルな民主主義の後退が10年以上にわたり続いている。国際NGOフリーダムハウスによれば、過去13年間連続で権威主義体制が興隆し、民主主義体制の国々でも政治的自由度が低下するか、体制自体が瓦解するというトレンドが続いている。これら民主主義体制の瓦解には、ケニア、ロシア、タイ、トルコ、ベネズエラといった戦略的重要度の高い国々が含まれる・・・
・・・かつての民主主義の瓦解は、軍事クーデターと戒厳令による統治権の剥奪はくだつや、選挙による代表制の停止など、唐突な形での政治体制の転換が多くみられた。しかし今日の民主主義の後退は、むしろ民主的手続きを経て信任されたポピュリスト政治家が、徐々に司法の独立を制限、報道規制を強化、市民の政治的自由に介入し、権威主義化を進めていくモデルが目立っている。これを「ポピュリズム権威主義」もしくは「ポピュリズム独裁」と呼ぶ・・・

・・・ポピュリスト政治家が権威主義化を進める現象は、民主制が根付いた国家にも広く及ぶようになった。米国のトランプ大統領、ハンガリーのオルバン首相、ブラジルのボルソナーロ大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領など例に事欠かない。欧州・アジア・ラテンアメリカにおけるポピュリスト政党や政治家の伸長も、さらなるポピュリズム権威主義の予備軍となっている・・・
・・・新興国の権威主義体制は経済成長の果実とIT技術による統治強化を携え、社会の自由をますます制約しながら権力の強靱きょうじん性を強めているようにみえる。先進国の民主主義はグローバル化に対する反動と、低成長期の分配政治の限界を抱え、反エリート主義を掲げるポピュリストが権力を握る傾向が顕著となっている。こうした動向から、経済発展が民主化を促し定着させるという近代化仮説は、その役割を終えたとする議論すらある・・・

中国指導者の最優先事項

2019年11月23日   岡本全勝

11月17日の朝日新聞オピニオン欄、ロバート・ゼーリック元世界銀行総裁のインタビュー「米中の共存共栄は幻か」から

・・・「習近平体制下で中国が圧制の傾向を強めたことは確かです。国家主席に就任した習氏は、『最優先事項は何ですか』と尋ねた私に『8668万人の共産党員です』と答えました。1949年の建国以来変わらず共産党は人民の『前衛』として指導する立場にあり、その強化が最優先だ――。そんな彼の本心が伝わってきました」・・・

移民を受け入れ福祉も充実している国

2019年11月11日   岡本全勝

11月4日の日経新聞オピニオン欄、ジャナン・ガネシュ (ファイナンシャルタイムズ、USポリティカル・コメンテーター)の「移民と福祉は二律背反か」から。

・・・カナダは外国生まれの国民の割合が約20%と米国より高い。それでいて国民皆保険制度もジニ係数でドイツ並みの所得分配も実現している。選挙では有権者の多くが所得再分配を掲げる政党に投票し、最大野党・保守党もあからさまな移民批判は控えた。
カナダのような国籍・民族にとらわれないコスモポリタンな社会民主主義は現実的でないという指摘をよく耳にするようになった。欧米で近年、左派が憂き目をみているのは移民と福祉が並立しないからだとされる。市民は互いの共通項が減れば、暮らしを支え合おうとはしなくなるという理屈だ。

経済協力開発機構(OECD)の加盟国中、租税負担率が最も高いのがフランスだ。しかしフランスを閉鎖的だと思う人はいない。スウェーデンとデンマークは移民の増加で社会保障サービスが以前ほど手厚くなくなったが、福祉国家の旗は降ろしていない。国民の25%以上が外国生まれのオーストラリアは、米民主党がうらやむような公共サービスを備えている・・・

憲法を時代に合わせる仕組み

2019年11月10日   岡本全勝

10月31日の日経新聞経済教室、林知更・東京大学教授の「改憲論議の視点  冷静なエンジニアの目を」から。

・・・第三に、条文と運用の両面から憲法のメカニズムを考える場合、諸国の憲法は20世紀に大きな構造変動を経験している。これを家にたとえれば「平屋」から「2階建て」への変化と整理することができる。憲法の古典的な課題は、「物事を政治的に決める仕組み」をいかに整えるかであり、統治機構の編成こそは憲法の中核をなす。

20世紀の憲法はこの上に新たな階層を付け加えた。
それは「行われた決定を事後的に検証する仕組み」であり、違憲審査制がそれである。政治的決定はしばしば、時間的な制約の下で、一定の政治的目的を実現するために行われる。違憲審査制はこれを、憲法の定める長期的な国の基本原理に合致するか否かという観点から改めて審査する。
この仕組みの導入は、多くの国々で全体としての統治の質を高める上で重要な意味を持ったと考えられる。現代憲法がこのような構造を持つとすれば、日本の憲法の問題点を検証する際も、1階と2階それぞれの課題を区別して論じなければならないはずである。

特に、日本の違憲審査制がこの点で大きな問題を抱えていることは学界の共通認識に属しており、この論点を無視した憲法論議は考えられない。憲法を平屋構造で捉え、この事後的コントロールの問題を十分に顧慮しない改憲論は、現代憲法の基本的な水準に到達していない・・・

納得します。
憲法が作られるときは、新しい政治体制ができて、理想とする政治の仕組みや社会のあり方を宣言します。その後、時代の変化によって条文を修正したり(日本では解釈を変えることで対応してきましたが)、政治体制が変わって憲法そのものを取り替えます。
しかし、林先生が指摘しているように、宣言したあと、次に「書き換える」という過程の前に、「運用を検証する」が必要ですよね。すると、「宣言する。検証する。書き換える」という過程になるのでしょう。