カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

政治の行方 地盤沈下の中央省庁

7月13日の日経新聞「「安倍後」政治の行方⑤ 地盤沈下の中央省庁」「霞が関のボトムアップ遠く 政策立案「コンサルに外注」から。

・・・官邸と中央省庁との関係は安倍政権下で変質した。「政治主導」を掲げた安倍氏が2014年に内閣人事局を発足させ、官僚の人事権にも深く関与するようになった。
同時に首相官邸が政策の司令塔となり、切り盛りをした経産省出身の今井尚哉秘書官らは「官邸官僚」と呼ばれた。官邸への行きすぎた「忖度」が生まれやすい環境となり、森友・加計学園問題などでは政と官の距離に批判が集まった。
当時、こうした問題は「政治主導」に起因する安倍政権特有の現象との見方が多かった。
発足時に「ボトムアップ」をうたった岸田政権で確かに人事権への関与は一部にとどまるようになったものの、官邸に抜てきされた一部の官僚が政策を動かす構図は変わっていない。
東大の牧原出教授は霞が関について「各省の官僚が政策を打ち出す流れになっていない」と指摘する。「かつて各省の官僚は政権の動向をみながら政策の弾込めをしていた。現在はそもそも政策立案に抑制的になっているのではないか」と分析する・・・

・・・ある政府高官はこんな内情を明かす。「主要官庁が政策立案をコンサル企業に依頼するようになってきた。かつては比較的単純な作業だったが今では重要政策も含まれる」
人材はかつてのようには集まらない。政策を動かすモチベーションも湧かない。そこへ国会対応などを中心とした膨大な作業がのしかかる。「日本最大のシンクタンク」といわれる霞が関が政策立案を外部委託するのは、行政機関が機能不全に陥ったに等しい。

衆院選が小選挙区制になってから四半世紀、中央省庁の再編からは20年が経過した。官僚主導から政治主導への転換を進めるにつれて中央省庁は地盤沈下していった。
「ボトムアップ」の掛け声だけでなく、公務員の働き方改革や国会改革なども含めた対応をとらなければ日本の活力を取り戻すような政策は出てこない・・・

公務員は非営利団体に負けていないか

連載「公共を創る」第148回」(新しい課題と手法について、行政が対応に遅れ、非営利団体が先に取り組んでいます。彼らの感度の良さと熱意に、公務員は負けていないでしょうか)を読んだ官僚の一人から、次のような反応がありました。一部改変して紹介します。
確かに、この指摘の面もありますね。行政改革や歳出削減で、公務員に時間と予算の余裕がないことは連載第141回で指摘しました。

・・・NPOに負けていないか、という点は、残念ながらそのとおりだと感じました。
感度の良さ(悪さ)と熱意の高さ(低さ)の背景には、ご指摘のとおり、個々の公務員の余裕度(新たな仕事をこなす余地)に加え、公務員が自らの裁量で処分できるリソース(人員・資金)がほとんどない、という点があるのではないかと思います。

世の中に「やった方がいいこと」は満ちあふれていますが、「行政がやらねばならぬこと」に引き上げるには、高いハードルがあります。行政の公平性もその一つだと思っており、同じニーズを持つ人々のうち一部だけでもなんとかしてあげる、という発想は、NPOにはできても行政にはなかなか難しいように思います。
施策の継続性・一貫性も同様で、財源が足りなくなったからやめます、ということが難しい行政では、そもそも問題に手を付けること自体、慎重になりがちです。

個々の公務員の「やる気」「熱意」の問題のように捉えられがちですが、どの程度のリソースをどういう課題の解決に振り向けるのか、最終的にはそのリソースを税で負担してもらう(あるいは既存のサービスの廃止という形で負担してもらう)ことについての判断を誰がどのように行い、そのための住民・国民の理解をどのように得ていくのか、というところが課題なのかなあと感じました・・・

『中央公論』5月号「官僚の没落」

月刊『中央公論』5月号が、「官僚の没落 エリートはどこへ消えた」を特集しています。
・牧原出教授の「安倍元首相退陣後も漂い続ける「首相の意向」 官邸官僚が生み出した「無責任体制」」
・嶋田博子教授の「米英独仏との比較から浮かび上がるもの 家臣型・無定量・人事一任の日本型は持続可能か」
・「データで見るエリート学生の進路事情」
など、現在の官僚の置かれた位置が、簡潔に説明されています。

大石学教授と北村亘教授の対談「江戸の役人、令和の官吏」も興味深いです。吉宗時代の統治機構改革によって、江戸幕府の能力主義的な人事管理と公文書管理ができあがったのだそうです。

読売新聞社説「国家公務員離れ 政治の劣化が招く「官」の負担」

2月16日の読売新聞社説は「国家公務員離れ 政治の劣化が招く「官」の負担」でした。詳しくは原文を読んでいただくとして。連載「公共を創る」で書いているように、政治主導への転換の過渡期としての混乱でしょうか。政治家が政治家の役割を果たし、官僚が官僚の役割を発揮できるようにしてほしいです。

・・・国の針路に携わる官僚が誇りを失えば、政策立案能力は低下しよう。与野党は質問通告や「官」との接触のあり方を改める必要がある。
内閣人事局は、昨秋の臨時国会で中央省庁が答弁の作成にかけた時間を調査した。答弁は全864件で、作成に着手した平均時刻は、委員会前日の午後8時前、答弁を作り終えた平均時刻は当日の午前3時近くだった・・・

・・・官僚が答弁に労力を割くのは、国会が本来の政策論争の場になっていないことが背景にある。
野党は、首相や閣僚のスキャンダルの追及や、発言の揚げ足取りに終始しがちだ。答弁を準備する官僚は、枝葉の部分にまで気を配らねばならず、負担は大きい。
国会を政策の狙いや意義を問う議論の場に改めていくことが不可欠だ。そうした取り組みが、官僚の働き方改革につながろう。
政治主導をはき違え、野党が「ヒアリング」と称した会合で、官僚を高圧的な態度で問い詰めるケースも少なくない。「官僚いじめ」のような場面が報道された結果、国家公務員の仕事に魅力を感じなくなった人も多いはずだ。
不尽な手法を改めなければ、若者の「国家公務員離れ」に歯止めはかかるまい・・・

・・・官僚の意欲を高めるには、処遇の改善も課題となる。
大卒の総合職の初任給は18万9700円で、大企業に比べれば見劣りする。国家公務員が海外に出張する際の宿泊費は、1984年の規定が今も適用されており、自腹で差額を 補填せざるを得ない状態だという。改善は急務だ。
行政改革の結果、国家公務員数は現在、30万人まで減少し、今も定員削減計画の最中にある。一人にかかる負担は増していよう。
日本の国家公務員数は人口比では欧米各国より少ない。官僚の採用増も検討すべきではないか・・・

追悼、石原信雄さん

石原信雄・元官房副長官が、お亡くなりになりました。

石原さんは、自治省の大先輩。石原さんは昭和27年採用、私は53年採用。これだけ離れていると、一緒に仕事をすることは少ないのですが。
私が財政局財政課で係長職(主査)を勤めているとき(27歳、28歳)の、財政局長でした。扉で続いている局長室に呼ばれ、話される内容を筆記するなどしました。私の雑な殴り書きは、読めなかったと思います。

官房副長官として、不安定な内閣を長年にわたって支えるという、重要な役割を勤められました。大変なご苦労だったと推測します。
官房副長官室には何度か行ったのですが、何の案件だったかは覚えていません。その頃は総理官邸に行くこと自体が珍しく、緊張しました。建て替える前の、小さな暗い官邸です。それにもびっくりしましたが。

省庁改革の際は顧問会議の一員となられ、参事官の私は、事務局長と一緒に何度も説明に行きました。
その後も、お呼びがあったり、私の方から報告や相談に上がりました。いつも、にこにこ聞いてくださいました。12月にも、お目にかかったばかりでした。
ご冥福をお祈りします。