カテゴリーアーカイブ:政治の役割

「経済学者もあきれる物価対策」

2023年4月1日   岡本全勝

3月31日の日経新聞「大機小機」、「経済学者もあきれる物価対策」から。

・・・政府は3月22日に追加の物価対策を決めた。前回分も合わせた財政支出は15兆円に及ぶ。筆者が不思議に思うのは、これだけの大規模な経済政策について、経済学者の側からほとんど議論が出ないことだ。筆者が経済学者を代表できるわけではないが、その理由を想像してみよう。

第1に、経済学者は、交易条件が悪化してしまったら、日本の経済状態は悪化せざるを得ないことを知っている。2022年には輸入価格が大幅に上昇したため、15兆円もの交易損失が発生した。このため実質GDP(国内総生産)は1.0%増加したが、実質GNI(国民総所得)は1.2%も減少した。生産活動は増えたのだが、国民の所得水準は低下したのである。
物価対策は、この交易損失を財政で埋めようとしているように見える。これは、現世代の負担を将来世代に置き換えているだけだと経済学者は考えるのではないか。

第2に、経済学者は価格の資源配分機能を重視する。しかるに、政府はこれまで、財政措置によってガソリン価格や電力料金、さらには今回の追加対策でLPガスなどについても価格の上昇を抑え込もうとしている。
輸入価格上昇によって資源関連の財・サービス価格が上昇するのは、これらの消費を抑制せよという市場からのシグナルである。物価対策として価格の上昇を抑え込むことは、逆にこれら財・サービスの消費を奨励することになると、経済学者は考えるのではないか。

第3に、経済学者は、政策を立案する際には、ロジックとデータに基づいて、政策目標を達成するための効果的な政策手段を準備すべきだと考えている。いわゆるEBPM(証拠に基づく政策立案)である。しかるに、政府は昨年の物価対策で、低所得世帯向けに5万円の給付を行い、今回さらに3万円と子供1人当たり5万円の給付を追加した。ところが、対策の目的と効果についてデータに基づく情報が全くない。これでは評価のしようがないと経済学者は考えたのではないか・・・

「証拠に基づく政策立案(EBPM)を提唱している人たちは、この現象をどのように考えているのでしょうか。経済財政諮問会議や財政審議会では、どのような議論があるのでしょうか。

法に縛られない権力者の孤独と不安

2023年3月16日   岡本全勝

3月3日の朝日新聞オピニオン欄、池田嘉郎さんの「ロシアの破局的な時間」から。

・・・いまやらねば全てが失われ、破局が到来するという切迫感が、ロシアの歴史にはしばしば影を落としてきた。それは「破局的な時間」とも呼ぶべき時間観念である。「時間」のような普遍的に見える概念さえもが、ロシアでは権力者の存在や、権力の行使の在り方と緊密に結びついている。その不可解さは長い固有な歴史で培われたもので、文化史的観点で見ないとわからない・・・

・・・ロシアにおける権力者の地位について、米国の歴史家R・ウォートマンは著書(2013年、Russian Monarchy: Representation and Rule)で、西欧諸国では18世紀初頭から王位継承法が成立して、君主の地位や継承順を規定したのに対して、ロシアでは皇帝はそうした法には縛られなかった、と論じている。
権力者の無制限な力はその後、政治体制の変化にかかわらず、ソ連時代から現代ロシアに至るまで引き継がれる。その地位は法や規約で定められてはいない。いや、それがないわけではないが、ルールを自分でつくり、かつ一方的に変えられる点にこそ、権力者の権力者たるゆえんがある。

近代以降の西欧では、非人格的な法による支配が確立していったため、法が権力者の上位にある。別の言い方をすれば、権力者は個人としてではなく法人として存在している。この「法人概念」が西欧を特徴づけることは大澤真幸と橋爪大三郎の「おどろきのウクライナ」(集英社新書、22年)でも強調されていたが、ロシアでは事情は異なる。皇帝も書記長も大統領も、権力者は個人として力を振るっているのだ。

だが、これは彼らに重い孤独を強いる。ロシアの権力者は、非人格的に続いてゆく法や制度に未来を託すことはできない。個人の有限の人生において何事かを成し遂げねばならないからだ。
継承法や憲法が彼らの地位を担保することがないロシアでは、権力者は「超越的な力」を示すことで地位を維持しようとする・・・

男女不平等、搦め手から攻める

2023年2月28日   岡本全勝

2月19日の日経新聞「風見鶏」、大石格・編集委員の「「正当な差別」などない」から。

・・・差別をなくすにはどうすればよいか。3年前に亡くなった米最高裁のギンズバーグ元判事は弁護士時代にからめ手から攻めた。目標は女性の権利擁護なのだが、男性の権利を守れ、という訴訟を起こした。
当時、親などの介護にかかる費用を補う所得控除は独身男性には認められていなかった。結婚して妻に介護させればよい、と思われていたからだ。

男性に不利な制度はおかしいとの訴えはあっさりと認められた。最高裁は男女で扱いが異なる制度は憲法違反と判決に書いた。ギンズバーグ氏は以降、この判決を盾にして女性の扱いが不利な事例で次々に勝訴していく。戦略がまんまと当たったわけだ・・・

防衛費と子ども予算、増額は賛成、負担増は分かれる

2023年2月19日   岡本全勝

NHKの世論調査(2月13日)に、興味深い結果が出ていました。

新年度・2023年度から5年間の防衛費の総額を今の1.6倍にあたる、およそ43兆円とする政府の方針について賛否を聞いたところ、「賛成」が40%、「反対」が40%でした。増額する防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する政府の方針については、「賛成」が23%、「反対」が64%でした。

少子化対策をめぐり、岸田総理大臣は子ども予算を将来的に倍増する方針です。この賛否を尋ねたところ、「賛成」が69%、「反対」が17%でした。子ども予算を増額するため、国民の負担が増えることについては、「負担が増えるのはやむをえない」が55%、「負担を増やすべきではない」が35%でした。

国内人権機関がない日本

2023年2月17日   岡本全勝

2月1日の朝日新聞オピニオン欄「「人権」日本の現実」、土井香苗さん(ヒューマン・ライツ・ウォッチ〈HRW〉日本代表)の「政策推進、国家機関が必要」から。

・・・人権の制度面でも「失われた30年」だと考えています。世界の動きから遅れています。主な原因の一つが、国内人権機関の設立ができなかったこと。「なんでないの」と、声を大にして言いたい。
国内人権機関は、政府から独立して、人権侵害からの救済と人権保障を推進する国家機関です。世界約120カ国が国内人権機関を持っています。国連からも度々、日本政府は国内人権機関を設立するよう勧告されていますが、いまだに作られていません。

環境であれば環境省という役所があり、環境政策に責任を持っています。でも、日本には、総合的に人権政策を作る機関がないのです。その結果、世界各国の政府に多数いる「人権政策の専門家」と同等レベルの国家公務員は日本にほぼいません。これでは、日本の人権政策が場当たり的で、政府高官のリーダーシップに欠けるのは必然です・・・