カテゴリー別アーカイブ: 復興10年

国会事故調査委員会のその後

9月10日の朝日新聞オピニオン欄に、東京電力福島第一原発事故に関する国会事故調調査統括を務めた宇田左近さんへのインタビュー「原発事故後、変わらぬ日本」が載っていました。

東京電力福島第一原発事故で時限設置された国会事故調査委員会のメンバーが今夏、「同窓会」を開いた。日本社会に突きつけた課題が、干支が一巡してもほとんど改善していないことを憂えた集いの名は「変わらぬ日本と変わる私たち」。調査実務を統括した宇田左近さんに、問題の所在と解決の糸口を聞いた。

――2011年の原発事故を受け、政府・国会・民間・東電と、いくつもの事故調査委員会ができました。その中で国会事故調は、どんな存在でしたか。
「当事者からの独立性は、政府と東電の事故調は弱く、国会と民間の事故調は強かったといえます。一方で調査権限は、民間と東電は弱く、政府と国会の事故調は強く広範だった。つまり、独立性と調査権限を兼ね備えていたのが国会事故調でした。だからこそ、その結論は海外からも信頼されました」
「委員10人は各党推薦で、私を含め調査実務を担った約80人は全員民間からの参加でした。政治家や政府関係者による接触も制限し、独立性を担保。調査権限では、いざとなれば国会に国政調査を要請できることが効き、広く協力が得られました」
「省庁の審議会と違い、結論ありきではありません。調査結果に基づき、委員全員が全体に責任を持つ形で報告書をまとめました。その結果、歴代の規制当局と東電の間で、津波や地震、過酷事故などの対策を見直す機会が何度もあったにもかかわらず、してこなかったことから『人災』だったと結論づけたわけです。また、いつしか規制当局が圧倒的に情報量が多い電力事業者の言いなりになってしまっていたことを『規制の虜』という言葉で指摘しました」

――その後への提言もありましたね。
「提言は(1)規制当局に対する国会の監視(2)政府の危機管理体制の見直し(3)被災住民に対する政府の対応(4)電気事業者の監視(5)新しい規制組織の要件(6)原子力法規制の見直し(7)独立調査委員会の活用――の七つでした。国会事故調は、実質半年で報告をまとめることが法律で定められており、12年7月に報告書を両院議長に提出すると翌日には解散しました。以降のボールは国会にあると考えています」

――提言の実施状況を、どう見ていますか。原子力規制委員会という独立性の高い規制組織は整備されたものの、事故や原子力のあり方について国会に検証や監視・議論を続けていくことを求めた提言は、ほとんど実現していないようにみえます。
「提言(1)に沿い、衆院原子力問題調査特別委員会が13年に設置されましたが、実質的な議論の機会は限定的に思えます。何を実施したのか、しないのならばその理由などを、国民に明らかにすべきです。関係者の証言記録を含め、集めた膨大な調査資料は、今も非公開のまま国会図書館に眠ったままです。提言の背景や趣旨について国民の理解を深めてもらうためにも、扱いを早急に判断すべきです」
「米国では、スリーマイル島の原発事故の際に民間人を活用した独立調査委員会が報告書をまとめ、規制当局と原子力事業者の関係見直しにつなげています。英国は、狂牛病やイラク戦争などの重大事には独立委員会で政府対応を検証し、批判も含めて報告書にしています。日本の国会も、政府が言ったことだけを議論するのではなく、自分たちで対案を出して議論していくということが大いにあっていい。そうでないと、世界の信頼はなかなか得られません」

災害備蓄品の進化

9月2日の日経新聞に「防災備蓄、自治体積み増し」が載っていました。

・・・自治体が災害時の食料などの備蓄を増やしている。直近でも南海トラフ地震の臨時情報が初めて発表され、強い勢力の台風10号が猛威を振るう。9月1日は「防災の日」。地域が孤立無援の対応を求められかねない広域災害や、道路の寸断による孤立集落の発生という「2つの孤立」をにらんだ戦略の練り直しが進む・・・

そこに、大災害を経験して、品目が追加されたことが、図で載っています。
阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)では、紙おむつ、生理用品。
熊本地震(2016年)では、米粉クッキー、液体ミルク。
房総半島台風、東日本台風(2019年)では、段ボールベッド、屋内テント。
能登半島地震(2024年)では、携帯トイレ。

鎌田浩毅著『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』

鎌田浩毅著『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(2024年、PHP新書)を紹介します。このホームページでしばしば登場していただく、鎌田先生の新著です。

宣伝文には、次のように書かれています。
・・・「大地変動の時代」に入った日本列島で生き延びるために。「京大人気No.1講義」で名を馳せた地球科学者が、列島を襲う巨大地震を警告!
今後、東日本大震災と同じマグニチュード9の巨大地震が、三つ起こる可能性がある。震源域はそれぞれ、千島海溝と日本海溝、南海トラフ、九州・沖縄沖の琉球海溝である。本書ではこの三つの巨大地震について取り上げるほか、犠牲者最大2万3000人と推測されている首都直下地震や房総半島沖地震、2020年代に桜島や有珠山が噴火する可能性など、警戒すべき大地震を平易に解説・・・

先日、8月8日に宮崎県日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震がありました。「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が出されました。この地震は南海トラフ地震ではないのですが、緊張感を高めました。
時宜を得た出版ですね。アマゾンを見たら、環境分野でベストセラーになっていました。

『水害救援法務ハンドブック』

中村健人・岡本正著『自治体職員のための 水害救援法務ハンドブック-防災・減災の備えから初動・応急、復旧・復興までの実務-』(2024年、第一法規)を紹介します。
宣伝文には、次のように書かれています。
「水害に対する事前の備え、初動・応急、復旧・復興という各段階で、水害対策に関する実務上の法務のポイントを提供することで、自治体職員がやるべきことが時系列でわかり、迅速・的確な判断と対応ができる」

毎年、列島の各地で大きな水害が起きています。各自治体職員にとって、人ごとではなくなりました。
同じ著者による『改訂版 自治体職員のための 災害救援法務ハンドブック―備え、初動、応急から復旧、復興まで―』の姉妹編です。

高齢化と災害医療

7月13日の朝日新聞夕刊に、阿南英明・神奈川県立病院機構理事長の「進む高齢化、災害医療のあり方は」が載っていました。

・・・神奈川県の新型コロナ対策を率いた救急医は1月、能登半島地震のDMAT(災害派遣医療チーム)の一員として、石川県庁でDMATや自治体間の調整役を務めた。過去の災害支援やコロナ下の経験をもとに、今後の災害時医療に求められることを聞いた。

「能登の避難所にいる高齢の被災者の衰弱が激しい。命を救うため、広域搬送が必要な人がまだいる。しかし、使いにくい法律がなんと多いことか」
広域搬送が必要になる人の大半は、お年寄りだ。医療を受けられる入院先の病院とともに、落ち着いて生活できる介護施設を見つけることが急がれていた。
しかし、介護保険法では、施設への入所条件は要介護認定に基づく。要介護3以上の人が対象の施設には原則、1や2の人は入れない。避難生活で急激に状態が悪化しても、容易に入所はできない。速やかな要介護度の区分変更が望ましいが、変更するには主治医が意見書を書く必要があった。
見直しの要望を厚生労働省に上げ、1月中旬には主治医でなくても意見書を作れるようになった。でも、認定作業には一定の時間がかかる。災害救助法の解釈には、省庁によるばらつきが目立った。

神奈川に戻った1月末。「フェーズは変わった」と語った。
「急性期の価値観はとにかく助けるでいい。でも時間がたつほどに多様性の重要性が浮き彫りになる。あなたはどうしたいのか? 能登を離れるのか、残りたいのか。それぞれの思いをくみとり、対処するのがあるべき姿」
被災地の病院の救急運営や高齢者の受け入れ先を見つけることに加え、地元の施設に物資や人を補い、再開や存続を支えることもDMATの目的になった。活動は1カ月を超し、異例の長期間となった。

6月。DMATの活動が長期化した主な理由を改めて問うと、「高齢化」という答えが返ってきた。
被害が深刻だった地域の高齢化率は、2011年の東日本大震災は20%台。これが能登半島地震では5割近くになっていた。
受け入れ先を探すのは困難で、復旧を担う側にも高齢の人が多い。離職者も増え、施設再開に時間がかかった。
高齢化はさらに進む。これから起きる災害では、医療やケアの存続が難しいという同じ問題がどこでも起きるのでは?
阿南さんはうなずき、続けた。「こういう社会に我々は暮らしているとまず、認識しなければならない。特効薬はない」・・・