「官僚論」カテゴリーアーカイブ

行政-官僚論

「お笑い大蔵省極秘情報」

3月23日の朝日新聞夕刊「時代の栞」は、テリー伊藤著『お笑い大蔵省極秘情報』(1996年)を取り上げた「競争社会極めた人間の業」でした。

・・・霞が関の競争社会の頂点にいるとされた大蔵官僚。全員がそうではないだろうが、出世のためには人を欺くことさえ厭わない彼らのゆがんだ本音がこの本からうかがえる。
「大蔵省から見たら、尻尾が見えていない日本人はいないんですよ」
「われわれにとっては大蔵大臣はどんなアホでも同じなんですよ」
たしかに東大法学部出身者は多い。仕事に誇りと自信を持つのはいいが、人を見下すような発言はいただけない。「京大や早慶は刺し身のツマ。(官僚トップの)事務次官なり主計局長になったりすることは皆無です」。そんな発言も載っている・・・

・・・テリーさんが一番驚いたのは彼らに迷いがないことだったという。「『間違ったことを俺はひとつもしていない』と言うのです」。脈々と続く官僚システムに忠実に従っている限り、自分は安泰だと思っていたのだろうか。
本が出版された90年代は、バブル崩壊後の景気低迷や金融危機の時代だった。巨額の不良債権を抱えた住宅金融専門会社(住専)の処理や金融機関の破綻処理のため、公的資金を投入することにも国民から不満の声が上がった。その裏で次々と明らかになったのが、大蔵幹部が受けていた過剰接待。逮捕者が出たり、蔵相や事務次官が辞任に追い込まれたりした・・・

ところが、懲りずに、その後も破廉恥な行為を繰り返します。1998年には「ノーパンしゃぶしゃぶ」料理店での接待問題が表面化します。何を勘違いしたのでしょうね。私はこの本を読んでいません。とはいえ、私も同業者です。

記事には、1990年代から最近までの大蔵省(現財務省)をめぐる不祥事が列記されています。転載しておきます。この年表には書かれていませんが、1998年の接待汚職事件を受けて、1999年に国家公務員倫理法が制定されました。

1995年3月 信用組合理事長からの過剰接待が発覚。大蔵省幹部2人を訓告処分
12月 元東京税関長が過剰接待問題で辞職
1998年1月 四つの都市銀行の担当者からの高額接待が明るみに。大蔵検査官2人を収賄容疑で逮捕
3月 大手証券からの収賄容疑で課長補佐ら2人を逮捕。主計局長、官房長らを処分
4月 民間金融機関からの過剰接待問題で職員112人を処分
6月 金融監督庁発足で大蔵省から金融検査・監督部門が分離
(2001年1月 中央省庁が「1府12省庁体制」に再編成される。大蔵省は財務省に)
2008年6月 タクシー事業者からの利益供与「居酒屋タクシー」問題で職員600人の金品受領が発覚
2018年4月 テレビ朝日女性記者へのセクハラ発言を報じられた福田淳一事務次官が辞任

若手官僚の悩み、講義後の質問2

若手官僚の悩み、講義後の質問」の続きです。
たくさん質問をもらったことは、うれしいです。手応えがあるということですから。答えを書きつつ、「このような質問は、職場ではしにくいのだろうな」「近くに相談に乗ってくれる人がいないのかなあ」と思いました。私が仕事で悩んだときに助言してくれたのは、上司ではなく6年から2年年上の先輩でした。

読売新聞の「人生案内」や、朝日新聞土曜別刷りの「悩みのるつぼ」という人生相談投稿欄があります。その回答者になった気分でした。
回答をつくるにあたって、岡本組の組員たち(何かと相談に乗ってもらう元部下たち)に、相談しました。ありがたいことに、私の気づかない点を指摘してくれました。

皆さんはご存じないでしょうが、昔ラジオの人生相談番組に、融紅鸞(とおる こうらん)という、大阪のおばちゃん(?)の回答者がいました。昭和40年代でしょうか。夫婦の悩み事、おおかたはひどい夫についての妻からの相談に、「ほな、別れなはれ」という身も蓋もない決めぜりふを言います。
私も結論を急ぐ方で、それに近い回答を考えるのですが。協力してくれた「岡本組の相談員たち」は、親切でした。「悩んで相談している若手に、もっと親身になって回答すべきです」と忠告をくれました。また、私の回答案に対して「相談者が悩んでいることは、それとは別ではないですか」と、鋭い読みをした助言者も。

中には、次のような指摘をする相談員もいました。
「質問者は、質問内容を電子メールに打っている段階で、自ずと答えのようなものを見い出していることも多いのではないでしょうか。そして、「岡本先輩のような人に聞いていただきたい、分かっていただきたい」という思いと、「岡本先輩に、自分で見い出した答え的なものを後押ししてほしい」ということなのではないでしょうか」
そのような効果があれば、よいですね。

若手官僚の悩み、講義後の質問

1月から実施した内閣人事局幹部候補研修では、質問を受けることとしました。課長補佐級、係長級あわせて、22人から質問が寄せられました。

寄せられた質問は、私の話し足らなかった点への質問や、現場で実際に悩んでいる事柄です。前者は、簡単に回答しつつ、詳しくは拙著「明るい公務員講座」3部作の該当ページを読んでもらうようにしました。後者は、まさに彼ら彼女たちの仕事の上での悩みです。一生懸命取り組んでいる職員ほど、悩むのかもしれません。

このほかに、この時代特有の悩みというべきものもありました。
その中の一つは、コロナ対策で在宅勤務が増え、職員との対面が減ったことでの困りごとです。もう一つは、働き方改革です。霞が関は滅私奉公の代表的職場でした。今、仕事と生活の両立に向けて改革中です。ところが、部下たちは定時に帰るのですが、職場の仕事は相変わらず多く、課長補佐たちがそれを引き受けて「満杯」になっているのです。

質疑応答は、集合研修なら通常のことですが、オンライン講義なのでいささか勝手が違います。集合研修なら、その人の目を見つつ、こちらからも質問したりして、回答を見つけます。また、時間が限られているので、エイヤッと答えなければなりません。
今回は、電子メールで寄せられた質問に、電子メールで回答する。そしてそれを掲示板に載せて、参加者は読むことができるようにします。回答は慎重になります。
しかも、最後の週に10問も一度に出てきて、回答を作るのが重労働でした。でも、少しでも若手官僚の不安に答えることができたら、うれしいです。この項続く

霞が関、統計軽視の人事

2月23日の日経新聞「統計不正、再びの衝撃(3)」「知識も情熱もない 統計軽視、国の人材育成進まず」から。

・・・1月25日、建設受注統計のデータ復元を目的に国交省が立ち上げた専門家会議の初会合。委員長を務める青山学院大名誉教授の美添泰人は「この20~30年の間で予算も人員も大きく削減された」と嘆いた。「任期が短いままに異動させられることが頻発している」とも指摘した・・・
・・・国交省は常勤約3万8千人を抱えるうち統計職員は50人しかいない。問題の建設受注統計は実質的に1人で仕事をこなしていた。
経済産業省で統計に携わった職員は「通常業務と掛け持ちで負担は大きい」と打ち明ける。集計に追われる繁忙期は休日返上も珍しくない。「どこの部署も忙しく、統計業務のために応援を頼む発想はない」

予算や人員の削減の背景に根深い問題もある。国交省の検証委員会による聞き取り調査で、歴代担当者は口々に「必ずしも体調が万全でない職員や時間外労働に従事することが難しい職員が多かった」と証言した。検証委は「専門知識が乏しく、情熱もない職員にとっては先人の統計手法を踏襲するやり方は安直で実践的だった」と断じた。
専門人材の育成や職員の研修体制強化。長く指摘されてきた課題は、18年末に発覚した厚生労働省の毎月勤労統計の不正問題で改めてクローズアップされたはずだった。その後も統計を軽視し、閑職とみなしがちな風潮が変わらないままであることが今回、露呈した。
統計行政をつかさどる総務省統計委員会の委員長、椿広計は危機感を強める。「データサイエンスの人材が日本全体で枯渇している。もっと大きな問題かもしれない」・・・

統計不正、官僚の組織管理の問題

1月22日の朝日新聞オピニオン欄「統計不正 この国はいま」、田中秀明・明治大学教授の「政策見直さぬ、官僚の「政治化」」から。

――政治家と官僚の関係はどう変わってきたのでしょうか。
「かつては一定の緊張感があった両者の関係は平成以降、政治主導の流れのなかで変わってきました。いま官僚は常に目玉政策を考えねばならず、過去の政策を振り返る余裕などありません。政治家が思いついた政策に『ノー』と言えば、左遷もありえます。そんな上下関係があるから、政策を評価したり、問題点を指摘したりすることはできないのです」
「官僚が、政治家の下請けになり、先輩たちがやってきた政策を否定せず、自分たちの利害を優先する。私は『公務員の政治化』と名づけました」

――それが霞が関や官僚の劣化なのでしょうか。
「官僚の役割は政策を検討したり実施したりすることですが、それには専門性が重要です。しかし、係長級を含めほとんどの官僚が、政治家や業界の根回しに奔走します。経済社会は複雑化しているので、より高い専門性が必要ですが、根回しで勉強する時間もありません」
「霞が関の幹部は法学部出身のゼネラリストが多く、エコノミストやITの専門家は不足しています。諸外国では、省庁幹部に博士号を持つ人が多いですが、日本では限られています」

――人事制度が最大のネックになっているというのですね。
「課長や局長は短ければ、1年ほどで異動します。そつなくこなし、リスクはとらなくなる。可能な限り専門性を磨いて、政治家を忖度するのではなく、成果をもとに処遇されるようになれば、不正は減り、政策過程も少しは改善するでしょう。事務方トップの事務次官が毎年のように交代し、名誉職化している点も問題です。英国などの次官は予算執行や内部統制に一義的な責任を負っており、内部監査委員会も設置されています。次官が組織運営に指導力を発揮するべきでしょう」

――外部の機関が政策をチェックするのはどうでしょうか。
「これが著しく弱いことが大きな問題です。ほとんどの先進国で導入されている独立財政機関は、日本にはありません。国会の政府監視機能も弱い。与党議員も一議員としてその役割を担うべきです。法律を作る際、与党の事前審査で審査も修正も実質的に終わるため、国会審議も形骸化しています。結局のところ、政策過程の劣化は日本の政治システムの問題なのです」