カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

公務員本の分析

季刊『行政管理研究』2023年9月号には、参考になる論考がたくさん載っていますが、すこし趣の異なる研究を紹介します。小林悠太・東海大学講師の「知識労働としての公務:出版市場からの接近」です。

本屋には、公務員を読者と想定した書籍がたくさん並んでいます。それらを「公務員本」と呼び、 その機能や出版状況を分析したものです。
公務員は研究者とは違いますが、業務に専門知識が必要な知識労働者です。そのような専門知識から見ると、知識創造、知識移転、知識共有の場面があり、公務員本は移転と共有に機能を発揮しています。
また、専門分野別知識だけでなく、職場での作法、管理職の知識などもあります。
そして、この研究では、1970年代以降の公務員本の変遷を追っています。

対象として、公務員本の出版点数が多い次の5社を選んでいます。ぎょうせい、学陽書房、第一法規、公人の友社、公職研です。
類例のない研究だと思います。ご関心ある方は、お読みください。

「首相補佐官・岡本行夫の記録」

朝日新聞に「首相補佐官・岡本行夫の記録」が連載されています。第2回「サミット誘致、移設前進にらみ 官房長官の名護訪問「是非実現」」(10月5日掲載)が、興味深いです。沖縄の地元の人たちと官邸との両方に信頼関係を作り、難しい問題を望ましい着地点に持って行く。その脚本を書くのです。

・・・ところが11月の知事選で保守系新顔の稲嶺恵一氏が大田氏を破ると、岡本氏は12月7日付の文書で「サミット誘致を取り付ければ再来年の夏までは沖縄が燃え上がる。完全に稲嶺時代を築ける」と強調。2000年に日本で開かれる主要8カ国首脳会議(G8サミット)の沖縄開催を稲嶺氏が率先して政府に要請するべきだと説いた。
文書の送り先は外務省から県庁の知事公室参事に出向していた山田文比古・名古屋外国語大学教授(69)。沖縄サミットは岡本氏の持論で、山田氏も大田県政の頃から誘致責任者を務め、ともに稲嶺県政誕生を転機とみていた。
岡本氏の提案で「サミット誘致県民会議」が実現。
99年4月に小渕内閣がサミット開催地を沖縄に決定。稲嶺氏は11月に普天間飛行場の県内移設を条件付きで認め、政府の方針に沿って候補地を名護市の辺野古沿岸と表明した・・・

・・・政府は12月17日、名護市を含む県北部振興や、普天間飛行場の代替施設の使用協定を名護市と結ぶ方針を表明。岡本氏はその夜、市内のホテルで岸本建男市長と約3時間懇談した。就任2年近くの岸本氏は移設問題への態度をまだ明確にしていなかった。
この懇談の概要を記す岡本氏の文書がある。12月20日付で古川貞二郎官房副長官宛て。岸本氏は「本日の決定には心から感謝。特に使用協定締結の約束には感激した」と述べ、「反対派の巻き返しの力は侮れない。市民を一つにまとめなければいけない」とし、青木幹雄官房長官が名護市を訪れ政府方針を説明するよう求めた。
岡本氏は文書の最後で「普天間移設問題は最も重要な場面を迎えている」と指摘。「(沖縄への根回しが不十分だった)普天間移設の出発点でのボタンのかけ違えを始め、こじれた例は数知れない。『官房長官の(県)北部訪問を受けての市長受け入れ声明』の形は是非(ぜひ)とも実現させていただきたい」と求めた。
岡本、岸本両氏の懇談から9日後に青木氏は名護に入り、岸本氏は翌日に条件付きで移設容認を表明。懇談に市企画部長として同席した末松文信県議(75)は「市長の表明に至るまで、岡本さんと丁寧にスケジュールを組んだ」と話す・・・

NHK時論公論に取り上げられました

9月26日深夜の「時論公論」「どうなる「キャリア官僚」 国家公務員は確保できるか」。10分番組の8分頃に、私の顔と意見が出ています。
成澤良・解説委員の「国家公務員の志望者が減少傾向にあり、人事院は、国家公務員の人事管理の抜本的な見直しに向けて有識者会議を立ち上げました。現状や課題を解説します。」

再放送は、27日14:35からです。NHKの見逃し配信でも見ることができます。ウエッブでも概要を見ることができます。

取材ではいろいろ説明したのですが、「行き過ぎた官邸主導が官僚のやりがいを失わせた」の部分だけが取り上げられました。
私は官邸主導は良いことだと考えています。しかし現状では、総理が扱う政策、大臣が扱う政策、官僚が扱う政策の分類がうまくいっておらず、「なんでも官邸に集約する」ことが、指示待ち人間を生んでいると考えています。

惰眠官僚

9月16日の朝日新聞投書欄に、昭和20年9月25日の投書「惰眠官僚」が載っていました。恥ずかしいです。

◇商工省の庁舎が連合軍兵舎に提供され立退かねばならなかつた時のこと。「手が足りぬから是非」との商工省某燃料関係課よりの要請に応じ、某会社の社員たる吾々(われわれ)も応援を買つて出た。役所に出て当の官庁側の出席者が余りに少いのに一驚を喫した。少数の下級課員とともに、五階の旧事務室から一丁程離れた新庁舎の二階迄(まで)テーブルや書類を人力のみで上げ下げせねばならなかつた。

◇その際割り切れぬ感情があつた。当の責任者たる課長の態度である。彼は自分の道具、棚等を部下や応援者に運搬させて置きながら、回転椅子に座り込み、昼食後は恥かし気もなく昼寝を始めたのである。我々の目の前で靴のまゝの両足をテーブルの上に投げ出し作業の終るまで眠り続けてゐた。

◇この象徴的事実が戦後の我国を暗示するものでなければ幸である。新日本の黎明(れいめい)とともに此種(このしゅ)の一部官僚が惰眠より覚醒せん事を切望して止(や)まない。(一国民寄)

政治の行方 地盤沈下の中央省庁

7月13日の日経新聞「「安倍後」政治の行方⑤ 地盤沈下の中央省庁」「霞が関のボトムアップ遠く 政策立案「コンサルに外注」から。

・・・官邸と中央省庁との関係は安倍政権下で変質した。「政治主導」を掲げた安倍氏が2014年に内閣人事局を発足させ、官僚の人事権にも深く関与するようになった。
同時に首相官邸が政策の司令塔となり、切り盛りをした経産省出身の今井尚哉秘書官らは「官邸官僚」と呼ばれた。官邸への行きすぎた「忖度」が生まれやすい環境となり、森友・加計学園問題などでは政と官の距離に批判が集まった。
当時、こうした問題は「政治主導」に起因する安倍政権特有の現象との見方が多かった。
発足時に「ボトムアップ」をうたった岸田政権で確かに人事権への関与は一部にとどまるようになったものの、官邸に抜てきされた一部の官僚が政策を動かす構図は変わっていない。
東大の牧原出教授は霞が関について「各省の官僚が政策を打ち出す流れになっていない」と指摘する。「かつて各省の官僚は政権の動向をみながら政策の弾込めをしていた。現在はそもそも政策立案に抑制的になっているのではないか」と分析する・・・

・・・ある政府高官はこんな内情を明かす。「主要官庁が政策立案をコンサル企業に依頼するようになってきた。かつては比較的単純な作業だったが今では重要政策も含まれる」
人材はかつてのようには集まらない。政策を動かすモチベーションも湧かない。そこへ国会対応などを中心とした膨大な作業がのしかかる。「日本最大のシンクタンク」といわれる霞が関が政策立案を外部委託するのは、行政機関が機能不全に陥ったに等しい。

衆院選が小選挙区制になってから四半世紀、中央省庁の再編からは20年が経過した。官僚主導から政治主導への転換を進めるにつれて中央省庁は地盤沈下していった。
「ボトムアップ」の掛け声だけでなく、公務員の働き方改革や国会改革なども含めた対応をとらなければ日本の活力を取り戻すような政策は出てこない・・・