読売新聞は、5月31日から政治面で、「政策決定と科学」を始めました。そこに、イギリスの「政府への科学的助言に関する原則」(2010年3月)が紹介されています。
そのポイントは、政府にあっては、科学的助言者の学問の自由を尊重し、評価する。政策決定が助言に反する場合は、決定理由を公式に説明する。科学的助言者にあっては、科学は政府が政策決定で考慮すべき根拠の一部にすぎないと認識する。助言は、国家安全保障や犯罪助長などの理由がある場合を除き、公開する。そして、双方とも相互信頼を損なう行為をしないことです。
イギリスでこのルールが作られたのは、1990年代BSE(牛海綿状脳症)に関する科学的助言が過小評価されたとして、政府と科学者双方への不信が増したことがきっかけでした。アメリカやドイツにも、同じようなルールがあるそうです。
科学者は助言内容を自由に公表できる、しかし政策決定の際に考慮する一部でしかないことを双方が認識することです。日本でも、今回の原発事故対策や、今後の津波対策に際し、有用でしょう。
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行政-政治の役割
やらせてみて、責任政党を育てる
昨日の続きです。朝日新聞2月22日オピニオン欄、「1票の格差の話をしよう」から。井上達夫先生は、日本政治の現状について、次のように述べておられます。
・・政権が交代しても何も変わらないという、しらけと失望が現在、国民に広がっているようで気がかりですが、政権交代を繰り返す中から変革の可能性は開けてくると思います。しっかりしないと政権を失う、しっかりしないと政権を奪還できない、という政治的競争圧力が、政策的、組織的な統合力を高める方向への自己改革のインセンティブを政党に与えます。参院の強すぎる権限の問題を克服する政治的慣行も、その過程で形成されると期待します。
大事なのは国民とメディアの態度。政治家をたたいて快哉を叫ぶ態度から、本当に改革力のある責任政党を育てる姿勢に転換すべきです。
有権者は政党や政治家に「やらせてみる」。政党や政治家は「やってみせる」。失敗すれば「潔く責任をとる」。拒否権勢力が牽制しあい足を引っ張りあう政治から、責任ある政治的指導力を鍛え上げる民主政治に変わってほしいと思います・・
協調・責任の分散か、競争・責任の明確化か
朝日新聞2月22日オピニオン欄、井上達夫東大教授のインタビュー「1票の格差の話をしよう」から。
教授は、議会制民主主義を2つのモデルに区別します。一つは、多様な政治勢力が権力を共有してコンセンサスで決めるという「コンセンサス型」。もう一つは、選挙で比較第1党になった政党に単独で政権を担当させ、政権交代を活性化させる「ウェストミンスター型」です。そして、政治的な答責性の面からは、コンセンサス型は問題が多いと主張されます。
・・アカウンタビリティーは説明責任と訳されますが、単に説明すればいいのではなくて、責任者に腹を切ってもらうことまで含む概念。私はそれを答責性と呼んでいます。政治的な答責性は2種類。一つは「誰が間違っていたのか」という主体的答責性。もう一つは「何が間違っていたのか」という主題的答責性です・・
・・コンセンサス型の場合、相互に拒否権をふるう多様な政治勢力の妥協で政策形成をするから、みんな自分が譲歩を強いられたという被害者意識を持つ。うまくいかなければ互いに責任を転嫁しあうので、誰が間違ったのか主体的答責性が曖昧になります。また、政策がつぎはぎになるため、何が間違っていたのか主題的答責性も不明確になる。答責性の観点からは、理念的、機能的な整合性をもつ政策体系を追求する単一の勢力に政権を運営させるウェストミンスター型が好ましい・・
外交の重要性
藪中三十二著『国家の命運』(2010年、新潮新書)が、勉強になりました。出版と同時に買ってあったのですが、積ん読状態でした。反省。
著者は前外務次官で、日米構造協議などいくつもの国際交渉を経験しておられます。外務官僚から見た、日本国家論です。書評でも取り上げられているので、読まれた方も多いと思います。
私は内政が主な仕事なので、外交分野は勉強になります。日本が先進国になり、一方でグローバリゼイションが進んだことによって、外国との関係や外交交渉が、日本国の在り方と国民の生活に大きく影響します。日米の繊維交渉や自動車摩擦は、一部の製造業に大きな影響を与えましたが、農産物の輸入自由化や汚染された食品の輸入は、家庭にも影響を及ぼします。そして、国際社会で日本はどのような位置を占めていくのか、日本はどのような国を目指すのか。これは日本の安全と繁栄、国民の在り方、そして世界の安全と繁栄に、大きな影響を及ぼします。
官邸で見ていても、総理の仕事の半分以上が、外交と世界の経済問題や安全問題でした。最近のニュースでも、外国との関係や国際問題の占める割合が、多くなったと思います。これまでは、外交官と一部の関係者に任せておけばよかったものが、日本の政治の大きな要素になったのです。しかし、政治家をはじめ、マスコミ(記者)や論壇など、まだそれに従事する人は多くありません。専門誌がないことも、かつて書きました(2010年4月12日の記事)。それだけの市場が無く、関心が低いということでしょう。
国際行政の進化
今後リーマン・ショックを起こさないように、国際的な金融規制が議論されています。例えば、2月13日の日経新聞は、巨大金融機関の規制を解説していました。経営破綻すると世界の金融システムを揺るがしかねない巨大金融機関を規制しようとするものです。
これまでは、各国が自国内の金融機関を規制していました。ところが、金融のグローバル化が進み、国内規制だけでは効果がなくなったのです。アメリカの投資会社(証券会社)であるリーマン・ブラザーズの倒産は、世界各国の金融と経済に大きな危機をもたらしました。詳しくは、記事を読んでいただくとして、世界政府がない現在の国際社会で、どのように国際的な規制をつくるか。国際行政の進化として、興味深いケースです。