カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

公的な私文書

11月13日の朝日新聞夕刊「アナザーノート」に、藤田直央・編集委員の「現代外交史に新たな角度、「公的な私文書」読み込む」が載っていました。

「最近の連載で、日本外交への提言を続けた元外交官の故・岡本行夫氏が残した文書を取り上げた。岡本氏が1990年代後半に橋本龍太郎内閣で、2000年代前半に小泉純一郎内閣で、首相補佐官を務めていた頃のものだ。
こうした「公的な私文書」に出会い、現代史を新たな角度から見つめ直す記事を書くことが最近続いた。政府の外交文書とは違う、入手から記事化に至るまでの醍醐味がある。その話をしたい」
として、三木武夫首相、若泉敬教授、岡本行夫さんの3人の文書が紹介されています。
ここで「公的な私文書」と呼ばれているのは、役所が保管していない文書で、政府の政策や行動に関する記述がある個人の文書です。藤田さんの意見を引用します。

「最後に、「公的な私文書」をどう扱うべきかについて述べたい。
「公的な私文書」という表現は実は政府寄りだ。三木文書の1973年の日ソ首脳会談議事録のように、「極秘 無期限」で作成者として外務省の担当課が記され、明らかに元首相の遺品である文書ですら、外務省は「民間所有の文書にコメントしない」という立場を取る。だから私文書扱いとなり公文書管理法の対象外となる。
それでいいのか。例えば米国では、大統領は退任時に公務に関する文書を全て国立公文書館に渡すよう義務づける法律がある。保秘のためだけでなく、後の開示に備えて管理する公的な制度で、文書を勝手に持ち出していたトランプ前大統領から捜査機関が押収するなど厳格に運用されている。

日本では「公的な私文書」は劣化し、散逸するばかりだ。三木文書では56年の日ソ首脳会談議事録の肝心な部分がかすれ、判読が難しくなっていた。佐藤家では秘密文書の扱いに悩み、燃やそうという声もあったという。こうした文書が失われていくほど、戦後日本外交の選択を検証する際の記録は、外務省の「30年ルール」による開示に頼りがちになる。
しかし、三木文書には30年経っても外務省が出さない文書が含まれ、若泉文書には外務省とは別ルートでひそかに首相の決断を支えた文書があり、岡本文書には首相の「勝負会見」で外務省が準備したのとは別の発言案があった。こうした文書の多様さは歴史的な検証の幅をぐっと広げる。国民の共有財産としてどう保存し継承するか、議論を急ぎたい」

塩野七生さん「政治はまず大目的を掲げよ」

11月25日の日経新聞夕刊に「塩野七生さん「政治はまず大目的を掲げよ」」が載っていました。塩野七生さんが、今年度の文化勲章を受けての共同記者会見を開いた席での発言だそうです。

「いまは世界の指導者のだれひとり、何をやったら良いのかわかっていない。
目の前のことだけやっているのではなく、ひとつ上のことを決めて処していくのが政治です。動乱の時代には、まず大目的を上に掲げること。日本は課題が山積しているが一番大切なのは何かといえば、私は国土と安全保障だと考えます」

昭和をひきずる年金制度

10月18日の日経新聞オピニオン欄、柳瀬和央・論説委員の「「昭和」をひきずる年金制度 男女の違い、まだ必要か」から。男女共同参画社会といいながら、なぜこのような制度が今も続くのですかね。男女共同参画白書が指摘しないのでしょうか。一部の既得権者の反対があると、全体の利益のためにそれを廃止できないことが、日本の発展を阻害しています。この記事は、「政治の役割」に分類しておきます。

・・・夫が働き、妻は家事に専念する――。こんな昭和の家族像を前提にしたルールが公的年金にはいくつも残る。2025年の次期制度改正はこれらの見直しが焦点になる。
「昭和モデル」として最も知られているのは第3号被保険者制度だろう。専業主婦ら会社員や公務員の配偶者は保険料を納めなくても基礎年金を受給できる仕組みだ。
主婦らがパートに出ても収入が一定額以上になるまでは扶養家族として扱われ、年金保険料を納めなくても基礎年金を受給できる仕組みだ・・・

・・・実は、昭和を引きずった年金のルールはこれにとどまらない。家計を支える者が死亡した場合に残された遺族の生活を支える遺族年金にも色濃く残っているのだ。
子どもがいない30歳の専業主婦が会社員の夫を亡くした場合を想定しよう。すぐには難しくても、いずれ仕事を探して収入を得ようとするのが現在では一般的な行動のはずだ。ところが年金制度の考え方はそうなっていない。この女性は再婚するか籍を抜くかしない限り、遺族厚生年金を終身でもらうことができる・・・

新型コロナ対策、専門家の提言

10月11日の朝日新聞、尾身茂氏に聞く、コロナ提言づくりの裏」「「ここは学会じゃない」何回か言った」から。

コロナ禍で100以上の提言を発表した専門家集団。とりまとめ役を担った尾身茂氏が提言づくりの内幕を描いた新著を先月出版した。尾身氏はインタビューで「我々の提言が完璧とは思っていない」と述べ、提言内容が妥当だったのか検証が必要との考えを示した。

――2020年5月8日、最初の緊急事態宣言の解除の条件を議論する勉強会で、「一体何を考えているんだ」と声を荒らげたと書いています。
ある程度、客観的な解除の目安を作ることは、勉強会の4日前に政府の基本的対処方針等諮問委員会で合意していた。
でも、勉強会には委員会のメンバーでない人もいる。自分の専門領域のことが当然頭にある。だから、「感染がゼロになってから解除するべきだ」とか「宣言は1~2年継続するべきだ」という意見が出た。
私は「何を考えているのか」と思った。そもそも、緊急事態宣言を出すときの記者会見で三つの理由を示した。(1)感染が拡大して、(2)医療が逼迫(ひっぱく)し、(3)クラスター対策が出来なくなっている。宣言を出した理由がなくなれば、解除は当たり前と思っていた。

――「ここは学会ではない」と言ったこともあったそうですね。
我々の最大の仕事は、政府に提言することだ。提言は直接的、間接的に国民生活に影響する。だから、研究者には酷なことだと十分わかっていたが、厳密なエビデンス(科学的根拠)がないから何も言えないのであれば、専門家の存在理由がなくなる。「ここは学会じゃない」「専門家としての判断や考えを言うことが必要だ」と何回か言ったと思う。
提言をつくる過程で正解はない。合理的で、人々に理解してもらえる内容に落とし込むのは、そう簡単ではない。専門家といえども、専門性や価値観、経験が違うから、考え方も違う。それぞれの意見をぶつけ合うことでしか、提言をまとめることはできなかった。
提言をつくる過程の、時に激しいやり取りを知ってもらうことで、新しい専門家の助言組織に少しでも参考にしてもらいたいという思いがある。

最低賃金と知事の関わり

何度か取り上げている最低賃金の決定過程についてです。「最低賃金審議の一部公開が広がったが・・

10月4日の日経新聞が、「最賃1000円の宿題(上)」で「最低賃金、1円の上げ幅競う自治体」を伝えていました。そこに、次のような話が紹介されています。
・・・茨城県で審議会がまとめた答申額は国の目安より2円多い42円の引き上げだったが、大井川和彦知事は「最低賃金で働く人は、茨城という地で苦しんでいる」と訴えて公開質問状を突きつけた。それでも42円上げの決定は変わらず、「妥当な見解として受け入れることはできない」(大井川氏)と不満を募らせる。
福井県の杉本達治知事は8月上旬、自ら「議場」に乗り込んだ。最低賃金を決める審議会を開く福井労働局に出向き、審議会長らに「積極的な引き上げを」と申し入れた。審議は労使の代表者による直接交渉が原則で、知事が現れたのは異例だ・・・

私が何度か指摘しているように、地域ごとの最低賃金を、国の出先の審議会が決めて、県知事や県議会が関与できないのです。早くこの決定過程を変えて、知事や議会が決めるようにすべきです。