民間企業の給与が減っていることに合わせ、公務員の給与も削減されています。平成11年以降毎年のように、人事院勧告が引き下げられてきました。どの程度下がったのか、専門家に聞きました。平成22年夏の人事院勧告に、次のような記述があります。
・・公務員給与は、民間賃金が厳しい状況にあったことを反映して、平成11年に年間給与が減少に転じて以降、平成19年を除き、月例給又は特別給の減額による年間給与の減少(平成11年~平成15年、平成17年及び平成21年)又は据置き(平成16年、平成18年及び平成20年)が続いている。年間給与が減少に転じる前の平成10年と平成21年について、40歳の国家公務員のモデル例(配偶者・子2人)で比較してみると、その年間給与は、本府省勤務の係長で約12.8%、地方機関(地域手当非支給地)勤務の係長で約17.5%それぞれ減少している・・(別紙第1 職員の給与等に関する報告p1)。
累計では、1割以上も下がっているのですね。さらにこのあと、平成22年も引き下げられました。地方では地域手当見直しで、さらに大きく下がっています。
「給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイント」の7ページ(9枚目)に、わかりやすい表がついています。平成11年から22年までの間、19年は引き上げですが、16、18、20年は勧告なし、そのほかの年度は引き下げです。
「官僚論」カテゴリーアーカイブ
行政-官僚論
公務員制度改革論
人事院の広報誌『人事院月報』2011年2月号が、ドイツとイギリスの幹部公務員人事を取り上げています。それぞれの人事委員会幹部を招いての、パネル・ディスカッションの報告です。そこで、大杉覚首都大学東京教授が、人事行政や公務員制度について、体系だった研究蓄積がなく、制度設計研究が必要であることを、指摘しておられます。
同感です。採用、昇進、評価、育成、退職とその後の処遇。また、幹部公務員にあっては、その任用方法や、政治家との関係をどうするかなど。公務員制度改革が長く議論になっていますが、議論の基礎となる共通の認識がないこと、議論する政策共同体が十分でないことから、百家争鳴になっているようです。公務員バッシングとも言われますが、その割には出口は見えません。
改革の目的と議論の対象者をそれぞれ明確にして議論しないと、結論が出ません。まずは、公務員一般と幹部公務員を分けて議論すべきです。そして、成果や能力による評価の議論と、スト権付与と、政官関係は、分けて議論すべきでしょう。公務員に何を求めるか、民間と何を変えるべきなのかです。
これまで「日本の官僚は優秀だ」と言われていたことから、その問題点や改革論が議論されなかったのだと思います。しかし、官僚と公務員が必要なことは、世界各国共通です。諸外国がどのような運用をしているのか参考にして、現在の日本に適したものを作ればよいのでしょう。その際に国によって違うのは、政治家との役割分担が各国の事情によって異なることや、民間での処遇や転職の状況でしょう。後者は、公務員の処遇を考える際や民間との交流、転職を考える場合に必要となります。
公務員制度改革、職員の意欲
9月21日、日経新聞経済教室、加藤創太教授「公務員制度改革の論点」の発言から。
・・公務員制度改革の目的は、①国家と公務員の目指す方向性を一致させ、②政官の役割分担を定め、③目指すべき方向性に向け「個」の公務員の意欲・活力を最大化させることに尽きるはずである。これは企業など他の組織改革と変わらない・・
そして、先進各国の人口1,000人当たり公務員数と、GDP比の公務員人件費の図が掲げられています。日本は極端に少ないのです。
・・日本は先進民主主義国家の中で、人口当たりの国家公務員数が非常に少ない。その上さらに公務員人件費を縮減しつつ、望ましい公務員制度改革を達成するためには、よほど効率よく①②③を達成しなければならない・・
・・企業などの組織改革でトップが最も重視するのは、構成員へのインセンティブ(誘因)の付与であろう。適切なインセンティブを与えることで構成員を前向きに正しい方向へと誘導できれば、構成員の意欲の最大化だけでなく、組織と構成員の方向性の一致も実現できるからだ。これに対し、トップが構成員を強権的に抑えつければ、方向性は一致できるかもしれないが、意欲が損なわれる。
だが、同じ人間の組織を扱っているにもかかわらず、公務員制度改革では公務員にインセンティブを与えるという前向きの議論は少なかった・・
官僚の失敗・文化技官の場合
東大出版会PR誌『UP』2010年6月号、佐藤康宏東大教授の「日本美術史不案内14技官たち」から。
・・(文化庁)美術工芸課の技官たちは、概して誇り高かった。国宝・重要文化財の指定のための調査や保存修理、海外での展覧会の仕事のために現場に生きる彼らは、物を最も良く知っているのは自分たちであり、大学の先生は物を知らない、と豪語してはばからなかった・・
・・残念ながら、専門家集団ゆえの失態もあったことは、私が大学に移ってから報道された。高松塚古墳壁画の劣化である。特定の技官が特定の業務に関する情報を抱え込んでしまったために、同じ部門にいた技官でさえ、危機的な事態を認識してはいなかった・・
公務員制度改革、挫折の歴史
岡本義朗氏の「公務員制度改革への期待と不安」が、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの季刊『政策・経営研究』2010年vol.2に載っています。岡本さんは、民間人から乞われて、国家公務員制度改革推進本部事務局次長を勤められた方です。論文では、これまでの公務員制度改革の歴史を振り返り、改革のポイントを整理した上で、なぜ実現しなかったかについて考察しておられます。良く整理できた論文だと思います。ご関心ある方は、ご一読ください。