カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

最低賃金審議の一部公開が広がったが・・

8月19日の朝日新聞が「最低賃金審議「公開」広がる 今年は倍増40道県/一部の議論に限定 金額決定の詰めは非公開」を書いていました。

・・・全ての都道府県で今年の最低賃金(最賃)の引き上げ額が決まった。審議の一部を公開するケースが増えており、朝日新聞の調べで今年は40道県と、昨年の19道県から倍増した。ただ、どの都道府県も、労使が主張する金額をすり合わせる詰めの議論は非公開としており、全面公開のハードルは高そうだ・・・

・・・審議の公開は、鳥取県が15年前に始めた。専門部会は3者協議だけなのですべて公開し、2者協議は専門部会を休会して別室で非公開で開いてきた。
その後、公開する道県が少しずつ増えてきたが、今年一気に広がった背景には、国の小委員会が今年から一部を公開し始めたことがある。
ただ、国も公開するのは3者協議だけで、これまでも議事録が後日公表されていた部分だ。今年は5回の会合で計約26時間議論したが、公開したのはうち3時間ほど。国側の資料説明や、労使による金額に関わらない主張、最後のとりまとめの場面などだ。それ以外は2者協議だった。

これに対し、労働組合の中央組織・全労連は審議の全面公開を求めてきた。黒沢幸一事務局長は「率直な議論は公開されてもできる。労使がどんな主張をして、どう最賃に反映されたかを監視する必要がある」と話す。
2者協議は、労使が互いに聞かれたくない話をするための仕組みなので、公開すれば2者に限る意味がなくなる。全面公開するには、協議の仕方そのものをあらためる必要がある。
ただ、詰めの議論での発言は引き上げ額に直結する可能性があり、どの委員が何を言ったかが分かれば、それを不満に思う人から非難される恐れがある。厚労省幹部は「非公開は参加者を守る意味もある。全面公開したら委員のなり手がいなくなる」と話す・・・

公開する県が増えてきたのは良いことですが、それは問題の解決にはなりません。このような重要なことを、審議会が決めていることがおかしいのです。国会や県議会でも、審議のしようがありません。内閣なり県知事なり、政治が責任を持って決めるべきことです。「最低賃金千円に思う

子ども医療費の無償化の効果

8月11日の日経新聞オピニオン欄、渡辺安虎・東京大教授の「データが語る子育て支援のワナ」から。

・・・子育て支援策のうち、この25年ほどで一気に広がったのが子ども医療費の無償化だ。一定年齢までの子どもについて、健康保険でカバーされない2割や3割の自己負担分を市区町村や都道府県が負担し、実質無償で医療や薬を受け取れる政策である。
子ども医療費の無償化は国ではなく自治体レベルで行われてきた。当初はごく一部の市区町村で就学前までの医療費が無償化されていたが、この20年ほどで多くの自治体に広がった。2021年時点で半数弱の自治体が高校生まで、残りの半数弱も中学生まで無償化されている。就学前までのみ無償化の自治体は非常に少なく、助成対象の年齢の引き上げが続いている。

この政策はどのような効果をもたらしたのだろうか。実は無償化政策のデータに基づく効果検証を、政府はこれまで実施していない。
東大の飯塚敏晃教授と重岡仁教授は、市区町村レベルでの無償化の状況の推移データを作成した上で、患者レベルの治療の経過がわかるレセプト(診療報酬明細書)データと結合して政策効果を推計する論文を発表している。
結果は予想される通り、子どもにかかる医療費が増加していた。さらに健康な子供の受診回数が増え、不要な抗生物質の処方や、緊急性が低いのに救急外来を利用する「コンビニ受診」も増えていた。他方、無償化の効果については、死亡率や入院確率に変化はなく、成長後の健康状態にも影響がなかった。

つまり医療費の無償化は子どもの健康状態を特段改善しないにもかかわらず、過剰な医療費支出を生み出しているわけだ。将来的な財政負担を増やす非効率な政策はどのように広がったのだろうか。
重岡氏と筆者との共同研究からは、この政策が自治体の選挙を通じて広がってきたことが判明した。さらに単に選挙のタイミングで広がるのではなく、周囲の市区町村より無償化の対象年齢が低い選挙の場合に広がっていた。
首長が選挙への影響を恐れて周囲の市区町村に追いつこうとし、非効率な政策が地理的にどんどん広がる構図が読み取れる。前回選挙で対抗馬がいたり、首長が多選であったりする場合に特にその傾向が強い。

より大きな問題は、このような分析を政府が行っていないことだ。異次元の少子化対策は新たな挑戦であり、間違いや失敗が生ずることは避けられない。であれば、事業費の0.1%でよいのでデータに基づく政策改善のための予算を確保するなど、政府が改善を進められる体制を整えることが重要だろう・・・

細川連立政権の誕生から30年

NHKウエッブニュースに「“政権交代” その意味は」(8月9日掲載)が載っています。
話の中心は「細川連立政権の誕生から30年」で、細川護熙・元首相と、当時、自民党の副幹事長だった大島理森・元衆議院議長が質問に答えておられます。詳しくは、原文を読んでいただくとして。

記事の末尾に、取材と執筆をした記者が紹介されています。「細川政権時は保育園児、民主党政権時は高校・大学生」とのこと。時代を感じますねえ。
私は、自民党から細川連立政権へと、自民党から民主党政権への2度の政権交代を大臣や総理の近くで見ました。「間近で見た平成の政権交代

学力は公立学校でつけるべき

7月29日の朝日新聞オピニオン欄「「公」立て直すには」、小宮位之・NPO法人八王子つばめ塾理事長の発言から。

・・・経済的に厳しい家庭の小学生から高校生に、無料で教える塾を東京都内で開いています。公民館や企業が無償で貸してくれる会議室を借り、講師もボランティアです。
多くの子が塾に行く現状では、塾に行ける経済状態かどうかで格差が生まれます。そのため、行政が企業やNPOに委託して無料塾を手がける取り組みも進んでいます。そうした活動を否定するものではありませんが、僕たちは、行政からの委託や補助は受けず、必要経費は寄付で賄っています。

行政が取り組むべき、もっと優先順位の高い課題があると考えるからです。本来は、公立学校で学力がつくようにするべきで、塾は行きたければ行くというオプションのはずです。行政が無料塾を手がける余裕があるなら、先生やカウンセラーを増やすなど、公立学校の底上げをして欲しい。公立学校を強化すれば、結果的に、塾や私立校に行けない子どもが一番恩恵を受けるでしょう・・・

毎年変わる目玉政策

7月20日の日経新聞に、「予算特別枠、まるで猫の目」が載っていました。

・・・財務省は2024年度予算の概算要求で、賃上げや脱炭素といった「新しい資本主義」を推進する特別枠を設けて各府省庁から計4兆円超の要求を募る。政府は特定の施策に重点配分するため同様の手法を繰り返してきた。メリハリをつけやすいのは利点だが政権の看板政策の一貫性に欠ける弊害もつきまとう・・・
・・・看板政策を対象に裁量的経費の削減分以上の予算要求を認める手法は恒例となっている。概算要求基準で歳出総額の上限を示さなくなった14年度以降でみると、新型コロナウイルス感染症対策に追われた21年度予算を除くすべての年度で特別枠を設けた。10年間の累計で40兆円規模に及ぶ。

安倍晋三政権下では防災や地方創生、働き方改革や一億総活躍社会の実現、中小企業の生産性向上などが対象となった。菅義偉政権ではコロナ禍を踏まえたデジタル化や脱炭素を掲げた。岸田文雄政権では経済安全保障や少子化対策、防衛力の強化も加わった。
予算編成に政権の意向や技術革新が反映されるのは自然だが、重点施策は「猫の目」のように次々と変わる。重点分野が定まらず長期的な視野で経済成長を促す視点は乏しくなる。与党からは特別枠の対象を増やすよう求める声も強く、総花的になってもいる・・・

記事には、2014年度以降の主な重点政策が、表になって載っています。見てください。懐かしい政策(?)も並んでいます。社会の変化に対応するため、重点政策が変わることは悪いことではありません。しかし、中長期の重点政策、あるいは各政策を統合した政策体系を示して欲しいのです。この点は、連載「公共を創る」でも指摘しています。