「政治の役割」カテゴリーアーカイブ

行政-政治の役割

気になった記事から

7月12日の読売新聞「論壇」、菅野覚明教授の「若者に国を託そう」。
「今日、あらためて国家やナショナリズムが問われているのには、たぶんそれなりのわけがあるのだろう。世間の噂を信ずるならば、戦後日本の体制が根本的につかえなくなってきたからということらしい。だが、もしそうであるとするなら・・国家論の本当の主体は、未だ明確な自己表現を持っていない、20代、30代の人たちであるはずなのだ。明治以来、転換期の国家像に展望を拓いてきたのは、功罪はともかく、幕末の志士にせよ・・いずれも長老たちの理解を絶した若い力であった。たぶん同様に、もし今という時代が本当に転換期であるなら、次の時代を切り拓く力は、今どきの若者のわけのわからなさの内にこそ秘められているであろう」
「次の世代への信頼なしに、国家論など成り立ちようがないのである」
8月6日日経新聞別刷り「あっと、データ」、世界価値観調査2000から。戦争が起きたら国のために戦うかという問に「はい」と答えたのは、ベトナム94.4%、中国89.9%、韓国74.4%、ロシア63.8%、アメリカ63.3%、ドイツ33.3%、日本15.6%。
8月2日の朝日新聞夕刊「文化」、「厳しい若者の対日意識。中国で80年以降生まれ調査」。日本人の一般的なイメージは、勤勉75%、有能69%、強い62%。人間性が良い10%、悪い44%。信頼できるが15%、信頼しがたい53%。日本、米国、韓国、フランスなどの企業に同じ条件で就職が決まった時に、日本企業を選ぶ人は6%、全く思わないが58%、あまり思わないが18%。

増税を問う

政府・与党が、歳入歳出一体改革の歳出削減骨子を決定しました。例えば27日の日経新聞によれば、概ね次の通りです。「2011年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するため、11兆4000億~14兆3000億円の歳出削減を実施。黒字化に必要な16兆5000億円程度の7割以上を歳出削減で賄い、残りの2兆~5兆円は増税などで穴埋めする。
政府・与党は名目経済成長率3%を前提に今後の歳出の伸びを試算。2011年度に借金をせずに行政サービスの経費を賄う基礎的財政収支を黒字化するには、16兆5000億円程度の財源を捻出(ねんしゅつ)する必要があるとし、これを歳出削減と歳入増で解消する方向を打ち出した」。
その決定過程が、連日報道されました。参議院側が原案を修正したことなど、政治学的にも興味深いものでした。詳細は報道に譲るとして、私はこれが決定され実行されると、日本の政治にとって画期的だと思います。それは次の2点です。
1 国民に初めて負担をお願いする
今回の決定では、増税は正面から書かれてはいません。しかし、2011年までに埋めるべき金額が16.5兆円であり、歳出削減額を決めれば、残りは増税となっています。今回の重要なポイントは、実質的に増税を決めたことにあるのです。
日本はこの半世紀、国民に本格的増税をしたことがありません。正確には、ガソリン税やたばこ税を増税していますし、所得税・法人税での減税廃止はあります。年金や健康保険の保険料を値上げしたこともあります。しかし、基幹税目で本格的な増税をしたことがないのです。消費税は、導入時は増減税同額、5%に引き上げたときは減税先行でした。大平内閣の時に、一般消費税導入を企画しましたが挫折しました。たぶん、これが唯一の増税のお願いだったでしょう。この半世紀は、増税しなくても済んだのです。また、増税が必要になったのに、国債でつけ回しをしたのです。
そもそも、代議制民主主義とは「代表なくして課税なし」というように、国民に負担を問う代わりに意見を述べるための制度です。利益を配分するだけで負担を問わない政治とは、お気楽な政治だったのです。
これについては、拙著「新地方自治入門」p299を読んでください。
今回決まった数字は幅のあるものですし、今後の経済情勢で変わるでしょう。しかし、それはたいした問題ではありません。すなわち、歳出削減が厳しすぎると国民が考えるなら、削減額を小さくすればいいのです。その代わり、増税額が増えます。必要な穴埋め額が決まっているのですから、歳出削減と増税は、どちらかが減れば他方が増えるのです。それを国民に選んでもらうのです。今回は、この三段論法を国民に提示し、国民に選択してもらうこととしたのです。
2 自民党主導での負担決定
これまで自民党(野党も含めて政党)は、利益の配分は行ってきましたが、負担の配分は避けてきました。それが、与党政治家主導で増税に進むとなると、これは日本の政治にとって大きな転換点になるでしょう。
これまで政策立案は内閣、実質的には官僚が担って来ました。その案を与党が賛成するか、修正することで成案にしました。しかし、今回は新聞で伝えられる限りは、与党の政策責任者が議論をとりまとめました。もちろん、これが民主主義の基本です。国民が政治を付託したのは政治家であって、官僚ではありません。
また、今後の実施過程においても、政治家がとりまとめたことで、円滑に進むと思われます。
(6月27日)
昨日、歳出削減と増税の関係を書きました。今朝28日の朝日新聞に、次のような記事が載っていました。「小泉首相が22日の経済財政諮問会議で『歳出をどんどん切りつめていけば『やめてほしい』という声が出てくる。増税してもいいから必要な施策をやってくれ、という状況になるまで、歳出を徹底的にカットしなければいけない』と発言していたことがわかった」。諮問会議議事要旨では、11ページです。(6月28日)
朝日新聞は28日から、「検証、構造改革。第2部小さな政府」を始めました。第1回目は、「理念なき一律カット」です。(7月29日)
(政策評価)
27日の日経新聞「瀬戸際のWTO交渉・下」は「影薄い貿易立国。工業品輸出、好機逃す」でした。日本の農業市場開放が進まない=農産物の輸入を自由化しないため、相手国が工業製品の輸入を自由化しない=関税を下げないのです。一対一の関係だけでなく、多角的交渉ででも主導権を取ることができません。輸出で稼いでいる日本は、自由貿易体制の大きな受益者なのですが。
これまでも国内農業者を保護するために、輸入制限で守るほかに巨額の公金を投入しています。「国内農業の競争力強化」はずーっと言われてきたことです。長く言われていて、まだ言われるということは、どこかに問題があるのでしょう。どなたか、日本の農業政策の評価をしてくれませんかね。また、農業を守ることと、自由化による国益との比較評価も。農水省と経産省が合体して産業省になると、どんな判断を下すでしょうか。
私は、日本の農業政策は、「農業」政策ではなかったのではないかと疑っています。それは、農家政策であっても、業としての農業を育てなかったのではないかという疑問です。
ほかにも、農業高校や大学の農学部はたくさんあるけど、卒業生のほとんどは農業に就かないこと。新規農業従事者より、JAや農水省・農政部などへの新規採用者の数の方がはるかに多いこと。農業予算は巨額だけど、その多くは農業土木業者にわたっていること、などなど。いろんな疑問があるのです。(7月29日)
31日の日経新聞経済教室では、成田憲彦教授が「政策決定過程変えた経済財政諮問会議」を書いておられました。従来の自民党政治を、冷戦構造と高度経済成長という条件で成り立った、保守政治と分配の政治と位置づけ、その条件が失われたこと。小泉政権は、この自民党的政策と施策決定手続にノーを突き付けたこと。その際に、本人のパーソナリティーの他に、小選挙区制と経済財政諮問会議があったこと。経済財政諮問会議は、議院内閣制のものとでは異端の政策機関であることなど、を指摘しておられます。わかりやすい分析です。

ソフトパワー

このHPでも何度か、ソフトパワーの重要性について述べてきました。麻生外務大臣の演説「文化外交の新発想」が、それを主張していることを教えてもらいました。
「本日ここには、コンテンツ業界の皆さんが大勢おいでのことでしょう。皆さんこそは、現代日本の文化を世界に広めていく、新時代の担い手だと思っております。例えば中国の街で、若い人が行くオタッキーな店を覗いてみるとよくわかります。日本のアニメグッズ、ありとあらゆるフィギュアが、所狭しと並んでおります。Jポップ、Jアニメ、Jファッション。これらの競争力は、ミッキーとドナルドには悪いですが、実際聞きしに勝るものがあります。
皆さんが好きでやってきたこと、外務省はおろか、誰に頼まれたのでもなく打ち込んでこられたこと。それが着実に、日本のファンを増やしております。若い人たちのハートを、中国始め、いろんな国でつかんでいます」
「漫画の話をし始めますと、私の場合きりがなくなるのでここらでやめておきますが、外交というものは外交官同士、秘密の交渉をし、おしゃれな会話をして進めることだという古い固定観念は、この際きれいさっぱり捨ててください。
『日本』とか、『ジャパン』と聞いて、ぱっと浮かぶイメージ。それが明るい、暖かい、あるいはカッコいいとかクールなものですと、長い目で見たとき、日本の意見はそれだけ通りやすくなります。つまり、日本の外交がじわりじわり、うまく行くようになるわけです」
「日本のブランド力は決して弱くありません。それどころか、最近米国のある大学とイギリスのBBCが、世界のいったいどの国が『良い影響力を持っているか』についてアンケートを取ったところ、調査対象33カ国中、31カ国までが、日本を挙げたという事実があります。これだけ圧倒的多数の国に支持された国というのは、この調査による限り他にありません。日本はダントツの1位です。
国を、一種の企業のようなものと見て、そのものずばり、ブランド力を計る調査というものもありまして、英国の専門家がやっております。それでも日本はドイツの次、フランスの上で、第7位です。アジアからは唯一、10位以内に入る国です。こういう土台のうえに、古いものから新しいものまで、日本文化をいろいろとアピールしていかねばならないと、思っております」
「日本文化を外国に広めていく王道は、なんといっても日本語の学習者を増やすことです。皆さん世界中で日本語を勉強しようとする人の数は、増えていると思われますか、減っていると思われるでしょうか。
日本経済は長いこと低迷したので、それに連れて日本語に興味を持つ人も減っただろうと思いきや、実は増えております。外務省関連の独立行政法人、国際交流基金の調べによると、1990年に98万人だった世界の日本語学習人口は、2003年に235万人と、倍以上になっております。
なぜかと思ったら、テレビから流れてくるアニメの主題歌が、日本語なのです。それで自然に、日本語に関心をもつ子供たちが増えてきた…。日本のポップカルチャーが、今までとはまったく違う関心を日本語に対して生んでいるからなのです」
これは、デジタル・ハリウッド(略称デジハリ)という、デジタルコンテンツの学校で行われた演説です。デジハリは、私も一度見学に行ったことがあります。皆さんなじみがないでしょうが、間違いなくお世話になっています。CGグラフィックで作られたテレビコマーシャルの多くが、この学校関係者の作品だそうです。
大臣演説の画面に添えられている「プレゼン用データPPT」は、楽しめますよ。PDFの方は動きませんが、PPTはクリックするかページダウンを押すと画面が動きます。これも、デジハリの学生さんの作品のようです(スライドをとばし先に行くとき、終わるときは右クリックしてください)。

政治の役割10

日経新聞連載「日本を磨く」6日は、川勝平太教授の「世界に誇る美の国に」でした。
「日本の世界史的位置はこの20年ほどで劇的に変わった。明治ー昭和期には欧米のキャッチアップを目指す国であったが、昭和末ー平成期にかけアジア地域間競争のリーダー格に転身した・・・日本はアジア域内競争の渦中にあり、アジアの人々から憧れられ、追われ、模倣される立場になっている。ただ、日本はまだ従来のキャッチアップ・システムを引きずっており、国のかたちが、今日の世界史的地位にそぐわなくなっている」
「ここで、問われるべきは・・・富国強兵という近代国家の国のかたちである。富国強兵は明治政府の国是であった。だがそれは当時の西洋諸国のアイデンティティーだったのではない。相手の本質を見抜いた日本人独自の国是である。西洋人は自らをどう認識していたか。『文明』である」
「軍事力も経済力も国の独立には不可欠であっても、十分条件ではない・・・新しい力を加味し米国型の富国強兵路線を超えなければならない。その力を『文化力』と呼びたい」
「端的には生き方である。日本人の生き方こそが、日本の文化なのである・・・それが磁場のように他国の人々を引き付け、魅了し、求心力をもつようになること、それが『文化力』である」
「それは、『美の国』日本を創ることでもある。そのときこそ、日本の『かたち』は中央集権から地域分権へと革命的に変わる。しかもこの大変革を、国内の混乱なく平和裏になしうるところに、日本人の実力と日本の世界的モデル性の神髄があると思われる」
7日は、西垣通教授の「目指せ超多極分散国家、IT文明に適応を」でした。
「国家を成り立たせる要素は多いが、その一つはメディアである・・・国家とは自然発生的共同体ではなく、想像の共同体なのである。そしてその想像の部分をになうのがメディアなのだ。近代国家を支えてきたのはマスコミだった」
「とすれば、インターネットなど新たなITによるメディアの台頭とともに、国家もまた変容を迫られよう。21世紀の望ましい国家像とはいったいいかなるものなのだろうか。結論から言おう。それは中央集権的な国家ではなく、分権的な自治州の連合体のようなものだと考えられる」
「アナログメディアでは、情報は物質と基本的に一体で、容易には操作できない。それ故中央拠点に情報と物質とを集積し、そこで枢要な情報処理と知的生産活動をおこない、その結果を全国一律に提供することが安定した有効性を持つ。こうして、首都に中央官庁や大企業の本社が集まり、そこからマスコミなどをつうじ同一の情報や商品を津々浦々に浸透させるという一極集中社会ができあがる。そして、日本がこういう中央集権的国家として20世紀に大きな成功を収めてきたことは言うまでもない」
「しかし、IT文明の時代、デジタルメディアでは・・・こういう方法が最善とはかぎらない。一極集中によって国内があまりに標準化・均一化されすぎると、国民のユニークなアイデアや創意工夫はとかくつぶされてしまう。それだけではない。情報量の急速な増大は、物質面で国土に過度のアンバランスをもたらす。いわゆる東京一極集中問題はその典型である」
「問題の解決の鍵はITの高度利用にあるのだが、なぜかこの点はあまり議論されない。せっかくの技術革新も、一極集中のままでは大きな影響力を持ち得ないだろう。大都市ばかりが恩恵をうけ、地方は文化的に取り残され、いっそう経済格差が広がりかねない」
「多極分散化はいかに実現されるのだろうか・・・現在検討されている道州制がこの方向と合致していることは指摘するまでもない。首都に集中している行政サービスの多くは州都に移るのだ。しかし、これだけでは単なる地方分散化にすぎない。大切なのは・・」(4月9日)
毎日新聞は26日から、「小泉時代と改革された私」という連載を始めています。27日は「ゼネコン破綻は構造改革が順調に進んでいる表れ」という小泉総理の言葉とともに、不良債権処理を取り上げていました。28日は「たばこ屋の数の2倍もある建設工事、これほど必要か」という言葉で、公共事業の削減と新分野を探す建設業者を取り上げていました。
構造改革の結果を具体現場の例から説明する、良い手法だと思います。抽象的な理論や、集計した数字だけでは分かりませんからね。(4月28日)

税制改革の議論

読売新聞18日、近藤和行編集委員の「政府税調、議論進めず。消費税上げ、唐突感に国民の反発も」から。
・・政府与党は、消費税を含む税制改革の議論を、7月の参院選まで封印することを決めており、調査分析に徹する政府税調の姿勢は、それに足並みをそろえているだけとも言える。また、消費税は過去に政治問題化したこともあり、「参院選の争点にすべきではない」(自民党税調会長)との主張にも一理はある。
しかし、安倍首相や与党は、ともに消費税引き上げなど抜本改革のスケジュールについて、「来年度改正の中で全体像を明らかにしたい」としている。その場合、実質的な議論の期間は、夏休み明けの8月下旬から12月中旬まで、わずか3か月余。消費税率引き上げという事の重大さや、過去の導入・税率引き上げ時に比べ、極めて短時間での政策決定になる可能性がある。
・・選挙戦術上、与党が消費税に関する発現を封印するのはともかく、政府や政府税調は、税制改革への取り組みや課題を、もっと前倒しで発信すべきではないか。