カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

IMF、所得税減税の効果疑問視

2月10日の日経新聞が「IMF対日経済審査、所得税減税の効果疑問視」を伝えていました。

・・・国際通貨基金(IMF)は9日、日本政府が6月に実施する所得税と住民税の定額減税について「成長に及ぼす影響は限定的と予想される」との見解を表明した。物価上昇率が日銀目標の2%程度に落ち着くと見込み、大規模な金融緩和を終わらせ、段階的な利上げに踏み切るよう促した。
年に1度の対日経済審査を終え、声明を公表した。
日本の財政政策に関して、厳しい見方を示した。経済が引き続き回復していることから、歳出抑制など引き締め策に軸足を移すべきだと提起した。
なかでも、岸田文雄首相が打ち出した所得税減税は債務状況を悪化させると指摘・・・
このほかにも、補正予算を毎年編成する慣行も、改めるべきだと訴えています。

至極まっとうな議論と思うのですが。
日本人、特に日本の報道機関などは、世界からの評価を気にするのに、このようなことは気に掛けないのですかね。自分に都合のよいことだけ、引用するのでしょうか。

OECDの対日経済審査報告書

1月11日に、経済協力開発機構(OECD)が2年に1度の対日経済審査の報告書を公表しました。ウエッブで「主な結論」をクリックすると、日本語の要約を読むことができます。
日経新聞、1月12日「日本に定年制廃止を提言 OECD、働き手の確保促す」は、次のように伝えています。
・・・経済協力開発機構(OECD)は11日、2年に1度の対日経済審査の報告書を公表した。人口が減る日本で働き手を確保するための改革案を提言した。定年の廃止や就労控えを招く税制の見直しで、高齢者や女性の雇用を促すよう訴えた。成長維持に向け、現実を直視した対応が求められる。

OECDは高齢者や女性、外国人の就労底上げなどの改革案を実現すれば出生率が1.3でも2100年に4100万人の働き手を確保できると見込む。出生率を政府が目標とする1.8まで改善できれば5200万人超を維持できるという。

高齢者向けの具体策では、定年の廃止や同一労働・同一賃金の徹底、年金の受給開始年齢の引き上げを提示した。
OECDに加盟する38カ国のうち、日本と韓国だけが60歳での定年を企業に容認している。米国や欧州の一部は定年を年齢差別として認めていない。
日本で定年制が定着した背景には、年功序列や終身雇用を前提とするメンバーシップ型雇用がある。企業は働き手を囲い込むのと引き換えに暗黙の長期雇用を約束することで、一定年齢での定年で世代交代を迫った。
職務内容で給与が決まる「ジョブ型雇用」は導入企業が増える傾向にある。岸田文雄首相は23年10月の新しい資本主義実現会議で「ジョブ型雇用の導入などにより、定年制度を廃止した企業も出てきている」と述べた。
OECDは年功序列からの脱却などを指摘するが、大企業を中心にメンバーシップ型の雇用は根強い。マティアス・コーマン事務総長は11日の都内での記者会見で「働き続ける意欲が定年制で失われている」と強調した・・・

このほか、次のような項目も提言しています。
・段階的な消費税増税などの税収確保
・年功序列賃金からの脱却
・同一労働・同一賃金の徹底
・非正規労働者の被用者保険の適用拡大

批判もする友人の意見を聞く

1月10日の朝日新聞オピニオン欄、藤田早苗さんの「「人権のレンズ」持てる教育を」の続きです。

―日本の人権状況について、国連の人権機関や専門家から繰り返し、懸念が表明されたり、勧告が出されたりしてきました。
「驚くのは、日本政府は勧告にまったく耳を傾けようとしないことです。2021年に国会提出を断念した出入国管理法(入管法)改正案に対し、国連人権理事会の3人の特別報告者などが国際人権基準に照らした問題点を指摘したところ、当時の上川陽子法相が『一方的な見解で、抗議せざるを得ない』と反発しました。『クリティカル・フレンド』(批判もする友人)である特別報告者の勧告を無視して、国際社会で信頼と評価を得るのは難しいでしょう」

―「クリティカル・フレンド」とは何でしょう。
「相手のために耳の痛いことでも忠告してくれる友人という意味です。国連人権勧告は友人による建設的な忠告と受け止めるべきなのに日本政府はそれができない。部活動の先輩やコーチから的を射た忠告を受けたとき反論や無視をしますか。多くの国連加盟国は勧告に真摯に向き合い、建設的に対話を重ねています」

もっとも、まったく意見を聞かない国や人もいて、ひんしゅくを買っています。日本がそうなってはいけませんよね。

閣僚会議2割廃止

12月27日の朝日新聞に「閣僚会議2割廃止を発表」が載っていました。

・・・河野太郎行政改革担当相は26日の閣議後会見で、政府が内閣官房と内閣府に設置している85の閣僚会議のうち、2割にあたる17会議を廃止すると発表した。「官邸主導」のもとに乱立した会議を整理した。
廃止するのは、日仏友好160周年記念事業を検討する「ジャポニスム2018総合推進会議」や、神奈川県の障害者施設「津久井やまゆり園」殺傷事件を受けて設置された会議など。河野氏は「(議論が)終わったものは、本来なら廃止措置をしっかりすべきだった」と説明した・・・

会議をつくるときに、終期を定めておけばよいと思います。

『解(ほど)けていく国家―現代フランスにおける自由化の歴史』

解(ほど)けていく国家―現代フランスにおける自由化の歴史』(2023年、吉田書店)を読みました。
宣伝文には「公共サーヴィスの解体と民衆による抵抗運動…自由化・市場化改革の歴史を新たに描き直す」とあります。巻末についている、訳者である中山洋平教授による解説がわかりやすいです。

フランスにおける、この40年間の経済の自由化・市場化・国際化を解説したものです。第二次世界大戦後のフランスは、「ディリジウム」(国家指導経済)という言葉で表された、経済に対する強力な国家介入で知られていました。鉄道、通信、電力と行った社会インフラだけでなく大きな企業(金融、自動車、製鉄)といった企業も、国有でした。そして、政府とともにそれら企業の幹部を、特定の有名大学出身者(高級官僚)が占めていました。日本より、自由化は強烈な打撃だったのです。

本書では、第Ⅰ部(1945年~1992年)で、介入型国家が成立した過程を描きます。それは政府が一方的に主導したのではなく、人民戦線やレジスタンスの民衆動員(デモ)に基礎をおいていて、平等を求める国民の支持があったのです。これを、社会国家と表現しています。フランスは私たちの思い込みとは異なり、労働組合が弱く、デモがその代わりを務めます。フランス革命以来、民衆が街に出るのです。
しかし介入型国家が行き詰まりを見せ、官僚主導による自由化が徐々に進められます。その過程では1968年の五月事件も起きます。ドゴール政権に対して左翼が蜂起するのですが、総選挙でドゴール派が勝って、逆の結果になったのです。ミッテラン左派政権も、社会主義的な政策を掲げていたのですが、自由化へ転換します。

第Ⅱ部(1993年~)は、自由化、国際化の過程が描かれます。国家の後退、改革する国家から改革される国家へ、規制国家から戦略国家へなどという言葉が使われます。地方分権も含まれます。
この本のもう一つの軸は、民衆動員です。フランスの伝統でしょう。五月事件もその代表例ですが、政府は民衆動員を抑えようとします。規制国家は、秩序維持国家に変身します。それは、大量の移民の増加、社会の治安の悪化も理由として進みます。

サッチャー、レーガン、中曽根首相による新自由主義的改革、1980年以降先進国で進められたニュー・パブリック・マネジメントは、日本でも採用されました。
私は、フランスでどのようなことが起こっていたか、不勉強で知りませんでした。戦前の日本並みの中央集権国家(知事が官選)だったフランスが、ミッテラン政権で大胆な分権に踏み出したことは知っていたのですが、上記のような文脈にあったのですね。勉強になりました。