「政治の役割」カテゴリーアーカイブ
行政-政治の役割
政治家の記録
伊藤隆著『歴史と私』(中公新書、2015年)は、伊藤隆・東大名誉教授が、日本近現代史研究を切り拓いてきた学者人生を振り返った記録です。特に、先生が力を注がれた、政治家の日記や記録の発掘、インタビュー(オーラルヒストリー)の記録です。それは本を読んでいただくとして、政治家の日記・記録についての一節を引用します。
・・・戦後日本は、あれだけ頑張って高度成長を成し遂げ、今もその遺産で世界で3番目のGDPを誇っています。それなのに、どうやってこの国を作ったかという記録が、少ししか残っていない。関わった人はすごく多いはずなのに、非常に残念です。
明治期はみんな、自分たちが新しい国家を作っているという自負があったから、積極的に記録を残しています。公文書だけではなく、それにまつわる私文書、そして議事録も残ってる。ところが時代が進むにつれて、だんだん史料が少なくなってくる。敗戦直後には、官庁は戦前の史料を燃やしました。都合の悪いものは捨ててよろしいという前例を作ったわけで、そのせいか、それ以後は文書を捨てることの罪悪感が希薄になりました・・・(p276)。
歴史認識と政治
東京財団、細谷雄一さん(慶應大学教授)の「歴史認識問題を考える書籍紹介」から。
・・・近年は、歴史学の領域のみならず、政治学や国際関係論においてもまた、歴史認識や歴史的記憶が持つ重要性が指摘されるようになっている・・・われわれは、依然として、歴史認識問題や歴史記憶問題を純粋な、誠実さの問題として位置づけることが多いが、ここで指摘されているように、よりいっそう政治学的な問題として、「記憶」がどのように用いられているかを、十分に認識しなければならない・・・
・・・日本が現在抱える最も困難な歴史認識問題は、日中間と日韓間で見られる。とりわけ、慰安婦問題は、日韓間で首脳会談さえも開くことができないほど、両国の関係を緊張させている。韓国国内では、この問題を学問的研究対象として、冷静に論じることは困難であろう・・・
・・・E・H・カーは、「現在の眼を通してでなければ、私たちは過去を眺めることも出来ず、過去の理解に成功することも出来ない」と論じている。言い換えれば、日韓間や日中間の歴史認識問題を理解するためには、韓国政治や中国政治、そして日本政治を理解することもまた、不可欠なのだ。なぜそのような歴史認識問題が浮上したのか。なぜそれが解決できないのか。それは、歴史的事実を理解するだけでも、歴史史料を探すだけでも、不十分なのであろう。相手を批判するだけではなく、過去を理解すると同時に、現在を理解することで、複雑に絡み合った歴史認識問題に適切に対応できる前提条件が得られるのではないか・・
詳しくは、原文をお読みください。
朝日新聞世論調査、再軍備賛成が7割。1951年
新聞を読んでいて、時々「おやっ」と思うときがあります。知らないことが書かれている場合や、「この新聞もこのようなことを書くのだ」といった場合です。
朝日新聞は、夕刊で「新聞と9条」という企画を連載しています。6月9日に次のような記述があります。
・・・1951年9月16日、毎日新聞が次の世論調査結果を発表した。
日米安保条約について、賛成79.9%、反対6.8%
日本の再軍備について、速やかに再軍備した方がよい24.9%、経済が立ち直ってから51.4%、再軍備すべきでない12.1%
20日、朝日新聞も調査結果を発表した。
自衛軍をつくるという意見に、賛成71%、反対16%。
10人に7人が再軍備を支持した・・・
私は、この世論調査結果は知りませんでした。
健全な外交は安定した政治基盤から
6月8日の読売新聞文化欄、細谷雄一・慶応大学教授の「偏狭化するイギリスの潮流」から。主旨は、イギリスが世界大国であることをやめてしまったのではないか、ということですが、ここでは別の部分を紹介します。
・・・安定した政治的基盤がなければ健全な外交を行うことは難しい。イギリスがアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加を決めたのは、経済的な論理を外交的な論理よりも優先して、財務省主導で判断したからだ。決定の直前まで、同盟国アメリカや日本への十分な説明はなかったために、イギリスの国際的信頼や、同盟国との友好関係を大きく傷つけた。1930年代のドイツへの宥和政策も、財政的見地から財務省が主導したともいわれる・・・
このような見方もあるのですね。